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イバーラク空戦録  作者: 南雲司
10/12

王都へ

[会談]

 憎しみより恐れが勝ったのだろうか、それともゴブリンが元々根に持たない質であったからだろうか。神樹の意向を受けた森人を介したダンジョンマスターとの和解をゴブリンは受け入れた。

 会談に適当な場所が無かったため、ゴブリンの集落の外縁東側に東屋を(しつら)え会場に当てた。


 ゴブリンの長、空軍からは目付として俺の他に集落奪還作戦に参加した少尉、当事者ではなかったが森人の長が仕切り担当で参加した。代理を派遣すると思われたダンジョンマスターも、ぷよぷよと浮かぶ黒い球体を伴って参加した。


 ダンジョンマスターがゴブリンの集落に与えた被害は甚大で、生き残った仔を産む事が可能な雌は僅かに二頭、幼体をいれても五頭に過ぎない。集落の返還をしても、存続は危ぶまれる。

「あれだ、ダンジョンてモンスターや亜人の召喚できるんだろ?ゴブリンの召喚出来ないか?」司令。

 実は森人達も元々召喚されたのらしい。あと隣国の鉱山ドワーフとかもそうだとか。

「うちのダンジョンは人族しか呼べないです」

 と、ダンジョンマスター。しかし、それも女の子だけとは言わない。

「それは珍しい、唯一人族だけが召喚できないとされているんだが」

 そういやシャオが歪なダンジョンと言っていたな。

 少尉が手をあげた。

「不細工なゴーレムは召喚できるのに?」

「あれは手作りです」

「ゴーレムマスターか!しかし、あんなに沢山コントロールできないだろう」

 あ、あー少尉君、相手は一応元首格なんだから、敬語つかおうね、て俺もか。やば、範を垂れねば。

「こほん、その辺どうなのであらせられ遊ばすのですか」

 うん、俺敬語まるっとだめだったわ。

 ダンマスは意味が取れなかったようで黒い球体をみた。

「わたくしからご説明します」球体が言った。


「本来ありとあらゆる物が召喚可能ですが、その為には厳密な設定と十分な魔素、正確な手順が必要になります」

「勿論、マスターが[コア]と呼ぶ、わたくしのようなダンジョンに紐付けられたプロシージャ=制御機構内部での話です」

「ゴーレムに付いては、不備がある為(虎治がDPをけちった為)今のところ召喚出来ませんがマスターの制御を中継し、プロセスを複製する事で多数制御を可能にしています」

「ゴブリンに付いては、一般的なダンジョンであれば、生死に関わらず一頭分の素材があれば召喚の要件を満たしますが、我がダンジョンに於ては存在に幾許(いくばく)かの不具合がある為、少なくとも一頭の完全に眷族化した個体が必要になります」

 ちょと待て、それってゴブリンに奴隷になれって事か?当のゴブリン達は話に着いていけずぽかんとしている。

「当社は家庭的な職場です」

 ブラック企業じゃねーか。


 とまれ、波乱を含みつつ問題解決の糸口はついた。ダンジョン側はゴブリン集落を含む一帯を安全保障と、人権ならぬゴブリン権の保証を条件に、支配領域として認められた。

 監視も必要と言う事で、森人と共和国が後見となり、集落に駐留する事になった。

「少尉君、君を駐留武官に任ずる。一個分隊付けるからよろしくな」

 泣きそうな顔して敬礼しないの、昇進させてあげるから、て名前なんだっけ。

 意外な事にゴブリン達は眷族になる事を了承した。強い者の下に付くのは(むし)ろ歓迎らしい。


[円盤機その2]

「こんなの聞いてないぞ!」

 中隊指揮官はつい怒鳴った。水軍航空隊は始めてみる円盤機に翻弄されていた。救いは円盤機の数が少ない事だ。

「性能は良いが乗ってるのは素人だ、落ち着いて囲め!」

 爆装機が何機か落とされた。

(くそ、旋回性能良すぎだろ)

 浮力を切っての急降下も水軍機には制限がある。翼が持たないのだ。

 小一時間掛けて漸く殲滅した時には、ペダルを踏む足がガクガク震える程疲れきっていた。


「一個中隊、総掛かりで、たった四機撃墜って、勝った内に入るんですかね」

 帰投中に二番機から秘匿通話がはいった。

「勝ちは勝ちだ」

 憮然とした声だと自分でも分かる。勝った気がしないのだ。三倍の戦力でこれだ。同数ならどうなる。速度はこちらが上だから戦い様はあるが、練度の足りてない者は落とされかねない。

 何より護衛の役が果たせるのか?四機で一個中隊翻弄できる。八機いればどうなる。敵も一個中隊なら、爆装隊は全滅だ。


 爆装隊から礼の通話がはいった。

「すまん、爆装隊に被害を出させてしまった」

「気にするな、敵も命がけだ」

 それより、と言うことには、撃墜されたと見えた機体のうち三機は脆弱な主翼を破壊され低速で避退中らしい。

「そっちの護衛頼めないか、ほらうちの中隊空戦苦手だし」

 爆装隊の指揮官は同期で階級も同じ大尉だ。気安く了承して自分の分隊で行くことにした。

(皆疲れきってるからな)

 一刻も早く帰投したいだろう。


 実際に落ちたのは二機だそうだ。


[考察]

 シャオは不思議に思う。歪な結節点のプロシージャはなぜあんなに人間的なのだろうか。こちらのプロシージャである神樹はなぜこう迄、歪な結節点とのリンクを強化しようとするのか。

 世界の情報を満遍なく集めるなら、もっとフラットに検索網を拡げようとするのではないか。明らかにバイアスがある。しかし、それがどう言うものか、シャオにはまだ見えてこない。


[ダクトファン]

「こいつぁ、巧い事考えたな」前線から届いた円盤機のラフスケッチを前に工廠長のケナイ・モヤ・ラーガ准将が嘆息した。

 こいつもいつの間にか昇進してて将官になっていた。

 俺が任官した筈なんだよな、いつだっけ。


 件の円盤機はパンケーキのような気室の上に紡錘型の胴体を載せる形で胴体を挟む様に二本の太い筒が着いている。

「これは中にペラを仕込んであるんだろう。爺さん!ちょっと来てくれ」

 面倒臭そうに隣国から拉致って来たドワーフの爺様が寄ってくる。

「あぁ、ダクトファンじゃな」

「知ってるのか?」

「気球用に儂がこしらえたもんじゃ」

 羽ばたき機の激しいアップダウンの対策として試作したが、出力が足りずオクラになっていたらしい。


「昨今の出力変動と真空圧縮で陽の目を見たか」

 あー、やっぱり真空圧縮拡散してる?

「水素ガスじゃこんな形状無理だろ?浮力も足んねぃし」

 じゃ硫黄の不活性化とかは…。

「あっちの方がもっと簡単にぱくれるぜ?」

 だよねー。

 真空圧縮の方は魔石の複製自体困難だからシャオの魔石をどうにか使える様にしたんだろう。

 パンケーキ型の気室も苦肉の策が意外にいけた、みたいな感じか?

 だが硫黄魔石は分かってしまえば鼻歌で量産出来る代物だ。

 こりゃ陸軍に注意しとかないと。


 この後爺さんからダクトファンのレクチャーを受けた。

「この筒の後ろが舵になってるのじゃよ」

 成る程これなら超低速でも向きを変えられる。

 噴進機でも使えないか?

 工廠長も顎に手をやって考え込んでいる。

 例えば上昇反転で浮力を切って行き足を殺す。

 舵の効くギリギリのところで旋回するわけだが、この時噴流の向きを直接変えたらどうよって話だ。

「少尉!こっちこい!」

 担当官を決めたようだ。


[森の防衛圏]

 森人の丸太気球は既に丸太でもなければ気球でも無くなっているのだが、その隠蔽魔法の秘匿性の優秀さもあって、余人の目に触れる事は極めて稀で、相変わらず[丸太]と呼ばれている。

 この丸太には舵輪も、帝国の水上機のような操縦桿も付いていない。座るのではなく跨がる膝の宛がい方や体重の移動で細やかに機動する。

 真空制御術式の応用で慣性に介入しているから可能な事で、そうでなければ、高G下では直ぐに制御不能になる方式だろう。速度も申し分なく初期の鷲型より速い。

 搭乗の姿勢から鞍手と呼ばれる。


 その丸太乗りの鞍手(勿論森人である)が不穏なものを見付けた。

 梢を掠めるように飛ぶ、生意気にも森人の森林迷彩の模倣を施した、円盤機である。鞍手は撃墜しようかと暫し逡巡したが、絶対防衛線を掠めるに留まる航路を取っている事もあり、追尾するだけにした。勿論必殺の至近距離からではある。

 つがえた矢の筈が弦を噛んでいる事を手応えで確認すると、矢柄を弓手の人差し指でM字弓に固定し膝の上に置き、遠話機を取り上げた。

「しーきゅーしーきゅー、ナマツイビシチョンマルサラヌヒクーテーヤシガ(応答願う、現在円盤型飛空挺を追尾中)

「ワッターシマヌサトゥンカイディチュン」(防衛圏の外縁を航行中)

『ザーザー…イラバアタックルシー』(侵入経路に着いたら撃墜せよ)

「ウー」(了解)

 円盤機は程無く離脱して離れていった。鞍手は油断できないと思った。こちらの防衛境界をほぼ正確に掴んでいるように見えたからだ。


 森人は共和国と会談し共和国が新国家である事も加味し、正式な同盟を結んだ。それにともない、連合軍の予想侵攻ルートの一つに位置するダンジョンにも同盟の打診をした。快諾を受けた。


[連合軍の事情]

 元王国騎士団副団長のガオッケン・クヌ・トゥラスギはイバーラク王国の首班に据えられていた。とは言え形ばかりの物で戦役が終結し次第亡国である隣国=イェードゥ帝国の分割経営に国力を集中させねば為らない連合軍諸国にとって煩わしいばかりの、王国の後事をまかせる為の人事で、機能するのは連合軍が去った後の事になる。そういう約束だった。


 しかし、王族を一人(実際には二人)取り逃がしイバーラク共和国建国宣言を許してしまった。連合軍の中は割れた。

「王族の非道への誅は既に成った、すべからく共和国と友誼を結び撤収すべきである」

 とする講和派と

「カーシッカ(帝国首都)を灰塵に帰さしめたのは、共和国首班のエーアス(共和国執政官元王国兵部省長官)ではないか、これを討たずして何の天誅か」

 とする掃討派に分かれた。


 そこに首班である筈のガオッケンへの配慮はない。講和派は早急に新領地の経営に取り掛かりたいし、掃討派は健在な陸水軍を取り纏めての共和国の報復を恐れる。自国の都合だけである。

 ガオッケンは発言を求めた。

「私に兵を貸して欲しい」

 講和派にとっては責任を押し付けるデコイになり、掃討派にはなし崩しに再び戦端を開く切っ掛けとなり得る。

 直ぐに了承された。


[大転換]

 占領下の王都で、魔導師協会の会長であるグル師は、突き上げを食らっていた。最近最大の業績と言えるシャオ魔術師の真空制御法の論文に不可を与えたのがグル師である事が発覚したからである。

 希代の天才少女と目されたシャオを教導出来れば、歴代に比べやや劣る実績を挽回出来る。そう考えわざわざ、協会長自ら義塾に出向き教鞭をとったのだが、当てが外れた。技術力は高いが魔法知識がお粗末すぎたのだ。

「理路整然と淀み無く論理の展開も秀逸であるが空間の認識に根本的な誤りがあり機能しない」

 件の論文へのグル師の評価である。

 しかし、機能しているではないか、グル師の言う「根本的な誤り」とは何を指すのか、説明せよ。

 主に若手中心の突き上げは熾烈であり、放置すれば協会が割れる。

 グル師は辞任した。


 新たに就任した協会長は、しかし、グル師の責任を問う事は出来なかった。理路整然としたシャオの論文を理解出来る者が誰もいなかったからである。

「俺だって不可付けたかもなぁ」

 新協会長はこっそり呟いた。高い魔術力が無いと理解できない領域がある。その日から、魔法協会の指導方針はガラリと変わった。シャオのフルネームがシャオ・ハイマオである事から、この大転換は、[ハイマオ的転換]と呼ばれた。


「なぁ、シャオ」俺はふと気になってシャオに尋ねた。「シャオの空間魔法、誰に教わったんだ」

「誰にも」

 そんな事はないだろう、と言うと。

「リンゴが落ちるのを見て気が付いた」

 シャオはシャオだった。


[取って来いパン]

 久し振りに牝犬のブラッディー・マリーと取って来い遊びをしようかと出てきたが、いつもなら犬小屋に近づくだけで激しく尻尾を振って出てくるマリーが出てこない。

 どうしたのかと犬小屋を覗くとすやすやと就眠中の角ウサギを腹に抱えて困った様に此方を見詰めている。

「あー、起こしちゃうから動けないのね」

 軽くわふと返事をするマリー。それで角ウサギが目を醒ました。ふしゅーふしゆーと快眠を邪魔されてお怒りだ。

 そんな怒んなよ、なんなら一緒に取って来い遊びするか?

 誘ったのを直ぐに後悔した。脱兎のごとく飛び出した角ウサギのツノウサは未だ空中にあるボールをジャンプ一番一突きで突き破ったからだ。

 マリーは傍らで恨めしげに俺の顔を見上げていた。

 ツノウサはドヤ顔だ。

 ボールじゃなくて今度から小枝かなんかにしようか。

 え?だめ?

 パンッてのが気に入ったの?

 しゃーない二ダース位買って来るか、経費で落ちるかな?


 後日、長官…じゃなくて執政官から大量のボールが届いた。

 メモがあって

『これは俺が使う分だからな、使うなよ』


[新型]

 水軍の奪還作戦は成功裏に終わった。警戒していた敵飛空挺は姿を現さず、ほぼ空襲で勝敗が決まったと言えた。東側の物流を制する事が出来たのは、今後大きく物を言ってくるだろう。

 技官たちに取っては工廠を奪還できたのが大きく、胸を弾ませ水車自動車を先頭に押し立てて早速向かった。

「なんじゃこりゃー!?」

 工廠は娼館に変わり果てていた。

「そんなこと言っても、ここはウチが買い取ったもんですから」

 連合軍も資金が潤沢とは言えず、不要な軍施設を民間に売却したらしい。

「それは故買に当たります。元が国家の物ですから重罪になりますよ」

 多少法律を齧っていた士官が威しつけて退去を了承させた。いつになるかは判らないが、戦後の賠償から娼館主に損金の一部が払われる事になった。

「散々稼いでたんだろうから全額は要らないだろ?」

 強面の兵曹も値切りに貢献したようだった。退去には陸戦隊の応援も借り一週間程で済んだ。


 がらんどうになった工廠に最低限必要な機材だけを据えると、大車輪で新型機の製造を始めた。

 魔石は空軍から空輸で届いた[軟式大型気室用]だ。

 紐付けされる桁を左右全通の一本で済ませ、重心の辺りで回転するように取り付ける。

 仕舞うときはピタリと機体に沿わせ展張時には機体と十字型にセットする。

 気室は直接展開し外皮は持たない。

 森人の丸太気球方式である。

 境界面に視認出来るように隠蔽魔法応用の迷彩柄がおまけで付く。

 高速時の気室の歪みは境界面の厚みと斥力を大幅にあげて緩和している。

 十パーセント程速力の低下が見込まれるが元々の高速を考えたら問題は小さい。

 それより機動力の大幅なアップが大きい。

「気室展開します」

 作業員が掩体に隠れた事を確認して操舵席の技官は展開を始めた。

「三、二、一、今」

「おぉー」

 感嘆の声が上がる。機体から左右に桁が突き出ただけの貧相な物体が最新型の飛空挺に変身したのだ。


[空中工廠]

 二十両程度の戦車では流石に破竹の勢いとまではいかない。突破するべき敵防衛線もなぜか無く連合軍は王都に引き籠っている。電撃戦の必要はない、それでも十分な速度での進軍ではあった。

 空軍からは二隻の強襲艦が帯同している。もっとも乗っているのは精強な陸戦隊ではなく飛空挺の整備技士と整備機材、補給物資、空中指揮要員である。機首が巨大な鮫のように大きく口を開ける仕様になっており、そこから資材の出し入れをするのだが、驚く無かれ空中にて飛空挺の収納も可能なのである。

 かくて空軍は前線の直ぐ後方で簡単な修理、補給の可能な空中工廠を持つに至った。


「四時飛空挺、水軍機と思われます」

 強襲艦の見張り員が報告した。双眼鏡を向けると数は十二機程、一個中隊だろう。整然と編隊を組み練度の高さが伺える。

 艦長は指示を出す。

「機首搬入口開け、お客さんだぞ」

 掌板長は口笛を吹いた。

「こいつぁすげーぜ」

 強襲艦は着艦を容易にするために静止している。その手前に接近した水軍機は両翼を消し去り、残った桁をくるりと胴体に沿わせると、すんなりと入艦してくる。

「この細さなら四倍は詰め込めるぜ」

 十分程で一個中隊十二機の収容が終わった。


[創神]

 工廠添え付けの食堂で昼食を突ついているとシャオがトレイを持ってやってきた。

「司令、ここ良い?」

 サルーは、持っていたフォークで向かいの席を指す。

「神樹の意図が判った」席に着くなりそう切り出す。

 それで?

「神樹=レコードは神を創り出そうとしている」

 いや、話でかすぎて反応できんのだけど。

 一応聞くぞ、それ空軍と関係あるのか?

 頷くシャオ。

「歪なダンジョンと有効な関係を結べれば、有意なサポートを受けられる可能性が高い」

 それって新樹が戦争に介入してくるって事か?

「それも有り得る」

 なんか、よく分からん、保留だな。


[拒否権]

「でもさぁ」虎治は不満を訴える。

「俺の嫁達、無表情過ぎない?普通あのくらいの年頃て二三にん集まるときゃーきゃー煩いじゃん、それが…」

「煩いのがお好きですか?」

「そうじゃなくて…」

「ヤンデレ化その他の不具合防止のため感情の起伏に大きな制限を掛けてあります」

「それやめようよ、普通の女の子が良い」

「現在呼称ハーレムの構成嫁の人員は十四名です。感情制御をデフォルトに戻した場合半年以内のハーレム崩壊率は97%」

「まじ?」

「なので、この件に付きましては拒否権を発動させて貰います」

「拒否権って有ったんだ」

「今創りました」


[ガオッケン]

 一団の二百名ほどの兵士が森の東側を森人の領域を避けるように進んでいる。元王国騎士団副団長ガオッケンの奇襲部隊だ。空軍は地上では弱兵だ、ガオッケンはそう考えていた。なので隠密裏に進軍できるギリギリの兵で足りる。それ故の二百名だ。そして、勇者様が再再度のエルフの森への侵攻を完遂するために用意していた魔石もある。従兵の大きな背嚢に納められている。

 この魔石から各々の兵の持つアミュレットに紐付けると、各員で隠蔽を見破れるようになる。のみならず、物陰に潜んだ隠蔽魔法も感知できるのだ。尤も、エルフの事だから直ぐに気が付いて魔法無しでの隠密に切り替えるだろう。

 多少有利にはなる、その程度の物だ。

 が兵達はそうは思っていなかった。


 森人の隠蔽魔法が優れているのは、なにも森人だからと言うだけではない。森人の特に斥候は老師達の手練手管の隠蔽破りの魔法に耐えて漸く一人前を名乗れるのだ。その嫌らしく不快極まる試練を耐えてきたばかりの若人が立ち竦んでいた。

(これは隠蔽破りだ。老師達のものと気配も匂いも違うが、遥かに強い)

 しかし魔法に頼るだけがエルフではない。迷彩柄の戦装束を頼みに葉陰からそっと覗き見る。敵の集団だ!ここから確認できるだけでも五十人はいる。要報告、風の起こす葉擦れの音に合わせて離脱しようとした時、誰かに見られている事に気が付いた。

 ひとりの兵が弩を構えていた。


「隊長やりましたぜ」

 連合軍から借りた兵が誇らしげに報告した。

 エルフの斥候を射殺したと。

 ガオッケンは思う、あぁこいつらはエルフの恐さを知らないのか。

「無駄な戦闘は避けろと命令した筈だ」

「隠蔽サーチで見てもこの辺りにはこいつしかいませんぜ」

「エルフは仲間が死ぬと分かるんだ、一時間もしない内にこの辺りはエルフだらけになるぞ」

 作戦は失敗だ、撤退するしかないか。だが森を抜けるまでにエルフに追い付かれるだろう、何人生きて帰れるやら。そう覚悟を決めたところに、斥候に出していた兵が帰ってきた。

「右手前方にダンジョンがあります」


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