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似非サムライ、異世界お使い見聞録  作者: あめふらし
第一部
21/102

夢二十一話

 相撲というかプロレスもどきで有翼獣からの譲歩を引き出し、なんとかメイ・ルーの仲間を存続させることができたところで、あと一日だけ同族とすごすという彼女の意向を汲み、黒とともに湖のほとりを後にした。

 グァンズーたちはすでに湖近くの山にあるという巣に戻っている。

 今日から明日にかけて、ひたすらだらだら過ごしたいという黒との意見は一致していた。

 アルダーヒル各地に沸いているという様々な温泉にも入りたいし、地域名物も食らいたいし、海路から輸入されてくる東南原産の米の存在も気にかかる。

 疎林地帯から少し離れ、遥か昔に旅人が使用していたという森の洞窟に身を寄せる。

 同じ窪地でも風通しがよく、火を焚いてもこもらない平らな寝床を確保し、エヴレンと二人で近くの小川を散策する。


「南へ北へ、生き神さまの忙しいこと」

「人事かい」

「そのうち西へ東へ」


 アルダーヒルをくまなく駆け巡る自身のお使い姿を想像してかぶりを振った。

 川から掬った冷たい水をかけてくる赤褐色のサソリ娘が白い歯を見せている。


「わしの目の前にいる人のよいサムライはおなごに弱い。それゆえただ働きの連続じゃ。単純な殿方ながら、どこかとてもおかしな人物でもある。なんというか、非常に興味深い」


 採取した山菜を手で弄びながら、濃い藤色のポニーテールを揺らしてエヴレンがいたずらっぽく笑った。

 上着を羽織ったペルシア風衣装な彼女のもう片方の手を握る。小川のなかの岩場を進む際、紳士としてエスコートするためだ。


「グァンズーほどの魔物を一蹴できる力があるというに、驕らず(てら)わず在野の士のまま。能力と自負はどのような勇者であれ比例する。じゃがこのお方はのう、上昇志向があって当たり前の男とはまるで別の生き物すぎて」


 わしの好奇心を刺激する、と言葉を締めくくった黒がサソリの尾で魚を捕らえていた。

 持参のペースト状うまみ調味料を塗りたくって、早速串刺しに焼いてやろう。



§§§§§§



 干し肉と串焼きの魚、山菜スープをたらふく飲んでワインをあおり、満腹になってすぐふかふかな敷物へ身を横たえた。

 今日は早寝といこう。上半身を起こして湖の方向を見る。今頃角獣たちは宴会でもしているのだろうか。

 空に星々が煌くいい夜になってきた。

 生の住処で健啖な食欲を発揮している白い馬娘を想像する。


「わしがいるというのにメイ・ルーのことを考えているな?」

「お、おう」


 眠気と酔いで反応が遅れた。言い訳する前にエヴレンが敷物の上に座り、俺の頭をそっと上げて膝枕を仕掛けてきた。予想外の行動で言葉を失う。


「やはり白雪のようなまっさらな肌がよいのかや? そのなかでもあやつは白皮症なればとて、稀有な美形のおなごじゃし」

「確かに白はめんこい。でも同じくらい黒も美人だすよ」


 赤褐色なむちむち太ももの感触を後頭部に感じたことでどもったが、サソリ娘はスルーしていた。

 白頭巾を脱ぎ、ベリーショートの黒髪のわが頭を優しくなでてくる。


「それにしてもあやつ、人化するのをさんざん拒んでおいて、衆目のなかで生き神さまにだけ向けてその姿を披露しおった。抜け目ないあざとい女め」

「いててて」


 髪を引っ張られて身を起こしかけたものの、タウィ族に伝わる子守唄というのを口ずさみだした彼女の声に聞き惚れつつ、再び眠りに誘われた。

 

「こうして見ると睡魔に襲われる幼い子供にしか思えぬが……これもまた生き神さま。当世随一の武人らしからぬ姿もまたよい。メイ・ルーもその差異にやられたのであろう」

「武人じゃないでふサムライ」


 さらに瞼が重くなるのを感じながら、矛盾した気持ち悪い言葉を発して横向けになる。

 艶やかな藤色の長い髪を後ろで束ねた美人さんの柔らかい笑い声を耳にしながら、そっと眠りについた。

 


§§§§§§



「う、うっ」


 自身のうめきを聞いて目が覚める。

 夜明けにはまだ遠い。焚き火を消した洞窟のなか、光源代わりのランプは手元に置いてある。

 敷物を下にさらに敷物をかけ、エヴレンと抱き合って寝ていた状態から首だけ動かせば、われらの間に人化したアルビノ娘が割り込んで、こちらに向かって横になっているのに気がついた。

 彼女の角は片方が折れて一角になっている。その先が俺の喉に食い込んでいたのが痛みの原因だった。

 メイ・ルーに抱きつかれたまま、ふと黒の様子を窺う。

 彼女は眠りのなかでうなされていた。離れたせいかはわからないが、何かを捜し求めるように手を動かしていた。


「生き神さま。どこ」


 その寝言を聞いてすぐ、白が間に入ってきたように、今度は当方が彼女たちの間に割り込んだ。

 静かなメイ・ルーの寝息が荒くなったがこの際仕方がない。

 両手に花状態で仰向けになり二人の肩を抱いた。

 虚空に向かって振られていた赤褐色の腕が伸びてきて、首に巻きついてくる。


「見つけた。わしの宝物じゃ」

「うるさい。これはメイのもの」


 黒の安堵の呟きに、白が眉を寄せて歯軋り。どちらも眠りは浅いのか、俺は抱き枕のごとく引っ張り合いの渦中にあった。

 そのうちそれも止んだ。

 固体の違いはあれどよい匂いに包まれて体はぽかぽか、身を寄せ合って寝る三人は敷物をかける必要もない。

 今回はぐうたらして寝過ごそう。今日の出発は昼からでいいだろう。

 娘たちがヤル・ワーウィック冒険王から受けた用件がなんなのか実態を知ることもなく、まだ西へ旅するという彼女たちの決定事項を思い出しながら目を閉じた。

 夢はこれからだ。

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