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あなたは今幸せですか?

『拝啓


うららかな春の陽気が頬を撫で、春の訪れを感じる毎日。

いかがお過ごしでしょうか。


あなたと別れてはや5年。

月日の流れは早いものですね。



あの頃の私は幼く、弱かった。

だから、逃げ出してしまったのです。


貴方との未来を望みながら、

貴方との未来を恐れた。


私が、貴方の人生の陰になること。

私が、足枷になること。

貴方に、要らないと言われることを。


もし、その不安を口に出来ていれば、

きっと、貴方は笑って「バカだなぁ」と抱きしめてくれたでしょう。

私の大好きな笑顔で。


けれど、私は逃げ出してしまった。






俺の行動は、貴方を裏切る行為です。


だから、こんなこと言う資格なんてもうない。


だけど、





春風とともに、貴方に幸せが訪れますことを、

お祈り申し上げます。



敬具



追伸


貴方は今、幸せですか?』






✣✣✣✣✣✣✣✣✣




真っ白な封筒に書かれた宛先。

差出人はあの子からだった。


少し角張った文字。


今更何を。という諦観とまだ繋がっていたという安堵と。

感情がせめぎ合い、俺は封筒に手を伸ばした。


そこには、あの子の懺悔と小さな本音。



「バカ、だなぁ…。」

思わず溢れた一言。

それはどっちに向けた言葉だったのか。


何も言わずに逃げ出してしまったあの子に向けてか。

あの子の何も解ってやれてなかった俺に向けてか。


タバコの煙を燻らせながら、

あの頃に思いを馳せる。


『春さん。』

俺の名前を大切そうに呼んでくれるあの子も。

『はーるさん』

悪戯っ子のように笑うあの子も。

『春さん?』

少しだけ首を傾げて俺をのぞき込むあの子も。


忘れることなんて出来ない。

なによりも、


『春さん…。』

別れを告げたあの子の瞳は、泣きそうで。

弱いところを見せなかった君が初めて見せた弱さだった。


それなのに、俺は…。





俺と過ごした日々。


君は、幸せでしたか。






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