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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
78/102

夢七十八話

「……くっつきすぎ」

「寒いにゃむ」

「もふもふのくせに」

「そういうミヤマんもぴったり離れないではないか」

「寒いのだ」


 ネコと烏に挟まれ、両腕を固定されながら山を進む。

 ニャム姫の里帰りが一日ほどで終わってしまったことは、本人の意思もあってそれには口を挟まない。

 しかし我らの帰路にあたって同行を申し出た黒ねじりの槍使いが共も連れず、背後からついてくるのは予想外だった。


「四者会談は早いほうがいい」


 というのがラウ・クーダー風雲公の言い分だが、この青年は同族としてその姫だったタウィ・エヴレンに会うのが目的なのだろう。

 為政者としての大義名分から、俺と互角以上にやりあえるまで接触しない、という己に課した縛りを一時的に放棄したのだと思われる。


「城主たる身がお供も連れず単独で協議に向かうとは、なんというか」

「変人にゃむ」

「娘さんたちには武人としての胆力とか気概を褒めてほしいもんだ」


 飄々とした藤色の髪のイケメンが山から自領を見下ろしながら呟いた。

 彼女たちの「褒め言葉」は俺にしか通用せず、わかってないなという娘たちの反応こそがずれているといえるだろう。

 

「馬や使い魔を使用せず足で諸国を駆け回る、っていうあんたらのほうがよほど変人だろ」

「足代わりの手入れや維持費を考えるとこのほうがいい」

「途中でどんな敵に会うかもだし、ニャムらは総じて頑丈にゃ」


 移動手段のそれらより健脚てさすがはサムライの女ども、と風雲公が呆れ気味に肩をすくめている。

 そんな反応に威張り顔な二人へそれ褒め言葉やないで、と突っ込みかけたがやめておいた。

 朝の出立から夕方にかけて、食事休憩以外はひたすら野山を越えていく。

 ときおり出会う野生生物や魔物などをやりすごして南東に下る。

 早駆けに遅れずついてくる槍使いの脚力は当然としても、とある村落に立ち寄ろうとした際に夜盗まがいな集団と遭遇してしまったことには、またかいというやれやれ感が否めない。


「おのれら、なにもんじゃあ!」

「にゃむ」


 村はそんな野郎どもからの強盗略奪に晒され、放火一歩手前の惨状だった。

 夕暮れのなかでネコ娘が総毛を立たせて震えている。


「おー、獣人じゃねえか。毛並みがいいし高く売れそうだ」

「ワルモノめ」

「そういう獣女は正義の味方かあ、え?」


 傭兵らしき風体の連中が腹を抱えて爆笑している。

 亡き者になった数体の亜人は村人のようだが、そこに老若男女の区別はない。


「サムライ」


 ラウ・クーダーが放っておけと声をかけてくる。善人ぶるなと言いたいのだろうが、あいにくとこちらは悪党をぶん殴る悪党を自認する者である。やれやれ感は相手の下品な対応でプンスカ感に変化した。


「ニャム姫」

「止めるにゃ銀どの」

「イヤイヤ悪には悪ですよ」

「私も弱いものいじめに参加しよう」


 ミヤマも進み出た。やる気の我らを見た風雲公が軍閥どうしの争いかもしれない事態に、他者が安易に割り込むなと告げてくる。

 

「これから東アルダーヒルで共闘しなきゃなんねえってのに、小せえ軍閥どももあんたらも」


 俺の肩に手をかけてきた相手の言葉に歩みを止める。、


「ああいった無辜の民ってのはこの世で溢れかえってんだ。付き合ってたらキリがねえ。それとも全てのあれらを救う覚悟でもあるっていうのか」

「あるわけないだろ」


 俺の即答に赤褐色の肌の青年が眉をひそめる。

 為政者とか英雄の資格がない小悪党として返答しておこう。

 目の前の胸糞を見た以上、やりたい放題は許さねえという俺様外道な心意気である。


「思っていた以上の偽善者だなサムライ」

「そんないいもんじゃない。利己主義と言ってくれ」

「……」


 わが開き直りが一朝一夕ではないことを確認したのか、風雲公の視線が戦場に向けられた。

 すでにネコと烏がどこぞの軍閥かもしれない部隊を蹴散らし始めている。


「小大将に任せたほうがいい、こいつらぁただもんじゃねえ」


 荒くれものたちがびびりながら娘っこたちを遠巻きに囲みだす。

 そのなかから黄色い布を被った異形の二人組が、鉈のような武器を手に進み出てきた。毛皮を着た小兵の双子がケッケッと吼えている。

 

「ああ、黄巾族かこいつら」


 諸国を渡り歩いた槍使いが思い出したかのように口を開くと、青羽衆の当主も双子の小鬼を眺めながらそうかと頷く。


「指揮官は一族で固め、下っ端は傭兵を雇い補充する。狼藉略奪の限りを尽くす戦いぶりは容赦なく、こやつらが通り過ぎた後は草木も生えぬと聞いてている」


 ミヤマの説明にニャム姫がうううと唸る。俺といえばいやな予感がして集落のほうへ足を向けた。


「こらぁどこ行きやが」


 わが進路をふさぎにかかった数名にサムライキック。林の中へ消えていった傭兵どもを横目に村の中央へと進む。

 娘っこたちは以心伝心で、俺の邪魔をする手下たちをぶっ飛ばしていた。

 小さい集落の中心部分に駆け込む。そこは最前以上の凄惨な状況が展開されていた。

 あちこちに亡骸が転がっている。

 部隊長らしき黄巾の指示で、遺跡のような家屋のなかから傭兵どもが女子供を引きずりだしているのが見えた。


「待たんかい」


 殺気だった俺の声に、殺気立っている彼らが一斉にこちらへと振り返る。


「まだ動ける男がいやがった」

「耳長族ではないな。どこのもんだ?」


 そう言われてこの村の住人が尖った長い耳の亜人であることに気付く。

 長の近くで檻に閉じ込められている耳長の女性数人が、アイスブルーの肌を全て露出させて縮こまっているのも確認した。


「わるもんです」


 そう宣言して一歩踏み出したところで、横から黒ねじりの槍が伸びてきた。



§§§§§§



「あれが、ラウ・クーダー風雲公」

「邪神の力を取り込んだといわれる黒ねじりの槍……黄巾どもを一瞬で」


 漆黒の霊気を放つ槍を一振り、ほぼ一撃で黄巾族の部隊長と傭兵どもを消し去った青年の雄姿を、生き残った首長族の面々が仰いで跪いていた。

 彼の藍色の鎧が夕陽に照らされて神々しく光る。

 さまになるなあと思いながらプンスカし損ねた俺は、首長族の女性を閉じ込めていた鉄の檻をぶち壊し、古い家屋の中から生存者を確認する作業で忙しい。

 サムライよと声をかけてくるラウ・クーダーにそれどころではないと言い返した。

 

「ひえええ」


 ニャム姫とミヤマに追い立てられてきた傭兵たちが、この場に本隊がいないことを察して後ずさる。

 うちの娘っこが気絶している黄巾族の双子を放り投げてきた。

 首長族のどよめきのなか、長身の槍使いがあらためて名を名乗る。

 それを聞いた傭兵のほとんどが腰を抜かしていた。


「近いうちにおのれら黄巾族の拠点へ挨拶にむかう。オレ一人でだ。そしてそれまでにわが軍門に降るか滅ぶか考えておけ」


 必殺の気合いを受けた相手が尻餅をつきながら後退する。

 殺気の凄まじさに気を失っていた双子が起き上がった。


「今後首長族に関われば、ラウ・クーダーに刃を向けるも同じだと思え」


 エメラルドの瞳から赤い光を発する彼の威圧に、双子は震えながら背を向けた。


「あの噂はほんもんじゃ。こいつは邪神の化身じゃ」


 彼らが泡を食って四足で逃げる。傭兵たちもひいひい言いながら丘を下りだす。

 捕らえられていた裸の女性たちに着物をあてがうネコ娘と烏女のほうをなるべく見ずに、俺はエヴレンと同族の青年に近寄った。


「あんたの偽善……いや利己主義に付き合ったらこれもんだ。老人や子供、女だけになった首長族をこれからどうするってんだ?」


 それを考えていないのがあほうたる所以なのだが、年が近い赤褐色のイケメンは一時オレの城で預かる、と答えを出していた。


「生き物を助けるなら責任を持て。両親や目上のもんにそうに言われなかったか?」


 お子様のように諭されるおっさん顔の当方は、そうですねと神妙に聞き入れる。

 いつの間にか彼の前で正座している構図になっていた。

 あんたは人の上に立ってはいけない男だとか、後先考えないその場限りの短絡野郎のせいで、周りがかえって迷惑するとか説教されたものの、まったくもって反論の余地がないその内容に、ニャム姫やミヤマの援護はない。

 生き残った数十人の首長族をコーツィ城塞に匿うというおせっかいの結果になったことで、来た道をもう一度引き返す流れになった。

 時間の無駄だとする風雲公の憤慨は、村を去るためにこれから処理しなければならない様々な雑用のぶんも含まれている。

 今日はここで夜を明かす必要があるだろう。

 血なまぐさい戦場で夢を見るのは久しぶりだと思いながら、同世代からの説教を受け続けた。

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