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前編 七人会議

 横長の卓を七人の人物が囲んでいた。上座に一人の少女が座り、その両側に三人ずつが向き合っている。国主である忍頭領と、その補佐たる六忍衆の面々だ。

 この面子が揃うのは国の根幹にかかわる重大な決定を下す時だった。


「改めて状況の説明を」


 若き国主の少女――弦月げんげつウロガミ――の左手の兄、オトガミが尋ねた。彼の隣にいる霧雨カグラは横目でオトガミを見てから口を開いた。


「侵入者の報せを受けたウチは鎮守の森に確認に行った。ここまでは皆知っとると思う。

 鎮守の森の東端付近で異臭がしたんや。妙な光もあって、ウチらはそこへ向かった。そしたらでっかい扉があったんや」


 記憶を辿りながら話を進めていくカグラを他の六忍衆は表情を動かさずに見詰めていた。


「扉の向こうはでっかい家やった。石の家で、奥に人がおった。おったけど、戸はほとんど閉まっとったから姿は見えんかった。そこに変なんが走ってきてな、扉に飛び込もうとしたんよ。けど入れんかった。やから、ウチらが拘束して連れてきた。

 今はオウルのとこにおるんやな?」


 一息に語り終えると、救いを求めるように対面の男に水を向ける。

 楡ヶ森(にれがもり)オウルは腕の代わりに生えた翼を器用に使って眼鏡を押し上げると静かにうなずいた。


「左様。カグラさんのおっしゃる通りです。もっとも、鶯宿おうしゅくさんが観察てくださっているというのが的確でしょうが」


 ククッと笑いを零し肩を揺らす。この男だけはこの状況を楽しんでいるようだった。


「観察が終わればあの『被検体』を解剖ひらいても良いのですよね?」


 オウルの問いかけにウロガミが首を縦に振った。

 彼女の決定はこの場で絶対的な力を持つ。それを良く思わない者もあったが、逆らおうと行動に出る者はなかった。


「闇医者、調子に乗って帰った途端にさばくなよ」


 誰からともなく野次が飛び、オウルは「わかっています」と笑った。


「カグラの話したことが全て事実であった場合、千年の昔より外敵から守ってきた鎮守の森を侵されたことになる。これは由々しき事態だ。

 今後の対応はどうするべきか。意見を募りたい」


 オトガミが全員の顔を見まわして挙手を待つ。しかし、全員が他者の発言を待って沈黙した。


「前代未聞の事態で判断が付きかねるのはわかる。だが、意見が出ないと時間の浪費になるだけだ。些細なことでいい。意見を……」

「……オトガミ様は、オトガミ様はどう思っとるん?」


 蚊の鳴くような声でカグラが尋ねた。全員の注目が二人に集まる。

 オトガミはカグラを一瞥すると口を開いた。その言葉を遮るようにノックが響いた。


「お取り込み中失礼します。オウル様のお宅にいる捕虜が逃走を図りました」


 扉越しの上忍の声で室内に緊張が走る。先ほどまで不敵な笑みを浮かべていたオウルがスッと青ざめて席を立った。


「申し訳ないが、私はこれで失礼します。

 ……君、詳しいことを教えてください」


 引き留める間もなくオウルは部屋を飛び出し、主を失った椅子だけが寂しげに残された。


「あれでいて愛妻家だから困るな」


 一人の言葉に乾いた笑いが起きる。

 そんな中カグラも席を立った。


「オウルんとこにあれを預けたんはウチの判断や。なんかあったらウチが責任とらな……」

「上の空でいられても迷惑だからな。行ってこい」


 ウロガミの表情を窺ったオトガミが渋々許可を出した。カグラは深く頭を下げるとオウルの姿を探して外へ飛び出した。

 そこに人影はなく、遠くの空に鳥の姿があるばかりだった。


「あのアホ……飛びよったんか」


 呆然と呟き、カグラは駆け出した。

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