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Blue Lover  作者: 花園
14/16

秘密

セラは驚いたように目を見開いては黙りこむ。

それもこれも、目の前の主人が華麗にドレスアップしたのを見たからだ。以前見た真っ赤なドレスと似たような形であるが、なにが違うといえばその色や似たような形だ。青みがかった白いドレス。腰まわりは絞って、腰から下は華やかに広がったスレンダーラインの形。彼女の癖がある髪も綺麗に結い上げられ、左耳近くに赤く映える薔薇の花が挿してあった。

「もしかして神奈が言ってた騎士ってセラのことだったの?」

「騎士?」

「私1人じゃ流石に駄目だろう、って。それにセラは私の従者だし。その聖装も格好いいよ」

笑顔でそういう彼女にセラは目を見開く。

「…さらりとそういう事を言うんだよなー…」

「?」

「なんでもない。…愛羅も、似合ってる」

「ありがとう、セラ」

照れくさそうに言うと目の前の主は先ほどよりもの笑顔を見せた。

そして次には城の照明が落ちる。

「――Ladies and gentlemen!!お待たせしました。ただいまより紅の建国祭、開催します!!」

執事である男性の声が聞こえたのをきっかけに、照明は再び眩しいくらいの輝きを取り戻す。

「それでは、我らが紅の領主であり頂点、ステラ・アリーシャ・ハイネット殿下より乾杯のお言葉とさせていただきます」

そう言った執事からマイクを受け渡されたステラは、見え易いようゲスト達の頭2つ分ほど差ができる階段から軽い咳払いをひとつ。彼女も普段のワンピース姿ではなく、真っ赤なドレスに身を包んでいた。そして一段下がった彼女の前には白い軍服を着たハイネと隼斗の姿もみえる。

「えー、堅苦しい挨拶は短めに済ませます。…今回も、この建国祭を祝える時を迎えられました。これからも紅の平和を願い、また来年、皆さんの顔を見れるように全力で尽くしていく所存です。それでは…乾杯ー!!」

高々にグラスをあげるステラを筆頭にして、次々とグラスを持ち上げたり一気にグラスの中身を飲み干すゲスト達。

パーティの始まりを知らせるかのような鐘の響きは城中に響き渡る。会場がだんだん賑やかになっていく中、愛羅はふとセラに視線を移す。

何だかんだ言いつつも、ちゃんと主である自分の事を前提に考えて行動してくれる。今回だって、紅の招待が来てからなにかに対しての哀感が見えたようで愛羅は少し気がかりでいた。しかしそれも勘違いと思いたい。そんなことを考えていた時だった。

「――見つけた」

振り返れば綺麗で長い黒髪をなびかせた女性がそこにはいた。少し猫目な鋭い瞳は愛羅…ではなく後ろのセラを見つめては足の歩調を速めていく。彼女の体に沿った黒くてシックなドレスはこれでもかという程彼女が動くたびに輝いていた。

「やっと見つけたわよセラ!全くもう…数年も見ないと思ったらこんなところにいるとはね。場所が場所ならそりゃ、見当たらないわけだ。士郎様もイタズラ好きな人だわ。分かってて隠してたのかしら?」

「これはどうも、リノア姉さん」

溜め息混じりに話す彼女に、セラは軽く会釈をする。

「…?」

「ああ、すまん愛羅。この人、俺の義姉だ。今は…」

「はじめまして愛羅様。私リノア、と申します。黄城でのメイド長を務めています。主である士郎様にも、大変お世話になっています」

そう愛羅に視線を移しながらリノアは胸に手を添え、頭を垂れてはいう。

「お姉さん…」

しかし愛羅は寝耳に水だった。従者であるにもかかわらず彼の過去は一切知らない事が多かった。そんな彼に従姉弟がいたということを知った愛羅は少しだけ安堵した。そしてそれと同時に不安の波が押し寄せた。

「でもまさか、こんなすぐに愛羅様にお会いできるなんて…とても光栄です。これほどまでに可愛らしい姫君だなんて思いもしませんでしたので」

そうリノアは笑顔で言う。先程までセラと話していたときの厳しい顔付きは剥がれ、今はまるで妹を愛でる姉のような顔付きになっていた。

「リノア姉さん。愛羅をそんな目で見るのはやめないか」

「そんな目…、ってどんな目よ!私はまだまだ、全然、マシな!方よ。姉さんたちのほうが色々とタカが外れているわ」

「思い出しただけでも鳥肌が止まらないな…」

腕を組んでぷう、と頬を膨らませるリノアにセラはどこか遠い目をする。

しかし愛羅を置いてけぼりな2人の会話はどこかエスカレートしていくかのように次へ、次へと話がそれていく。2人の空間を壊したくないと思いつつも、愛羅はセラが着ていた聖装の袖口を軽くひっぱる。

「セラ、私席を外そうか?久しぶりのお姉さんとの再会ならあまり邪魔はしたくないし」

「いや、そこまでじゃないからいい」

「おい。そこまでじゃないとは失礼な」

「でも、いくら偽りでも家族は家族だよセラ。私はバルコニーで休んでるから、終わったら呼んで」

「…分かった。じゃあ隼斗か神奈あたりに同行してもらえ」

「うん、そうする」

それでは失礼します、とドレスをつまんでリノアにお辞儀した後、愛羅は城内を巡回していた神奈を捕まえてはバルコニーまで移動した。


*


神奈に付き添ってもらいバルコニーまで出るとさらりと軽く、頬をなでる優しい夜風があたる。

「お嬢、飲み物如何です?」

「お酒はちょっと…」

「アルコールは入っていませんよ。…しかしお嬢の年齢ともなれば、成人せずとも既に立派な大人の仲間入りです」

「でもセラから見れば私はまだまだ子供だわ。4つもはなれてるもの」

「年齢は気にしないと思いますが…」

「?」

「なんでもありません」

なにか別の話をふろうとすると、隣にいた神奈が口を開く。

「それでお嬢。どうですか、セラとは」

「!?」

突拍子もないことを聞かれ、愛羅は頬を染める。そんな愛羅に神奈は顔色ひとつ変えずに首を傾げる。

「…何で?」

「いや、いくら恋人同士でも2人きりなる時間が少ないかと思いまして…。蒼にいてもあの士郎バカが邪魔してません?」

「あれ邪魔してたの…?はっ、じゃなくて…!!」

両手で顔をおさえて唸る愛羅に神奈はにこり、と微笑む。

「今日の彼も一段と凛々しい格好してましたし…褒めてあげました?」

「うん…。でも、でもね」

「はい?」

「ここにいる女性も同じこと考えてるんだろうなー、って。…セラは魅力的だから、私が隣にいてもいいのかな?って思う時が時々…ものすごいあるの」

「お嬢は魅力的ですよ。蒼を統べる立場だからだとか、そういうのではなく、1人の女性として」

「そう…?そうかな?」

「はい」

「…神奈が男性だったら、私惚れてたかもしれない」

「それは素敵な…じゃない。セラに怒られますよ」

へへっと笑う愛羅に、神奈は苦笑する。

「お嬢」

「何?」

「お嬢は今、幸せですか?」

「…どうしたの急に」

「いえちょっと…」

口ごもる神奈に愛羅は首を傾げる。

「えっと……幸せだよ、私。従兄さんや神奈がいて、紅にくればステラ達にも会える。それに、隣にはいつもセラがいる。幸せだよ…?」

「お嬢の両親がいずとも、ですか?」

「……」

「失礼ではありましたが、ステラ様、紅の家族を見つめていたお嬢の瞳はなんだか……悲しそうでありました」

「……そっか。まだ引きづってるのかな、私。…正直言うとね?両親に囲まれていたステラが、少し羨ましかったなー、なんて」

ふっ、と溜息をこぼすと胸の中に潜めていた感情がうごめいて、今にも吐き出しそうになる。それと同時にか、優しかった夜風もなんだか強い音を出して濃紺な夜景が恐れるほどになる。

「やっぱり。やっぱりどこかまだ…私…父様と母様を、忘れずにいて…っ」

目頭が熱くなり、頬にはあたたかいものが伝う。それはほろほろと出て止まらず、自分では制御できない。

「…お嬢!すみません、私…っ」

「いいのいいのっ。大丈夫……大丈夫だよ?」





愛羅を見送ったリノアは、セラを見ては同情の溜息を吐き、彼の肩に肘をかける。どこか笑い声が漏れてきそうな口で。

「関係上の立場も大変ですこと。なに?愛羅、なんてタメで呼んでるの?まーセラも偉くなったことで」

「リノア姉さん、それ以上言ったら退場させるぞ」

「口の悪さもいつからそうなったことやら…私含めて他の兄さん姉さん達もさぞ心配するわよ」

「身近に変態がいたんでな…注意してるうちに自然とこうなった」

「そう。なら仕方ないわね」

最後のに関してはあっさりと納得して体を放す義姉にセラは冷や汗を覚える。なぜなら口調に関しては変態、つまり士郎も関わっているが、ほとんどが自然でこうなったという事をセラ以外、誰も知らないからだ。そして次には関係ないかのように話をふられる。

「それで、治ったの?」

「…この顔をみてそう思うか?」

「いや全然?…今の生活で満足しているなら、昔の嫌な事は早く忘れるのよ。いくら今ここにいるのが“生まれ故郷”でもね」

厳しい義姉の瞳はこれまで以上のものだった。





「ごめんなさい、セラ」

「どうした急に…」

突然謝罪をする神奈にセラは半歩さがる。自分がなにか彼女に対して誤解を解いてほしいものでもあったか。頭の中にある記憶すべてをフル稼働させたが心当たりは何一つない。

「お嬢に…蒼の先代の話を切り出してしまったの」

「……なんとなく。なんとなく言いたい事は分かった」

「というか、君がそんなに愛羅を追い込むなんて珍しい」

傍にいた士郎も驚いたように口を開く。

「軽はずみな事で聞いちゃいけないって事は分かっていたわ。…でも、見ていて辛かった」

「分かったから。後は俺がどうにかする」

そう言ってきびすを返し、バルコニーに向かったセラを見つめては士郎は尋ねる。

「神奈」

「何」

「愛羅もそうだけど…外の様子はどうだった」

「外?……ひとつあげれば風の音が五月蝿い、くらいかしら。で、何」

「いやぁ、もしかしたら愛羅の心境にあわせてこの地が変化してきているんじゃないかと…。いや、なわけないか」

たはは、と笑顔で何かをごまかす士郎に神奈は眉間にしわを寄せた。


*


バルコニーの扉を開くと、目の前には愛する主が風の吹くままにまかせてドレスの裾をひらりひらりと舞わせる。優しかった夜風もいまは音をたて、挿してあった薔薇飾りは抜いてあり愛羅の手の中だ。藍色な夜の背景に白いドレスは美しく映え、手につけがたい高嶺の花の印象も与えられる。

次に扉の音に気づいては、ゆっくりと彼女は振り向く。頬にはパールのように透明で美しい、今もまだ溢れ出る涙が伝っていた。

「セラ、私、いつからこんなに子供だったかな…。父様たちの事を考えるだけで涙が止まらないことくらい分かってたのにね?さっき神奈に言われて気づいた。私って、大人になれない子供なんだって。愛する民も、私の私情を挟めば今はなんだか歪んで見える」

おかしいね、と言う主にセラは言葉が詰まる。


「愛羅…」

「羨ましいとも思った。憎いとも思った。家族から愛され祝福され、いつかくる別れの時まで大切に、大事にされて育んでいく。…そんな当たり前のことが少し、羨ましい…」

「愛羅、人は生まれれば死へと向かって生きていく。それに、お前だけがそんなに悲しい運命を背負っているわけじゃない。俺だって似たようなものだ」

ぬぐってもぬぐっても、次から次へと溢れ出る彼女の涙にセラの心はひどくぐらつく。

「…でも、私」

「俺は、この城で地獄をみたけどな」

「…今なん、て」

「俺はこの紅城で生まれ、孤児になった後に先代のラグナスに拾われたんだ」

そう言ったセラに、目の前の主は大きく目を見開く。突然すぎたその発言に愛羅は言葉を発せなくなる。

息を吐きながら手すりにつかまると、考え込むように宙を見つめた。

「さて、どこから話すか……」


* * *


あか、赤、アカ――。

それは彼にとって、少しのトラウマを思い出すこととなる。


ある3国のうちの1つ、紅の国。3国と分け隔たれた今現在でも1日でも長く、自分達の歴を繋いでいくために歴代の王は日々『跡継ぎ』という名の道具を造るのに忙しい。それこそ他2国とは違い一夫多妻制といものが多く、城に通いつめた女性の数なんて記憶するのが億劫になるほどだった。

そしてそんな紅を当時統べていたのが、ガント・ヘルツ・ハイネット。

傲慢で高飛車、自分を棚に上げて周りを一瞥しては、自分より身分の低い者に関しては容赦ない扱いをする。そんな男でも、年月が経ち、年老いていけば焦りを覚え、周りに救いを求めようとする。

跡継ぎに関しては正妻がいてもいなくても関係なく、ただ『跡継ぎ』という『子道具』が欲しいだけに彼は何人もの女性を自分の寝室に招く。相手の女性たちも、王の血脈が流れる子を自分の子にできるのなら、と後を絶えないのだった。最早隠し子なんてものは関係ない。

そんな中跡継ぎ候補の子は山ほど生まれ、遂には手がつけられないほどとなっていた。


誰があの王の後を継ぐのか?

私はいやよ。

俺はお前たちに任せる。

末に近い自分達がなるなんておこがましいよ。


月日は経ち、紅の王がいなくなった後は数年もの間王の席を空白にし、子らはただ遠慮するだけで経っていくだけ。

当時兄や姉達の難しい会話にはついて行けず、ただ生みの親である母親の傍にいるしか出来なかった少年は言う。

なぜそんなに拒むの? と。

そんな少年の言葉に兄や姉達は教える。


あんな者は父親ではない。

私たちをただの道具としか思っていなかった。

だから継ぐ必要もないのだ。

だから私たちは、その醜い王の子というのを隠し、これからを醜く生きなければいけない。


兄や姉達の言葉は理解できそうで理解できない。それはまだ少年が4つの時であった。


*


自分の子が王位に即位できない事を知ってからか、母親の態度は急変していった。約束された未来は消え、現に苦しくなっていく生活に耐え切れないという母親の怒りの矛先は、次第に少年へと向く。


あなたでなくとも他の子が就けば、私は今頃優雅で楽しい生活を送れていた。

昔のような貧困な生活から抜けさせると思っていたのに。

あなたのせいよ、あなた“達”の。子供は大人しく親の言う事を素直に聞いていればよかったものを…。

ああ、そうだ。王に似た、珍しいあなたの赤毛を売れば、少しは金の足しになるかしら?


そして幸せだった家庭は呆気なく壊れ、愛する母親からは見捨てられた。少年は汚れた道へと進むようになり、次第にはこう誓う。

自分の人生は自分だけが決める。他人からとやかく言われる筋合いはない。汚く、ずる賢く、自分のためなら相手なんて構うものか。

自分が生きていけるなら、それでいい――。

しかしそんな少年の意思は呆気なく崩れ、次第に少年の心には希望という名の光が注ぎ込まれる。


君、うちに来るかい?確かちょうど、従者の席が空いていたんだ。


大きくごつごつとしたような手に骨太で頑丈そうな指先。いかにも高位な身なりにがっしりと恰幅がいい体つきの男。巨躯な体とは真逆に、優しそうな瞳は少年を見つめては嬉しそうに細める。


当時の蒼の王、ラグナス・ハートフィールにそう言われた少年は、ただ頷くだけだった。



* * *


「…セラは、王の血筋をもつ家庭で生まれたの?だから、紅の招待がきた時も浮かない顔をしていたの…?」

「いくら母親が俺に優しかったとしても、それは父親が生きていた時で、継承をするであろうと思っていたからだ。それが当時兄さんや姉さん達のボイコットによって母親は壊れ、俺を捨てた」

「それじゃあ…ステラとセラは親戚という…?」

「いや、それは少し違う。現在の紅領主、ステラ殿下の父親と俺達先々代の子らは血は繋がっていない」

「つまりは…?」

話がややこしくなるような話に愛羅の頭はパンクしそうになる。

「ステラ殿下の父親は養子だ。俺含めた先々代の子らは最後まで紅を継がず、3国どこかしらに就いては今を生活している。…だから紅の血筋は一度絶え、そこからまた新たな血筋で続いていっている」

「養子…。なんで継がなかったの?」

「さあ?俺は『残虐非道な父とも思えぬ人の跡を継ぎたくない』という兄さん姉さん達の意見に従うしか、その時は頭がまわらなかった」

「ステラは知っているの…?」

「先々代の子が沢山いると知っていても、その中の1人が俺とは知るまい。…まあ、いずれは話さなくてはいけないだろうがな」

さらさらと説明する従者の話を聞いては、愛羅はひとつの疑問をうかべる。

「ちょっと待って…。先々代様って確か寿命よね?…寿命にしては60近い若さで亡くなったとかなんとか…。セラ本当に20代…?」

「初めて聞いたらもう三十路かそれ以上あたりいってるような話だもんな。でも違う。俺はまだ若い方だ。一番歳くってる兄姉たちだったら40近くだが」

「よ…!?」

昔の考えをもつ人達はよく分からない。というかもう、何もかも理解できないくらいの話に愛羅はただ口をぽかんと開けていることしか出来ない。

「紅の先々代様って女タラシなの…?」

「否定も出来ないな」

ふっ、と溜息をこぼす従者に愛羅は何も言えずそのまま従者を見つめ返すことしか出来ない。そんな主の視線を感じてか、セラは話を戻す。

「しかし、戦がなくなり以前のような後継者争いがある家庭の醜い事もなくなった今のほうがよほど心地がいい。愛羅はそういう問題がなかったから良かったが、大抵の高貴な家庭はこんなものだ」

「…そうなんだ」

従者の話を聞いてから胸の音がうるさい。それも突然の彼の過去話に、愛羅は視線を下におとす。

自分より、彼の人生のほうが波乱に満ちていた。両親から愛されず育ったと父親から聞いたが、そんなことはない。短いひと時ではあったが、彼も母親から愛された生活を送っていた。そう気づけただけで愛羅は心のどこか満ち足りていた。

「よかった…」

「愛羅?」

次第に力は抜け、愛羅はセラの胸に体を預けるように崩れる。

「ひどい人生を送ってきたとばかり聞いていたから…。少しでも、セラに幸せな時間があってよかったって、本当に…」

「愛羅は優しいから、一喜一憂してはその相手に歩み寄る。ましてや俺の過去なんて聞かせたら、お前は絶対に悲しい顔しかしないと思って話さないでいた」

「でも、私は話してくれて嬉しい。セラの過去が聞けて、今までどんな事を思って今日まで生きてきたか…。それが、私は嬉しい」

笑顔で微笑む主の頭を撫でてはぽろりとこぼす。

「全く敵わないな…愛羅には」

「?」

首をかしげているとセラは愛羅の頬に手を添える。

「涙の腫れもひいたみたいだし、戻るか愛羅」

「…!もしかして私の涙を止めるためにセラは昔の苦い思い出を話したの?」

「家庭の話を持ち出されたら、他に何話しても止まらないと思ったからな。自分の過去を晒した方が早いかと思った」

「セラは…変なところで律儀だね?」

「不真面目よりいいだろう」

そうだね、と相づちをうつ主にセラは同じような会話を思い出してはデジャブを感じた。



「で。他に隠していることはないの士郎?」

「ほひゃに(他に)?ほうはいっひぇひっふぇるひゃふぁいふぁ(もう無いって言ってるじゃないか)!!」

「…どうしたの神奈?」

賑やかな城内へと戻れば、いつも主人に厳しい従者はこれまで以上の厳しい顔をしていた。

彼女は士郎の頬をつまみ引っ張り、士郎は彼女の背にあわせ中腰になりながら痛みに悶えていた。

「あぁ、お嬢。いえちょっと、士郎がもったいぶって知ってること吐かないものですからこう…」

「いひゃいいひゃい(痛い痛い)!!」

そう言っては先程よりも強い力で頬を伸ばす神奈に士郎は悲鳴を上げる。

もういいだろう、と次に神奈は思い切り「ぱっ」と手を放す。そしてやっと解放された士郎は赤く腫れた頬を両手でさすっては呻く。

「まったく神奈は手加減というものを知らない…」

「話さない士郎が悪い」

「えっとつまり…なんの話ですか?」

いまいち話が見えない愛羅に士郎は説明する。

「ん?セラがこの紅城出身なのと、愛羅のからだの変化について…」

「おい、下世話な話は余所でやれ」

「あー!?そういう意味で言ったんじゃないからねぇ!?厭らしいなぁ、セラ君は!!」

「そういう考えにもっていくお前が変態だろうが、あぁ?」

愛羅を自分の後ろに隠し士郎を半目で睨みつけるセラに、それに対抗するかのように声を荒げる士郎。話が分からず首を傾げる愛羅に神奈は「深く追究しなくていい」という事を伝える。

「野郎2人は置いといて、人目がある場所じゃ話しにくいことなので、どこか人気が無い場所に移動した方がいいです。お嬢、少しいいですか?」

「う、うん」


*


「男はいつでも獣ですからねお嬢。気をつけてもらわないと」

「…セラもそうなの?というか獣って…どういう」

「今は多分…なくともそのうち……いえなんでもないです。話を戻します」

こほん、と軽い咳払いをした後、神奈は愛羅を見つめては口を開く。

場所はとある一室の部屋にすぎないが、広すぎて少し落ち着かない豪華なつくりに愛羅たちは感嘆する。これはステラの計らいである。自分はまだ挨拶していない人達が~、と部屋に案内しては飛んでいくように部屋をでていき、替わりに部屋の外には隼斗が待機してもらっている。紅の建国祭なだけあって色々と忙しそうだ。そして真向かいに座る愛羅を見つめては、神奈は本題に入る。

「まだ保留と聞きましたが、『白帝』の継承はほぼお嬢になるという話について士郎から聞きました。それで、どうやら継承される人物にはそれぞれ自身の体やこの地に変化が起こる、と言われているらしいです」

「変化…?」

「現に、私がお嬢の両親の話を持ち上げてお嬢の感情が揺らぎましたよね?そのお嬢の感情がシンクロするかの様にこの地が揺らめいたんです」

「風が強くなったり、木々が騒がしかったり…?」

「そうです」

神奈に言われた通り、確かにあの時は感情が高ぶっていて、優しかった夜風もどこか強かった気がする。

しかし自身の体については何の変化もみえない。

「それで。その『変化』とやらで愛羅の身体に支障を起こすようなことは無いのか?」

愛羅の後ろに控えていたセラが尋ねる。そんな彼の質問には士郎が答える。

「ああ、そっちの方は大丈夫らしい。でも地のほうは白帝になるその人物の【負】の感情によって、国を滅ぼしかねない自体を起こすかもしれない…、らしい」

しかしそんなどこか曖昧で話す士郎をセラは睨みつける。

「だからその現象を起こさないための『白帝』が統べる場所が、3国の中枢部にある“あの”場所だ。愛羅も知ってるだろう?ひとつの城しかない小さなあの場所を。あそこなら不思議と地への影響はなくなる」

「は、はい…。でも従兄さん、私はまだ蒼のことがいっぱいで継承する準備はできてません」

「そう言うと思ったからね?兄さんは準備済みよ!!」

「…え??」

嫌な予感がする。愛羅の言葉は発する前に不気味な笑みの従兄に遮らた。

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