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虹色居酒屋(過去編)  作者: 大山秀樹
6/9

第6話:カネ無し男6


 あんの質屋め〜。

 ガキだからとナメやがって。くそったれめ。

 何が銀貨1枚で5000円だ。違う質屋に持って行ったら1枚で1万円になったぞ。2倍だ、2倍。詐欺だ、詐欺。

 今日はたまたま見つけたいつもとは別の質屋に行った。別に理由なんてなかった。なんとなく足がその質屋に向いたのだ。

 そこでは20歳以上で住所が記載されている身分証明書がないとダメだ、と言われた。

 いつもの質屋はそんなことないのに、と思った俺は適当なリーマンを捕まえて、俺の代わりに質入れをしてもらった。1割を渡すと言うとそのリーマンは喜び、俺が門前払いされた質屋にいった。

 待つこと5分でその男は出てきて1万円を俺に渡してくれた。いつものおばちゃんのお札ではなく、この国で最も高い偉い人のお札を渡された。名前は……どうでもいっか。名前なんて知らなくても生きていける。

 ちょうどリーマンの財布に9000円入っており、俺は1万円をリーマンに渡し、9000円をもらった。リーマンはお礼を言って去った。1000円渡したが、これでもいつもより4000円多い収入である。

 そうすると今まで4000×4で……1万6000円損していたことになる。……計算合ってるよな?

 大損だ。大損。

 いつもの質屋は質入れするのに何もいらない代わりに買い叩く店なのだろう。くそったれめ。

 俺は早速その質屋に行き、店番の脂ぎった眼鏡デブに他の質屋で1万円になったと文句を言い、返却を要求した。

「無理。だってもう流れたし」

「はぁー? 期限まだきてねーだろ?」

「期限なんて関係ないよ。僕の店に質入れするやつなんて余程後ろめたいことがあるんだから、取り返しになんかこない。だから質入れしたその日に横流しするんだ。もう手元にない。残念」

「そんなのってありかよ?」

「あり、あり、むしろ大あり。どうする? 警察や弁護士に訴えてみる? そうしたらあの銀貨の出処を言わなきゃならないし、そもそも未成年が質入れするのは法律違反だ。君も逮捕されちゃうよ。僕は何度も逮捕されているから、また逮捕されても関係ないけど君はどう? 前科が残っちゃうよ」

「…………」

「ねっ、だからここは穏便にすまそうよ。そのお詫びといってはなんだが、これから君が同等の銀貨をもってくるなら、他の質屋の査定額の1万円で買っちゃうよ。当然スグに横流しするけど。ウチは身分証明いらないから、他の人にお金をあげる必要もないよ」

「なんでそれを?」

「そんなの簡単に想像つくよ。こんなとこに来る奴はみんな何か問題を抱えているんだよ。君の場合は……家庭問題かな? 親父とソリが合わなくて、親父のコレクションをひっそりと盗み出してきた、ってところかな? そんなのを知人にバラす訳にはいかないよねー。その話が親父へとバレたら大目玉だもんね。だから通行人に声をかけて、代わりに銀貨を質入れしてもらった。ある程度の報酬を払ってね。質入れ代金の5%くらいかな?」

「……10%」

「そんなにやっちゃったか。とすると君の取り分は9000円になるよね。でもこれ以降僕のところで取引してくれれば、ちゃんと1万円払うよ。1000円の差はでかいよねー。さぁ、どうする?」

「……考えとく」

「またのお越しをお待ちしておりまーす」

「うるせーよ」

 文句を言ってから店を出た。店番の醜悪な笑顔が気に食わなかったが、言っていることは正しい。

 毎日質入れすることになると1000円の差はでかい。しかもあんな商売をしているなら俺のことを外部に漏らしたりはしないだろう。

 …………。

 しゃくだな。

 しゃくだが、あの主人の言う通りにしよう。

 そうと決まればさっさとフレデリックに飯を……まだ昼前か。

 まだまだ時間あるな。満喫はもう読みたい本がないから行かない。

 ああ……やることねーな。最近フレデリックといて楽しいから、暇な時間が苦痛だな。早くフレデリックの言葉を理解したい。

 ならば昨日の復習を! とも思ったがノートに書き留めた言葉なんてほんの少ししかない。復習しようにもスグに終わっちまう。

 暇だ。

 ……そういえば昼間のマイホーム見たこと無いな。ちょっと見に行ってこよう。



 ん、変化なし。

 誰もいないし、何も異変がない。

 ん〜、良く見るとマイホーム相当汚いな。床も汚れているし、あちこちカビだらけだ。

 良し!

 今日の予定は掃除。マイホームなんだから手入れを怠ってはいかん。早速掃除用具を買いに行こう。



 ふぅ、今日は疲れた。ずっと掃除をしていた。

 結構広いからまだ半分くらいしか終わっていない。それに2階もあるし。こりゃ明後日までかかるな。

 まぁ、良しとしよう。憧れの一軒家なんだからそれくらいはかかるさ。

 おっと、日が暮れてきたな。もう6時だ。そろそろ夕飯を買いに行こう。そろそろフレデリックが来る頃だ。

 掃除用具を買うついでに安物の時計買って良かった。時間がわかるって素晴らしい。

 マイホームにも明かり(懐中電灯)と時計(安物の腕時計)が設置された。今までのように太陽と月に生活を依存する必要はなくなった。

 人間らしい生活をしてる気がするねぇ。

 すると埃のつかない引き戸が動きフレデリックが入ってきた。いつも通りの格好である。

「フレデリック」

「ケン。ゆうじょう」

「おう、友情」

 ガンっと拳をぶつけ合う。買ってきた腕時計も嬉しさに震えている。

 最近はフレデリックの顔を見ると安心するようになった。

 だが……

「ごめん、まだ買ってないんだ」

「ーーーー」

「スグにコンビニ行ってくるから待っててくれ」

「ーーーー」

「じゃっ、行ってくる」

 俺は掃除した方の引き戸から外に出ようとしたが、ふと疑問が沸き、足を止めた。

 ーーフレデリックをこちらの引き戸から外に出したらどうなるのだろうか?

 フレデリックが異世界人だとしたら地球に来れるのだろうか?

 いやっマイホームは地球にあるのだから地球には来れる。

 マイホーム以外の土地には入れるのだろうか?

 …………。

 怖いな。

 色々とこの関係が変わりそうで怖い。

 うん、やめよう。普通に待っていてもらおう。このズブズブの関係を続けていこう。

 俺は問題の先送りを決めた。

「頼むから待っててくれよ」

「ーーーー」

 ガラッ。

 俺は1人で家を出た。

 後ろを振り向いたがフレデリックはいつもの場所に座っていた。

 ホッと一息をついた。



 俺はいつも通りのコーヒーとおにぎりとポテ◯を買って帰った。

 ガラッ

「ただいま」

「ワッ!」

「ギャァァァ!!!」

 俺は尻もちをついた。そしてそんな俺を見てフレデリックが笑っている。

 引き戸のスグ先にフレデリックがいた。俺を驚かせるために待機していたのだろう。両手を広げ大声をあげやがった。

 驚いたけど趣味悪いぞ。かっこ悪いところみせちまったじゃねーか。

 くそったれめ。

「ワハハハ」フレデリックが大口開けて笑っている。

「あーあ、やられちまったぜ」

「ーーーー」

「何言ってるかわかんねーよ。ったく」

 俺が立ち上がり尻を叩こうとすると、笑顔だったフレデリックが途端に難しい顔をした。

 何かあったのか、と思っているとフレデリックが突然暴れだした。腕を振り上げ拳を振り下ろす。

 ドンッ。

 拳は家と外の境目で止まった。引き戸があった場所だ。

 これはっ……。

 同様にフレデリックは足も蹴り上げた。

 ガンっ。

 つま先は家と外の境目でとまった。

 次に身体毎外へ出ようとする。

 バンッ。バンッ。バンッ。

 フレデリックはまるでパントマイムをしているかのように見えない壁に押し返された。そして怪訝な表情をつくる。

 見えない壁に左手を当て、右手を丸め何度も殴る。しかしフレデリックの拳が、身体が外に出ることはなかった。



 これはつまりあれだろう。

 目の前の現実を認めなければならない。

 俺の推測が当たっていたことを喜んで良いのか、悲しむべきなのかわからんな。



 フレデリックは異世界人だ。

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