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虹色居酒屋(過去編)  作者: 大山秀樹
2/9

第2話:カネ無し男2

 ヒャッホイ。

 まるで錬金術だ。

 2本のう◯棒が……誰だ、このオバちゃん。

 ゲフンゲフン。

 2本のう◯棒が5千円に変わった。何の苦労もなく。

 フレデリックがナイフ持ってて怖かったから、それが苦労っちゃ、苦労か。

 とにかく5千円札が手元にある。それが全て。

 金があるって素晴らしい。今俺は金のありがたみをひしひしと実感している。例え5000円でも懐が暖かい。

 今の俺なら、ポ○チもコーラも買える。公園の水をペットボトルに入れておく必要なんてない。

 なんならカプセルホテルにだって……ナニナニ、素泊まり6000円。ただし5連泊すると1日4500円。やっす。スゲー安くなってんなぁ。1500円も安くなっている。1500円あったら、吉◯家行って牛丼大盛り食ってーー。

 まっ5000円しかないから無理だけど。

 ネカフェなら行けるか。

 よし! ネカフェで読みたい本を読もう。



 すっかり暗くなった。

 昨日徹夜したからスグ寝てしまって、大して本を読めなかった。残念だ。

 色々頼んだから残り2000円になった。やっぱパックにしても、料理とか頼むから金がかかる。ネカフェも言うほど安くない。

 まっまだ2000円あるし……

 そう言えば金の当てなかったんだった。懐に入ってたお金は、フレデリックからもらった銀貨を売っぱらったモノってことを、すっかり忘れてた。

 またやっちまった。

 金があるとスグ使っちまう。

 欲望に忠実すぎんだよ、俺。

 …………

 フレデリック、また来るかな? また銀貨くれないかな?

 昨日はう◯い棒しか食わせられなかったから、今回はまともなモンを買っていこう。

 と言っても、来るかどうかわからんから、日持ちするやつを。

 コンビニ行こう。



 ポ◯チとコーラを2人分。最強の組み合わせだ。ついでに冷たいコーヒーも2本買った。気にいるかな?

 白い袋を右手に持ち、扉を開けると、フレデリックが座っていた。良かった、いてくれて。

「フレデリック」

「ケン」

 駆け寄り握手し抱擁をした。ちょっと恥ずかしかった。

「今日も来たのか」

「ーーーー」

「相変わらず何言ってるかわかんねー」

「ーーーー」

「まぁ、取り敢えず座ろう」

「ーーーー」

 俺が座ると、自然とフレデリックも座った。

「ほらっ」コーラを差し出す。フレデリックは受け取り昨日よりはマシな手つきでペットボトルのキャップを回す。毒味は必要ないようだな。俺がぐいっとコーラを傾けると、フレデリックも恐る恐るペットボトルを傾ける。

「ウメーだーー」

「くぁwせdrftgyふじこlp」フレデリックがコーラを吐き出し、ゲホゲホと咳をする。そしてコーラを壁に投げつけ、ナイフを構えて立ち上がる。

 バンっと良い音がして、コーラが泡を吹いて倒れる。クルクルと回転したコーラは、毒にあたってのたうち回っている人間のように思えた。

「待て待て」必死で両手を挙げる。

「ーーーー」めっちゃ攻撃的な声を出す。

 コエー。ヤバイ、ヤバイ。目がすわってやがる。殺気を感じる。

 なんだ、何をミスったんだ?

 コーラって海外ではポピュラーじゃないのか。コーラには缶もある。ペットボトルは知らなくても、そっちは知ってるだろと思っていたが、まさか知らないのか?

 さっきコンビニで買ってきたヤツで、腐ってる訳じゃない。現に俺のコーラは普通だ。甘くて美味い。

 すると……炭酸か?

 炭酸嫌いの人間はいる。フレデリックがそれだったのか。

 と、取り敢えず、敵意ないアピールだ。ある程度の信頼関係がある。昨日とは違うはずだ。

 手を上げながら後ろ歩きで投げ飛ばされたコーラに近づき、僅かに残っていた余りを口に入れる。

 ほらっ、毒じゃねーよ。

 見ろ、俺を見ろ。

 フレデリックが怪訝な表情になり、ナイフを下げる。

 ほっ、わかってくれたか。

 しかしこいつは随分毒を警戒しているんだな。どっかのおえらいさんの息子か?

 それがどうしてこんな廃墟に来るんだ。しかも夜に。

「ーーーー」なんか言ってるが、わかんねーよ。あーあ、こんなに散らかしやがって。まっ明日には乾くだろう。

 ったく、座れ。

 俺が着席を促すと、フレデリックは多少警戒しながらも、腰を下ろした。

 しかし、全く違う文化なんだな。

 ペットボトルもコーラも知らないってどこ出身だよ。

 ……コーヒーはどうだ?

 これが無理だったら、もう水しか残ってないぞ。

「コーヒーは飲めるのか?」一応確認する。

「ーーーー」

「コーヒーだよ。コーヒー。ほら甘いのとか甘くないのとか」

「ーーーー」

 ダメだ、コーヒーも通じない。言葉が通じないことがこれほど不便だとは。くそったれな社会だな。ええい、あたって砕けろ。

 コーヒーを取り出し、キャップを開け、口をつけないように飲む。

 僅かに甘みとコクがあって、美味い。やっぱり無糖より微糖だな。買ったばかりだから、適度に冷えている。

 キャップを開けたまま、フレデリックに渡す。

「ーーーー」

「大丈夫。それには炭酸が入ってないから」何度も頷く。

 フレデリックは恐る恐る。口つける部分に溜まっている数滴を舐めた。そしてゆっくり味わう。

 また舐める。フンフン頷く。イケメンがペロペロする姿を俺はマジマジと見つめる。

 そして少し傾け、口に含む。

 段々と腕が上がり、ごくごくと喉を鳴らす。プハーッと息をした。「ーーーー」笑顔で手を差し出してきた。握手して、仲直りっと。

 良かった、良かった。

「ーーーー」随分と長い独り言を言っている。コーヒーの感想だろうか。気に入ったようで何よりだ。

「コーヒー」フレデリックの手に握られているモノを指さした。

「コー?」

「コーヒー」

「コーヒィ」

「コーヒー」

「コーヒー」

 そうだ。俺が頷くと、フレデリックも頷き何度も「コーヒー」と繰り返した。自分用のコーヒーも取り出し床に置く。

 さぁ次はポ◯チだ。

 ガサゴソとポテ◯を2袋取り出し、繋ぎ目のある方を上にして、真ん中に手を当て、両側へと開けるーーいわゆるパーティー開けをする。

 今回は塩とコンソメの2つだ。

 フレデリックは興味津々な目でそれを見つめていた。

 開け終わった2袋を並べ、フレデリックにわかるように、両方共口に入れる。毒味だ。塩とコンソメが口の中に混在して、微妙な味わいになる。マズくはねーが、やっぱりどっちか1つの方が良いな。

 そしてコーラ。くぅー。最強、これ最強。

「ほらっ、食え」フレデリックの前にコンソメを持っていく。

「ーーーー」フレデリックは恐る恐る目の前にあるコンソメ味に手を伸ばし、口に含む。パリッと良い音がした。フレデリックはしばし固まった。食感に驚いているように見える。

 もしかして◯テチも知らないのか?

 江戸時代からでも来たのか、お前。……江戸時代にあったかもしれないけど。歴史は知らん。

 サクサクと軽妙な音を奏でるポ◯チをフレデリックはまたたく間に気に入った。塩にも手を伸ばし、口に含むと、満面の笑みを浮かべる。

 そしてコーヒーを一口。プハーッ。美味そうにしてらぁ。

 それから食べ進めたのだが、途中であることに気づいた。フレデリックは塩が好みらしい。そっちに良く手を伸ばす。

「塩が好きか?」

「ーーーー」

「ソルト、ソルト。こっちが好きか?」

「ーーーー」

 塩のポ◯チを持ち上げ指さすと、フレデリックは頷いた。

 ならば。

 袋を引きずり、塩とコンソメの場所を入れ替える。

 当初は俺の行動の意味がわからず止まっていたフレデリックも、自分の前に塩が来るとパァーッと笑顔になった。

「ダック」

 ダック?

 昨日も去り際にそんなことを言っていた。思い返せば、2本目の水を与えた時も、食べかけのう◯い棒をやった時も。

 ……もしかしてお礼の言葉か?

 それしかないだろ。

「ダック?」語尾を上げて質問する。

「ーーーーダックーーーー」頭を下げる動作をフレデリックはする。

「ダック」

「ダック」

「ダック」頭を下げる。

「ダック」オーバーリアクション気味に頷いたフレデリックも頭を下げる。

 俺は確信した。これはお礼の言葉だ。明日ネカフェで調べて見よう。フレデリックが何人かわかるかもしれない。


 それからお互いに独り言を言い合い、雑魚寝した。

 不思議と隣に人がいるだけで安心でき、日頃の疲れもあり、またたく間に眠りに落ちた。



 硬い床板の上で寝たため、身体がバキバキになって目を覚ますと、既にフレデリックの姿はなく、銀貨1枚が置いてあった。

 俺はそれをそっと手にする。良かった。これで今日も過ごせる。

 ダック、フレデリック。

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