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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
62/102

夢六十二話

 烏女やサソリ娘と待ち合わせの海洋交易都市、テスカガナにやってきた。

 ドラーゲン・ハイ・イェン竜人公が領域内の城下町は魔道公の風の町と比べて、大陸交易通路の中継点としての側面も持っており、同じリゾート地でも特色が異なる。

 ペルシア風文化が色濃いそんな町並みは、見た目からしてヴァクーとは違っている。

 アルダーヒル地方でもっとも南東にあるというだけあって、東の文化圏と混合したような雰囲気を漂わせていた。


「ウンシンどの」

「生き神さまっ」


 モスクというやつだろうか。独自の建築様式な宮殿を見上げる位置にあった宿屋で、ミヤマやエヴレンとの再会を祝う。

 久闊を叙する、というやつだ。


「今汗臭いんですが」

「勇士の匂いだ。生き返る」

「はよ部屋に戻ろう。生き神さまをぎゅっとして補給するのじゃ」


 無沙汰の娘たちが姫二人と白にどけいと威嚇しながらわが両腕を抱え、石の階段を上がる。


「外交の結果は聞かぬのか?」

「そんなものは後じゃ、後」

「ウンシンどのが不足している。いらいらするから政治的な話は聞きたくない」


 宿泊部屋に引っ張り込まれる俺を見て、質問したジュディッタ姫が肩をすくめていた。

 銀どのが不足すると禁断症状がでるにゃむ? という声と、メイもたぶん出る、という断言が聞こえたが扉の閉める音で遮られ、その後のやりとりは聞こえない。

 白頭巾や無骨な黒紫の甲冑を脱がせようとする追いはぎ娘たちに、待ってくだされと猶予を願う。

 他者による剥ぎ取りを受け付けないわが戦闘着で怪我をされては一大事、いそいそと脱衣した。

 

「あの先に蒸し風呂に」

「せーい、じゃ」

「それっ」


 部屋の戸締りを確認して俺を両側から持ち上げ、ベッドにダイブ。

 こら開けんかーと閉め出された外交三人娘が騒いでいる。

 

「なんか怒号が聞こえるんですけど」

「青羽には篭城のための補修術というものがある。あの木製の扉にはそんな仕掛けを施しておいた」

「簡単には壊せないんじゃと。今のうちにしっぽりと」


 まだ夕方なのに風呂も入らずベッドでいちゃいちゃ。

 冷静なミヤマと情熱のエヴレン、半月ぶりということでいたずらも気合いが入っていた。


「扉が軋んでます」

「放っておけい」

「利き手の怪我から全快したわが術の冴えを見よ。めったな相手に破られるものではない」

「ニャム姫以外の娘は銀の霊気使いなんですねこれが」


 ミシ、ミシシ、パキン、と補修術が物理的な打撃で壊される音を聞いた。


「そりゃあああ」


 いやな予感がしてベッドから起き上がる。上半身は裸だ。

 乱入者たちの咆哮が終わる前に、俺は折れ曲がる扉側へ跳躍した。

 くの字になったそれがこちらに吹き飛んでくる。

 防具のない頭に木片がヒットした。強化されている分材質は硬く、旅の疲れと寝不足が加わって、めまいのなかで木床に沈む。


「ウンシンどの!」

「生き神さま、おのれ」


 障害物を突破してきた娘っこたちとプンスカな黒が睨みあっている。

 濃紺の影衣装から伸びる太ももの上で頭を動かそうとして、烏女から安静に、と押さえられた。


「半ば本気で蹴破りおったな!」

「木製を鉄扉(てっぴ)の如く鍛えおって、わらわたちが銀の霊気を駆使せねば、一生この扉が開かずの間になっておったわ」

「あーっ、ミヤマん膝まくら!」

「ウンシンが昏倒している。メイたちは少しやりすぎた」


 女五人が揃えば姦しい。そんなお騒ぎを子守唄に目を閉じた。



§§§§§§ 

 


「ぐっ」


 いつもより強めの衝撃を額に感じ、おねむから目覚める。

 黒か白の仕業かと思い、キングサイズのベッドから身を起こしてみれば、枕元に立っていたのは身内にあらず、二本のねじれた灰桜の角、棘の生えた肌、オールバックの長い髪は鉛色という若き竜人の姿だった。

 漆黒の胴着をまとったドーテイ・ハイ・イェン卿が、おのが獲物の二又な長刀を手に、苦虫を噛み潰したようにこちらを見下ろしている。

 

「わが柄の振り下ろし、半ば本気で放ったのだが……それが起床の挨拶にしかならんのか」

「これはドーテイ卿」

「ドーティだ」


 白頭巾を脱いだ頭部に竜人の一撃は結構効いたわけで、額を撫でつつ外交組の三人娘が近くのベッドでぐっすりおねむなのを確認してから、寝具から飛び降りた。

 そこへ朝の身づくろいを終えた待機組の黒と烏が入室してくる。当然赤くなった俺の額に気付いてすっと目を細めていた。


「いかんこの子たちが起きる。取りあえず蒸し風呂に入りたいので部屋を出よう」

「生き神さまの寝込みを襲ったな?」

「よかよか。ほれミヤマんも」

「風呂なら付き合おう」


 殺気を漲らせた二人に縮こまっていたエロ少年がでは我も、と後に続く。

 通路を進んで階段にさしかかったとき、彼はエヴレンに階下まで蹴り落とされていた。

 その後、有無を言わせずついてきたエヴレンとミヤマの裸をなるべく見ずして混浴風呂を済ませ、新しい服に着替えて身支度を整えた。

 そして宿の中庭にあるテラスの椅子に腰かけ、軽い朝食を取る。お忍び風の若き竜人ともそこで待ち合わせた。

 階段から蹴り落されたことも気に留めず、黒のそばにしっかりと自分の位置を確保しているドーテイ卿が、オレンジジュースや果物、ナッツ類を皆にすすめてくる。


「二十日ほどエヴレンどのとミヤマどのをお預かりしてきたわけだが」


 晴天の空を見上げるハイ・イェンの若君はそう前置きして、二人の美人さんを匿っている状況が一族にばれた、と語りだした。


「年少のくせに亜人の妾を城塞下に飼っている、とあらぬ話に発展して困惑している」

「噂好きの好事家たちに目をつけられたわけですな」


 俺は他人事のようにナッツ類を頬張り、ほりぽり砕きながらオレンジジュースで流し込んだ。

 

「そんなやつらのなかには女好きな竜人もいる。二人の見た目が良いとあって尚更食いついてきた」 

「身の程しらずどもめ。わしの好みは一重鷲鼻無精ひげの無骨者。眼中にないと言うてやれ」

「私を女に戻してくれた男はこの世にただ一人。形見のごとき珠も体に埋め込んでいる。今更他の誰かなど考えられぬ」


 氷点下の声色で吐き捨てる黒と烏に、それはそうだろうと頷くドーテイ卿がこちらを窺って言った。


「と、貴方の旅の連れはこのように取り付く島もない。しかし建前というか、一度だけでもハイ・イェン一族の邸宅までご足労願えまいか。勇士の口から我の妾ではないと弁明してほしいのだ。エヴレンどのもミヤマどのも、貴方が赴くなら同行してくれようし」


 珍しくかしこまった物言いでドーラゲンの次期当主に懇願され、二人を預かってもらった恩もあって、その誘いに乗らざるを得なかった。

 次から次へと面倒事に巻き込まれ、ここテスカガナでものんびり過ごせそうにない状況になっている。

 わが長刀にかけて武張った流れにさせぬ、という灰色の竜騎士が意気込みを一瞥する黒と烏の横顔が冷たい。その言葉は完全にフラグやろと思っているのだろう。

 俺も同意見である。朝飯もそこそこに、寝室で夢を見ているはずの外交三人娘を置いて宿を出た。

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