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Blue Lover  作者: 花園
12/16

いざ紅城へ

蔦の絡まる赤みがかったレンガ造りの西洋建築は、よくいえば文化財的な価値を持った豪邸。悪くいえば朽ち果てつつある過去の遺物のようだ。それでいて更に城の評価が高くつく。そんな目の前に聳え立つ建物を前に1組の従兄妹は溜息をつく。

「うわぁ…いつ見ても立派なお城なことで…」

「感服しますよねぇ…」

数時間の馬車移動からやっと解放された愛羅たち一行。紅の国城門前では門番らしき赤い服を身に纏った衛兵達に招待状の事前訪問の事を伝えると、了承したかのように城の中に通された。そして何故か、その兵達は眩しいほどの熱い視線をセラに向けていた。その視線の意味には気づけず愛羅はそのまま素通りする。

兵達から「しばしお待ちを」と言われ中の広間に通されると、なんとも言えないきらびやかな壁絵やシャンデリアの設置に『豪華』の2文字を連想させられる。奥には2階へと続く赤いカーペットが轢かれた階段とは他に、どういう造りになっているのだろうか。広間の中央には2階の外へと続くであろう白い螺旋階段もあった。そんないつまで見ていても飽きないだろう城内を見渡しているとしばらくして、どこまでも続くような螺旋階段から2人の男女が現れる。

女の方は流れるような、長く綺麗な白銀の髪に左側には片翼のような紫の髪留めがしてあった。目立つような長く赤いマントを首に巻き、先程の兵達とは確実に階級の違う事が分かる程の、紫のラインが入った白い軍服を身に纏う。

一瞬、厳しいほどに見える鋭い瞳は愛羅たちの存在に気づくやいなや、目を細くし笑顔を向けてこちらに歩き出す。するとロングスカートにはスリットが入れられていた事が分かるほどに、ちらりと艶かしいほどの太ももが見え、それに伴って長い髪とマントがさらりと揺れる。女性にしては高い身長に、大人の雰囲気をもつ彼女は恭い動作で頭を下げる。

「お待ちしていました、蒼の領主愛羅様に、黄の領主士郎様。そして同士の従者殿。我れら紅の者共、お待ちしておりました」

低く、それでもガラスのように透きとおった声は愛羅たちを歓迎する。

「ハイネも…お久しぶりです。私の戴冠式以来でしたか?」

「そうですね。…愛羅様?いつぞや私と交わした『敬語は使わない』というお約束はお忘れでしょうか?貴女は私よりも幾分身分が上であるゆえ、その様な敬語はとってもらって構いません」

「あっ!えーと、でもっ、ハイネは私よりも大人ですし…あっ、」

あはは、と焦り顔で頬をかく愛羅に微笑むハイネと呼ばれた女性。そんな彼女は、この紅の国を治める領主の従者である。そしてもう1人。ハイネの後ろにいた男の方はある人物を認識しては嬉しそうに声を弾ませる。

「あっ!兄貴!!」

「!お前っ、」

次に反応したのは後ろに控えていたセラだった。

高身長に活発そうな元気で明るい声に自然と皆の注目はその声の主に集まる。緑がかった元気がいい茶髪にくりくりとした大きな瞳。ハイネと同じ白い軍服に緑のラインが入ったものの上から、似たような赤く、太ももまでもある赤いマントを身に纏っていた。

「あーにきー!セラの兄貴ー!」

そんな少年はセラの名を呼びながら全力で駆けて来る。そして次に大きく振りかぶっては拳を突き出す。そんな彼の手を分かっていたかのように軽々と右手で受けとめたセラに『ひゅ~』と口笛を鳴らす。

「さっすがセラ兄は違う!よっ、“赤い稲妻”!!」

「隼斗、その肩書きはやめろ…。いたい」

隼斗、とセラに呼ばれた少年に愛羅は視線を移す。しかし幼少期、紅の国を訪問してたとはいえ、見たことがない人物に首を傾げる。

「…えーと?」

「ああ。戴冠式には来ていなかったから、愛羅は初対面だったな。こいつも従者の1人で名前は隼斗。愛羅の2個下だ」

「……15歳!?」

男の成長速度は計り知れないと思い、見上げるのが辛くなってきそうな目の前の少年にまじまじと視線を移せば、彼は嬉々として口を開く。

「隼斗です!セラ兄の弟弟子やってます!宜しくお願いします、愛羅様!!」

頭に手を添えて、敬礼ポーズで話す隼斗に愛羅は疑問を浮かべる。

「弟…弟子?」

「ん…、まあ、後で話す」

どこか視線を合わせないうえに途切れで話す従者に愛羅はまたしても疑問を浮かべる。そして別の話題を振るかのように隼斗に話を振る。

「それよりお前、また背伸びたか?」

「そうなんすよ!去年だけでも6cmは伸びました!!」

「成長期は恐ろしいな…お前、俺の身長軽く越してるぞ」

「そしてセラ兄よりも年上に見えるっすかね!?」

「言ってろ、シバく」

そんな2人の会話にハイネが割り込んでくる。

「こら隼斗、毎度毎度お前はなんだ。セラ殿が優しいのをいいことに…少しは遠慮しろ」

「う…、うっす!すみません!」

そんな今までのやりとりに声をだして笑う士郎。

「いやぁ。毎度毎度、飽きなくて愉快な場所だね。」

「すみません士郎様」

「いやいや。楽しいからいいよ♪」

「ここではなんですし、部屋にご案内します。主人は只今呼んで来ます」


*


「そういえばセラ。“赤い稲妻”ってなんなの?」

愛羅の率直な言葉に、不意打ちをくらったかのようにセラは、ぶっ、と吐き出す。そんなセラに隼斗は慌てる。

「ちょっ、セラ兄汚い!えっとそれはですね愛羅様…」

「おい待て隼斗」

「セラ兄の異名でして。兄貴は格闘系が得意で幼少期たまたま休憩中だった兵と試しに手合わせしたらそりゃもう、綺麗に誇り勝ってたんですよ。そしてなぜか紅城の中で名を挙げまして、兄貴が紅に訪問する度に腕試しで挑んできた兵達をばったばったと返り討ちにしてたんですよ!そして、セラ兄の赤い髪にちなんで“赤い稲妻”。稲妻はそれ位の速さで相手をノックダウンさせたからなんですって」

頬を染め、どこかうっとり顔で話す隼斗に愛羅は驚く。

「へぇ…。だから兵達のセラへの視線が凄かったのか。ねぇセ、ラ……!?」

話を聞いた愛羅はセラに視線を戻すと、彼は両手で顔を覆いながら肩を下げていた。どこか陰気なオーラを背負っても見える。

「その名は出すな……」

「別にセラ兄自身が名乗ってた訳じゃないんですから…というか『格好いい』という反応はないんすか?」

「いや…、恥ずかしいだろその異名」

「そう?格好いいよセラ?」

「……」

そんな愛羅の言葉に益々深い溜息をだすセラ。

「あ、それで隼斗もその挑戦者?だから弟弟子なのかな?」

そう聞いた途端、はっきりものを言う隼斗の口が少しの間を置く。そしてどこか彼の明るい瞳は一瞬くすんで見えた。

「いや、俺はそれよりも前に会って。まぁ…、同じ理由ですね。セラ兄と同じ境遇だからのと、セラ兄の戦闘スタイルに惚れて紅に来たら稽古見てもらってたんです!いわゆるお師匠様ですね!!」

親に見捨てられた環境の中で育ってきたであろう幼少期――。そう語る隼斗に一瞬、愛羅は身を固める。

「……あのっ、私変な事聞いて…!!」

「ほらな愛羅。聞いたところでろくな事にならないだろ?」

「そうっすよ愛羅様!過去のことは水に流す主義ですよ!!今がよければ全て良しです!!」

「そういう事じゃなくて…っ、」

しゅん、と肩を落とす愛羅の頭を撫でるセラ。気にするなとばかりに言いたいのであろうが、聞いてしまった当の愛羅は悪い事をしてしまったと反省するばかりだった。

そんな愛羅に隼斗は元気付けるかのように言葉を添える。

「でも、今はこの生活がすっげー楽しいですよ。それもこれも全部、今の主である“ヒメ様”のお陰です」

「……健気」

眩しいほどに笑顔満開で言う隼斗によしよし、と頭を撫でる愛羅。そんな行動に隼斗はとてもくすぐったそうに笑顔で顔を歪めた。






待合室、にしては豪華なつくりの部屋について少ししてから、扉は大きい音を立てて開いた。

目の前には綺麗な、肩まで元気にはねた金髪の少女が立っていた。綺麗なサファイアの瞳は愛羅ををとらええると、嬉しそうに目を見開く。

そしてもはや紅では当たり前かのような、彼女のトレードマークと言ってもいい、脚の関節まである真っ赤な赤いマントを揺らしながら愛羅に駆け寄ってくる。

白い無地に蒼い刺繍が施された着なれたワンピースをひらりと舞わせれば彼女は笑顔でこう言う。

「きゃぁあああ愛羅いらっしゃぁあああいっ!!!」

奇声にも近い、熱烈な歓迎声とともに愛羅に抱きついては、彼女の胸に嬉しそうに頬をすり寄せる。

「で、“殿下”…?皆が見て…」

目の前の、自分より小さな少女に愛羅はたじたじになりながら頬を染めて恥ずかしがる。

そう、この少女こそが今現在紅を統べる領主ステラ・アシーシャ・ハイネットである。

しかしそんな愛羅に『殿下』と呼ばれた少女は少しふくれ面になり、訂正を求める。

「愛羅…その呼び方はやめて?昔みたいに“ステラ”って呼んでって言っているじゃない?」

「いやでもっ、」

不満なのかステラと呼ばれた少女はますます頬を膨らませる。

「…じゃあ、愛羅の癖が治るまでこうしてる」

「主」

身動きがとれず、どうしたものかと悩んだ時入ってきたのは従者であるハイネの声だった。

「我が儘はいけません、主。一国の領主がその様であれば、民の皆に示しがつきません」

「だってステラはまだ16よ?お父様もお母様も勝手すぎるわ。ステラはまだそこまでの器じゃないのに…」

「それだけ主に期待しているのです。…さぁ本題に入りましょうか。」

こちらにどうぞ、とハイネに言われ愛羅たちは席についた。


*


「さて、と。それじゃ、今度の建国際の打ち合わせ…の前に三国帝(さんごくてい)の継承について話を進めるね」

部屋の真ん中に設置された、どでかい楕円形のテーブルを挟んで腰をおろしては、ステラは話の本題へと入る。愛羅と士郎も向かい合うようにテーブルに腰掛る。

「三国帝……」


遥か昔、まだ蒼、黄、紅と三国に分割される前の国。他国からはどういう国なのかとあまり知られていない国でもあったが、ただ1つ解っていたのは当時その王であった『フィルラ・ホワイト』という男の人物の名だけ。その男は幾たびの戦から自国を守った英雄でもあった。そこから、彼の名前からとって『ホワイト帝国』。

そう名前が決まっていってから、この国の知名度はあがる。

民に愛され、継承者の子や妻に囲まれ、戦が起こる時代ながらもフィルラはこの国を愛し、日々楽しく生きていた。

しかしそんな日常も、一気に壊される。

他国からの戦に巻き込まれ、彼の国は驚くほどの被害を受けた。原因は、島国であるこの国に目をつけた他国の王。陸とはちがう島国に、なんらかの魅力をもったのだろう。考えている暇もなく襲撃にあうことになった。

なんとか自国を守ったものの、国への被害は大きかった。そしてフィルラは考えた。

――私一人では、この国を守る事ができない…。またどこかからの国に攻められては、今度こそこの国は堕ちてしまう。

そう考えたフィルラは、蒼、黄、紅と国を3つに分け、それぞれに王を就かせる様に動く。

しかしそんな王の考えに民は引き目を感じる。


これまで通り、王が導いてくれるのではないのか!?


あなたがいなくなれば私たちはどうすればいい!!


民の不安な声に王のフィルラはただ微笑む。

――私がいなくなれど、この国は大丈夫だ。影で支えていく私が言うのだ。何も心配はない。これからは、若い者達でこの国を支えていくのだ。


時が経つにつれ、戦はなくならなくともフィルラ・ホワイトの帝国は静に幕を閉じるように変貌していった。そして彼がこの世をたった後三国の王は知恵や考えをしぼり、真の三国をまとめる王・『三国帝』、別名『白帝』の存在をつくるため、民の意見も含めて自分達の中から選抜することに決めるのであった。自分達の王であったフィルラの意思を引き継ぐように――。

次第に、三国の中枢部には小さな国が作れるほどの空間をのこして時代が経っていく。その場所こそがこの国を統べる真の王の場所であった。

「『地と神、民に愛される者こそが『白帝』である器にふさわしい。』だったかな。だったら僕は当てはまらないな」

そう言った士郎に愛羅は首をかしげて問う。

「どうして?従兄さんはあんなにも慕われていたじゃない?あのヴィオラさんにも…」

「それは彼女の場合だよ愛羅。それに彼女は神ではなく元は人だ。そして民に慕われていても、『神』なんてものをあまり信用していない辺り、僕には白帝を継ぐことは出来ない。何より、今より仕事が増えて面倒そうだ」

やれやれと、肩をすくめていう士郎にしてはどこか残念そうに言う。

「それじゃあ…、やっぱり殿…ステラが後継者?今までも紅から白帝の立場を得てきた人物が多いんでしょう?」

「え、ステラが?」

ステラに話を振ると、彼女は「違うよ~!」と手をぶんぶんと顔の前でふる。

「ステラはこの歴史を背負っていけるほどまだまだ出来たお子様じゃないよ。自国の紅の歴史でさえ、頭が痛くなるほどの辛い出来事ばかりしか憶えていないよ。今現在、財や権力が紅が一番統べているからだといって、それとこれは関係ないと思うの」

そういうステラに愛羅は的が外れたような気がした。

「それじゃあ誰が、この国を支えるのに相応しいの…?」

ぽつりとこぼした愛羅の言葉に、士郎とステラは目を見開く。

「君じゃないのか、愛羅?」

「…えっ!?」

士郎からの言葉に愛羅は驚いてガタッ、と大きな音を立てて椅子から立ち上がる。焦っている暇もなく、今度はステラが口を開く。

「えっ、違うの!?ステラ、てっきり愛羅がなるものだと勝手に思ってたんだけど……」

2人の言葉に愛羅はただ困惑して、開いた口が塞がらないばかりだ。

「だってほら。愛羅は民に愛されてる。条件クリアだ」

「地と神には…?」

「既に愛されてるよ」

「そんないつの間に!?」

納得がいかない愛羅に、士郎は「~じゃあ」と話を変える。

「愛羅が戴冠式のとき攫われた時あっただろう?その時既に神と地に愛羅は助けられていたんだよ」

「……どういう、事?」

話がまるでよく解らない愛羅に士郎は加えて説明する。

「うーん…。まあ簡単にいうと、愛羅を探すにあたっての道しるべを地の神が教えてくれた。そして愛羅が先代ラグナス王のようにならずに今もこうしてここにいるのは天の…神からのご加護があったから、とでも言おうか」

「……信じられない」

「説明してる僕も信じられないけどね。それだけ、愛羅がこの国に愛されているってことだ」

妹の存在を認められた兄のような、嬉しそうな顔をした士郎は頬杖をついて楽しそうに笑う。

「というかこの国、色々と“いすぎ”じゃないですか?」

「そういう質問こそ今更だねぇ。既にヴィオラに会って体感しただろう?」

面白そうな笑みを浮かべて士郎は愛羅に微笑む。

「それじゃ、『白帝』の継承は愛羅に決定ということで…」

「!!そんな急に言われても困ります殿下!!私はまだ…ッ!!」

そして気づいた。『殿下』と呼ばれたステラは頬を膨らませ眉根にしわを寄せる。そんな彼女に愛羅はしまったと身構える。

「…愛羅は私のこと嫌いなの?そういういじわるは求めていないよっ」

「そんなつもりは…。私はステラがなるものだと思って…」

「それは勘違いだよ愛羅。ステラは『白帝』の器になるほどの者じゃない。それだけのことだよ」




どうやら“例”の会議については各領主同士だけの話と知るなり、セラは扉の前でたたずむ。

そんな微動だにしないセラに神奈は聞く。

「どこぞの忠犬みたいに待っていても時間の無駄よセラ。紅に来たのだし、例の弟弟子君に付き合ってあげたらどうなの?終わったら呼ぶから」

「ああ…、そうだな。そうする」

そう言って扉の前から姿を消すセラに神奈は溜息をつく。

「従順すぎるのも疲れるわよ、セラ」




「うおおおおりゃぁああああっ!!!」

力のままに振り上げた隼斗の拳を幾度か避けて、次にセラは隼斗の右腕をつかんでは彼の脇下をくぐって体を抜け、押し倒すように手首間接をきめる。

「いった、いだだだ、いっだいセラ兄!!」

「こんなの護身術の1つにしかすぎないぞ。そしてお前は無暗に飛び込んでいくその姿勢をどうにかしろ。脇が甘すぎて逆に狙われる」

体を離してアドバイスしていると、隼斗は悔しそうに眉を寄せる。

「うあ~っ!!セラ兄、もっかい!もっかい手合わせお願いします!!!」

「この後は建国際について色々とあるだろう。お前は体力があるんだから、他の事にも計算して使え」

「ええ~!?セラ兄、昔と違ってケチになった?」

「さて、どうかな」

意地悪そうに言うと、隼斗はますますセラに向けての不遇をぶつける。そんな会話も神奈の声に遮られる。どうやら例の会議は終わったみたいだった。


*


数時間ぶりに見た主の顔はどこか曇り気味だった。どうした、と聞いても「なんでもない」となんでもない訳ない顔で返してくる。

どうやら“例”の件については保留のまま終わったのだという。

そんな主に士郎は呼びかける。

「愛羅。民に公開しない限り、決定しない限り他言無用というわけではないから。心配になったら相談するんだよ」

「…ありがとう、従兄さん」

微笑む士郎にぎこちない限りで笑う愛羅。そんな彼女にセラは不安ばかりが募る。

「私がね、『白帝』の器にふさわしい、って。2人がそう言うの。でも私はまだ……そこまでの器じゃないよ」

やっと口を開いた愛羅にセラは溜息をつく。

「そう思ってるなら、どうして断らない?」

「こんな私に出来ることって少ないから…頼ってくれることに嬉しくて。でもあまりにも規模が大きい話だから私にはなんとも言えなくて…。了承したいと思っても、まだその時じゃないと思って…」

「…まあ、白帝の継承なんて急がなくてもいい話だ。今はまだ蒼の領主の立場だけで精一杯だろう?」

「うん」

「だったら保留のままでもいいんじゃないか?いつか愛羅が領主の立場を降りた時にでも考えればいい」

「うん。……ねえ、降りたときって、どんな状況なんだろう?」

「そりゃあ、いつかできるであろう子供に蒼を継がせて、愛羅が白帝の継承に就く、とか……」

彼女も、いつまでも子供ではない。いつか成人し、国の発展のために力を尽くし、そしていつかは将来を約束した相手と結婚をし、新たな命を宿すことだってありえる話だ。

そんな主の事を想い、説明しては胸が痛くなってくるセラに愛羅は不安要素をぶつける。

「…セラは、私が領主の立場を降りたその時でも、隣にいてくれる?」

ぽつり、とこぼす愛羅にセラは一瞬驚いたように目を見開いては次に笑顔をむける。

「そんな心配は要らない。いつまでも、俺は愛羅の傍にいる」

主人の頭にぽん、と手を置くと、彼女は嬉しそうに微笑む。

「2人の世界なところ悪いですが、お嬢、少しいいですか?」

次にコンコン、と内側から扉を叩く音と共に神奈の声が後ろから聞こえてくる。そんな急な彼女の登場に愛羅は慌てる。

「…ノックはちゃんとしようね神奈?」

「セラにも教えなおすべきではお嬢?」

あはは、と苦笑顔の愛羅に、言い当てられ苦い顔をするセラ。そんな2人にいたずらそうに笑う神奈。

「ちょっと、ステラ様がお嬢に用があると言うのでついて来てくれませんか?」

「?分かった。今行くね」

「それじゃあ、セラ。お嬢借りていくわね」

「ああ」

女性2人が部屋を出た後、どこからか小さく笑い声を堪え、悶えている姿が見える。

「おい士郎。笑い声駄々漏れだ」

「いやだって、ははっ、ちょっと…ふふ、言ってて悲しくならない!?」

遂には耐えられずか、あっはっはっ、と声を出して笑う士郎。そしてなにを思ってか次にはこう言う。

「だったら将来、愛羅は僕のところに来ればいいさ!!いつでもウェルカムだよ僕は!!へい、カモン!!!」

「却下」

「ええ~!?従兄妹同士でも結婚は出来るよ?犯罪じゃないよっ!?」

「お前の脳ミソと黄の国が年中お花畑でも、愛羅が関われば不安要素なほど問題起こす士朗のとこにやるなんて考えられない、と言ってるんだよ。気づけこの変態シスコン」

「変態とは失礼な!『紳士』とかの言葉はないのかい?」

「シスコンは認めるのかよ…」

「だったらセラはどういう人なら認めるのさ」

「そうだな…。士郎“以外”で愛羅の事を大切に出来る者ならあまり細かくは問わない」

そして次第に士郎の気持ち悪い視線に気づき、セラは眉根を寄せる。

「…なんだ?」

「立場の関係上難しいうえで愛羅とは恋人同士なくせに、『そういう』所までは踏みこまないんだな~と思って。ははっ、いやぁ、セラは妙な所で律儀だなぁ」

「親が似たようなものだったからな。あまり…、面倒ごとになるような事には踏みこみたくない」

「あぁそうなの?最後のに関してはこりゃいい事を聞いたなぁ♪」

「愛羅に言ったら絞め殺すぞ」

「いやん、怖い怖い♪」


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