里へ
かっぽかっぽ。
3日前に通った道を、馬車で反対に戻る。今回は途中で馬を置いていくので、土で作ったゴーレム馬だ。
ミモザの森の最寄りまできたら、ゴーレム馬を土に戻し、馬車を草原に沈めた。
「非常識な魔法でス…。」
半目で馬車の消えた草原を眺めるヨッカ。
「ふつつかものですが、よろしくお願いしタいです!」
キラキラした瞳でウルドに詰め寄るナッカさんという名のデレフ。デレ過ぎだけど。いやデレ過ぎだからデレフなんだけど。
「近い、近いですナッカさん。」
ナッカさんを宥めて、森へ入る。この森は広い。数百キロメトルを超えて四方に広がり、百メトルを超える上層植生と、何重にも重なった下層植生が、鬱蒼と生え茂っている。分け入って行くにも一苦労だ。
「どう?」
「まあ、怪しい生き物はいないね。」
アルにウルドが答える。
使役している魔法生物に探索させているのだろう。
「ヨッカ、どの辺りまで行けば連絡できそう?」
部外者が里の正確な場所を把握するのは拙いので、連絡可能な場所まで行くことになっている。
ヨッカとナッカは里まで案内する気だったが、さすがにそれはまず里の大人の意見を聞いてからだ。
「森の真ん中辺りまで行けば可能でス。」
「じゃあ、行こうか。」
目の前の植生が割れる。
「え?え?」
「ふふふ。素材を傷つけず、変形させるのは食材収集の基本だからね!」
「末永く、よろしくお願いしタいです!」
「近い、近いですよナッカさん。」
進んだそばから元に戻っていく植生を見て、ヨッカは呟く。
「料理関係ないシ…。」
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その後何事もなく、無事里と連絡がとれる。
ずいぶんと向こうの対応が恐縮していたが、アルと従者たちは里に歓迎されることになった。
「何事もなくないでス。」
「どうしたのヨッカ?」
「一直線に森に穴を開けて、飛んで行くとは聞いてませんでシたけどね!」
「早かったでしょ?」
「速かったでスよ!目の前数十ミリメトルに迫ってくる障害物はなかなか迫力がありましたけどね!」
「とはいえ、森の上を飛ぶ訳にもね。森の外から監視されてたら、気付かれちゃうし。」
「ぐぬぬ…。」
「ヨッカ!ナッカ!」
里の入り口まで近づくと、青年が走ってくる。
気づいたナッカとヨッカも走り出す。
「マッカ!無事だっタのね!」
無事を喜び合う三人。
うんうんと頷くアル。
「はあー、心配したぜ2人とモ。戻ってこないから探しに出ようとしたんだが、今回の襲撃があまりに特殊だったんで、ジジイが危険視してな。里中厳戒体制になって出られなくなったんだわ。」
「里長と呼べ。ヒヨッコが。」
老エルフが近づいてくると、ウルドとソフィがアルの後ろに控える。
老エルフはアルに向き直ると、
「ロンドベルンの姫、アルファリーゼ様。里の者を助けて頂いて、言葉もありませぬ。それと…私人として、孫の命の恩人に、何をおいても報いるつもりですじゃ。」
「この身には王位継承権もありませんので、姫は遠慮させてください。報いとしては、そのお言葉で十分です。ですが、脅威が去ったわけではありません。そちらのお話を、これからさせて下さい。」
「では、こちらへ。」
こうしてアルたちは、エルフの里に入ったのだった。
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幕内
「ああああれがファイアスノー家の双子!」
「やべぇ!あれはアカン!アカンて!」
「儂足震えたわー。マジ怖えーわー。」
アル一行の特別扱いと下へ置かない対応は、昔の双子の所業によるものです。
特に事情を知っている纏め役は、裏で戦々恐々としています。
このエピソードは、少々お待ちいただけると幸いです。