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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
47/102

夢四十七話

「ドラーゲン城主、ドラーゲン・ハイ・イェン竜人公が嫡子、ドーティ・ハイ・イェンである。見知りおけ」

「あ、はい」

「名乗らぬか無礼者!」

「無礼者はそなたじゃ」


 遺跡宮殿の改築工事が続くなか、土木サムライは日課となった資材切り出し作業の途中でいつもの面々と、見慣れぬ竜の亜人の訪問を受けることになった。そんな彼の叱咤にエヴレンの突っ込みが重なる。

 かつて邪神ヤーシャールがなわばりとしていた樹海クラスタールに近い、森林地帯での出来事である。

 ヤル・ワーウィックの勢力圏からは大きく外れており、かつドーテイと名乗った竜人は非公式の対面だと告げていて、そこに権力者側の事情とやらは関係ないらしい。


「我はドーテイではない、ドーティだ」

「それはそれはドーテイ卿、サムライウンシンと申します」


 名を聞いて共感しつつ観察する。二本のねじれた灰桜の角、棘の生えた鉛色の肌、オールバックの鉛色の髪はたてがみのように後ろに向かって生えていた。ニャム姫のそれと似たようなツンツン材質かと思われる。

 黒の胴着の背中からは翼が生えており、裏の翼膜は暗い赤だ。

 そこらへんの飛竜種より上位の生体であることは間違いない。

 建材置き場の一画で、丸太に腰を下ろしてのご対面になっている。

 俺の前後左右に陣取る娘たちの密着ぶりに彼が驚愕するのは当然ながら、それを説明することなく用件を聞いてみた。

 膝上にいる黒の藤色な髪を撫でわけ、肩越しに顔を出す。

 ドーテイ卿が答える前に、わが背中に上半身を預けてくる白が、竜人公が治める東海岸の港町で出会った、と教えてくれた。


「サソリも角獣もネコの亜人も東部アルダーヒルにはなかなかいない珍しい種族。さらに美人……いや若い娘ながら腕も立つ。そんな彼女たちが崇める古今独歩の勇士とやらの存在を拝見したく、こうしてお忍びで参上したわけだ」

「お連れの方は」

「我は竜種においても上位の称号を与えられた、ハイ・イェンの末裔なるぞ。竜騎士たる身に護衛など必要ない」

「なるほどドーテイ卿はご自身の武勇に」

「ドーティだ!」


 プンスカの地団太を見てエヴレンが笑った。左隣のニャム姫もにゃははと大受けだ。

 リハビリ中のミヤマは右隣で興味深そうに竜人を見つめている。

 耳打ちしてくるメイ・ルーから、彼は人間でいえばまだ十五くらいの年齢だと教えられた。

 なるほど竜騎士というご大層な身分からして貴種なる存在なのだろうが、十六の白より年下の少年だと知って不覚にも笑ってしまった。


「嬲るか勇士よ」

「怒るでないドーティ卿。われ等三人を打ち負かしたハイ・イェンの名が泣くぞ」

「……エヴレンどのがそう言うなら」


 先端が二股に分かれた薙刀のような長物を背中から抜いた少年に、黒がよすのじゃと微笑みかけた。

 灰色の竜人は頬を染めて獲物の構えを解いた。この際突っ込みはやめておこう。

 目鼻立ちのはっきりした褐色の中東美人に惚れるな、というほうが無粋というものだ。


「それにしてもこの三人を打ち負かした、とは?」

「ドラーゲンの城下町で催した模擬試合に見慣れぬ亜人たちが参加してきた。彼女らのことだ。その快進撃を統治者の一族たる我が撃退したのだが、まあしかしあれは遊びのようなものだった。誇るには値せん」

「しかしお遊びでも大したものだ。三人のうち二人は銀の霊気の使い手。それを退けるとは」


 美人お姉さんのミヤマに本心から讃えられ、初心な竜人はまた頬を染めた。

 貴種とはいえ、彼はまだ尊大に染まりきるには若すぎるようだ。


「竜人どのが霊気どのと力比べをしたいということで連れてきたにゃむが、今はおうち作りで忙しいし」

「勇士が多忙だというならば仕方がない。クラスタール樹海に足を伸ばし、アラストラハンの火山あたりまで調査するつもりでいる」


 ニャム姫の言葉に大仰に頷く竜人の本当の目的を知って、そらそうやなと頷く。

 頂上竜たるヤーシャールの退転は、同種族であるハイ・イェンの連中も周辺の各軍閥同様、気にかかるところであろう。

 樹海近くまでの道案内に相応しいと黒白ネコに白羽の矢を立てたのはいいが、黒に惚れたのは予想外の出来事だったようだ。


「樹海は魔物のなわばり争いで危険地帯というより、戦場そのものなんですが」

「同族も数多い。無駄な交戦をするつもりはない」


 俺の言葉に黒装束の竜人が隠密調査だと念押ししているが、こちらとしてはどうでもよい。

 しかし多忙サムライの隙をついて、さらなる道案内に黒を誘うのはお父さん許しません、の心境でお断りしておいた。


「勇士はエヴレンどのの何なのだ?」

「最初はタウィ婆ちゃんのお守り。今は娘の保護者。歳は関係なくそんな戦火に黒はやれん」 


 肩揉みの白の手に力が入る。もちろん白もですと間髪いれず付け足しておく。

 もたれ掛かるエヴレンとメイ・ルーが前後に俺を挟んでいがみ合っている。

 

「確かにそれも道理。では当初の予定通り一人で」

「その前に。東の港町からここまで遠距離を旅してお疲れでは?」

「……確かに長旅であったが」


 彼が答える前に黒白ネコの旅娘らが疲れたー、と騒ぎ出す。頃合か、と呟いたミヤマも立ち上がった。

 土木作業から家事へと仕事をシフトする時間になっている。


「うおっ」


 大木を担ぎ上げること両肩に四本、木くずにまみれる当方を見たドーテイ卿の声が裏返る。

 疲れたといいつつも、一本ずつ担ぎ出すミヤマ以外の面子の力強さに竜人の驚くまいことか、我との闘いでは手を抜いていたのか、と独り言を放つ。それでも旅の疲れを癒したいようで、黒のそばを離れずついてきた。

 こちらとしては数珠の力に頼ることなく丸太をかつぐニャム姫の剛力に、見慣れたといえど感心しきりだ。

 エヴレンの館で風呂など馳走してドーテイ卿をもてなそう。

 翌朝まで十分な休息をとって「ひとりで」調査にむかって欲しいものだ。



§§§§§§



「帰りをお待ちしていましたぞウンシンどの」

「また面倒な来訪者が」


 スラム街の館に帰還してすぐ、冒険王の武将であるロジー・バルクフォーフェン将軍に声をかけられた。

 赤い猛牛と謡われる軍閥有数の猛者である。

 そんなことより食欲優先な黒白ネコと、家事くらい手伝わねばというミヤマが先に屋内へと消えていった。

 赤い髪に赤ラインが入った鎧、二メートルを越える大力者と、それより頭ひとつ分は低いドーテイ卿がお互いを認識したようだ。お初にお目にかかる、とのバルクフォーフェンの台詞で、俺に対する冒険王が監視の目はお抱え魔道師を経由してお見通しだと知った。

 

「樹海の案内ならそれがしがお受けいたそう。ウンシンどのも同行してくれるはずだ。ハイ・イェンの若君」

「冒険王はよい心眼どもを抱えているな。なるべく竜の気は消していたのだが」

「ウンシンどのの霊気はどこにあっても火山の大爆発ほど目立つもの。それに接触する者を割り出すなど、ひとかどの魔道師なら造作もないこと」

「……天変地異に比するお人か」


 野郎どもの会話など興味はない。男だらけの樹海探索など勘弁してもらいたいし、そんな暇はない。

 いやな予感がひしひし感じて止まらないとしても、とりあえず家事に勤しもう。

 数日ぶりに娘っこらに囲まれて夢を見るのだ。

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