第10話 見られている
十
花江はアパートに帰ると、本棚を上から下までざっと見ていた。ちょっとした隙間にカメラが隠れているのかと思ったからだ。花江は、本棚の左上から本を一冊ずつ取り出して、カメラがないか確認した。けれども、何も怪しいものは見つからなかった。ついで、花江はテレビの裏を調べた。それでも、何も見つからなかった。花江は部屋のあらゆるところを調べてみたが、取り立てて目ぼしいものはなかった。
こうやって、部屋をうろうろしている姿が男に見られているのだろうか。花江はそう思わずにはいられなかった。見られている。見られている。見られている。どこかに男の目がある。それがジロジロジロジロ私を見ている。
テレビの画面に写っている花江が花江本人を見ている。テレビそのものが目のように見える。怖くなって、花江はテレビから目を背けた。すると、本棚にある本一冊ずつが目のように見えた。多くの目が花江を見ていた。やめて、見ないで。花江はそう叫ぶたくなった。四方八方に目があり、全ての目が花江の行動を監視している。
疲れた花江は、ベッドに横になった。目をつぶると、多くの目が花江の視界から消えた。けれども、花江の外界から目が消えたわけではなかった。ずっとずっと、花江を見ていた。そう思うと、目をつぶっても、無意味に思われた。花江の黒い視界に大きなひとつ目が現れた。
つい、花江は目を開けてしまった。すると、花江を多くの目が待ち伏せしていた。前を向こうと、後ろを向こうと多数の目があった。どの目も花江を見ていた。その目は好色に溢れていた。見ないで。どっかいって。花江はずっと同じ言葉を繰り返した。しかし、その言葉が部屋に漂うだけだった。




