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エルフの請願

「王族、でスか…。」


「そうそう、お隣の国のね、ロンドベルンっていうんだけど、其処の女王様の、七番目の娘なのよー。」


アルはそう軽い感じで自分の事を紹介する。


「ロンドベルン……。古い王国でスね。何でも貴族が居ないとか。」


「そうねー。色んな種族が集まって、氏族ってのを作って、王様を中心に纏まってる国だよ。種族毎に利害も様々だから大変だけど、旨くやってると思うよ。まー、色々あっても、最終的には王様が決めちゃうし、そんなゴタゴタしないかなー。」


ロンドベルン王国とは、色々な種族が七つの氏族(亜人族/妖霊族/巨人族/甲蟲族/水棲族/飛翼族/獣人族)毎に纏まり、氏族の代表が、王の直属で国家を運営している王国である。人族以外の種族が多い為、様々な種族毎の文化が発達し、また交流する事で坩堝の 様なごちゃ混ぜの文化を醸している。


隣にくっ付いて座るアルを見上げながら、ヨッカは王族には見えないな、と素直に心の中で思う。しかし口に出したのは別の事、向いに座る双子の事だった。


「そちらのお二人も、王族なのでスか?」


ソフィはにこやかに首を振って否定し、のんびりと説明する。


「うちの母親がアルの乳母だったからぁ、乳兄弟の関係で、従者をやってるのよぅ。アルがここガルネシア魔導帝国の、学園に留学したんでぇ、お伴兼護衛として付いて来てるのねぇ。」


「あとトラブルのフォロー役とかね。」


「「人のこと言える?」ぅ」


ウルドが茶化すと、声を揃えて反論が飛んでくる。ウルドは肩を竦めて目を逸らすが、ヨッカの危険察知が、しっかりと三人とも香ばしいトラブルメーカーの匂いを検知している。


(危険すぎる似た者同士…。)


「失礼なこと思ったよね?」


「べべべべ別に?!」


慌てて取り繕うが、既にアルに捕まっている。


治療という名の何か→悶絶→気絶→覚醒というループをこなして、悔しそうに呻く。


「ぐぬぬ…。文句を云いたいでスが、明らかに覚醒前より調子が良いでス…。」


「そうみたいだね。衰弱した身体も戻って来たようだし、そろそろ病人食も切り替えかな?」


ウルドがそう言って考え込む。大方、昼の献立でも考えているのだろう。上の空で楽しそうに鼻歌を歌って作り付けのキッチンに向かった。


「体調が戻って来たのなら、」


アルがにこにこと何でも無いことのように言う。


「そろそろ、事情を聞きましょうか。なに、悪い様にはしないから。」


ヨッカは一瞬逡巡したが、覚悟を決めた様に頷いて、話し始める。


「…わたシたちは里を出る場合、三人以上で行動しまス。うちの種族は希少性から、他の種族の捕獲対象になる事が多いので。」


その日も、幼馴染の青年と姉の三人で里を出たが、魔物に襲われ、追い立てられたという。本来気配や物音の察知に長けている彼らが接敵されるのは殆どないのだが、魔物は空から突然現れたらしく、接近を許してしまった。


「明らかに訓練された動きで、何者かの意図を感じたので、里から遠ざかる方向に逃げまシた。すると今度は、地上の魔物に追い立てられて、向かった先には、ヒト族の集団が待ち構えていまシた。何とか振り切ろうとしたのですが、何分私のような足手まといが居まシたので…。」


そこで、一度言葉を切り、俯く。


「幼馴染のマッカは囮に、姉のナッカは私を連れて逃げまシたが、結局また追い詰められ、途中私を隠してさらに囮になりまシた。その後何処をどう走ったか、夢中で逃げる内あの辺りまで…。」


「そう。…辛かったね。」


アルがぎゅっと抱き締める。


「そうするとぅ、里も危ないのかしらぁ?」


「どうでシょう…?我々には、遠耳という連絡手段があって、里には一度警告を入れまシた。警戒体制になっていたはずなので、そうそう見つからないと思いまスが…。」


「里から救援は出そうなの?」


「一度大きく迂回して戻ると連絡シたので、まだ出てないかも知れまセん。」


「それで、ヨッカはどうしたい?」


「私は……逸れた二人を探したいでス。足手まといな上に、何も報いる事が出来ないかもシれません。私には何の力もありまセん。…でもっ、それでも、…私はっ、お姉ちゃんとマッカを、助けたい…っ。」


アルがよしよしと慰める。


「何の力も無いわけじゃないじゃない。ちゃんとお姉ちゃんの望み通り、自分の身を守れて、逃げ果せたじゃない。」


「ぐすっ…。こんな事を頼むのは、厚かましいと解っているのでスが…。手を貸して、頂けないでしょうか?」


もちろん、子供ばかりの彼等に期待してではない。王族とその類系、その動員力に期待しての発言だった。絞り出す様に言った言葉には、その交換条件に、何を求められても答える覚悟があった。だが。


「あー。お姉さんの方は既に保護済です。お兄さんの方は目下捜索中。」


「…………えっ?」


いつの間にか窓際に移動して、黒い鳥を手に載せて遊んでいるウルドがさらっと言った。つやつやの毛並と、二本のアホ毛がとても愛らしい小鳥を撫でている。


「隣の部屋にいるけど、まだ衰弱が激しいから、話は出来ないよ。」


「…………え?」


「お兄さんの方は、見つからないんだけど、取り敢えず敵方に捕まってない事は確認してる。あとは最悪行き倒れてるか…運が良ければ里に戻れてるかかな。」


「…………ぇえええー!?」


先程の覚悟は何だったかと言う様な、情けない声が響いた。


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