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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー オカルト

裏が赤いハイヒールを履く女は奇麗

作者: くろたえ

事故が続く場所がある。

何か、手は打てないモノなのだろうか?

それが踏切で、毎年、何らかの事故があるなら、何とかしろよ。

と思う。

でも、それが、どんなに策を講じても、事故に引き込む奴がいるなら・・・

昨日のニュースで出ていた。

また、あの踏切で人身事故が起きたそうだ。


あの踏切で前は、小さな女の子が、確かその前は部活だか塾の帰りの小学生の男子だった。

線路が曲がった先にある駅の手前の踏切なので、走ってくる電車が見え難い。

また「開かずの踏切」と言われるほど一度閉まったら、何分も待たされる。

そのため、踏切が閉まっても、急いでいる時などは開けて通ってしまう人達を状況を日常的に見ていた。

中学校生活の3年間でそれだけの事故が起きているので、今回も、「ああまたか」くらいしか思わなかった。


俺、宮田一成みやたかずなり中学3年生。

学校に通う時は、踏切を渡っている。


朝の登校の学生。出社の社会人。

皆が前を向き歩いている中で、踏切の手前の献花台ができているのがアンバランスな世界観だ。

ほとんど目を向ける人もいない。


少しだけ、歩みをゆるめる。


「痛ましいなぁ」


なんとなく呟いた。


 朝の陽が一瞬陰ったのか、暗くなった気がした。

雲でもあったか?

見上げても空は青い。


そういえば、不幸のあった場所で、同情してはけないとか聞いたことあったな。

気分的に嫌な感じがして、足早にその場から離れた。

花束の近くに、黒いハイヒールの足だけが薄く現れている。

ハイヒールは、去って行く彼の方を向いていた。


 学校の教室に着いた。

案の定、クラス内は踏切の事故の話で盛り上がっていた。

盛り上がって、というのは当事者には失礼だけれど、知らない人の知っている場所での事故は中学生にとっては格好の話題なのである。

なんだかな~と思っていたが、その会話の中で結構細かい内容も聞けた。


スーツを着た女性が、ベビーカーを押して踏切を渡っていたら、ベビーカーの車輪が挟まり、動けない中で轢かれてしまったそうだ。

赤ちゃんを置いては逃げれないよなぁ~


暑くて開いた窓のサッシに背を持たれさせて、各グループで繰り広げられる情報に耳を澄ませていた。


 バリバリのキャリアウーマンだったと。

ブランド物のスーツを着て、アンティークな藤製のベビーカーを颯爽と押していたそうだ。

へぇ~。藤製のベビーカーって、懐古趣味なのかな。

なんか、皇室だかの白黒の映像で見た覚えがあるぞ。


「ソウナノ・・・。オカアサンノヲ ユズリウケタノヨ・・・」


 開いている窓側の肩に、手が置かれた感触と、かすかな声が頭に入ってきた。


教室の喧騒が、遠ざかる。

体の熱が一気に下がる。

俺の思考も読まれているのか。

 

 心臓がバクバクしそうなのに、スウと拍動も吸い取られるよう。

目の前が真っ暗になり、後ろに倒れそうになる。

後ろは、

窓の外。

ここ3階。


俺・・・死ぬの?

殺されるの?


肩に指が食い込んで押し出した。

前につんのめって、床に座り込んだ。


助けられた?


でも、危なかったのは、お前のせいだよ。

とは思ったが、助けてくれたのは確かだ。


・・・踏切事故の女性か?


「何やってんだよ、宮田~!」


数人がこちらを向いて笑っていた。


「え?何々?」


女子が入ってくる。


「宮田がさ、窓に寄りかかっていたじゃん。窓から落ちかかって、ビビって座り込んでやんの」


「え~。危なかったじゃん。でも、だっさ~」


「だよなーーー」


「・・・うるせぇ」


周囲へ不機嫌に返すしかなかった。

しかし、背後に女が憑いていると思うと正直恐ろしくもあった。


 授業が始まる。

背後に居るのかいないのか、存在感はない。

俺って霊感あったのか?


と思ったところで、肩にキュっと力が込められた。

・・・いる。

考え、読まれている・・・


気持ち悪い。

吐き気がしてきた。

頭も痛い。


これが霊障か

う~。本格的に頭が痛くなってきた。


 そういえば、昨晩は、風呂上りにアイス食った後、パンツ一枚でゲームしていたな。

風邪か、風邪で不調だから、取り憑かれたのか?


「先生」


手を上げた。


「どうした宮田」


教諭が尋ねる。


「少し体調が悪いようなので、保健室で休ませてもらえませんか」


答える。


「そういえば、朝、こいつ、貧血起こしていました~」


さっき大笑いした木場が加勢してくれた。


「そうだな。顔色も悪いようだから、休んで来い。誰か付き添いは・・・」


教諭を遮って、


「歩けますし、授業の邪魔になるので、一人で行けます」


と言って、返事も待たずに、教室の後ろから出る。


「大丈夫か?」


通りすがりの何人かに声を掛けられ、無言でうなずく。

すこしだけ、皆の優しさに癒される。


一礼をして、ドアから出た。


 本気で、保健室で休もう。


ああ、階段がめんどくせぇ。

身体が重い、しんどい。

熱は・・・自分の手で額を触るが、良く分からない。

と、


「うわあっ!」


足を滑らした。

が、途中で止まる。


襟首をつかまれたまま、足が宙に浮いていた。


「ハヤク アシバヲ カクホナサイ!」


手すりにつかまり、階段に足を置く。

ゆっくり、襟首から重力が戻る。


「あ、ありがとう・・・ございます」


「ホケンシツ ヘ   カゼ」


そうか、やっぱり風邪をひいていたか・・・・


 幽霊に助けられたって、変じゃねぇ?

幽霊って、なんか、恨んで出るもんだろう?

なんか、今日、二回も助けられている。


守護霊になってくれるのかな?


いや、それってどうなんだろう。

そんなんで、なれるもんなんかな?


 保健室に着く。


養護教諭が居て説明をしようとしたが、顔色を見て察してくれたようだ。


「とりあえず、横になりなさい」


と話が早かった。


「朝食は食べてきた?」


「食べてません」


「いつも食べないの?」


「いえ、今日は寝坊したので」


「昨日はよく寝れた?寝たのは何時?」


「あー。ゲームしていたけれど、1時には寝ました。良く寝たと思います」


「睡眠不足ではないようだけれど、寝る直前までのゲームや1時に寝るのは、成長ホルモンを止めてしまうのよ。まあ、あなたは十分成長しているようだけれどね」


背は高い方だ。


 ベットで横になる。

タオルに巻かれた氷枕を用意してくれた。


ああ、頭の痛みが引いていく。

そのまま眠りに落ちた。


カッカッカッ


 女性が歩いている。

髪は肩ぐらい。前髪と、横を後ろでまとめている。

耳にはゆれる金のシンプルなピアスが光っている。

濃紺のたぶんブランド物のスーツにフリルのブラウス。

黒いハイヒールで、がつがつ歩き、藤製のベビーカーを押している。

服とか、靴とか歩き方だけで、成功者であり、強い人なんだろうな~と感じてしまう。

駅の裏にいくつか保育園があるから、そこに預けているんだろう。

仕事帰りで駅から向こう側に降りて、保育園で赤ちゃんを引き取って、さあ、帰ろうってところか。

ベビーカーは年代物のようだ。

母親が彼女に使ったのが奇麗に残っていたので、布のフードを青に交換して、自分の赤ちゃんにも使っている。

きっと母親も喜んでくれているだろう。

今日は、仕事で部下のミスの尻ぬぐいに追われて、随分遅くなってしまった。


 て、これは、夢か?

俺は、彼女の横に居る視野で、彼女の流れてくる心を感じていた。

踏切に向かっている。


え?ヤバイんじゃないの?


「駄目だよ。止まって!」


声は届かない。


「これ以上は行かないで!」


前に立ちふさがる。

両手を広げて彼女を止めようとするも、俺の体を通り過ぎて行った。


「えっ?」


自分の両手を見る。手はある。俺には見えている。

また駆け寄り、女性の腕を取ろうとした。

腕がすり抜けた。


「駄目だよ。行かないで。赤ちゃんも居るんだよ!」


叫ぶ。背中を叩こうとする。すり抜ける。

見下ろしたベビーカーには、まだ1歳になってない小さな赤ちゃんが、おしゃぶりをして笑顔で居た。


お願いだ。

お願いだ。


「気付いて。誰か!この人を止めて!」


夕暮れの中、前を向いた人たちが、俺を通り抜けていく。


「そうだ、赤ちゃんだけでも!」


俺は、走って彼女に追いつき、ベビーカーを奪おうとした。

手がすり抜ける。

くそっ!

赤ちゃんを抱きあげようとする。

やっぱり手がすり抜ける。

赤ちゃんは、俺が判るのか、嬉しそうにきゃははと笑った。


「あらーどうしたの?楽しい事でもあったの?」


優しい声で、彼女が赤ん坊に笑いかけ、頬をつんと指でついた。

赤ちゃんはもっと笑った。

手足をバタつかせながら。


そして俺を通り過ぎた。

もう、動くことが出来なかった。


そして、事故は起きた。


「誰か、助けて!車輪が線路に挟まっているの!」


前方で悲鳴が響いた。

何人かの人が助けようとするも


カンカンカンカンカンカンカン


無情にも、遮断機が下りていく。


「お願い。誰か、停止ボタンを押して!」


女は叫ぶ。

手を貸していた人たちも、電車が見えると同時に慌てて線路から離れて行った。


やめてくれ。

時間よ止まって。

お願いだ。


 それでも、俺は見させられた。


急ブレーキを掛けてはいる音はするが、一向に緩まないスピードで近づく電車。


黒いもやが、駅のホームの下や、枕木の下から、向こうの遮断機の陰からも四方八方から、

タコが触手を伸ばすように、視界の中央の彼女とベビーカーに向かってくる。


あれは、危険な奴だ。


身体が動かない。

声も出せない。

逃げてくれ。

逃げてくれ。


闇の触手は彼女に絡みつき、ベビーカーを捉え、覆い被さっていた。


彼女は、赤ん坊をベビーカーから出そうとしているが、間に合わないと気づき、最後はベビーカーごと抱き締めた。


 闇は、沢山の声で笑っている。


赤い夕陽の中、黒い血肉に、バラバラになった身体が飛び散った。


彼女と赤ん坊の身体は、電車の前からボトボトと音を立てて落ちていた。

線路横にはハイヒールが転がっている。

無意識に、もう一方の足を探す。

踏切の端に、ハイヒールを履いたままの足首があった。


粉々になったベビーカーが踏切を超えて、駅のホーム近くの電車の車体の下にある。

ベビーカーの車輪の一つが、踏切の中央に転がっていた。


 俺は、突っ立たまま、涙を流し続けていた。


何も出来なかった。


足元を見る。

水色のおしゃぶりが落ちていた。


硬直していた体をギシギシと軋ませながらも、おしゃぶりを拾った。

あの子のだ。


 おしゃぶりを握りしめて、俺は、誰も居ない夕日の世界で声を上げて泣いた。


「ありがとう」


自分のすぐ横で声がした。


「えっ?」


あの女性が、血だらけの姿で立っていた。

息をのむ。


頭が割れて、顔の半分がなくて中身が溢れている。

目玉が片方しかない。

上あごしかない。

頭の一部分と、裸の右肩、骨の腕。下半身は、太ももに少し肉があるだけ、そして、片方だけの奇麗な足首とハイヒール。


それらが、繋ぐのがないままに、宙に浮いて人の形を模している。


人差し指しかない、細い骨だけの右腕で、俺の手を指す。


「それを探していたのよ」


「これを?」


「そう。それなないと、あの子が泣くから。持って来てほしいの」


赤い世界で、彼女が告げた。




「宮田君。大丈夫?」


 俺は、ベットで横になっていた。


ここは保健室だ。

養護教諭が心配そうな顔で、俺の身体を揺らしている。


「は・・・い」


上手く声が出せない。


「酷くうなされていたわよ。それに、凄い汗」


夢から覚めても、酷く体中がギシギシする。

ゆっくりと起き上がる。

寒いと感じた。

冷や汗が酷くて、シャツが張りついていた。


教諭が手を額に置いた。


「熱はないわね。汗かいたから、熱が引いたのかしら。

木場君っていったかな。君の荷物持ってきてくれたわよ。

ジャージに着替えた方が良いわね」


木場、さんきゅー。


「はい。そうします」


「家にはどなたか、ご在宅かしら?迎えに来てもらえない?」


「いえ、休ませていただいたので、もう大丈夫です。一人で帰れます」


「そう。先生、ちょっと職員室に行かなきゃいけないから、着替えて帰る前に、鍵を閉めて持ってきてもらえる?」


「はい。分かりました」


「じゃあ、おねがいねー」


と言いながら、ドアから去る教諭を見送り、手の中に何かあるのを感じた。

ドアが閉まったのを確認して、見ると、それは水色のおしゃぶりだった。


あれは、夢だけれど、夢じゃなかった。


うん?

ジブリの映画でそんなセリフがあった。

・・・そんな感じだな。


正反対のダークと残酷さだけれど・・・


のろのろと着替える。

ベットの上におしゃぶりを置いたのを眺めながら。

ジャージに着替えると、身体が温まった。


 頭痛は消えていた。

ベットに人型がつくほどの汗が出たのだ。

風邪の元も汗と共に出て行ってくれたのかも知れない。


物凄く、嫌な思いをしたが、思ったよりも心にも体にもダメージは出ていない。


人が死ぬシーンを見たんだけれどな。


あの人の事故は、黒い何かが引き起こしたんだろう。

あの場所で何度も事故が続くのは、呼ぶものがあるのだろう。


 帰る支度が整った。


「今から行きますね」


おしゃぶりに向かって言った。

誰の返事も、肩や体への返答もなかった。

職員室に寄る。


「あら、少し顔色がよくなっているわね」


「おー宮田。大丈夫か?もう少し待っててくれれば、俺が車回すぞ」


養護教諭と担任が声をかけてくれた。

鍵を渡しながら


「もう、大丈夫です。でも、ベットを汗で濡らしちゃいました」


「あら、大丈夫よ。シーツは定期的に洗っているから、ちょうど明日が交換の日だし」


「それなら、良かったです。男臭いところに女子を寝かすのは可愛そうなので」


「お前の汗って知ったら、喜ぶかも知れんぞー」


「何言っているんですか、まったく!」


教諭の雑談を無視して、


「ご心配をおかけいたしました。失礼いたします」


 一礼して、ドアを閉めた。

学生の居なくなった静かな校舎を出る。

校庭も学生姿はまばらだ。

運動部の後片付けをしていた一年生たちが帰り支度をしている。


外は夕方になっていた。


ジャージのポケットを確認して、そこにあるものの形をなぞる。


あの場所に向かう。

10分ほどで踏切に着く。


 どこに置けばいいのだろう?

そういえば、向こう側に献花台があったな。

踏切を渡る。

献花台に置けば良いのか?と思った瞬間。


踏切の中央に、黒い影がごにょごにょと渦巻いていた。


唾をのみ込む。


周囲の人は一瞬で消えていた。

赤い世界に、俺は一人で、踏切のこごった闇と対峙していた。


 いや、単に動けなかったのだ。


闇は、ぶるんと大きく震え、何か大きなモノが飛び出す。

闇は離すまいと、それに触手を伸ばす。

それらを振り切る。


辛うじて人型の、あの女の人だ。

彼女は、再び、闇の中に身を投じ、何かを抱きかかえて引きずり出した。

そして、ハイヒールで闇に蹴りをガシガシと入れ、こちらに歩いてきた。


 血と肉片の付いた動く死体は

歩きながら、骨が現れ、肉が付き(胸を片方見てしまった)、下着が覆い(黒だった!)、プラダの黒いスーツを身に着けた。

そして頭を振ると、ほつれた髪が、まとまって、後ろに束ねられて、耳には金のピアスも忘れていなかった。


俺の前に来たときは、奇麗な姿に戻っていた。

腕には、傷一つない赤ちゃんが抱かれていた。


「っふう。嫌なモノを見せちゃったわね。ごめんなさい」


自分の死を、どこか他人事のように言う。達観しているのだろうか。


赤ちゃんが不意に泣き出した。


「ああ、これ」


俺は、慌ててポケットから、おしゃぶりを取り出した。


赤ちゃんは、それを見つけると嬉しそうに、手を伸ばした。

そっと、柔らかい小さな唇にあてがう。

赤ちゃんは、おしゃぶりを俺の手ごと捕まえた。


俺も赤ちゃんのきゃっきゃ笑うのに釣られて笑った。


「ありがとうねー。迷惑かけてごねんなさいね。

あまり、ここには居れないから、もう行くわ。

あなたも、戻ったら、すぐに家に帰るのよ」


 女性は、いつの間にか置いてあった藤製のベビーカーに赤ちゃんを寝かした。


「じゃあね。さようなら。本当にありがとう」


女性は手を振り、踏切を歩いていった。


カツカツと颯爽と。

後ろの赤いハイヒールを履く人は、なんだか奇麗で強い人だな。


 女は、踏切中央の闇の淀みに、腕を突っ込んで、一抱えもありそうなものを引きずり出した。

そうして、もう一度、闇の触手をヒールで踏みにじっては、黒いモノの中に上半身を入れて、再度何かを引っ張り出した。

最初に引きずり出したのは、小さな女の子の姿になっている。

そして、二度目に引っ張り出したのは、何度も闇と引っ張り合っていたが、大物を抜き出したと思っていたが、そのシルエットは、ランドセルを背負った子供だった。


女の子は、泣いている。

男の子も泣いている。

顔も姿もはっきりしないが、シルエットでそんな感じなのはわかる。


 女性は、闇が子供に来ないように背中で牽制しながら、腰をかがめて二人の子供に何かを言っていた。

子供たちは、頷き手を伸ばし、彼女と手を繋いだ。


彼女は再度、闇を踏みつぶし、蹴りを入れている。

蹴りが入るたびに、ヒールの後ろの赤い色が鮮やかに舞った。


暗い淀みが小さくなったところで、彼女は、片手にベビーカーを、もう片手に女の子の手を、女の子の手は男の子の手を、三人で手を繋ぎ、赤い夕陽に向かって歩いて溶けて行った。


 ああ、事故に遭った子供たちも闇に捕まっていたのだな。

きっと泣いていた子供をそのままにして置けなかったのだろう。


優しい人だからな。


窓から落ちそうだった時、

階段から足を滑らした時、

彼女が助けてくれた。


「こちらこそ、ありがとうございました」


呟いた瞬間に、後ろから人がぶつかり、


「わあ、急に止まんなよ!」


「あ、すいません」


周囲は、家路に向かう人が沢山いた。


 戻ってきたんだ。

俺も歩き出した。


踏切中央を通るときは、これからも少し緊張するだろう。

人を事故に導く闇の触手が集う場所だからな。


あの人の


「戻ったら、すぐに帰るのよ」


その言葉に従い、家への道を歩いていった。



夕日は落ちて、夜になる少し前の空の下だった。



今でも、裏の赤いハイヒールを履く女性を見ると、少し切なくなる。


あのハイヒールはルブタンという高級ブランドらしい。


あの靴を履く女性は、いつでも颯爽と歩いていてほしい。


あの人のように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割烹から飛んで参りましたー! くろたえさまの作品、特に駅ホラーは割かし読ませていただいてるつもりだったのですが、なぜか見落としていたのです! ベビーカーがはさまって…… これはつらいです。 …
[一言] あ、そうだそうだルブタンだ 後書きを読んで思い出しました。 闇、本当に嫌な存在ですね。 光があるからそりゃ闇もできるんですけど、 お話を読んでいてたくさんの声のところでゾッとしました。 ハ…
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