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新語流行語全部入り小説2016

作者: 吟遊蜆

歩きスマホでポケモンGOをしながら都内のあちこちへ片手間に火を噴きまくるジカ熱のシン・ゴジラを、もはや民泊中のアモーレたちが築いた愛の盛り土だけで防ぐことは不可能だった。しかも、その盛り土すら実際には行われていなかったという事実が発覚したとなれば。


先日の都知事選で、アスリートファーストをスローガンに掲げて当選した史上初の「ダブル都知事」であるタカマツペアは、この神ってる緊急事態に対し、さっそく新しい判断を下した。もはや肉体的な攻撃は不可能との判断から、精神的攻撃へと切り替える方針を打ち出したのである。そしてこのときダブル都知事が取った心理戦法は、トランプの「神経衰弱」になぞらえて、のちに「トランプ現象」と呼ばれた。


対策を練るにあたり、タカマツペア知事はまず、なんとかしてシン・ゴジラにポケモンGOをやめさせるべきであると考えた。シン・ゴジラが画面越しの街中に浮かび上がるポケモンたちを実在のモンスターだと思い込み、それに向かって火を噴いている可能性があるからである。まずはシン・ゴジラの目線をスマホから逸らさせることだ。


妙案を思いついたタカマツペア知事は副知事のおそ松さんら(六つ子)に命じ、巨大な絵を描かせることにした。都知事も多かったが、副知事はもっと多かった。


六つ子は東京都庁の屋上へのぼり、描き上がった巨大な絵を迫り来るシン・ゴジラに見せつけた。


しかし六つ子は全員絵が致命的に下手だった。真ん中にシン・ゴジラを描き、その脇に「頑張れ!」と励ましのメッセージを添えたその巨大画は、一瞬にして業火に焼き尽くされた。その中央に描かれた黒い塊が自分ではなく、普段からその人気に激しい嫉妬を覚えていたくまモン頑張れ絵にしか見えなかったからである。シン・ゴジラは嫉妬深い奴だった。


ほうほうの体で逃げ帰ってきた副知事一行を見て、シン・ゴジラの目をスマホから逸らさせるのが難しいと判断したタカマツペア知事は、スマホにスクープ記事を流すことでシン・ゴジラのゲームプレイを妨害する作戦を思いついた。


タカマツペア知事は六つ子にネットニュースを調べさせ、シン・ゴジラにLINEで友達申請させた上で文春砲(モスラとキングギドラのゲス不倫記事)を送りつけた。なぜシン・ゴジラが安易に見ず知らずの六つ子からの友達申請を受け入れたかは謎である。


スマホから衝撃の通知を受けたシン・ゴジラは明らかにびっくりぽんな様子で、まるで保育園落ちた日本死ね、という感じの表情を浮かべた。シン・ゴジラが保育園に落ちたのは、制度の問題ではなく彼が大きすぎたからだ。


しかし同じ怪獣とはいえ、しょせんは他人事。すぐにショックから立ち直ったシン・ゴジラは、六つ子に「センテンススプリング!」と謎の返信をすると、まもなくポケモンGOに戻り、再びそこらじゅうに火を噴きはじめたのであった。シン・ゴジラは近ごろ、スピードラーニングで英語を学びはじめたところなのだ。最近ではパナマ文書くらいまでなら英語で読めるようになった。


一方で攻略プランを見失った六つ子副知事はすっかりヤケになり、あらゆるニュースをシン・ゴジラのLINEに送りつけることにした。


しかしそのやけっぱちが奇跡を起こしたのである。シン・ゴジラが如実に反応を示したのは、意外にもSMAP解散を伝えるスクープ記事であった。このニュースを確認した直後、シン・ゴジラがスマホを持った腕をだらりと下げ、何かを思い出すような遠い目になったのである。


「よし、今がチャンスだわ。奴にあれを送りつけてやるのよ!」


タカマツペア知事の指示により、おそ松さんらがシン・ゴジラに動画を送りつける。するとその動画を開いたシン・ゴジラのスマホからピコピコと軽快な電子音が流れ出し、彼は珍妙なダンスを初めると、その流れで東京タワーをポンと引っこ抜いて東京ドームにズブリと突き刺した。ジャイアンツファンの聖地巡礼先が、そして東京都の誇るレガシーが、一瞬にして破壊された瞬間である。被害は甚大であった。


「なにやってんの! PPのほうのAPじゃなくてSMのほうのAPよ!」


六つ子はSMAPの動画と間違えてPPAPの動画をシン・ゴジラに送りつけてしまったのだった。シン・ゴジラの中では、東京タワーがペンで東京ドームがアッポーもしくはパイナッポーであるらしいことがわかった。


まもなく新たに六つ子の送った動画が開かれ、シン・ゴジラのスマホからSMAPの曲が流れはじめた。曲は彼らの代表曲「世界に一つだけの花」であった。やがてシン・ゴジラの目からひと粒の涙がこぼれ落ちた。


シン・ゴジラは、どうやらこの曲にとても感情移入しているようだった。ひょっとすると彼もまた、自分を「世界に一つだけの花」であると、誰かに認めてほしかったのかもしれない。得体の知れぬ怪獣でもAIでもなく、ちゃんとした名前を持った固有の存在であるということを。


そんなシン・ゴジラの気持ちを理解したタカマツペア知事が、拡声器で優しく呼びかけた。


「君の名は。。。」


今こそ彼にその真の名を訊く時だ。そしてシン・ゴジラは想定外のドヤ顔で答えた。


「斎藤さんだぞ」


シン・ゴジラは意外と普通の名字を持っていた。フルネームは斎藤真悟である。斎藤真悟は「世界に一つだけの花」を口ずさみながら、静かに東京湾へ帰っていった。


この茶番劇は、もちろんテレビやネットを通じて世界中へと配信された。この映像を目撃したおかげで、日本をはじめ他国を一切信頼できなくなったイギリス国民がEU離脱を決意したとも言われている。当然国内でもその失望感は大きく、日銀は都民ファーストで大規模なマイナス金利政策を行うことを即座に発表した。


だがとにかく平和は保たれた。東京タワーが東京ドームに突き刺さったおかげで、東京スカイツリーへの観光客が増加するかと思いきや、むしろ東京ドーム(feat. 東京タワー)への観光客が増えているという。


「いっぺんに名所が二つも観れていいわ」と、はとバスツアー観光客もご満悦のご様子。



《新語・流行語大賞候補語一覧》

アスリートファースト/新しい判断/歩きスマホ/EU離脱/AI/おそ松さん/神ってる/君の名は。/くまモン頑張れ絵/ゲス不倫/斎藤さんだぞ/ジカ熱/シン・ゴジラ/SMAP解散/聖地巡礼/センテンススプリング/タカマツペア/都民ファースト/トランプ現象/パナマ文書/びっくりぽん/文春砲/PPAP/保育園落ちた日本死ね/(僕の)アモーレ/ポケモンGO/マイナス金利/民泊/盛り土/レガシー

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