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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
35/102

夢三十五話

「あはははウンシンのその頭!」

「生き神さま、ちりちりのコゲコゲに」

「巻き髪さまになったにゃむ」


 ちりちりアフロなわが頭を見た人化後のメイ・ルーとエヴレン、ニャム姫が腹を抱えている。

 山岳地帯にある赤土の村の空き家で再会したものの、大爆笑をもって迎えられた。

 亡国の姫となったネコ娘は後に引かぬ性格なのと以前より覚悟していたからか、すでに起こった事実に対し、ある程度割り切っているように見受けられた。

 逆にミヤマは復讐を誓い、烏一族の壊滅をまだ受け止めきれないでいるようだ。

 それでも青紫の装束を纏う人物は、俺が槍使いを撃退したことに驚愕しっぱなしだった。


「われら青羽が総力を挙げても敵わなかった竜の化身を引かせたか……やはりウンシンどのの武は底が知れぬ」

「でもほれ、この跡」

「あっ」


 白頭巾に隠れていた頬の部分を見せてみる。赤土の空き家のなかで簡易の囲炉裏のようなものを作り、そこで火を熾して囲んでいる三人の亜人娘たちも驚いて、半ば腰を上げていた。

 上物の毛布に体を横たえていたミヤマも上半身を起こしている。


「生き神さまに傷を与えるほどの難敵じゃったか」

「それがツインコーツィ城塞の新たな主だと考えれば、例え互いの領域が離れていようと冒険王のお膝元に住んでいるメイたちも他人事ではない」


 黒白が難しい顔をしている。

 吹きさらしの窓枠から風が入り込み、かの者にあしらわれたというニャム姫とミヤマが身を震わせた。

 二人は藤色の髪のイケメンに手加減されていたことを思い知ったのだろう。

 竜属性の攻撃を受けて黒に染まらず無事でいる、という事実がその証拠だ。

 

「まあでもちりちり霊気どのがいる以上は安心にゃむ。ミヤマんともどもしばらくお世話になるぞ!」

「厚かましくも悪びれない寄りかかりを平然と口にするあたり、もはや尊敬に値する」


 揶揄ではなく本当に感心しているメイ・ルーにニャム姫がにゃはははと大得意で笑っている。

 襟を正すように座り、ご迷惑をおかけしてと言いかけるミヤマを俺は問答無用で押し倒した。


「ちり神さまっ、目元しか見せぬお堅い女がお好みか!」

「はははご冗談をははは」


 サソリ娘の鋭い叱咤にミヤマから飛びずさる。囲炉裏もどきの前に座りなおした。

 狼狽気味に背を向けて寝の体勢に入ったお堅い女とやらを一瞥し、エヴレンが膝上に乗ってきた。


「サソリどのは甘えたじゃなあ。まだまだ小娘にゃむ」

「ニャム姫はそのままでよい。この温かみを知る必要はない」

「にゃんだと!」

「二人とも怪我人が寝てるから静かに」


 サソリとネコがお遊び半分で睨み合う。薪をくべる馬娘から干し肉をあーんしてもらいつつ、鉄の小鍋で煮立てたブイヨンスープにペースト状調味料を浸し、木製コップにいれて皆に配る。

 じゃれあいな喧嘩は中止され、彼女たちは熱々のそれをすすりこんでほーっと息をついていた。

 ミヤマにもそんな体の温まるスープを飲んでもらおうとしたが、膝上の黒がその役目を買って出た。

 うみゃいうみゃいと連呼するニャム姫、むむっと珍しいリアクションを示した烏女(もうこの呼び名でいこうと思う)がごくごく飲み始める反応からして、塩辛い汁物は上場の仕上がりになったようだ。

 もっとも、ミヤマのそんな所作は後ろ向きのことで顔を確認することはできなかった。

 目元から下を窺い知ったエヴレンだけが不機嫌に立ち上がり、また当方の膝上に座り込む。


「ちっ」

「エヴレンはしたない」


 舌打ちの黒に白がたしなめる。見て来いとばかりに無言で烏女を親指で指すのに従ったメイ・ルーが、中身のなくなった怪我人のコップを受け取るついでに相手の顔を盗み見ていた。

 

「ちっ」

「白い角獣どのもはしたないぞ」


 うっかりさんのネコ娘に叱られる白が唇を尖らせ、ふんと鼻を鳴らしながら俺の隣に座り込んだ。


「左右で色が違う珍しい瞳をしている。それでもメイより地味」

「そうそう、神秘的な容姿とて控えめ。あくまでも控えめな美人じゃ」


 負け惜しみしか聞こえない黒白の独語にうははは悔しいのう、というニャム姫のけたけた声が重なり、それを合図に三人娘の取っ組み合いが始まって収拾不可能になった。

 我関せずのミヤマのおねむっぷりがうやらましい。

 どたばたで先の悲哀を忘れたような夜が更けていく。

 


§§§§§§



 西世界に近い港で手に入れた交易品の香辛料、宝石などを赤土の村の長に手渡し、身支度を整えて遅い時間の出立となった。

 二夜に渡って体を休めた怪我人たちの気力は回復の傾向にあるようで、追っ手がないと確認できたからには、あとは道中をゆたりゆたり進むのみである。

 湯治がてら温泉地に寄る必要もあるだろう。

 大浴場を勝手に想像した。バイオレンス続きで食傷気味のわが心が躍る。

 背に負いしミヤマが跳ねるなと俺の頭をピシピシ叩いてきた。

 武人然とした様相ではなくなってきた相手のプンスカに応じて忍び足。

 今度は遅いと注文が来た。


「謹厳なミヤマんが我侭になっている。珍しい光景にゃむ」

「生き神さまに慣れてきた証拠じゃ」


 前を進む白い角獣にまたがったニャム姫がミヤマをからかう。

 烏女は知らんふり。エヴレンのほくそ笑みに面を逸らしていた。

 とりあえずベルグラーノ城塞への進路を途中で変えて、平地に近い湯治場へと向かう。

 ジュディッタ姫率いる嫁入り一行との合流地点を、そこにしようと決めた。

 姫を迎えにいくとしても数日は旅気分を優先したい。知り合いが負傷していては滞在もやむを得えず、美食もやむを得まい。

 今夜の野宿で見る夢は期待をこめたものになりそうだ。

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