あなたは今幸せですか?
『拝啓
うららかな春の陽気が頬を撫で、春の訪れを感じる毎日。
いかがお過ごしでしょうか。
あなたと別れてはや5年。
月日の流れは早いものですね。
あの頃の私は幼く、弱かった。
だから、逃げ出してしまったのです。
貴方との未来を望みながら、
貴方との未来を恐れた。
私が、貴方の人生の陰になること。
私が、足枷になること。
貴方に、要らないと言われることを。
もし、その不安を口に出来ていれば、
きっと、貴方は笑って「バカだなぁ」と抱きしめてくれたでしょう。
私の大好きな笑顔で。
けれど、私は逃げ出してしまった。
俺の行動は、貴方を裏切る行為です。
だから、こんなこと言う資格なんてもうない。
だけど、
春風とともに、貴方に幸せが訪れますことを、
お祈り申し上げます。
敬具
追伸
貴方は今、幸せですか?』
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真っ白な封筒に書かれた宛先。
差出人はあの子からだった。
少し角張った文字。
今更何を。という諦観とまだ繋がっていたという安堵と。
感情がせめぎ合い、俺は封筒に手を伸ばした。
そこには、あの子の懺悔と小さな本音。
「バカ、だなぁ…。」
思わず溢れた一言。
それはどっちに向けた言葉だったのか。
何も言わずに逃げ出してしまったあの子に向けてか。
あの子の何も解ってやれてなかった俺に向けてか。
タバコの煙を燻らせながら、
あの頃に思いを馳せる。
『春さん。』
俺の名前を大切そうに呼んでくれるあの子も。
『はーるさん』
悪戯っ子のように笑うあの子も。
『春さん?』
少しだけ首を傾げて俺をのぞき込むあの子も。
忘れることなんて出来ない。
なによりも、
『春さん…。』
別れを告げたあの子の瞳は、泣きそうで。
弱いところを見せなかった君が初めて見せた弱さだった。
それなのに、俺は…。
俺と過ごした日々。
君は、幸せでしたか。