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おばさんクエスト  作者: 如月天音
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二七 別れ

 話はすぐに決まった。

 ナゴォをはじめ、村の人々はお別れパーティーを開いてくれた。

 送別会が飲む口実なのは、どこの世界も変わらないらしい。馬男羊男タヌキ男の三馬鹿トリオも参加して、ぐでんぐでんになっていた。

 別れの朝は切ない。

 ほとんどの人が二日酔いで姿を見せない早朝で、ナゴォ夫妻が見送ってくれた。

「お世話になりました。ナゴォさん達には、本当に親切にしていただいて……それなのに、なんのお返しもできないのが心苦しいのですが、せめてこれを……」

 杏子は深々と頭を下げて、巾着袋から取り分けておいた銀貨を差しだす。

「いやいや、とんでもないよぉ」

 ナゴォは焦ったように首を振った。

「ワシらはぁ、なんもしとらんしぃ」

「とんでもありません! 右も左もわからないわたし達に、なんでも教えてくださったばかりでなく、宿泊や食事までいただいて、こんなものでは、とても足りません……」

 そこで思いだして、リュックの脇ポケットから着火のカードを二枚抜きだした。銀貨と重ねて、ナゴォの手に押しつける。

「このカード、破ると簡単に火がつくんです。ナゴォさんには必要ないものでしょうが、ほかに差し上げられるような物もありませんので……」

 ナゴォは目を丸くしてカードを見た。

「ほうぅ。魔法のカードですかぁ。これはまた、珍しいものをぉ……いやぁ、マレビトさんがお二人も一度に現れてくれただけでぇ、このハジュメ村が、マレビト産地の一番と世に知られたらぁ、充分ですがぁ……」

「いえ。ぜひ、ぜひ! 受け取ってください! そうでないと、わたしの気がすみません」

 傍らで圭太があくびをかみ殺す。挨拶が長いとでも思っているのだろう。顔を歪めているのは、着火のカードを渡したからだろうか。

 でもナゴォ夫妻には本当に世話になったのだから、お礼としては少なすぎるくらいだ。

 ナゴォ夫妻は顔を見合わせてから、杏子に深々とお辞儀した。

「ありがとうぅ、キョーコーさん……あんたがたのことはぁ、決して忘れんよぉ」

 そのとたん、二人の顔の前に光が射す。『感謝の水晶』だ。二つもある。夫妻は揃って水晶をつまみ取り、杏子へ差しだした。

「お礼と言っちゃあなんだがぁ、ワシらの本物の感謝を、受け取ってくれるかぁ?」

「あ、ありがとうございます!」

 感謝の水晶はナゴォ達が持っていても役にたたない。必要なのはマレビトだけだ。

 杏子は有難く受け取って、巾着袋にしまった。財布ではなく〈多幸運〉の袋である。似たような材質なのか、触れ合う音は同じに聞こえる。けれど手で触れば形が全然違うから、間違える心配はない。

 それからナゴォ夫妻は圭太に微笑んだ。

「お嬢ちゃんもぉ、ありがとうなぁ。可愛らしゅうてぇ、おるだけで楽しかったよぉ」

 二人の顔の前が再度光り、圭太への『感謝の水晶』が出現する。

──この人達って、なんて心が優しいの!

 杏子は感動した。

 いつも仏頂面で口もきかない思春期の男の子。母親の自分ですらときどき苛つくほどの態度だった圭太に、心から感謝してくれるなんて、信じられない。

 圭太はぼそぼそと礼らしきことを呟いて、水晶を受け取った。見るからに興味のなさそうな顔だ。たぶん杏子が睨んでいるから受け取ったに違いない。

それでもいい。

 感謝の水晶は一枚だって無駄にできないのだ。

杏子は何度も頭を下げて、ナゴォ夫妻に別れを告げる。

馬車のところには、ニータが来ていた。

あんなに仲良くしていたのに、圭太はなにも言わない。杏子が促しても、不機嫌顔のままでぷいと横を向いてしまう。

──本当にもう! 男の子って、こういうとき、なんでちゃんとできないの?

 はきはき挨拶するだけでも、他人からの印象は全然違う。ニータに良い印象を残したくないのだろうか。

 せめてもの気持ちで、杏子は精一杯優しく微笑んだ。ニータの目がみるみる潤む。

「キ、キョーコーさん……あたし……あたし……」

「ニータちゃん、ありがとう。圭太と仲良くしてくれて。絶対に忘れない」

 握手のつもりで片手をだすと、ニータは両手で握ってきた。両手でも包めないほど杏子の手は大きい。この不思議さにはなかなか慣れない。

 もう片方の手をニータの頭の後ろに回すと、てのひらにすっぽりと納まってしまう。ふわふわキツネ耳が触れて、くすぐったくて心地良い。

 ニータも一瞬、気持ち良さそうに頭を預けてきた。

 それからはっとしたように頭を起こし、涙を振り払って走り去る。

 その背とふっさりした尻尾を見送って、圭太へと注意した。

「もう。どうしてちゃんと挨拶しないの。いいの? ニータちゃんとは、もう二度と会えないかもしれないんだよ?」

「るっせーなー。いーんだよ。どーせ……」

 最後のほうは口の中に消えて、よく聞こえない。

 杏子は訊き返すのをやめた。

 理解できないが、男の子とはきっとこういうものなのだろう。別れとか、涙とか、好きとか、恋とか、女の子が大切にするもののすべてが、気恥ずかしいのだ。

──素直って、大事だと思うんだけどなあ……

 若いころ、女の子は素直がいいと散々言われた。けれど、男の子だって素直なほうがいいと、杏子は思う。

 それは間違いなのだろうか。


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