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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
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夢四十六話

 ヤル・ワーウィック冒険王の城塞から派遣された職人たちが、丘陵に建てられたわが遺跡の改築作業に着手している。

 赤土色の外壁や屋内を補強していくには熟練の技巧が必要だということで、不器用な似非サムライは早くも力仕事だけに集中するよう彼らから指示されていた。

 石材や木材を山から切り出して運搬する、という役目がそれだ。

 エヴレンの館で待機のミヤマを除き、うちの娘たちも専門職の指示に従い、資材をかついだりお茶くみに追われて遺跡内を奔走している。

 これから女の子たちには無理のないペースでお手伝いに勤しんでもらおう。

 

 木を切り倒し、石を削って運搬を繰り返す単調な毎日のなかで、四人の娘っこは互いに反目しあうことなくのんびりゆったりとした共同生活を送り始めている。

 落ち着いた烏女以外は皆十代の若い娘だ。衣食への欲求を大陸交易路にある市場で満たしたり、あるいは遠出して東の沿海都市を見回ったり(強行軍)、改築の間の息抜きを満喫しているようだった。


 相も変わらず運搬サムライは大岩を背負う。

 ずっしんずっしんとあぜ道を下る。山と遺跡との往復はもう日課になっている。

 城塞の住人やスラム街の連中がそんな異様な光景に慣れたであろうとある日、人力運送中の俺の前に、見覚えのある馬車が姿を見せた。

 ポチャとホソという女中を従え、伸びた金髪を結い上げたジュディッタ姫が天蓋付きの箱から降りてくる。

 ちょうど遺跡の前だったので、俺は背負っていた岩を下ろした。

 その轟音をかき消すように、ウンシン久しぶりじゃな、と声をかけてくる女騎士の前に膝をつく。


「ああ、よいよい。王の妻になったとてわらわはそなたの友人のつもりだ。残念ながら女になってしまったが、それゆえ城塞から忍び出るに手間がかかってな」


 返答に窮する仰せということで、一礼して立ち上がることで流した。

 金髪碧眼の大柄美人を見る。確かに以前に別れたときより女性らしくなった気がする。

 

「それにしても……王からの褒美がこの小城ひとつとは。鷹揚に見えて彼は存外ケチだということか」

「職人の派遣やその他資材の支援あっての褒美なわけで、これで十分かと」

「相変わらず成り上がり無用の欲のなさ。しかし城の主が浪人者、という特異性を考えれば、ウンシンの上機嫌もわかる気がするが」


 そう微笑む彼女の用件はわかっている。剣豪の(さが)で腕試しがしたいのだろう。

 銀の霊気の数珠を大剣に埋め込み、その使い手となった姫の武勇はこの城塞下でも噂になっている。、

 かといって当人も夫たる冒険王も互いの真髄を見せつけあうことはないはずだ。

 そんな日々が続けば、この剣豪姫の鬱憤がたまるのは当然といえた。

 全力を出し切る相手はそなたしかおらぬ、との無邪気な仰せである。

 宮殿然とした遺跡前に馬車を置き、女中を待機させる擬態を施したうえで、山中に入ってひと勝負という流れになった。


「エヴやメイたちはどうしておる?」

「ときどきうちの改築作業を手伝ってもらってます。それ以外は女の子らしい毎日をすごしているようですよ」

「相変わらずあれらに甘いのう」

「休息が必要なミヤマ以外はまだ二十歳前の娘っこ。遊びに夢中になる時期が少しくらいあっていい」


 そんな会話をしながらの山登りのあと、資材置き場の平坦な地盤をとくに選んで、そこで互いに向き合った。


「わらわもあれらと同じ環境で、身ひとつでそなたに出会いたかった。そうなれば今頃」


 感慨深い台詞を放ちながら大剣を抜く金属音を聞いて、俺も小太刀の柄を握る。

 

「参る」


 にやりとする男顔の美人さんに、頭巾なしの似非サムライもへらりと笑い返した。



§§§§§§


 

 対戦相手が大剣を落としたことで、長く続いた模擬死合が終了した。

 ジュディッタ姫の握力が尽きたらしい。

 息を荒げた女剣士が斬撃で変形した地盤に膝をつき、剣を刺してへたりこむ。


「久しぶりに全力を出せたぞ……やはりわらわの相手にはそなたがふさわしい」


 やはり王とは対戦しないのか、と思った俺の顔色を読んだのか、政略的なつながりで手の内を見せあうことはない、と姫が言う。息をつき、後ろ手で体を支えて空を見上げる彼女は口角を上げていた。


「伝説的な長剣使いの彼とて本気は見せまいし、その部下からは噂でしか聞かないお飾りの姫剣士として侮られているほうがな、都合がよい」

「はあ」

「あの城塞で故郷と変わらず生きていけるのも、スラム街にそなたがいると思えばこそだ。エヴやメイもいることだし」


 限界まで力を振り絞って戦える相手、という解釈にとらえておこう。

 手持ちの飲料水がないことに気がつき、小太刀を収めて近くの川に水を汲みにいこうとしたとき、ひょうたんを持った俺の前に青紫の影装束の人物が風のように現れた。


「おっ、そなたは」

「ミヤマと申す」

「そうそうミヤマ。影の女だな」

「これを」


 黒白ネコが遊びまわっているなか、烏女は未だリハビリ中ということで、俺の弁当を運ぶために、改築の現場とスラム街の館を往復する毎日だった。

 今日のミヤマから手渡された皮袋には弁当ではなく、果実酒入りの水が入っている。

 それを受けとって一気飲みする俺と姫をよそに、彼女は平らだった岩盤の陥没や隆起具合を見渡して瞠目していた。

 

「この硬い地盤を剣ひとつでここまで」

「そなたの術も相当なものだとサソリや馬から聞いているが」

「しかし貴方の剛剣には到底及ばない」

「そなたもウンシンの珠を授けられたひとり。そのうちこうなる」


 地に刺さった大剣を握りしめ、ジュディッタ姫が業物なそれを鞘に収めた。

 

「だがわらわもこの勇士にかかれば赤子同然」


 横倒しになった大岩に腰掛ける俺の目の前に大柄な姫剣士がやってきた。

 膝を貸せと告げ、有無を言わせず腰掛けてくる。

 

「身の程を思い知るためにも、ウンシンと打ち合うのはこれからも必要なのだ」


 のう? と背もたれてくるヤル・ワーウィックの何番目かの妻に、へいと頷いてみせた。

 

「ウンシンどの。いずれ私とも打ち合ってほしい」

「へい」


 銀色のオーラを放つ利き手の甲を押さえ、ミヤマも隣に座って見つめてくる。

 基本的にイエスマンたる当方はリハビリの経過次第では必ず、と約束した。


「この男の膝抱っこ、羨ましいか?」

「……さて」

「正直にならぬといつまでもウンシンに触れ合えぬぞ」

「では代わっていただこう」

「言葉のアヤというもの。今はわらわの特等席じゃ」

「戯言を」


 笑顔の女どうし、内心は俺にはわからない。

 立ち上がって睨み合いだした二人を見守りながら、ちょうどよい資材が切り出せたと大岩を背負う。行きますよーと声をかけると、剣士と術者がじゃれ合いをやめて素直に後からついてくる。

 下りの道すがら、ミヤマからあーんされ皮袋からの給水を受ける。

 ドヤった顔の烏女に反撃された金髪姫がわらわもーと皮袋の開け口を向けてくる。

 おなかたぽんたぽんになりながらの下山となった。

 石を調達し終えて館に戻ったところで、物見遊山から帰ってきた残りの連中が夢見心地だった、とはしゃぎながら、夕食の準備に忙しい俺の背中に飛びついてくる。

 これ手を洗いなさいというお母さんのようなミヤマの叱責を受け、わらわらと井戸がある庭のほうへ消えていく三人の亜人娘を見送った。

 庭にある浴槽に水と熱した石も投入せねばなるまい。

 家事サムライは忙しい。浪人ながら土木作業との兼ね合いで、米の握り飯と夜の睡眠が一番の楽しみになっている。

 規則正しい生活は、朝まで夢を見ない快眠を発生させていた。

 それでもこの世界という夢はまだ続いている。

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