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ホラーチャレンジ

「ねえ、策井出(さくいで (えみ、通称デワラ!このゲーム面白そうじゃね?ホラーチャレンジ、だってさ」


高校の休み時間、2ーBの教室の片隅で、さっきの二限目の数学のテストで頭が痛くなってる私にヤイが携帯電話の画面を見せてきた。


ヤイの名は矢居川(やいかわ (かおる。クラスメートであり、私の友達。そして男言葉を話すボクッ子だ。


「毎日一回は、私の名を呼ぶ時に、それを言わなきゃ気がすまないの?言いたいだけでしょ?それ。それに、アンタが見つけてくるゲームって、いっつもたいして面白くないし」


目の前に突き出されたケイタイの画面を見ると、真っ黒な背景に上から血のりが垂れ下がっている、いかにもホラーゲームらしいものだった。


「いいっしょ?どうせヒマだろ?」


ヤイが私に人差し指を突き出す。ヤイはショートヘアで、今は仕方なく制服のセーラー服を着ているが、私服はいつもジーンズにパーカーかTシャツ。背が高くスレンダーな体型にそれはよく似合っていた。


「ねえねえ、アタシも~!アタシもアタシも面白そうなゲーム見つけて来たんだけど~」


そこへ自己主張の強い乱入をしてきたのは、心は女、体は男の横奈田(よこなだ モカ。こいつも同じクラスで私の友達。


目の前に差し出されたモカのケイタイの画面を見ると、文房具占い、と書かれてある。


「また占い?アンタも好きねぇ」


「アタシは、消しゴムだった!なんでも過去を消していく、都合のいい性格だって!」


それを聞いた私とヤイは爆笑した。特に理由は無い。ノリだ。モカは、こうやって人を明るい気持ちにさせて笑わせる不思議な力があった。


「それ、めっちゃ当たってるし。やってみたい!」


ヤイと二人でケイタイの画面をのぞくと、質問に答えていく形式のようだった。


「じゃあ、まず私からやるわ。えー、何々?朝ご飯はパン派?それともご飯派?」


「くだらねー」


ヤイがクールに笑う。言ってることとは裏腹に、楽しそうだ。


「パン派ね」


パン派を選び、次へ進む。


「次の質問はー、夜寝る時は、横向き派?仰向け派?」


「夜寝る体勢に派閥なんてあったのかよ」


「もう~、突っ込みはいいから、サクサクッと早くやってよう~」


モカは既にやってしまっているので、質問がどうとかより早く結果が知りたいらしい。


「わかった、わかった」


そんな調子で質問に答えていき、私の結果はコンパス、ヤイの結果は分度器だった。


「返して。アタシが読むわ~。コンパスは、丸~く収めようとするものの、蜂の一刺しで全てを台無しにするタイプ」


「当たってるな」


ヤイが左手を腰に当て、右腕を伸ばして私に人差し指を突きつける。ヤイの好きな、いつもの決めポーズだ。


「で、分度器は~、柔らかく見えるものの、鋭角な視点を内に秘めている」


「当たってる」


「そうかな」


顎に手を当て考えるヤイに、モカが両手の人差し指を交互に突き出してふざける。


「当たってるわよぉ~」



遠くの席に固まってる女子グループが、モカをチラチラ見ている。ゲイじゃなかったらねぇ、という囁き声がここまで聞こえてくる。


確かに、ここまで親しくなる前は、私もモカを見ては溜め息をついて、そう思っていた。


そう、モカは、詰め襟の制服を爽やかに着こなす、溜め息の出る程の色男。鼻筋はスッと高く通り、目は二重で大きいのに、暑苦しさを全く感じさせない。むしろ視線はいつも涼やかだ。



「まあ、そんなこんなで、アンタの占いに付き合ってやったんだから、次はボクの見つけてきたホラーゲームに付き合いたまえ」


ヤイがモカに向かって人差し指を突き出す。


「え~、怖いの苦手なのにぃ」


モカが両手をグーにして、顔の前で合わせる。


「私だって怖いの苦手なんだけど」


「ガタガタ言うな!もう君たちがボクに付き合うのは決定事項なんだ」


声を上げたヤイに、今度は女子グループの視線が集まる。


ヤイはショートヘアでスラリと背が高く、男顔負けの格好良さ。モカの次に女子の視線が集まるのも無理はない。女子高なら、後輩女子からのラブレターが殺到するタイプだ。ここは共学だが、先月あたり後輩の女の子から手紙をもらったらしい。プライバシーの侵害だ!とか言って、詳しいことは教えてくれないが。



こんな個性の強い連中と私が何故友達になれたのか。私自身がイマイチよく分かっていない。


私は成績も見た目も中の下。もしかしたら、そういう当たり障りのなさが、壁を感じさせなくて良かったのかもしれない。



「じゃあ、さっそくホラゲーをやってみよー」


ヤイがホラーゲームの画面をタッチすると、ファーストチャレンジ、という赤い文字が表れた。おどろおどろしい、血が滴っているような文字だ。


「えー、ファーストチャレンジ。あなたの家の近くの心霊スポットへ行って、心霊写真を撮影せよ」


「ウチらの近くの心霊スポットっていうと~、黒い家かしら」


モカが顎に親指を当てる。


「黒い家かー」


私は頭を抱える。確かに家から近い。近すぎて、一切関わろうとしなかった場所だ。幼い頃、知らずに黒い家の横を通った時に、なんとも言えない悪寒が全身を駆け抜けた。それがトラウマになり、それ以降黒い家の前の道を通らないといけない用事ができても、わざと遠回りしているのだ。


「黒い家って?」


「あ、そっか、ヤイは学区が違うから、知らないか」


「黒い家っていうのは~、その名の通り屋根も壁も真っ黒の家なの。窓ガラスすら、真っ黒に塗りつぶされているの。怖い怖~いところなのよ~」


モカが胸の前で両手を垂らし、幽霊のマネをしておどける。


ヤイが満面の笑顔でニヤリとし、人差し指を突き出して言った。


「よーし、そこに決定だ!今日の夜七時に黒い家の前に集合!」






午後七時前。


家を出て住宅街の中を黒い家へ向かって歩く。


もうすでに、とっぷりと日が暮れ通りには人がいない。


こういう時、私はいつも想像してしまうことがある。


もしかしたら、今この地球上にいるのは私一人なのかもしれない、と。


時おり、明かりの点いた家に出くわすこともある。


そこには、人がいるのかもしれない。


だけど、そうだとしても、それは壁の向こう側であって、こちら側ではない。


人がいるかいないかも分からない、ただ私にとっては窓のカーテンを通して見える、オレンジ色の光。


それは、逆に私をもっと非道く寂しい気持ちにさせる。


思わず顔を上げた、その時。


視界に飛び込んできた、暗い夜空にたった一つ光る星。


それを見つめて歩いているうちに、やっと少しずつ私の心から寂しさが薄れていっていることに気がついた。



角を曲がると黒い家が見える、そこまで辿り着いて、私は手に持っていた懐中電灯の明かりを点けた。


立ち止まり、深呼吸して角を曲がる。


嫌でも見えてくる、その闇より暗い佇まい。


まるでブラックホールだな…。


黒い家の両隣は、十分家一軒建つ程の広さがあるにもかかわらず、草の生えた空き地になっている。


私はその空き地の前に立ち、二人を待った。


やがて、遠くから…。


カツカツカツ。


ハイヒールの音が聞こえてきた。


あれがヤイかモカだとしたら、モカだな、と私は予想する。


街灯の下までやってきたその人物は、はたしてモカだった。


街灯の明かりを受けて、神々しく光る金髪ロングヘアのカツラをかぶり、薄いピンクのキャミソールの上にフェイクファーの白いジャケット、黒いミニスカートから伸びる女性顔負けの細く長い足は綺麗に手入れされ、黒く細いストラップのサンダルを履いている。


休みの日遊びに行く時に、モカがだいたいいつもする格好だった。


そしてその格好をしている時、彼が男だと人にバレることは絶対に無かった。


「ヤッホーイ」


手を振り駆けてくると、無理矢理私の両手を持ち上げ掴んだ。



可愛いな…。


女の私でもついそう思ってしまう。


なので、急に手を掴まれても、悪い気はしない。


「今日の格好、可愛いね」


「あ~ん、ありがとう。デワラちゃんも、カワイイおかっぱの髪型にぃ、明るい黄緑色のカーディガンにぃ、濃いブラウンのロングスカート、似合ってる~」


「ありがとう」


モカは人に褒められると必ず褒め返すという、ありがたいクセを持っている。


「ていうか~、ヤダー、懐中電灯~。心霊スポットに来るのなんて初めてだから、わ、す、れ、た~」


「私も初めてなんだけど」


「あ~ん、デワラちゃんは、いっつも準備いいもんね~。自分の支度に精一杯で、忘れてたわ~ん」



急に私の中にイタズラ心が湧いて、懐中電灯の光をモカの顔に当てる。


「イヤーッ。目が潰れちゃう。目が潰れたら、デワラちゃんに一生面倒見てもらうからねッ」


冗談でも逞しいというか…。


私は私を傷つける人間がいたとしたら、絶対にその後の人生はそいつとは関わりたくない。


「ところで、ヤイちゃんは遅いわねぇ」


「確かに」


ホラーゲームをやろうと言い出したのはヤイだし、何事にも動じない性格だから、いの一番に来てそうなものだが…。


ガサガサ。


その時、私の耳にふいに不穏な音が聞こえてきた。


「ねぇ、なんか、音がしない?」


「エッ、何言ってんのよう」


気のせいか、そう思った時、また…。


ガサガサ。


「ほら、また」


「確かに、何か聞こえた」


音は、空き地の草むらの中から聞こえてくる。


私とモカは手をとりあい、空き地から少し、後ずさる。


私が懐中電灯の明かりを草むらに向ける。


と、わずかに奥の草がゆらゆらと動いている。


風ではない。


何故なら、明らかに何らかの生物がいて、そこの草だけがガサガサと揺れている。


「だっ、誰かいるの?」


草の揺れが大きくなり、その揺れる箇所が、だんだんこちらに近づいてくる。


「ヒャッ」


私たちはまた数歩後ずさる。


「遅いじゃないか!君たち」


「キャッ」


突然草むらからヌッと顔を出したのはヤイだった。


「もぉー、ビックリさせないでよ…」


ヤイが立ち上がり、黒いパーカーについた草きれを払いながら道へ出てきた。


「君たちが遅すぎるから、空き地を調査していたんだ。そしたら、こんなものを見つけたよ」


ヤイが私たちの前に小さな何かを掲げ、それが懐中電灯の明かりを受けてキラリと光る。


ヤイが指でつまんでいるものは、鍵だった。


「そんなもの、拾ってどうすんのよう。誰かがいらなくて捨てたんでしょ?」


モカの言葉を気にせず、ヤイは鍵をスカイブルーのジーンズのポケットにしまう。


「洋館風の黒い家のすぐそばに落ちている、洋風の古くさい鍵。なんか意味ありげじゃないかい?さっそく、探検に行こうじゃないか」


ヤイが先立って黒い家の前に立つ。


「ボクは知らないんだが、この家のいわれを教えてくれよ」


「これは、あくまで私が小さい頃から、近所の大人たちや同級生の間でまことしやかに囁かれていた噂なんだけど。建てられてから何十年経っているかも分からないこの黒い家は、その昔は明るい緑色の屋根に白い壁の、普通の二階建ての洋館だったらしいの。ただ、あまりに昔のことすぎて、その頃にどんな家族が住んでいたのか、誰も知らない。いつの間にか住んでいた人たちはいなくなり、やがて気づいた時には、この家は屋根も壁も窓も真っ黒になっていた…」


「アタシが聞いてるのも、そんな感じ~」


「なるほど」


ヤイがストレートのショートヘアを夜風になびかせ、顎に手を当てる。


「結局は、何も分かっていない、ということか」


カシャッ。


「キャッ。眩しい!」


「君たち。当初の目的を忘れていないかね。心霊写真を撮って、ゲーム内に記載されているURLに送らなきゃ、次のステージに行けないんだぞ。お上りさん気分じゃいけないな」


「何か撮れた?」


「うーん。だいたいこういう場合、窓からこちらを覗く人影、というものでも写ってそうなものだが…。この家は窓が真っ黒だし、それらしいものは写ってないな」


黒い家は、私たちの背よりも高い黒い塀に囲まれていて、黒い鉄の門扉がある。


ヤイが門扉の隙間から手を差し入れてカンヌキを引くと、キキと耳障りな音をたてて開いた。


私が懐中電灯で塀の内側を照らす。


そこには草一つ生えていない、ただの剥き出しの地面が続いていて、何もなく、誰もいない。


ヤイ、私、モカの順に石の通路の上を歩いて、玄関ドアの前に立つ。


そのドアは黒い木製で、これまた黒く丸いドアノブがついていた。


ヤイがドアノブを触り、一旦手を離す。


「ふむ。手は黒くなってはいない。汚れという訳ではなさそうだ」


私がドアノブを握り、押すと何の抵抗もなく、スッと開いた。


「おや、鍵の出番は、ここでは無かったな」


私はまた、ドアを引いて閉じる。


「なんでまた閉めたのよう」


モカの言葉にハッとする。


ほとんど、無意識だった。


あまりに抵抗なく開いたドア。


私が押すと同時に、中から誰かが引いたようで…。


「んもう。怖じ気づいちゃって。アタシが先に入るわ」


モカがパッとドアを開け放つ。


自分の携帯電話のライトを点け、ズンズン進んで行くモカの後ろから、私が懐中電灯で部屋の中を照らす。


見える範囲には、人はいないようだった。


「わあ~、ステキね」


そこは台所とひと続きの広いリビングルームで、アンティーク風の木製の食器棚やテーブルがあった。


中も真っ黒なのでは…。そんな私の予想を裏切り、今でも人が住んでいるかのように、埃もかぶっておらず、ちり一つ落ちていない。


「なあ、なんか、おかしくないか…」


ヤイが小さな声で囁く。


「人が覚えていない程の昔から人が住んでいないのに、綺麗すぎるじゃないか…」


確かに。


私の二の腕に、ゾワゾワと鳥肌がたつ。


ヤイの言葉を聞いてるのかいないのか、モカが熱心に食器棚をのぞき込む。


「わあ、このティーカップ、可愛い!」


「ねぇ、モカ…」


私がモカのそばへ行き、モカが携帯電話のライトで照らしているところを見ると、確かに花柄がお洒落に描かれた、素敵なティーカップがあった。


傷一つ、汚れ一つついておらず、磨き上げられたばかりのようにピカピカだ。


あのティーカップで、勉強の疲れを癒やすために、紅茶を一杯…。


なんて妄想をしていると、ヤイが私とモカの後ろに近づいてきて囁いた。


「君たち。心霊スポットにあるものを持って帰ると、ヤバイらしいから、やめとけよ…」


「ヤバイって~、どうヤバイの?」


「さあ?ボクだって心霊スポットに来るのは人生で今日が初めてなんだから、ネットで心霊スポットに行く時の心得をザッと調べてきたんだ。何が起きるかは、その心霊スポットによるんじゃないか?」


「まあ、確かに、心霊スポットに置いてあるものを持って帰るってのは、ちょっとね」


私が食器棚の前を離れると、後はてんでばらばらに辺りを捜索した。


ヤイはバシャバシャと辺りを撮りまくる。


「なあ、階段があるぞ」


ドアを開けて廊下をのぞき込んでいたヤイが、私とモカを手招きする。


「二階に行ってみましょうよ~。アンティークのティーカップより、もっとスゴイものがあるかも」


ヤイを筆頭に、私たちはひとかたまりになって二階への階段を上る。


階段は折り返しになっていて、途中に黒い窓がある。


その窓は光も通さない程、塗りつぶされているわけではないらしく、ほんのり外の月明かりが透けている。


私はそこを見ながら階段を上っていた。


真っ暗な中、そこに到達することを一つの目標にして。


ところが、階段をいくら上っても、そこに到達しない。


それどころか、その淡い光を放つその黒い窓が、スゥーと遠ざかっていく。


まるで気を失う時のようなその感覚に、私は思わずヤイの肩を掴む。


「どうした?」


「なんか、おかしくない?」


「確かにぃ~。さっきから一体何段上ったかしら?全く二階につかないんだけど~」


私が懐中電灯で階段の先を照らす。


すると、階段はどこまでも闇の中を続き、先は光が届かず見えないほどだった。


「何、これ…」


モカがオネエ言葉を使う気力もなくなったのか、普通につぶやく。


「なるほど。これはもののけの仕業か、幽霊の仕業か」


パシャ、とヤイが写真を撮る。


「ほぉー、これはこれは…」


ヤイの呟きが気になり、私は横から写真を覗く。


そこには、今私たちが見ている景色ではなく、最初に見た風景、折り返しのある階段が写っていた。


「この黒い家は、私たちに心霊写真を撮らせる気がないらしい」


「もうやだっ。アタシ帰る!」


モカがきびすを返し、ダダダッとヒールが階段に刺さらんばかりの勢いで駆け降りていく。


「待って、モカ!」


私の脳裏に浮かんでいるのは、どこまで下りても、どこまでも階段が続いていたら…という恐ろしい考え。


はたして、その通りで、どれだけ階段を下り続けても、一階に着かない。


「なんなのよう~…」


先を行くモカの姿が見えず、聞こえてくる声も尻切れトンボのように消えていく。


まるで奈落の底に、モカが消えて行ってしまう…。


そんな想像を消しさり、現実を繋ぎ止めたくて私は叫んだ。


「モカ!」


「キャッ!!」


モカの悲鳴が聞こえ、私とヤイは顔を見合わせる。


「急ごう」


「モカ!」


ヤイと手をとりあい、急いで階段を降りる。


すると…。


「キャッ」


「ギャッ」


「ウワッ」


急に段差がなくなり、私とヤイは勢い余って、床にあった柔らかい何かの上に転がる。


「痛いじゃない~。アンタたち、どいてよ~」


「ゴメン、ゴメン」


モカの上からどいて辺りを照らす。


するとそこは一階でもなく板張りの床がどこまでも続いている、薄暗いだだっ広い空間だった。


「ボクたちは、一階を通り越して地下室へ来てしまったのか?」


「もうやだ。帰りたい」


モカが本気で泣いてるのか、手の甲で目を拭う仕草をする。


スン、スンスン。


鼻をすする音がする。


モカが本気で泣いてる。


「モカ…」


私がモカの頭に手を置いたその時、モカが顔を上げ、言った。


「…今の、アタシじゃない…」


「エッ」


確かに、よく耳を澄ますと、奥の暗がりからそのしゃくり上げるような声は聞こえてくる。


カシャッ。


ヤイがその暗がりに向けて写真を撮ったその時、暗がりにうずくまって泣いている人影が一瞬ライトに浮かび上がり、消えた。


「やった!撮ったぞ」


「ヤイちゃん!」


モカがガッツポーズしたヤイの腕を掴む。


「生きてる人だったら、どうするのよう。私たちみたいに、心霊スポットに来てみたものの、出られなくなって泣いてるのかも…」


「なるほど。しかしだね、モカ君」


ヤイが人差し指を立てる。


「ボクたちが来たのが、聞こえない距離じゃないはずだ。出られなくて困っていたなら、まず真っ先にボクたちに助けを求めてくるはずじゃ?」


ヤイが携帯電話のライトを点け、しゃがみ込み泣き続けている人物に近づく。


体の大きさからして、中学生ぐらいの少年のようで、白いシャツに黒い半ズボンを履いている。


「君は生きている人かね?それともオバケかい?どっちだ!」


ヤイが人差し指をその人に突きつける。


「…どっちだと思う?…」


そう低い声で言いながら振り向いたその顔には、目玉がなく、ただ真っ黒な穴が二つ空いていた。









「アイタタタ」


目が覚めると、体中がガチガチでやたらに痛い。


起き上がろうと手をつくと、そこはやたらに固い床だった。


寝相が悪くて、ベッドから落ちてしまったのか…。


そんなことを考えた私の頭上に,知らないオッサンの声が降り注いだ。


「やあ、お目覚めかい?」


ギョッとして声の主を見ると、シルクハットに黒いマントを羽織り、ステッキを持った知らないオジサンが、アンティーク風の椅子に座っていた。


「自分の部屋で、フカフカのベッドに寝ていた夢でも見ていたかね?」


悔しいけど、その通りだ。


ボンヤリした頭で辺りを見渡す。


板張りの床がどこまでも続いている、真っ暗でだだっ広い空間。




そうだ…。


ヤイとモカと心霊スポットに来て、オバケを見て気を失ってしまったんだった…。


私たちが降りてきたはずの階段は、どこにも見当たらない。


辺りを見渡すが、うずくまって泣いてたはずの少年はどこにもいない。


…二人は?


オッサンがステッキを持ち上げ何かを指し示す。


オッサンの前にはアンティークの小さなテーブルがあり、ロウソクが一つ立てられている。


その薄明かりに照らされて、椅子に座らされているモカとヤイが見えた。


「モカ!ヤイ!」


だが二人は、私の言葉に返事をしようともしない。


よく見ると二人は猿ぐつわを噛まされ、両手を後ろ手に縛られていた。


「アンタ!二人に何したんだよ!」


「いや、何もしていませんよ」


オッサンはおどけたふうに両手を上げる。


「ただ、一人はギャアギャアうるさく、一人はワタクシに掴みかかってこようとしたのでね。いたしかたなく」


うるさかったのはモカで、掴みかかろうとしたのはヤイだろう。


「…ところで、アンタ誰なのよ」


「ワタクシは、ホラーチャレンジ、という名のホラーゲームの主催者、とでも言っておきましょうか」


「とでも言っておきましょうか、だと?さっきからふざけてるよね、アンタ」


「まあ、でもワタクシの作ったホラーゲームに遊びに来たのは貴方たちですよ?」


「何なのよ。もうやめた。もうやんない。リタイア。だから、もう私たちをウチに帰してよ」


「でも、せっかくファーストチャレンジに成功したんですから、セカンドチャレンジにも挑戦していってくださいよ」


「セカンドチャレンジに成功したら、二人を解放する、って言いたいの?」


オッサンは、遠くを見つめ、無言だ。


「…分かったわよ。やるわよ。何をすればいいのよ」


「セカンドチャレンジは、霊の声を録音できれば成功です」


「どこで?」


「あそこをご覧なさい」


オッサンがステッキで指すほうを見る。


だが、そこには、暗がりが広がるばかりで何もない。


「何もないじゃない…」


そうつぶやいた時、白い影が暗がりからスーッと近づいてくるのが見えた。


よく目をこらすと、それは半透明の、スーツを来たくたびれたオジサンだった。


足は膝から下が無く、こちらのことは目に入らないのか、うなだれたままだ。


その格好のまま、スーッと移動し、私の横を通ると後ろの暗がりへ消えていった。


「い、今のは…?」


足の震えを悟られないようにしながら、私はオッサンに尋ねる。


「今のは、霊道。霊の通り道なんだ。たまにああやって、霊が通り過ぎていく。そんな霊たちを頼りに霊道を向こうに進んで行くと、やがて階段がある。君たちが、黒い家からここまで下りてきたような、長い階段だ。それを上ると、とあるトンネルに出る。君には、そこで霊の声を録音してきて欲しい」


「それが成功したら、二人を解放してくれるの?」


「ふふ」


オッサンが唇を歪めて笑う。


「何がおかしいのよ!」


「人の恐怖は、その人の心の中にある。怖いと思えば怖いし、怖くないと思えば怖くない」


「何、禅問答みたいなこと言ってんの?」


「ワタクシは、彼女たちに危害を加えるつもりは無いと言ったろう?仕方なく縛ってあるだけだと。三人で行ってもらうよ。君たちは、三人揃っていたほうが面白いからね」


「じゃあ、二人を解放していいのね?」


「どうぞ」


私は二人に近づき、ヤイの猿ぐつわをとる。


ヤイが小声で囁く。


「いいかい、ボクとモカの手を縛ってる縄を取ったら、ボクの合図で一斉にアイツに飛びかかるんだ」


私がモカの猿ぐつわを取り、二人の後ろに回って手を縛っている縄をほどく。


「今だっ」


ガタッ。


「キャッ」


「ギャッ」


「イタ~イ」


「オッサンはどこよッ」


オッサンは消え、私たちはただ誰もいない椅子の上に倒れこんだだけだった…。


「はあ~っ、何よ、アイツ。ムカツクっ」


モカが立ち上がり、黒いミニスカートの裾をパッパッとはらう。


「アイツ、絶対ハゲだろ。ふざけた帽子かぶりやがって」


ヤイがツヤツヤのショートヘアを振り乱し、悔しがる。


と思ったら、急に元気がなくなり、うつむいて言った。


「ゴメンな。君たち。ボクがホラーゲームをしたいと言ったばっかりに、こんなことになって…」


「いいの」


モカが笑顔でヤイの肩に手を回す。


「面白そう、ってついてきたのは、アタシたちの勝手なんだから。ね、デワラちゃん」


「そうだよ!」


私もヤイの肩に手を回す。


ヤイが鼻をすする。


「そっか、そだな!」


「そうそう、ファーストチャレンジも楽勝だったじゃない?セカンドチャレンジも、楽勝楽勝!」


「そうだそうだ!」


私が片手を振り上げる。


そんな私たちの横を、今度は白い着物の女性がスーッと音も無く通り過ぎていく。


こんな異常な空間で、私たちはただ、お互いを慰め合い、士気を高めることしかできなかったんだ…。







私たちは肩を組み合い、小学校の時に習った童謡を歌いながら暗がりを進んで行く。


時々すぐ横を通る白い人影の気味悪さをなるべく感じないようにしながら。


やがて暗闇の中に、階段の入り口が見えてきた。


「ここか…」


「まあでも、ここを上ったら、トンネルに出るって分かってるんだから、何も怖いことは無いよね」


私たちはまた童謡を合唱しながら、階段を上る。


上りきると、はたしてそこは、薄暗いレンガ造りのトンネルだった。


壁は湿気で濡れていて、黒いシミや茶色い汚れ、緑色の苔などが生えていて、驚くほどの汚さだ。


ピチャッ。


「キャッ。やだ~、頭になんか落ちてきたんだけど~」


「雨漏りがしてるな。地下水が染み出しているのかもしれない。古そうなトンネルだからな」


「なんか、来る者を寄せ付けない、嫌な雰囲気が漂ってるね」


「とりあえず、録画してみるか」


ヤイが携帯電話をジーンズの尻ポケットから取り出し、録画を始める。


それを音声を最大にして再生してみたが、特に声らしきものは聞こえてこなかった。


「ところで、ここはなんというトンネルなのかしら?」


「いったん、トンネルの外に出てみよう。トンネルの名前が書いてあるかもしれない」


歩き出した私の足に、何かがカツンと当たる。


それは闇の中をゴロゴロと転がった。


「あっ、私の懐中電灯。気絶した後、見当たらないから、なくしたと思ってた。なんでこんなところに?」


「オッサンが持ってきてくれたのかも?気がきくじゃな~い」


「てことは、ボクたちの後をコッソリつけてきて、今もどっかに隠れて見てるってこと?気持ちのわりぃオッサンだな」


懐中電灯をつけ、その明かりを頼りに進む。


やがてトンネルを抜け、外から見上げた時、私たちの目に飛び込んできたのは、手田我トンネル、という文字だった。


「なんか、聞いたことあるような…」


思い出そうとする私の横で、ヤイがポンと手を打った。


「あれだ…。昔、幼児誘拐事件があって、その子が殺された場所…」


「ヒッ」


モカが息を飲む。


「もうやだ。ほんとに帰りたい」


「よーし、またここいらで撮影してみよう」


ヤイが携帯電話で録画を始める。


その再生動画を、みんなで見る。


ピチャッ。


ピチャッ。


「なんか、変な音がする~」


「これは、水滴の音だと思う」


それにかぶさるように、ヒタ、ヒタ、ヒタ、という音。


「これは何~?」


「何だろうね」


三人でケイタイに顔を近づけ、熱心に耳を澄ます。


まだ聞こえてくる。


ヒタ


ヒタ


ヒタ


「ねえ、ねぇちょっと」


「何モカ。うるさい、聞こえない」


モカの声が、震える。


「もう動画の再生、終わってるよ…」


「え…」


ヒタ


ヒタ


ヒタ


「お姉ちゃんたち、何してんの?」


「ギャッ」


振り向いた私たちの目に映ったのは、可愛らしい小学校低学年くらいの女の子だった。


可愛いらしい白いえりのついた、淡い黄色のワンピースを着ている。


「何してんのって、アンタこそこんなとこで何してんのよッ」


「君、一人?」


ヤイがしゃがんで尋ねる。


「んーん。お兄ちゃんと来たんだけど、いつの間にかいなくなっちゃったの」


「おいおい、妹を置き去りで帰るとは、とんだ兄ちゃんだな」


ヤイの言葉に、また少女は「んーん」と首を振る。


「ほんとのお兄ちゃんじゃないの」


「えーと、するってえと?」


「学校帰りに声かけられて、お菓子くれる、っていうから車に乗って、そしたら、こんなところまで連れてこられたの」


「おいおい、これは警察案件じゃないか。モカ、警察に電話」


「電波がつながんない~」


「しゃあないなあ。これじゃあ、ゲームも中止だよ。おい、オッサン、どっかで見てっか?中止中止!ボクたち、今からこの子を警察に連れて行くから」


「んーん」


また少女が首を振る。


「んーん、って君ィ。警察に行かなきゃ、悪いお兄ちゃん、捕まえてもらえないよ?」


「お兄ちゃんは、もうアソコ」


少女が真っ暗な空を指さす。


そして、ニヤリと笑う。


その口がどんどん裂けて、大きくなっていく。


「悪いお兄ちゃんは、とっくに捕まって、縄で首を吊られて、お空に飛んでった!ざまあ見ろ!ざまあ見ろ!ケタケタケタケタ」


可愛らしかった少女の顔からは目と鼻が消え、大きく裂けた口だけがそこに浮かんでいた。


「ワタシはただ、お兄ちゃんが遊んでくれるんだ、ただそれだけだと思ったの!それなのに、こんな誰もいない寂しいところに連れて来られて!地面に蹴飛ばされて馬乗りされて!お腹が破裂しそうに痛かったの!お兄ちゃん、どいて、って頼んでも、どいてくれなくて!ワタシは泣き叫んだ!そしたら、お兄ちゃんはワタシの頬を殴り出したの!その時になって初めて気づいた、お兄ちゃんにとって、ワタシの気持ちなんかどうでもいいんだって…。お兄ちゃんにとって、ワタシの存在は、お人形かなんかと一緒なんだ…」


少女の顔から口が消え、黒い目が現れた。


なんの感情も無い、輝くことのない闇のような二つの目。


「その後は、ワタシは泣きも叫びもしなかった…。ワタシの心から、感情は消えた」


また、真っ赤に裂けた口が現れ、フフと笑う。


「ワタシはどこにも行けないの。ねぇ、お姉ちゃんたち、ずっとここにいて、ワタシと遊んでよ」


「よし、とった」


ヤイが言うので見ると、携帯電話の再生を押した。


「ウウウウ」と、少女のものともつかない、低い不気味な唸り声が再生された。


「ねぇ、君」


ヤイが少女に指を突きつける。


「君がここから動けないのは、君自身が成仏しようとしないからだよ」


少女が可愛らしい顔に戻って、ヤイを見上げる。


「成仏って、なあに?ワタシは、ここで遊びたいだけなの。夜中に、たまあに人が来るの。だけど、ワタシが遊ぼ、って話しかけたら、みんな逃げてくの。ワタシは遊びたりないの。だから、ずーっと、ここにいるの」


「ヤイちゃん、この子に言い聞すのは、無理だよ。動物と一緒で、何も分かってない。逆に言えば、まだ何の分別もつかない幼い頃に、殺されたんだ…」


モカの頬を、涙が伝う。


「動物って何。動物と一緒って言った。それぐらいのこと、ワタシにも分かるんだから!ワタシを馬鹿にしたの!」


ビリビリと空気が震え、ピシッとトンネルの壁にヒビが入った。


「…ワタシは、生け贄になったんだよ…」


少女が静かに語り始める。


「生け贄?」


「うん。お姉ちゃんたちが、今幸せに生きてるのは、どうして?ワタシが変わりに犠牲になったからなの。ほんとは、ここで感情を無くして死んでしまったのは、お姉ちゃんたちだったかもしれないの」


確かに、自分が幼い頃に殺人鬼と出くわしてしまったとしたら…。


自分一人で自分の身を守るなんて、絶対に出来なかっただろう。


たまたま、運がよかったから、ここまで生きられた。


彼女は、たまたま運が悪かったから、幼くして死ぬことになってしまった…。


「だから、ここで一緒に遊んで」


少女が可愛らしい顔でニッコリ笑う。


「永遠に」


少女が笑顔のまま、私の首に掴みかかる。


呼吸が出来ないほど苦しくなり、私は少女の手を引き剥がそうとする。


だが、私の手は少女の手をすり抜けるばかりで、掴めない。


その時、ヤイが動画の再生を押した。


音量を上げ、少女の声が唸り声となって辺りに響く。


「やめて。やめてよ」


少女が耳を塞ぐために私の首から手を離す。


「こんなの、ワタシの声じゃない!ワタシはいつも、鈴の鳴るような声だね、って、みんなに褒められてた!お父さんお母さんも、いつもワタシのこと、可愛いね、って!こんな醜いのは、ワタシじゃない!」


空気がビリビリと震え、トンネルにビシビシビシッとヒビが入る。


それが終わると、少女の姿は消えていた。


「戻ろう。ボクらには、何の力も無いんだ。彼女をどうこうするなんて、出来ないよ」


トンネルに入り、階段まで戻ると、さっきの少女が待っていた。


「恐山…」


少女がつぶやく。


「おばあちゃんから、聞いたことがあるの。死んだ人は、霊の道っていうのを通って、恐山という山まで行って、そこから天に昇るんだって」


「そうなんだ…」


「途中まで、一緒に行ってくれる?」


「もちろんだよ」


私とヤイが少女の手をとる。


モカは、涙が止まらないらしく、両手で頬をぬぐっている。


だだっ広い部屋へ戻ると、少女がつぶやいた。


「…お姉ちゃんたち、ワタシが生まれ変わったら、友達になってくれるよね?」


「当たり前だよ!」


「…さよなら」


少女は暗闇へスーッと移動し、消えてしまった。


「せつないな…」


しばし、三人で無言でたたずむ。


「そこのお三方、感傷的になってるとこ悪いが…」


私たちはため息をついて振り向く。


「オッサン、おらよ。撮ってきたよ、霊の声」


ヤイが携帯電話を投げると、オッサンはキャッチしてさっそく再生を押した。


少女の声が、ウウウウという唸り声となって聞こえてくる。


「ん~、いい音色だ…」


バン!と、割れんばかりの勢いで、ヤイがアンティークの机を叩く。


「いい趣味してんな、オッサン…」


ドスのきいた低い声でヤイが言う。



カッコイイな…、とつい私は思ってしまう。


外見はもちろんハンサムな女子なのだが、ヤイは内面もこんなにカッコよかったのか…。


友を改めて見直してしまう。



ヤイが続ける。


「そんなに霊の姿が見たかったり、声が聞きたければ、自分で行けばいいじゃないか…。どうせ、ボクらの後をつけて来てたんだろ?」


「フフ」とオッサンが笑う。


「ワタクシは、ずっとここに座っていたよ。心の目で見ようとすれば、何でも見える。逆に、心を閉じていれば、どんなに目を見開いていようと、何にも見えない。事は、そう簡単じゃないんだ…。それに、ワタクシが見たいのは、君たちも込みで、なんだよ。霊現象に右往左往する君たち。実に、楽しいよ…」


「チッ」


ヤイが舌打ちをする。


「ほんとに、いい趣味してやがんな…」


「さて、君たちはセカンドチャレンジもクリアした。サードチャレンジだが…」


「なあ、オッサン」


ヤイが空いた椅子にどっかりと座り、机に頬杖をつく。


「このゲーム、そろそろリタイア、っていう選択肢はないのかい?」


聞いてるのかいないのか、オッサンが遠くを見つめる。


「で、サードチャレンジだが…」


ヤイがガックリきたように頬杖を外し、両手を上げて肩をすくめる。


私とモカは急に膝から力が抜け、床の上にへたり込んだ。


「まあまあ、君たち。夜は長いんだ。もっと、ゆっくりと楽しみたまえよ…」


「もう、何度も、夜ばかりを繰り返してる気分…」


モカがうなだれる。


「フフ」


オッサンがまた笑う。


「その感覚は、あながち間違いじゃないかもね…」


モカが顔を上げる。


「どういうこと?」


オッサンが笑顔のままで言う。


「だって、ここはワタクシの作ったゲーム空間だよ?時間の長さも、感じかたも、いかようにも出来る」


「なあ、オッサン…」


ヤイがため息交じりに言う。


「それで?一体いくつのチャレンジがあるんだよ?ボクらは、いくつのチャレンジをこなせば、帰れるんだい?」


「まあ、それはおいおい分かるとして、まずはサードチャレンジに挑戦してもらわないとね」


「なんなんだよ、サードチャレンジってのは」


「サードチャレンジは、ポルターガイスト現象を撮影してきてもらう」


「また行かなきゃなんないの?」


「さっきとは逆の方向に霊道を進むと、やっぱり階段がある。そこを上ると、あるアパートにたどり着く。じゃ、行ってきなさい」


「まったく、学校にでも送り出すみたいに、気安く言っちゃって」


モカがブツブツ文句を言う。


「まあまあ、確かに、オッサンの言う通り、夜は長いんだ。それに、こんな体験そうそうできるもんじゃない。楽しんで行こうじゃないか」


ヤイが私とモカの肩を組み、歩き出す。


「ハァ~ッ」


モカが大げさに溜め息をつき、ヤイの手を肩からはねのける。


「ヤイはいいわよ。自分から言い出したことだし、楽しいんでしょうから」


ヤイは黙って口を結び、相手にしない。


「あ、イタッ」


モカのヒールがよろけ、わざわざ遠い位置にいる私にぶつかってきた。


「何よ」


モカが、機嫌が悪くなった時にするお決まりの行動だと分かっていても、私も今は気持ちに余裕がない。


「何よ~。そんなとこにデワラがいるから悪いのよ」


「何なのよ、やんのかっ」


「何よッ」


私とモカはつかみ合いになる。


「待て待て待て。落ち着け、二人とも」


ヤイが間に入り、私とモカを引き離す。


歩き出しながら、モカが再びブツブツ言い出す。


「そもそもさ、デワラだけいいわよね~、唯一フツーだし。フツーに恋愛して、フツーに結婚して、フツーに子供が出来て。そんなフツーに幸せな人生送るんでしょ?ああ、フツーってうらやましい」


モカが人を小馬鹿にしたように両手を上げる。


そんなモカの言葉と態度に、私はイラつく。


「フツーフツーフツーフツーって、何なのよ、うっさいわね。じゃあ、フツーでないアンタは何なのよ。フツーでないアンタは、フツーの私より偉いてぇの?」


「ハイ、きた~。アタシのこと、フツーじゃないって言った~。普段から、そういうふうに、モカのこと、思ってたんだあ」


自分からケンカをふっかけておきながら、泣き出すモカ。


「アタシがお気楽に、毎日過ごしてると思ってんの~?こんなカッコして出てくる時だって、家族に白い目で見られて…。自分を貫くのだって、ほんとにツライんだからあ」


わあわあと声を上げて泣き出す。


「分かった、分かった、モカ」


ヤイがモカの頭をなでる。


「もう、行きたくない」


「じゃあ、ここで一人残っとけばァア」


ケンカをふっかられてまだムカムカのおさまらない私は、つい口走ってしまう。


「何よッ」


モカの涙が急に止まり、私たちは再びつかみ合いのケンカになる。


「ハイハイハイハイ、もう、やめた」


ヤイがまた私たちを引き離す。


モカは泣いて気持ちが落ち着いたのか、もう、何も言わない。


私も、このケンカがいいガス抜きになったのか、恐怖心から解放され、いつもの平常心に戻った気がした。


その後私たちは何も言わずに歩き、見えてきた階段を上がる。


そしてたどり着いたのは、とあるアパートの前だった。







「これまた、何というか…。いかにも、なアパートね」


モカがつぶやく。


確かに、二階建てのアパートは、もともと真っ白であっただろう外壁は灰色に薄汚れ、あちこちヒビが入っている。


アパートの周りには建物が一つも無く、草原が広がっていて虫の音が聞こえ、すぐ近くに迫るようにそびえ立つ山のシルエットが暗闇に浮かんでいた。


アパートの狭い入り口を入ると、サビのういたポストが壁に並んでいる。


その横を通ると、二階へ続く内階段があった。


「こういう、薄暗いアパート、苦手~」


階段を上がると、窓が一つポツンとあるだけの、暗い内廊下が真っ直ぐ伸びていて、部屋のドアが八個並んでいた。


「ねぇ、なんか、オルゴールの音、聞こえてこない?」


確かに、耳をすますと、かすかに物悲しげなメロディーが聞こえてくる。


音を頼りに暗い廊下を歩いていくと、一番奥の208号室にたどり着いた。


ソッとドアに耳を近づけると、部屋の中で音は鳴っているようだった。


「誰かいるのかも。お話し聞かせてもらおうか」


ヤイがチャイムを押す。


だが、壊れているのか、何の音もしない。


「ノックノック。どなたか、いませんか~?」


モカがコンコンとドアを叩く。


と、中で何やらゴソゴソと音がし、キーときしませながら、ゆっくりとドアが開いた。


不安げな様子でチェーンをかけたまま、こちらを覗いているのは、私たちとそう年が変わらないぐらいの女の子だった。


「なんですか?またうるさかったですか?でも、私のせいでは、ありませんよ…」


「あ、いえ…。あのー、違います。私たち、初めてここへ来たんですけど…。ポルターガイストについて、何かご存じですか?」


「ご存じも何も…」


ハァー、と彼女は溜め息をつく。


「もしかして、噂を聞きつけた記者さんか何かですか?」


「あ、いえ…」


言いかけた私を押しのけ、ヤイが割って入る。


「そうなんです。謝礼は払いますから、お話し聞かせ願えませんか?」


しばし思案したのち、女性は顔を上げた。


「いいですよ。どうぞ」


チェーンを開け、私たちを招き入れてくれる。


「ちょっと~、アタシお金なんて、持ってないわよ」


小声でささやくモカに、「いいから、いいから」とヤイは小声で応える。


「ちょうど、いいタイミングで来ましたね、記者さんたち。まあ、もしかしたら、その辺もキチンと調べてこられたのかも知れませんけど」


言ってる意味が分からず、聞き返そうとした、その時。


カタカタカタ、とかすかに音が聞こえ始めた。


見ると、食器棚のお皿が、かすかに震え音をたてている。


「ヤダ~、地震?」


モカの言葉に、住人の女の子が、口を歪ませて笑う。


その時、パン、と音をたてて食器棚の扉が開くと、白い皿がパッと飛び出し床に落ちて派手に割れた。


「えっ、これって…」


すかさずヤイが携帯電話をかまえる。


と、突然ブオーと大きな音が聞こえ始め、見ると部屋の床に置いてあるドライヤーが、コンセントに差し込まれてもいないのに作動していた。


「何?何なの?」


しまいには、やんでいたはずのオルゴールの音も聞こえ始め、まるでカオスだ。


あり得ない現象に頭がおかしくなりかけた時…。


やっと、全ての音が止まった。


「これはスゴイ。スクープだっ!」


記者になりきっているのか、ヤイが叫ぶ。


「いつもなんです。ほとんど毎晩、夜10時に…。決まってこうなるんです。部屋によっては、こういう現象は全くおきないらしく…。私が騒いでるのかと思われて、苦情がくることもあります」


だから、最初の対応がああだったのか…。


「いやあ、まったく、こんなことは前代未聞だよ!」


ヤイはポルターガイスト現象を動画におさめることが出来て満足気だ。


それにしても、ヤイがここまで怪奇現象好きだったとは…、知らなかった。


「ところで、あの…」


女の子が、モジモジし出す。


「ああ、謝礼なら、後日部下に持ってこさせますから」


礼を言い、私たちは部屋をあとにする。


「ちょっと、いいの~?初めから、謝礼なんか渡す気なかったんでしょ?彼女、ガッカリするわよ」


廊下を戻りながら、モカが言う。


「まあまあ、真実を知るためには、多少の犠牲は仕方ないんだ。そもそも、ウチはお小遣い制じゃないから、ボクは一円も自分の自由に使えるお金は持ってないしね」


「あきれた。記者失格ね」


そんな軽口をたたきながら一階へ降り、アパートの入り口を出ると、すぐわきに、ジイサンが一人、椅子に座っていた。


「アレ、来た時にはいなかったけど…。生きてる人かしら?」


「シッ」


ヤイがモカを黙らせ、ジイサンに歩み寄る。


「あのー、…」


ジイサンは上下灰色のスウェットを着て、薄く寂しい頭には、白髪が今にも夜風に飛んでいきそうな風情でのっかっていた。


しばらく気持ちよさそうに暗い夜空を眺めていたが、今気づいたかのように、ゆっくり首をめぐらせて言った。


「おお、入居希望者かい?」


「え?」


入り口の扉をよく見ると、入居者募集の紙が貼られてある。


「いや、違います」


「なんだ、違うのかい…」


ジイサンは、心底ガッカリしたように溜め息をつく。


「このアパートはオラが所有しておるんだが、なんていうたかの、ポルターなんとかが起きると住人が騒ぎ始めて、一人も残らず引っ越していってしまったんじゃ。オラは101号室に住んでおるが、そんな現象は一度も見たことは無いんだがの」


「ええと、208号室の方以外引っ越した、ということですか?」


ヤイをジイサンがいぶかしげに見る。


「お主は、耳が遠いのかの?オラ以外誰も、と言ったんじゃ。オラ以外誰も住んでおりゃせん」


「エッ」


私たち三人は顔を見合わせ、再び階段を駆け上がる。


208号室にたどり着き、ドアを開ける。


そこは、もぬけのからで、家具一つなく誰もいない部屋の床にポツンとオルゴールがあり、静かに物悲しいメロディーを奏でていた。


「どういうこと…」


「この部屋に住んでおった女の子はの…」


「キャッ」


いつの間にか後ろに来ていたジイサンが語り始める。


「毎度毎度起きるポルターなんとか現象に悩まされ、また、理解の無い他の住人に苦情を言われ、責めたてられ、嫌がらせまでされるようになり、行き場の無い彼女は、自分で命を絶ってしまったんじゃ…」


「そんな…」


ヤイが動画を再生すると、そこにいたはずの女の子の姿は映っていなかったが、皿が飛んだり、ドライヤーが勝手に作動する様子は映っていた。


「彼女は、自分の無実を、君たちに見せたかったのじゃろう。君たちのような人が、早く来てくれていればの…。彼女が命を絶つことも無かったかもしれん…」


ジイサンが、部屋の中央にポツンと置かれたオルゴールを手にとる。


「彼女は、このオルゴールの音を好んで聞いていた…。いくら、オラがこのオルゴールを処分しようとしても、いつの間にかまた、この部屋に戻って、音楽を奏で続けておるんじゃ…」


「なんて悲しい話なの…」


モカがよよ、と泣き出した、その時…。


ドドドドドと重低音が響き、床がかすかに振動し始めた。


「何っ?今度こそ、地震?!」


「いや、これは、近くのダムが、よくこの時間に放水を行っておるんじゃよ。轟音と共にな。もしかしたら、ポルターなんとか現象は、そのせいなんじゃないかとオラは考えておる」


「どういうことですか?」


「放水による音、そしてその振動が奇妙な現象を起こしていたんじゃないか、とね。君たちは見たことがないかね?超音波で、物が浮いたり、動いたりする現象を」


「あ…。あります」


「じゃが、オラには何の知識も無いし、低周波を測定する機械なんてのも持っておりゃせん。結局は事態を静観するしかなかったんじゃ…彼女を追い詰めた人間の中の一人に、オラも入っているのかもしれんの…」


ジイサンの手の中のオルゴールの音色がゆっくりになり、やがてピン、と最後の音を跳ねて止まった。


「オラは、このオルゴールに線香をあげて、弔いをしようと思う。じゃあの」


ジイサンはゆっくりと歩き出し、一階へ戻って行った。








「オイ!オッサン!」


地下の部屋へ戻ると、ヤイが携帯電話をオッサンへ突き出す。


「ねえねえ、オジサマ?」


モカがオッサンの肩に手をかけ、しなだれかかる。


「ちょっと、チョイスがキツイわあ~。精神が、もう限界。もっと、ライトなチャレンジないのかしら~。それとも、そろそろ、家に帰って、いい?」


動画をニンマリとした顔でチェックしたオッサンが、モカへ言う。


「ワタクシに、色仕掛けは、通用しないよ」


「ケッ」


モカはパッとオッサンから離れると、ペッとそこいらにツバを吐いた。


「あ~、やってらんない」


空いた椅子にドスンと座り、足を組む。


「それにワタクシは、君が男の子だと分かっているしね」


「フン。アタシもまだまだね」


「いや。君は完璧だよ。ただ、ワタクシに見抜く力があるってだけのことだ」


オッサンが遠い目をしたのが、少し私は気になった。


「それで?まだまだ帰してくれない気かい?」


ヤイが尋ねる。


「そうだの…」


オッサンがしばし思案する。


「まあ、君たちも、そろそろ限界だろう。それも分かっている。次のチャレンジに成功したら、終わりにしよう」


「やった!」


よほど嬉しかったのか、モカが女の子らしからぬ、二の腕を上げてガッツポーズをする。


「それに、最後のチャレンジは、さほどキツイことも無かろう。最後のチャレンジは,龍の鱗をとってきて欲しい」


「チョイチョイ、オッサ~ン」


モカが椅子を派手に倒して立ち上がる。


「アタシたちを殺す気ィ~?そもそも、龍なんて、この世にいるのかよ」


精神的にまいっているあまり、モカがオネエ言葉を忘れてきている。


「大丈夫。龍、って言ったって、龍神様だよ。頼めば鱗の一つや二つくれるだろう」


「オッサン、その話には穴があるね」


ヤイが人差し指を立てる。


「神様だろ?神様ってのは、人間の願いをきいてくれる代わりに、犠牲を強いるときく。要するに、生贄が必要なんじゃないのかね?」


オッサンが黙り、遠くを見つめる。


一瞬、場がシンとなり、私たち三人の心も静かに冷えて行く。


「まあ、それは、行けば分かるじゃろう。じゃ、行ってらっしゃい」


パチンとオッサンは指を鳴らす。


「行くって、どこに、ア~~~ッ!」


モカの抗議の声は悲鳴となり、私たち三人は立っていたはずの床がなくなり、奈落の底へ落ちていた。


「アーーーッ!」


ただただ何もない真っ暗闇を落ち続ける。


そして気づけば、いつの間にか山の斜面を転がり落ちていた。


「アイタッ」


「ギャッ」


「アイタタタ」


やっと慣性の法則から解放され、起き上がるとそこは、巨大な湖のほとりだった。


「もうちょっとで、湖に落ちるとこだったじゃないのよ!あのクソオヤジ!今度会ったら、ぶっ殺してやる!」


モカが、完全に普段のブリッ子キャラを忘れている。


私は、手に持っていたはずの懐中電灯が無いことに気がついた。転げ落ちている間に、どこかに飛んでいったのかもしれない。


辺りは寒い風が吹き抜け、標高がだいぶ高いことが分かる。


「なんか、随分と寂しいところに来たじゃないか」


ヤイが辺りを心細げに見渡す。


さすがの、いつも気丈なヤイも、この広大な景色の中にたった三人ぽっちでいるのは、心許なくなっているのだろう。


「ねえ、あれ見て」


モカが空を指差す。


真っ暗な夜空に、雲が渦を巻いていた。


「何あれ。竜巻?」


私の疑問にヤイが答える。


「竜巻は、もっと細長いと思う」


空を覆わんばかりの巨大な雲が、まるで自然全体の怒りを表すかのように、雄大に悠然と渦を巻き続けている。


時おり、ボンヤリと雲のあちこちが光る。


稲光だろうか。


その青白い光に照らされて、雲の中に一瞬何かが見えた。


「ねえ、今何か、見えなかった?」


「見えた。なんか、巨大な蛇の鱗のような…」


モカが、ゾッとしたように腕を組み、肩をすくめる。


「あっ、また…」


ヤイが空を指差す。


そいつは、やがて静かにゆっくりと、その姿を現した。


絵に描いたような、巨大な龍の姿。


雲の下に姿を現し、ゆっくりと円を描いて空を泳いでいる。


圧倒されて、まるで喉を締め上げられたように声が出ない私の横で、モカが友達に声をかけるかのように叫んだ。


「ねえ、アタシたち、アンタの鱗欲しいんだけど!」


全く、どこでどう育ったら、そんな豪胆になれるんだ?


それに、そんな気安く話しかけたところで、あんな生き物が答えるはずが…。


“我の頼みをきいてくれたら、お主らに鱗を一個やろう”


辺り一帯に響き渡るような、それでいて静かな声が、直接耳に届いた。


「今の聞こえた?」


「スゴイ、スゴイぞ!龍と会話している」


ヤイが感激してキラキラした目で龍を見つめ、拳を握り締めている。


「え~、ねえねえ、でもさあ。その頼みって、アタシたち三人の中から、誰か一人を生贄に差し出せ、とか~?」


モカが腕を組み、体をくねらせ、カツラの髪を指でもてあそぶ。


龍の動きが止まり、顔をこちらに向け凝視する。


「ち、ちょっと!モカが変なこと言うから。私が選ばれたら、どうすんのよ!」


「え~、アンタみたいなフツー、一番選ばれる訳ないし~」


「あ?テメー、やんのか?さっきのケンカの続き、してもいいんだぞ?」


私とモカがまた一触即発の危機におちいろうとした時、また、不可思議な声が耳に響いてきた。


“あー、お主らは三人とも好みじゃないわい”


ガクッと三人は膝から、崩れ落ちる。


ホッとしたような、ちょっと残念なような…。


“我には、許婚がおってな…”


「許婚、とは、可愛い展開になってきたな」


ヤイが小声でつぶやく。


“小声でも我には聞こえておる。茶化すでない”


「すいません…」


ヤイが素直に謝る。


“その許婚は、今湖の底におるのじゃ…。お主ら、彼女に出てきてくれるように、説得してきてくれんかの?”


「そんなのお安いご用…、って、え?今、何て言った?」


“そうかそうか、行ってきてくれるか。じゃ、頼んだでの”


龍が口を開けると突風が吹き荒れ、私たちは為す術も無く、あっという間に湖へと落ちた。







暗く冷たい水の中を、私たち三人はゆっくりと沈んでゆく。


まるでスローモーションのように、緩慢と…。


それは、意識が過去へとさかのぼっていく行為に似ていた。


ふと、ヤイとモカと初めて出会った日を思い出す…。


高校に入学して間もない頃、こんなハンサムな女子が世の中にいるんだ…、と見つめていると、ふいにヤイが私のほうへツカツカと歩いてきた。


ヤベー、見すぎたかな。お前、何見てんだよ、とか、言われちゃうのかな…。


そう思って身構えた私に、ヤイは人差し指を突き出して言った。


「君!ボクと友達になりなよ!」


そこへ元気いっぱいに乱入してきた可愛いモカ。


「あ、アタシもアタシも~!仲間に入れてよ~!」





深く沈んでいくにつれ、頭の中の過去の出来事も薄れ、何も浮かばなくなってくる。


ああ、そうか、こうやって、死んでいくのか…。


そう思った、その時、水面に何か丸いものが三つ現れ、ゆらゆらと私たちのほうへ漂ってきた。


ヤイのほうを見ると、目の前に漂ってきたそれに頭を突っ込み、ホッとした表情をすると、私とモカへ向けて親指を立てて見せた。


私とモカも急いで頭を突っ込む。


すると、楽に息をすることができた。


「何これ~、スゴ~イ!」


モカが感動してはしゃいでる声も聞こえる。


「龍の粋な計らい、ってヤツかもな」


ヤイが人差し指を立てる。


「ていうか、この空気の玉が無かったら、死んでたっつーの!」


わめく私を見て、ヤイが少し困ったように笑う。


やがて私たちはゆっくりと下降し、湖の底に足がついた。


その時、私の足にカランと当たる何か。


「クソッ。オッサンが上から投げこんだんだわ。あのオッサンの気回しの良さに、逆に腹がたってくるわ」


懐中電灯を拾い上げてスイッチを押すと、水中にも関わらず、ボンヤリと明かりがついた。


「それにしてもさ~あ、こんな水の底にいる彼女さんなんて、もう白骨死体にでもなっちゃてるんじゃないのかしら」


「いや。龍の許婚なわけだから、水中でも生きている可能性はある。要するに、人外の何か、ってわけだ」


ヤイが人差し指を立てる。


「ちょっと-、ぞっとするようなことを言わないでよ…」


言いながら、私は辺りを懐中電灯で照らす。


すると、やっと懐中電灯の頼りない明かりが届くか届かないかのところに、古い日本家屋が照らしだされた。


「ちょっと~、家があるわよ。超不気味なんだけど~」


確かに、暗い湖の底に、鈍い水の揺らめきの中、水圧にも壊れることなく建っているその姿には、ある種の凄みがあった。


三人固まって、おそるおそる近づき、家の前に立つ。


「怖いなー、怖いなー、やだなー、やだなー」


怖さを紛らわそうと私がつぶやく。


と、ヤイが私に人差し指を突き出した。


「デワラ、とある有名な怪談師の口調をマネするのはやめたまえ」


ポカンとした私の脳裏に、思い当たることがあった。


「いや…。マネしたつもりは無かったんだけど…」


なんだか恥ずかしくなって、ポリポリと頭をかく。


ほんとに怖いと、人って、同じセリフを二度繰り返しちゃうんだな、と身をもって知る。


その時…。


「誰ぞ、いるのかえ?」


細いが凛とした声が家の中から響いてきた。


私たち三人は、顔を見合わせる。


「ヤベえ、いるぞ。中に、誰かが」


回れ右して走り去りたい思いを、どうにか思いとどまらせる。


「どうする~?ジンガイの何かだったら」


モカが珍しく顔を引きつらせて言う。


さすがのモカも、この異様な状況に、精神が限界に近づいているのかもしれない。


「と、とにかく、返事してみよう」


そう言って立てたヤイの人差し指は、水の冷たさのせいか、恐怖のせいか、少し震えていた。


「た、たのもー」


「ヤ、ヤイちゃん!たのもー、だと、道場破りだと思われちゃうかも!」


モカが突っ込みに、ヤイが慌てる。


「こんな時、昔言葉では、何と言うんだ?ボクは、古典は苦手なんだ!」


「使いの者かえ?入ってよいぞ」


「な、なんか、許されたぞ!」


不安そうだったさっきとは、うってかわって、ヤイが笑顔で喜ぶ。


「んじゃ、失礼しま~っす」


スーッと戸を引いて中へ入ると、奥の間に、鮮やかな赤い生地に花柄の着物を着た二十歳ぐらいの美しい女性が、正座をして鏡の前に座っていた。


「ようこそ、わらわの家へ」


「あの~、お嬢さんは、一人暮らし?」


モカが尋ねると、女性は涼しげな一重を遠くに向けた。


「わらわは、かつて二百年ほど前、親父殿と二人で暮らしておった…。だがな、ある日突然、わらわが川へ洗濯へ行っている隙に、龍が現れ、わらわの家のある谷を湖にしてしまったんじゃ。わらわは、親父殿も一緒に沈められたかと思って、涙に明け暮れた。ところが、翌日、親父殿は大金を持って帰ってきた。龍に鱗をもらって、先祖代々暮らした土地を龍に明け渡し、鱗を町で売って来たというんじゃ。わらわは、この谷を気に入っていた。離れたくなくて、町でいい暮らしをしたいと言う親父殿と縁を切ったのじゃ」


「それで、それから、ずっとここに?」


「え~っ、ってことは~、お嬢さんは、もともと普通の人間でぇ、何で今こんな水の底で生きてられてるんですか~?」


女性が、怒ったように、眉根を寄せる。


「龍が、わらわに永遠の命をくれたのじゃ。要らぬと言ったのに。親父殿は、勝手に約束してしまったのじゃ、わらわを龍にくれてやるとな」


「ふーん、永遠の命か…。聞いてるだけだと、ロマンチックな話に聞こえるが、まあ当事者は、そうもいかないのだろう」


ヤイが腕組みし、顎をさする。


「当たり前じゃ!」


私はふと思った疑問を口にする。


「お姉さんは、今ヤイが言った、ロマンチックの意味、分かったんですか?」


「当たり前じゃ!この、何でも見られる鏡を龍がくれたのじゃ。今の世の中がどうなっているのか、すっかり分かっておる」


「ヘーッ。てことは、お姉さん、結構、好奇心旺盛?この水の底から外へ出たら、見るだけじゃなく、もっと素敵な体験が出来るよー?」


ヤイが追い込みをかけ始める。


「ま、まあの。伊太利亜とかいう国で、皆が食べておった、じぇらあと、とか言うやつ、食べてみたいの」


「あっ、もしかして、二百年ぐらいの間、何も食べてないの?」


図星なのか、女性はグーッと鳴った腹に手をやり、恥ずかしげにうつむく。


「やっぱりー!外に出ても、龍のやつなんか、ほっぽってさ、ボクたちとイタリア行こうよ!」


男前なヤイに言われ、ポッと女性の頬が赤くなる。


「龍に見えないように、木の陰に出れば、なんとかなるかもしれん」


「そうだよ!大丈夫大丈夫!行きましょ」


ヤイが女性の手を取り、家の外へ出て、水面へ向かって浮かんでいく。


私とモカもその後をついて行き、女性の希望通り、湖のほとりの木の陰の水面へ出た。


「プハア!あー、久しぶりの外の空気はやっぱり美味しいわ」


土手へ上がり、一息ついてると、どこからともなく声が響いてきた。


“ご苦労ご苦労。よく姫を見つけてくれた”


「や~だ~、さっそく見つかっちゃったじゃない」


モカが両手を頬にくっつける。と、ヤイが冷静な視線をモカに向け、言った。


「そりゃ、見つけてくれなきゃ、困るよ。龍に鱗を貰わないとな」


「お、お主、わらわを騙したのか」


女性がわなわなと震え出す。


「男というのは、どいつもこいつも…」


「あ、ボク、女」


「え?」


女性がポカンとしたその時、突風が吹いた。


女性のみが空に舞い上げられ、龍の背中にストンと落ちた。


「わ、わらわを降ろせ!お前と一緒になるつもりはない!」


「姫、我と一緒に伊太利亜へ行こうじゃないか。伊太利亜どころじゃない。世界中へ連れてってやるぞ」


女性が悔しそうに唇を噛む。が、反論しないところを見ると、満更でもなさそうだ。


「そりゃあ、何百年も、何も食べていないんだ。食欲と愛に勝てる女性はいないさ」


ヤイがニンマリと笑い、龍に手を振る。


「おーい、龍。新婚旅行,楽しんで来いよー!」


「ありがとうの。この恩は、一生忘れないぞ」


あっという間に龍は空の彼方へ飛び去って行った。


満足気に見送るヤイ。


それを見て、私とモカは顔を見合わせ、同時に言う。


「ところで、鱗は?」


「アッ、ボクとしたことが、忘れてたあーーー!」


ヤイが言い終わる前に足元にポッカリ穴が開き、私たちは奈落の底へ落ちた。






「おーい、オッサン、行ってきたぞ」


当然のごとく地下の固い床に転げ落ちた後、ヤイがオッサンに声をかける。


「ホッホォ、ワタクシも、それをネットで売って一躍億万長者に…」


「それがなあ、龍のお願いは叶えたんだが、肝心の鱗を貰うのを忘れちまって…」


オッサンの顔が真顔になる。


「でもさあ、龍に会って、お願いきいてきたわけだし、チャレンジ成功ということで、お願~い」


モカがしなをつくる。


それが功を奏したのか、否か、オッサンが諦めたように溜め息をついた。


「まあ、よいわい。だが、失敗は、失敗。特別に、エキシビションをやってもらって、それで良しとしよう」


私たち三人は、ガックリする。


「まだ帰れないのかー。永遠にここにいるような気がしてきた」


私が言うと、オッサンがゴホン、と咳払いした。


「ワタクシはな、実は、もう死んでおるんだ…」


「エーッ」


声を上げた驚く私とモカをしり目に、ヤイが肩をすくめる。


「まあでも、そうじゃないかと思っていたよ…」


「それでの、どうも死ぬ時に頭を打ったのか、自分がどうして死んだのかはおろか、何故自分がここから離れられないのか、分からないんだ」


「ここから、離れられないって?」


「ワタクシは、暇すぎて暇すぎてな。どこかに行こうと思うのだが、無意識にこの場に執着があるのか、体が動かなんだ。仕方ないから、家を黒くして、近所の人間を驚かしたり、何やら辺りを電波というものが飛び交い始めたので、ホラーゲームなど作って、ここに来るヤツを驚かして楽しんでおるんだよ」


「全く、暇だからって、そんなことしていいと思ってるのかよ」


ヤイが頭をかきむしりながら言った、その時。


「そうだよ。そんなことしていいと思ってんのかよ」


男の子の声がしたと思うと、オッサンは気を失って椅子からドサリと崩れ落ち、その背後にバットを振り上げた少年が立っていた。


「き、君は…?」


「オレは、最初にお姉さんたちが見た、幽霊だよ。まさか、三人とも気絶すると思わなくてさ。オレんちに侵入して来たから、ちょっと驚かせようと思っただけなんだ」


「ああ、君は、あの時の…。で、何ゆえに、今オッサンをバットで殴った?いくら死んだ人同士でも、やっていいことと悪いことが…」


「やっていいんだよ、アレはオレの親父だから」


「君のお父さん?だったら、なおさら…」


チッチッチッと、中学生ぐらいの少年がヤイに人差し指を振る。


よく見ると、手足には無数の青アザがあり、その首には輪っかにした縄が巻かれていた。


「お姉さんはさあ、さっきから、説教めいたことを言ってるけど…。自分には、何の落ち度も無いのに、毎日毎日当たられてみなよ。きっとお姉さんだって、親をぶち殺したくなるよ…」


「それは…」


ヤイが言葉に詰まる。


「何があっても、親を殺すな、親を悪く言うな。そう言って歯を食いしばってる人は世間にはいるよ。だけど。そういう人の、我慢した感情がどこへ行くのかというと、他人や社会に向かうんだ。情けない話だよ」


少年が溜め息をつく。


「親父が気を失ってる間に、お姉さんたちは帰りなよ。あそこにお姉さんたちが転げ落ちてきた階段がある」


少年が指差すほうを見ると、今まで何も無かった部屋のはじの薄暗がりに、ポッカリと上へと続く階段が現れていた。


「やった!帰ろうぜ!」


ヤイの言葉に、私たちは一斉に走り出す。


そう、私たちは明るく振る舞ってはいても、帰り道が見えた途端に自然と走り出すぐらい、本当は、この異様な空間から逃げ出したかったんだ…。


階段の入り口の横に何かの固まりが転がっていたが、私たちは一切気にせず、我先にと階段を駆け上がる。


階段を登り切ると、そこには、懐かしいと感じるほどに、久々に見るこの家のリビングがあった。


入ってきた時には、あれだけ、しげしげと眺めたアンティークのティーカップにも目をくれず、私たちは玄関ドアに飛びつく。


「アレ?開かない!」


ヤイがドアノブをガチャガチャと何度もひねる。


「どいて!」


今度は私がドアノブを握り、押したり引いたりするが、ビクともしない。


「力が足んないのよ!」


モカに尻で押しのけられ、男に戻ったモカがパンツが見えそうなのも構わず、ドアにひたすら体当たりをかますのを、唖然と眺める。


「あ、待って!ここに鍵穴があるぞ!」


ヤイの指差すところを見ると、確かに、ドアノブの下に黒くて小さな鍵穴があった。


「このドアは、外にでは無く、部屋の中のほうに鍵穴があったのか!じゃあ…」


ヤイがゴソゴソとジーンズのポケットを探る。


「ここで、これの出番だ!」


ヤイが腕を上げ、人差し指と親指でつまんだ鍵を高々と掲げると、私には、その鍵に後光が差して輝いているように見えた。


あまりにも感動しすぎて、ヤイが上げた腕を降ろし、鍵穴に鍵をさす様子が、スローモーションのようにゆっくりと見える。


やっと、やっとだ!…だいぶ時間が経っただろうから、外はもう夜が明けているかもしれない…


光の射すほうへ…


私たちはドアを開け、一斉に外へ飛び出した…








はずだった。


「アッ」


「イタッ」


「イタタタ」


私たちはこの家の外には無いはずの階段を転げ落ち、再びあのだだっ広い地下に戻っていた。


「なんで~、なんでよ~?!」


阿鼻叫喚の私たちを見て、少年がおかしそうにプッと吹き出す。


「アハハハハ」


「何がおかしいのよ~」


私たちが少年に詰め寄ると、少年は階段の下を指差し言った。


「アレを見てみなよ…」


そこには、さっき私たちが見向きもしなかった、床に転がった固まりがある。


「何よ…」


モカがおそるおそる近づき、ヒッと悲鳴を上げる。


「ひ…、人よ!人が転がってる!」


見ると、確かに、何人かの人が、重なりあって転がっている。


「死んでるの?」


「ピクリとも動かないし、そうかも…。一人は外国人のかた?かしら。ロングヘアが綺麗な金髪、だけど…」


そう言いながら、モカがそっと髪を持ち上げ、顔を覗く…。


「アッ!アタシ~!!」


叫ぶなり、ウンと一言唸ると気を失って倒れてしまった。


「エッ、嘘…。なんでよ…」


他の二人の顔を確認すると、それはまぎれも無く、私とヤイだった…


「どういうこと?!ドッペルゲンガー?」


パニックにおちいりそうになった私の耳に、ヤイの静かな声が聞こえてきた。


「やっぱりな…。ボクは、薄々そうじゃないかと思っていたんだ…。だけど、確信を持ちたくなくて、口にできなかった」


いやな予感に胸を押し潰され、懇願するように、私はヤイを見つめる。


お願い、言わないで…


だが、ヤイはゆっくりと口を開いた。


「ボクたちは、もう死んでいるんだ…」







「う~ん…」


目が覚め起き上がると、モカが女の子座りをして、サメザメと泣いている姿が見えた…


そっか、私たちが死んでいると知って、また私は気絶してしまったんだ…。


「すまなんだ。ショックを受けると思ってな、言わなかったんだよ。ワタクシは、ただ、ここにおびき寄せて、驚かせて楽しみたかっただけなんだが…。まさか、君たちが階段から落ちて頭を打って死ぬとは、思わなんだ」


オッサンが、気のついた私を見て、声をかける。


そして、少年を優しげな表情で見つめた。


「それに、息子よ。父さんは、知らずにお前を殺人鬼にして、その後自殺させてしまうぐらい、追いつめておったんだな。情けない父親だ。スマン」


その言葉を聞いた少年が、静かに涙を流す。真っ黒で感情の無かったその目に、少し、光が戻った。


「アーア」


ヤイが両手を上にあげ、伸びをする。


「もっと、食べたいもの、やりたいこと、あったのにー。ボクは親からお小遣いのもらえない家庭だったから、高校出たら、働いて、独り暮らしして、好きな家具そろえて、好きなもの食べて…。そんな素敵な生活を夢見てたのにー。死んだら、何にも叶わないじゃないか。それに、こんなとこで死んでしまったりして…。ボクたちは、きっと、ずっとここから離れられないんだ」


「エ~、嘘でしょ~。アタシのことを白い目で見る家族だったけど、やっぱりアタシにとっては、この世で唯一の家族なの~。死ぬ前に、もう一回会いたかった~」


モカが泣きじゃくる。


一瞬、少年がフッといなくなり、再び現れた時にはお盆を両手で持ち、その上には花柄のティーカップがいくつか乗せられていた。


その可愛いらしいティーカップからは、美味しそうな匂いとともに、温かな湯気が立ちのぼっている。


「お姉さんたち、ここに来た時、このティーカップ見てたろ?紅茶でも飲んで、一言つきなよ」


さっきまでの意地の悪い様子はなりをひそめ、優しくなった少年の言葉に、モカが飛びつく。


「いいの?!ありがとう!いただきま~す!うん、美味しい!」


まったく、さっきまで泣いてたクセに、現金なヤツめ。


でも、私は、そんなモカの性格が好きなんだ。


そんな光景を見ながら、ボンヤリしていた私の耳に、大学生ぐらいの男の子たちの声が、階上から、かすかに聞こえてきた。


「おい、ここじゃね?黒い家」


「おお!めっちゃ不気味!オレ心霊スポット初めてなんだー。ワクワクするな!」


「お、おい!とか言いながら、オレを先に押すなよ!」


オッサンが、階上から聞こえてくる賑やかな声を聞きつけるやいなや、顔をパッと輝かせる。


「おっ、次の獲物が来おったぞ!楽しみだの~」


ニヤニヤしながら、両手をこすりあわせる。


「こりないなぁ、オッサン」


ヤイがあきれたように肩をすくめ、両手を上にあげる。


「どうだ?君たちも、主催者として、参加してみては」


「エッ、いいの?」


ヤイが舌なめずりし、パーカーの袖をまくり上げる。


あーあー、ヤイのSっ気に火がついちゃたよ…


断言する。ああなったヤイは、誰にも止められない。


大学生らしき男子三人組は、これから一体どういう目に合うことやら…


人差し指を天に向かって突き出したヤイの元気な一言が、地下全体に響いた。


「いっちょ、おバカ三人組を驚かせてやろうぜ!」













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