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虹色居酒屋(過去編)  作者: 大山秀樹
3/9

第3話:カネ無し男3


 ええーと。

 Dankーーダンク、オランダ語。

 Takーータク、デンマーク語。

 ……ありそうなのは、ここらくらいか。

 でもフレデリックは「ダック」と言っていた。あんだけ何回も確認したんだから間違いない。

 微妙に違うな。

 ってことは、どっちも違うのかな?

 ……方言かも。ちょっと訛っているだけかもしれない。

 とすると。

 良し!

 オランダ語とデンマーク語の言葉を覚えよう。これが通じれば、フレデリックが何人か判別できる。

 あっ、単語だけじゃダメか。たまたま知っている可能性もある。外国人は何カ国語か知っててもおかしくはない。

 すると文章だ。文章をこのメモ書きに書いて持って行こう。文章なら母国語くらいしか知らないだろう。

 よっしゃ、そんなページにきた。

 書くぞーー

 …………

 …………

 俺は馬鹿か。

 ずっと馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だったとは。泣きたくなるぜ。

 文章を調べて、いざアルファベットを書こうとした時に気づいた。

 フレデリックに何か書いて貰えば一発じゃねーか!

 それをネットにUpして調べる。簡単なことじゃないか。

 やめだ、やめ。こんなんやってられるか。

 適当なメモ用紙とペンをコンビニで買おう。

 それで一見落着だ。

 あー無駄な時間を過ごした。

 さっ心配事は無くなったから、読書、読書と。昨日はあれを20巻まで呼んだから続きを読もう。

 ああ、昼間っからの読書は有意義だねぇ。



 あのくそったれ店員め。

 2度といかねー、あんな店。

 昨日徹夜したせいで、眠気に襲われて寝て、パック時間を5分オーバーしただけで、300円も取りやがった。

 なーにが、「規則ですので」だよ。

 お役所かっての。もうちょっと融通(使い方あってるよな?)きかせろっての。

 損した、損した。

 300円あれば、コーラ2本買えるっての。缶なら3本だ。

 世知辛い世の中になったねぇ。

 まっ今日もフレデリックから銀貨貰えば関係ないっか。

 さっコンビニ行こう。



 やべー遅くなっちまった。

 月刊誌を立ち読みしてたら、こんな時間だ。

 昨日より1時間以上も遅れちまった。

 フレデリック帰ってねーだろうな。不安になってきた。

 帰ってたら、どうやって明日生活しよう?

 お願いだ、いてくれ。

 祈るような気持ちで扉を開けると、いつも通りフレデリックがチョコンと座っていた。

「フレデリック」

「ケン」

 握手し、抱擁する。

 いてくれて良かった。これで明日も生活できる。

 まず昨日好評だったコーヒーを差し出す。

「ダック」フレデリックは慣れた手つきでキャップを開け口に含む。

「ーーーー」笑顔で何かを言う。意味はわからないが、やはり他人の笑顔は素晴らしい。こちらも得した気分になれる。その笑顔を自分が引き出しているのも嬉しい。

 炭酸はダメとわかったから、今回はコーヒー以外にカル◯スを買ってきた。気に入ってくれるだろうか?

 コーヒーが無くなってから差し出そう。

 今回はポ◯チの塩と乾きものを買ってきた。

 他によさ気なモノを買おうとしたのだが、気づいたら随分と日が暮れていたので、目についた物を適当に放り込んだ。

 乾きものはあたりめだ。勿論マヨネーズもある。

 ポ◯チを広げて。

 わっ。

 即座にフレデリックの手が伸びて、口に入れる。そして満面の笑み。

 お前どんだけ楽しみだったんだよ。

 コーヒー片手にご満悦だな。

 ひとしきりポ○チを楽しんだ。

 さぁ新メニューのお披露目だ。

 大きめの袋に入っているあたりめを開ける。

 途端にフレデリックが鼻をつまみ、怯える。手を鼻の先にもっていき、左右に振る。

 しまいには鼻をつまみ始めた。

 確かに初めてだと、この匂いはキツイな。ってかその反応だと、やっぱりあたりめも知らないのか。

 大丈夫、大丈夫、うまいって。

 あたりめを1切れ手にとって口に入れる。

 かてー。かてーし、全然噛みきれねー。

 けどこれが良い。

 4分の1くらいを噛みきり、あまりを右手で持ったまま咀嚼する。

 次第にあたりめが水分を吸い込み柔らかくなる。にちゃにちゃと噛み続けると、イカの旨味がこれでもかと溢れてくる。少々の臭みはあるがそれを覆い隠す程の旨味の氾濫だ。噛めば噛むほど……なんちゃら、とは良く言ったもんだ。……思い出した、噛めば噛むほど味が出るだ。

 あたりめって確かイカを日に干しただけだろ。それでこんな味になるなんてな。イカソーメンとは全然違う味だな。生命の神秘ってやつか?

 うまい。難しいことはわからないが、間違いなくあたりめはうまい。

 ほらっ、お前もやってみろ。

 俺が促すと、フレデリックもおずおずとあたりめを手に持つ。

 マジマジとあたりめを見て、鼻の下に持って行き匂いを嗅ぐ。途端に顔をしかめる。イケメンが醜く歪む。

 やべっ、オモシロ。人に嫌なモノを勧める時って面白いな。納豆しかり、チーズしかり。

 大丈夫、大丈夫。慣れる。ってか慣れろ。

 ゆっくりとあたりめを噛む。予想外の固さだったのか、噛みきれずに何回も顎を動かした。

 そして口に入ったモノがなんなのかを確かめるべく、まるでワインのソムリエのように、口の至るところでムニュムニュした。

 そしてゴックン。

「ーーーー」なんか言ってもう1口。あんまりハイテンションじゃねーな。

 ムニュムニュ、ゴックン。

 もう1口。

 ムニュムニュ、ゴックン。

 もう1口。

 ムニュムニュ、ゴックン。

 ちょうど1本食べきったところで肩を叩かれた。「ーーーー」まぁ美味いって言ってるんだろ。顔でわかる。

 さぁここで秘密兵器の投入だ。

 真っ赤なキャップに、透明な丸みをおびた容器。

 中に入っているのは、ほんのり黄色の調味料。

 泣く子も黙る、何にでも合う万能調味料、マヨネーズ様のお通りでい!

 す◯さん、か◯さん、懲らしめてやりなさい。

 …………

 うう、フレデリックが凄い目でこっちを見ている。

 恥ずかしい。ちょっと興が乗っただけでしょ。

 誰でもあること。そんな目で見んな。

 さっ気を取り直してマヨネーズだ。

 キャップを開けて、アルミホイルを剥がして、はい完了。もう使えます。

 まずお手本だ。

 マヨネーズをあたりめが入っていた容器の片隅に出す。ブリュッと勢い良くマヨネーズが飛び出した。

 それにあたりめをつけて、パクリ。

 うーん、絶妙な味わい。マヨネーズの酸味があたりめの旨味を引き出している。

 こりゃ止まらん、とまた1口。

 最近ではダイエットブームからタンパク質を豊富にとれて、低カロリーなあたりめが人気と聞くがそんなもん邪道だ。あたりめは炙ってーー今は炙れないけどーーマヨネーズをつけて熱いうちに口に放り込む。それが最強なんだ。

 早速フレデリックも俺の真似をする。

 そうそう、マヨネーズをーーダメだ! ふざけんな!

 マヨネーズはたっぷりつけんと。

 俺はフレデリックの腕を掴み、存分にあたりめにマヨネーズを塗りたくる。「ーーーー」なんかフレデリックが言ってくるが、そんなの無視無視。真っ黄色になったあたりめをフレデリックの口元に持って行き、「食え」と言う。フレデリックは渋々ながら口を開け、全部一気にいった。

「ーーーー」口が尖り、目をつぶる。

 そんなにマヨネーズは酸っぱくないぞ。

 ムニュムニュと咀嚼する。

 1本丸ごといったから、端が当たった頬が突き出る。それを押したい衝動にかられるが、我慢だ。フレデリックに嫌われたくはない。生活費がなくなるからな。

 頬が突き出ることもなくなって、ゴックン。

 まぁ満面の笑顔になるわな。

 再度握手を求められる。

 けどよー……握手って恥ずかしくねーか。そりゃ外人は普通かもしれねーけど、ここは日本だ。

 握手なんてビジネスマンくらいしかやんねーだろ。

 ここは日本式、俺式の友情の儀式を教えてやろう。

 ノン、ノンと首を左右に振る。怪訝な表情になったフレデリックは腕を下ろした。

 俺は拳を握り手の甲を見せる。そして2、3度上下させる。

 フレデリックの反応はなかった。

 しょーがねーな。

 フレデリックの右手を取り、親指から順に曲げていき拳をつくる。そして肘を曲げさせて、肩の位置まであげさせる。手の甲を俺にむけたら準備完了だ。

 俺も同様にして、「これが友情の証だ。ゆうじょう」と語り、拳をぶつけあう。といってもフレデリックはキョトン顔で拳を動かさなかったから、俺が一方的に殴ってしまったが。

 わかってなかったようなので、拳をぶつけて握手、拳をぶつけて握手を繰り返した。

 徐々にフレデリックも飲み込めたようで、俺が「ゆうじょう」と言うとフレデリックも拳をぶつけるようになった。

 完璧だ。


 それからはあたりめをつまみつつ、お互いに語った。あいもかわらず何もわからないが、それで良い。俺達は親友だ。

 ちなみにカルピ◯を渡すと、スグに口をつけ、またたく間に飲み干した。相当気に入ったようである。

「そうだ、フレデリック、文字を書いて欲しいんだが」

「ーーーー」

「いやな、文字がわかれば対処法があると思ってよ」

「ーーーー」

「紙とペン買ってきたから、ちょっと書いてくれ」

「ーーーー」

 おいおい、フレデリック、お前はボールペンも使えないのか?

 キャップも外さずに紙に叩きつけたって意味ないだろ?

 わかった、手本を見せてやるよ。

 紙とボールペンを奪い、キャップを外し、文字を書く。

 ポ○チ、コーヒー、と大きな文字で書いた。

「ーーーー」フレデリックは一際大きな声を出して、ボールペンや紙を擦ったり、振ったり、つついたりした。

 フレデリックの気がすんだところで、俺は「ポ」の字を指して、「ポ」と発音する。フレデリックも続いて「ポ」と発音する。それを繰り返して、この文字は目の前のお菓子を指していることをフレデリックに伝える。

 何回目かでフレデリックは理解してくれて、「ポ○チ」という文字をさしながら「ポ○チ」の空の包装紙を指す。

 そう、その通り。

 コーヒーも同様で、フレデリックはスグに理解してくれた。

 さぁこれからが本題だ。

「フレデリックの国の文字を書いてくれ」紙とペンを差し出す。

「ーーーー」フレデリックは受け取り、ペンを押し付けるようにして文字を書いた。

 そんな力いらねーよ。

 まっ、今はどうでもいっか。

 &%#$ーーフレデリックは見慣れぬ4つの文字を書いた。アルファベットでも漢字、カナ、カタカナ、でもない不可思議な文字。そして「ダック」とフレデリックは言った。

 ダック? お礼の言葉。それがこの文字なのか?

「ダック?」俺が確認する。

「ダック」フレデリックは頷く。

 すると……オランダ人でもデンマーク人でもない。全く別の国。

 アフリカとかか? でもヨーロッパ風の顔立ちだぞ。

 うう、わからん。

 けどわかった。これを持って行き、ネットで聞こう。

 それが明日の目的だ。

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