第13話 男の失踪
十三
本が返ってこない。男は期限を過ぎても、本を返しにこなかった。よかった。花江は男が来ないことを内心、喜んでいた。ゆかりによれば、花江が休んでいる日であっても、男は来なかったようだ。つまり、男は電話番号を花江に教えた日から、図書館に一度もこなかったのである。花江はもう男に怯えずに生活ができるような気がした。本当に解放された気分だった。胸をなでおろした。
ゆかりは、本の返却を催促するために、男に電話をかけた。花江はじっと、コールの音を聞いていた。プルプルプルプル。何回もコールが鳴るのだが、男は電話に出ることがなかった。出ないとゆかりはぼやいた。花江は別にこれでいいと思った。男が来ないのだから。
そして、秋になった。花江は朝のニュースを見ていた。男の名前と写真がテレビに写っていた。久々に男の不気味な顔を見た。花江は悪寒がして、手を組んだ。走馬灯のように、男の影が花江の頭の中へと入っていった。
特段、恐ろしい事件が起きたわけではない。男は失踪してしまったのだ。音信不通となった男の家族が警察に捜索届を出したそうだ。しかし、有力な手掛かりが得られることがないため、男がどこにいるのか分からない。男はどこへ消えてしまったのだろうか。




