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虹色居酒屋(過去編)  作者: 大山秀樹
4/9

第4話:カネ無し男4

見つかんねー。

ねーよ、こんな文字。ねー、ねー。

午前中一杯頑張ったけど、どこにもなかった。少なくともネット上では見つからん。

とすると、図書館か?

あんなとこ入りたくねーよ。

昔っから図書館得意じゃねーんだよ。なんか、こう、頭良い奴の巣窟って感じがしてやなんだよ。

うぅ、憂鬱だ。

誰か文字に詳しいやついねーかな?

少なくとも知り合いにはいねーな。ってか金借りっぱだから顔出せねーし。

仕方ねー、図書館行くか。

 ああ、いやだいやだ。



何年振りだ、図書館来たの。

悪寒がするなー。温度が下がったような気がする。

さっさと探して帰るか。



ねーな。どこにも。

 5,6冊の本を読んでみたが載ってなかった。

歴史上120くらいの文字があるらしい。大半は使わられなくなって、現在は28程度。

そのどれにも該当しない。

 なんだよ、この文字。

図書館来た意味ねーじゃん。

これも方言か?

 ……文字に方言なんてあるのか?

 知らん、知らん。もうよくわからん。

 あれだ、あれ。サンプルが少ないってやつだ。

 文字4つしか書いてもらわなかったもんな。次はもっと書いてもらおう。そうしたら何かに該当するかもしれん。

 希望を捨てるな、俺。

 さっ、満喫行こう。昨日は延長料金でぼられたけど、今日はそうはいかない。

 ちゃんと6時には出よう。

 おっと満喫行く前に寄るところがあるんだった。そっちを先にしよう。



 うーん、時間通り行動するのって快適だね。

 今日は余分な出費もなく、手元には3000円程度ある。いつもより懐が暖かい。嬉しいなぁ。

 さて今日は何を買いますかっと。

 いっつもお菓子じゃ可哀想だから……そうだ、カップラーメンにしよう。今日は少し肌寒いし……のびるか。コンビニから俺の家まで10分以上ある。家にはお湯を沸かすモノがないから、コンビニでお湯をいれていかなきゃならない。つまりのびきった麺を食うハメになる。

 ……めんどくせ!

 やめやめ、カップラーメンはまた今度、暇な時。

 今日は図書館に行ってスゲー疲れたからまた今度。

 おにぎりでいいや。

 フレデリック、マヨネーズ気に入ってたからツナマヨとエビマヨでも買おう。

 あとコーヒーとお茶だな。おにぎりにはお茶。決まってらぁ。

 全部で1000円くらいでおさまるな。

 つまり2000円繰り越せる。なんて計画的貯蓄。素晴らしい。



 ガブガブ飲んでらぁ。随分と気に入ったもんだ。

 フレデリックはコーヒーを気に入っていた。今日の第1声が「コーヒィ」だったのには驚いた。勿論「コーヒーだ」と訂正した。

 言葉は大事だ。ここ2、3日でそう学習した。

「コーヒー」と言い直したフレデリックは俺からコーヒーを受け取り、ラッパ飲みする。キャップを開けるのにもたつくこともなくなった。

 さぁおにぎりだ。フーっとフレデリックが落ち着いたところで袋からおにぎりを取り出す。

 少々意地悪だが、包装紙をそのままにしてフレデリックにやった。

「ダック」お礼を言いフレデリックは受け取った。おにぎりを持ち上げて、360度あらゆるところから珍しげに見ている。

 そしてがぶっといった。勿論包装紙がはずされていないので、すぐに異変を感じて口から離した。

 おおっ、何か嬉しいな。前なら異物を口に入れると毒だと警戒したが、今回はそれがなかった。毒だって疑われないくらい俺を信用してくれているようだ。抗議することなく、首を傾げておにぎりをみている。

 そろそろ手伝ってやっか。

 ほらっ①って書いてある……そういえば数字はどうだ? この数字を使えるのか?

 気になったがまずはおにぎりだ。

 俺が実践する。①と書いてあるおにぎりの真ん中の裂け目を引っ張る。次に②を手に持ち右側に、次に③を手に持ち左側に引っ張れば、完成だ。3角おにぎりだ。

 フレデリックは真似して実践するが、当然もたついた。そしてようやく完成したのだが、おにぎりの海苔が半分以上包装紙の中に残った。

「あーあ」俺は包装紙を慎重に剥がし、海苔を取り出し、フレデリックのおにぎりに貼り付けた。見た目は悪いがなんとか3角おにぎりの完成である。

 早速おれはガブッといく。

 パリッと小気味良い音がして海苔の食感が伝わる。スグ後にモチっとした粘り気のある米の食感。そして米と海苔だけを咀嚼する。米の甘みと海苔の風味が広がる。

 むぅ、毎回思うがなんか損してる気がする。美味いことは美味いのだが、何故ここに具はないのだろうか? コンビニケチんじゃねーよ。

 そして2口目にやっと具に到達する。ツナマヨだ。美味い、マジで美味い。マヨネーズとご飯が合うって発見した奴天才だよな。ってかマヨネーズ開発した奴が天才か。

 俺を見ていたフレデリックもガブッといく。

 そして途端に笑顔になる。「ーーーー」「だよな、美味いよな」

 早速2口目。今度はひどく驚いた様子だ。「ーーーー」「ツナマヨ入ってんだ」「ーーーー」「ツナマヨ。なんかの魚の肉だよ」「ーーーー」

 あいも変わらず会話にはならないが、美味さは理解できたようだ。

 フレデリックが腕を上げ、手の甲を見せる。「ゆうじょう」「ゆうじょう」拳をぶつけあった。そして笑いあった。

 おっとお茶を忘れていた。袋から取り出しフレデリックに差し出す。フレデリックは即座にキャップを開け、口をつける。「ーーーー」お茶から口を離したフレデリックはしばし固まった。「ーーーー」何か呟き再度口をつけた。お茶の味を確かめているのだろう。

 さぁ俺も飲もう。

 適度な苦味を持った液体が、口の中に残った米の欠片を洗い流す。米の欠片はお茶に飲み込まれ、胃に落ちていった。サッパリする。それがお茶の良いところだ。さして好きじゃねーがおにぎりと言ったらお茶。それだけはゆずれない。

「ゆうじょう」「おお、ゆうじょう」フレデリックが急に拳をぶつけてきた。俺もあわてて拳をつくる。

 お茶が気に入ったのだろう。満面の笑みだ。

 そうやって2つ目のおにぎりも完食した。エビマヨも大好評でフレデリックも満足したようである。

 さて、とノートを広げる。そして秘密兵器「懐中電灯」を取り出す。ホームセンターに行って買ってきたモノだ。

 月明かりが出ているとはいえ、流石に夜中に光なしで文字を読むのは辛い。そのために手軽に光を発する懐中電灯が必要だった。突然光を発した物体に「ーーーー」フレデリックは大層驚いたが、あっさりと受け入れてくれた。

 50音をノートに書いた。それをフレデリックが懐中電灯を掲げて見ている。

「あ」とおれが表の右上を指し発音すると、フレデリックも「あ」と言う。「い」「い」「う」「う」と50音全てで繰り返した。

 そしておにぎりの包み紙を取り、「お」「お」「に」「に」「ぎ」「ぎ」「り」「り」と発音した後で全部つなげて「おにぎり」「おにぎり」と言った。俺は拍手をしてフレデリックを褒める。フレデリックはぎこちない笑みを浮かべた。

 それから「おちや」「おちや」「うで」「うで」など50音を指しながらありとあらゆるモノを言葉にしてフレデリックに伝えた。

 そしてフレデリックにペンとノートを渡し、懐中電灯を受け取った。「次はフレデリックの番だ」

「ーーーー」ペンとノートを持ってキョロキョロとしたが、納得したのかフレデリックは文字を書き始めた。そこには昨日見た「&%#$」の他に20程の文字があった。全部で24音である。そのどれもが全く知らない文字だった。

「ーー」フレデリックも右上から順に発音していく。俺も繰り返した。それからフレデリックの授業は始まった。身体の部位を指し、それぞれの名称を言う。俺はそれを繰り返す。同時にもう1冊のノートにフレデリックの言葉をカタカナ変換して書き留める。その舌に見慣れぬ文字を書く。そんなこんなで1時間程度はたった。

 図書館に行った疲労からか、眠気が襲ってきた。

「寝るか」そう言った俺は懐中電灯を消した。光が消えると闇が襲ってきた。光に慣れた目には自分の周囲が闇で汚染されたかのように見えた。思えば昨日までこんな闇の中で食事し、話し合っていたかと思うと身震いする。

「よし、寝よう」

 俺がゴロンと横になると、フレデリックも横になった。

 今日書いたノートを持って、明日図書館に行けばフレデリックの人種が判明する。図書館に行くのは嫌だがフレデリックのためなら仕方ない。明日のためにも早く寝よう。

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