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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
33/102

夢三十三話

 より負傷しているミヤマを俺が背負い(事情が事情なのでエヴレンも異議を唱えなかった)、メイ・ルーが馬になってニャム姫を乗せ、西に逃れる。

 未だに中央アルダーヒルの山中には、古代の遺跡が数多く残っていた。

 そのなかから、断崖絶壁に建っているものを特に選んだ。

 石の壁に三方を囲まれた部屋で二人を横たえ、手持ちのもので応急処置を施す。

 港町で買い求めたのは食糧や衣類だけではない。病や怪我に備えて救急セットのようなものも入手していたのが幸いだった。

 薬湯を飲んで生き返った表情のミヤマとニャム姫に、何が起こったのかかいつまんで聞いてみた。


「ツインコーツィ城塞が何者かに落された。現当主ワム・ツインコーツィ獣人公は城陥落とともに討ち死に。以前より青羽に亡命していたニャム姫は当然にして無事だったが、それを知る何者かが影鷹どもを先鋒に、われらが砦に急襲してきたのだ」

「ミヤマんたちが総力で防戦してくれたにゃむ。でも」

「きゃつらとはまだ対等に戦えた。しかし見たことのない黒ねじりの角の槍使いが私や長以下、青羽のものどもを打ち払い、それが原因で里は壊滅した。誰も彼もが行方知れずに」

「槍使いの一振りは頂上竜ヤーシャールの一撃に相当する、とかお年寄りの長がうめいていたにゃむ……話半分にしても、あのすさまじい力は人にあらず、竜そのものだったぞ」


 といった報告を受け、獣人ツインコーツィの勢力が滅亡し、新たに黒い槍使いとやらが城塞の新しい主になったということ。

 影の軍団である青羽も同様、一族離散の状態であることを理解した。


「ニャム姫」

「兄者とのお別れは以前からのもので、心の準備をする時間はあった。銀の霊気どの、心配いらぬ。ツインコーツィは片割れが生き残ればそれでよし、とする種族で、ニャムは生き残りとして最初からこの定めに従うにゃむ……」


 いまにもうわーんと泣きそうなネコ娘の耳と尻尾が震えている。

 その気持ちがわかる黒白から背中をさすられて、鼻水を垂らしながら笑っていた。


「どれほど時間がかかろうと、私は生き残りの一族を糾合する義務がある。死合いで斃れるのは羽どもの本望なれど、槍使いの力を借りて我らを滅ぼした天敵、鷹の奴らは許せぬ」

 

 涙をこらえるニャム姫、激昂を内に秘めるミヤマ、焚き火の前の二人がいつしか昂ぶり疲れたようで、無念といった表情で眠りについていた。

 黒白が石の寝台に横になる二人に布団のようなものを掛け、暖を取る俺の左右に座り込む。

 

「彼女らの傷を治しながらこのまま西へ向かう。そしてジュディッタ姫の共をして東に戻る」


 赤褐色と白い肌の美人さんたちにこれからどうすると問われ、今すぐ仇討ちに参戦する意思がないことを伝えてみた。

 彼女ら、と口にしたとき、青紫の装束に身を包んだ烏が起き上がった。


「ウンシンどの」

「彼らでした」


 俺の言葉に再び身をふせるミヤマ。「彼」を背負ったときに感じた感触でそう表現をしたのだが、どうやらそれは口にしてはならぬ事実らしい。

 

「生き神さまは介入の意思はないと。よいことじゃ」

「今のところは、という表現が正しい」


 エヴレンがおねむ前の果実酒をあおる。

 わが意図を見透かしたメイ・ルーも同様に違う種類の酒を飲んでいた。

 とにかくも来た道を戻って西へと引き返そう。

 敵の追撃もそこまでは届くまい。



§§§§§§



「魔道の者は互いに離れていても心話でやりとりができる。赤黄色の鷹にはそんな道士の数が多い」

「つまり?」


 一夜明け、遺跡を後にして相変わらずの山のなかを逃げ進む。

 前を行く黒、白の背に乗るニャム姫を視界に納めつつ、背中に負ぶさるミヤマと言葉を交わした。


「足早の先行部隊が全滅したとなれば、本格的な増援が近いうちに必ず来る」

「後備えなら任せなさい」

「ウンシンどの自ら最後尾を務めるというか」

「執拗に追いかけてくるというのなら、ちょいと気合をいれますわ」


 ピーと鳴らした俺の口笛に、サソリ娘と角獣が足を止めた。


「なんじゃ?」

「エヴレンとメイ・ルーは二人を連れて先に行く」

「銀の霊気どのは?」


 馬上のニャム姫が眉をよせた。黒は何も問わず、地に下ろしたミヤマを受け止めていた。

 ぶるると白が鳴いている。以心伝心の彼女らに多くの説明は必要ない。


「生き神さまはしつこいのが嫌いじゃものな。追いかけてくる不埒者に天罰をみまってやるのじゃ」

「霊気どのを置いていくのか」


 比較的怪我の軽いネコ娘が降りてミヤマを白に乗せる。

 その際、わが白頭巾を彼(建前)にかぶせておいた。

 それは物理攻撃や魔道の術すらもはじき返すだろう。

 二人が何か言いかけたが、すぐに角獣が駆けた。エヴレンに引っ張られ、ニャム姫も高原地帯の向こうの山へと消えていった。

 それを見送って逆方向の渓谷側からやってくる気配に向き直る。

 朝の高原でしんがりを務める俺を捉えた鷹衆が、赤黄色の道着をはためかせて姿を現した。

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