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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
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夢八十五話

 左を軸に足首をひねり、敵に後ろを見せながら回転し、遠心力を使って右足を斜め上へとぶん回す。

 大回転サムライキックである。

 そんな素人の一撃が相手を捉えたようで、棘ハンマーごと棘だらけの二体の鎧を砕く。

 ひょろ長い双方の体が変な方向に折れ曲がっていたが不可抗力である。

 そのまま崖のほうへと転がっていくのを見送った。

 勢い余っての風圧で、草土がどっと舞い上がる。けしてやりすぎではないと思いつつも、赤牛は嫁さんを抱えて避難し、赤眼婆も素早く移動してここから距離をとっていた。


「あやつら、大回転が止まらないようじゃな」

「あ。崖の下に落ちていった」

 

 双子のような弧どもが消えた方向へ、黒白がおやすみなさいと告げる。

 

「えぇ……」

「棘だらけの双弧をひと蹴りで粉砕ってウソだろ?!」


 どん引きの弧面集団がぐへっというリアクションを示したのは、エヴレンとメイ・ルーにポカスカどつき回されているからだろう。

 そんな状況をよそに、俺は弧面の棟梁に近づいた。


「聞きしに勝る勇士ぶり、余人では相手にならぬか」


 赤眼婆が鉄扇を一振りしながらそれを広げた。

 わが白頭巾の頭にハリセンで突っ込むがごとき一撃を放ってくる。よけ損ねたのは、婆さんの背後に赤牛が迫っていたのを見たからだった。


「あいて」


 重いツッコミを脳天に受ける。ようやく接近に気付いた赤眼婆が振り向きかけた瞬間、獣化したバルクフォーフェンの豪腕がうなりを上げて振り下ろされた。

 大地が砕かれる。上に逃げた敵に対し、巨体が似合わぬ俊敏さを見せて追う。

 牛の腕が再び弧を描いた。

 バレーボールの球のごとくはたき落とされ、もんどり打ち、ぐるぐる回って跳ねる赤眼婆が受身を取るも、衝撃を殺せずに後退していく。


「猛進バルクの獣化、さすがにやりおる」


 割れた弧面から中の赤い眼と、口からは牙らしきものが見える。

 緩慢な動きで胴着からなにかの玉を取り出した。

 それをこちらに放り投げようとしている。元二十四将たるバルクフォーフェンがいかん、と吠えた。


「逃げろッ、あれは投擲弾(とうてきだん)だ!」

 

 それをゆっくり投げた当人は、はるか後方に宙返りをきめていた。

 配下の弧面が巻き込まれる、と驚愕して逃げ出そうとしたことで、爆散範囲が広大なものだと確信する。

 回避できないと思ったのか、嫁の名を呼んで彼女に覆いかぶさる巨漢を視界の端に見て、俺は黒白を肩越しに窺った。

 逃げるどころか、こちらに手を伸ばして飛び込もうとしてくる娘っこたちの姿をとらえる。

 玉が光ろうとしたその前に、腰に下げている太刀に手をかけた。



§§§§§§



「ウンシン。かっこ悪い」

「……目算を誤ったかのう。斬り上げた後に爆発とは、確かにしまらぬ」


 立ち上がる煙のなか、うちの娘っこが後ろでけほけほむせながら解説している。爆弾は俺の胸辺りで炸裂したようだ。

 玉を斬り損ねたことで、投擲弾の炸裂をすべてわが身に受けた結果となった。

 足元の草地は吹っ飛び、地面には大きいくぼみが出来上がっている。

 この威力からして、半径十メートル近くが殺傷範囲だと思われる。


「ウンシンどの」

「だいじょぶ」


 俺からやや離れて斜め後ろにいた赤牛が起き上がった。範囲内だったが、獣化した頑強な体でロリを守り、自身も軽傷で済んだようだ。


「拙者が言うのもなんですが、頑丈にすぎますな」

「火薬で顔がすすだらけになりました」


 さすがですと感嘆する牛に対し、斬り上げを空振りした気恥ずかしさでうひひと苦笑い。

 気持ち悪いという黒白の声は遠慮のない身内の正直な感想というやつだ。是非もない。

 爆心地からからくも避難できた弧面の集団が遠巻きに後ずさる。

 効いてねえぞとさらに後退する彼らに一喝を入れたのは、棟梁たる赤眼婆だった。


益体(やくたい)も無い、下郎ども」


 赤い光を放つ弧面の眼が剥かれたが、後退は止まったものの、爆殺される寸前で逃れた弧面集団の反応は鈍い。


「棟梁自ら手下どもを巻き込んで殺そうとしたせいか、どうも統率が取れておらぬようじゃな」

「目的のためなら手段を選ばない。さすがにあからさますぎてみんな引いてる」


 黒白の言葉に割れた面の婆がカカ、と牙を見せて笑った。

 印を結んで念じながら言う。


「いにしえの竜や金孔雀ですらあしらう未曾有の存在、怖気づくのは当然か。ならばせめて役に立ってから」


 気絶しているオジロの胴着がいきなり着火した。

 それを合図に他の鬼面たちの体も燃え上がる。

 

「死ね」


 十数人分の火柱が立った。阿鼻叫喚にのたうち回る赤弧ノ衆が棟梁の細工に利用されたとして、呪詛の台詞を吐いている。

 合わさった火柱は火災旋風のようになり、周囲を炎で巻き込んでいく。

 

「下郎どもの首飾りと胴着は燃剤として役に立った。心置きなく燃え尽きろ」


 熱旋風から赤牛夫妻を逃がさぬよう立ちはだかった婆に、黒白が踊りかかった。

 となると、ファイアーウォールのような赤い衝撃を押し返すのは俺の役目になる。


「今度こそスカりませんように」

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