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放浪鬼喜  作者: イデア
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聞きたくない声

人にはそれぞれ悩みがある。中には理解のしがたいものも。なぜなら、人は一人、一人違うのだから。


陰口、悲鳴、鳴き声。誰の声ともわからない声が何重にも重なり24時間、私の耳に入ってくる。どんなに耳をふさいだとしてもその聞きたくない声は小さくなることはない。

「夏美ってウザいよね。今日とかマジ最悪だったよ。」

同じクラスのサクラの声だ。私への陰口もどこにいても耳に入ってくる。それでも私は何も知らないふりをして桜に笑顔を見せていた。

そんなある日のこと。変な男に声をかけられた。

「俺はスイケって言うんだけどあんたの悩みを詳しく聞かせてくれないかい?」

え、この人なんなの?このことは誰にも話したことないのに。なんとも不思議な感覚に襲われたけど見た感じ悪そうな人じゃなかったからこの悩みを話すことにした。

「ね!不思議でしょ!聞きたくない声ばかり聞こえてくるの。いつも、うるさくて頭がおかしくなりそうだよ。」

「そりゃーあんたの声色がその色ばかり拾うからさ」

声色?

「本来声色とは声の調子、話し方みたいな意味があるが、字のとおり声にはそれぞれ色がある。イヤな言葉は黒、楽しい言葉はオレンジとかね。」

「信じられない…」

「人の舌は味を感じる場所が違うように耳もまた色ごとに聞いている場所が違う。あんたの場合、黒を聞き取る場所が異常に敏感になっているんだ」

「そんな…でもずっと遠くの声を聞き取ることなんかできるわけ?」

「人は他の動物に比べ異常に耳が悪いんだ。人だって忘れているだけで聞こうと思えば聞こえるのさ」

スイケの話はとても信じがたがった。でも一つおかしいところがある。

「ちょっと待ってよ!私はこんな声聞きたくなんかないよ。聞こうともしてない。どれだけ辛いかわかる?」

スイケが一つ間をおき私を見た。

「聞こえたら嫌だ。もし聞こえたらというマイナスのイメージがその色を導いてしまうということもある。あと一つは、昔聞きたくない声を聞こうとしたときがあるんじゃないか?」

「そんなことあるわけないじゃない!どうしてわざわざ聞きたくもないことを…」

私は言葉の途中で思い出した。確かに昔。私が初めて陰口を耳にしたとき。私は大好きな友達の陰口に大きなショックをえた。それから聞きたくないと思う反面、何を話されているか気になりコソコソ話に耳をすますようになった。聞いていいことなんて一つもないのに私の耳は求め続けた。本当に人の心理とは不思議なものだ。

「きっとそれが原因だな」

「治す方法なんかあるの?」

「あることはあるが一時的なもの。そのあとはあんたしだいになるよ」「どうしたらいいの?教えて!」

「交換条件として今日泊めてくれ。」

「何言ってるのよ!そんなことしたらお母さんに怒られるよ。」

突然の要求に私は戸惑ってしまった。

「イヤならいいんだぜ。これは俺もあんまやりたくないから。」

スイケがあっさりひいたので私は焦ってしまった。

「わ、わかったよ。だから必ず治してね!あと手は出さないでね!」

「俺だって人は選ぶ」

腹の立つ言い方だ。私は渋々家に連れて行きお母さんにバレないように二階の私の部屋にいれてあげた。

「さ、早く治してよ!」

「腹へった。コンビニ弁当でいいから買ってきてくれよ。」

「は?」

ホントにあいつ治せるのかよと半信半疑になりながらも私はコンビニに走った。


「はい。買ってきたよ。これでいいんでしょ!」

「ありがと。」

弁当を食べるスイケに私は言葉をかけた。

「ねぇ、スイケは何をしているの?」

「今は放浪鬼喜として旅をしてるんだ」

「放浪鬼喜?」

「人には理解できないような不思議な悩みを解決しながら旅をしている。放浪鬼喜は人生に迷っている人間がするもので、生きる意味をみいだせたとき旅は終わるんだ。」

「自分の道を見つける旅か…」「話は変わるけど声が小さくなるのは夜かい?」

「ん?うーん…。夜中の3時、4時くらいかな〜だから寝るのもそれくらいで毎日寝不足なの」

「4時か…」

そう言うなりスイケは横になり寝だした。

「ちょっと何寝てるのよ!早く治してよ!」

「明日は早いから早く寝な」

「だから寝れないんだって…しかもまだ9時じゃん」

横で気持ちよさそうに寝ているスイケにため息まじにり言った。


サクラとはとても仲良しだった。

いや、そう思っていたのは私だけだったのかもしれない。

サクラは勉強も運動もなんでもできる子。

ある時、私がテストでサクラをぬいて一番をとったときだ。

サクラのプライドを傷つけてしまった。

そう、サクラは私のことを友達と思うと同時に私を見下していた。だから私がサクラをこえてしまったことに怒りを覚えたんだ。私の陰口をいい罵ることで私の方が上だと誇示したかったんだ。私は友達付き合いはそういうものではないと思う。どちらが上とか下とかない関係が友達だと。奇麗事なのか?私自身にもそういう感情はあるのかな?それすらわからない。


いろんなことを考えているうちにもう朝の四時頃。空が少し色を変えだし、声も小さくなり眠くなりだした頃、目覚ましがけたたましく鳴りだした。

「もう朝か…」

スイケがむくっと起き上がり言った。

「声はどうだ?」

「うん。小さくなってきたけど」

そういうとスイケは草になにやら液体をかけ丸めだした。

「まぁこんなもんかな?これを耳につめるんだ」

「こんなんで治るの?」

「ああ、これを耳につめると何も聞こえなくなる。今なら完璧な無音を体験できる。そこで一つしてほしいことがある。」

「してほしいこと?」

「初めての経験だからパニックになると思うけど、目をつぶり聞こえる音を聞いてほしいんだ。聞こえなくてもあきらめないでね」

「そうするとどうなるの?」

「やればわかるさ。いくぞ」

そう言いスイケは私の耳に草の塊をつめた。


……何?なに一つ聞こえない。驚く私の目をスイケは優しくおおった。目を閉じるとそこには信じられない恐怖感があった。真っ暗…恐い…恐い。そんなときスイケの言葉を思い出した。落ち着かなきゃ…耳をすませないと。私は無音の恐怖に耐えながら必死で何かを聞こうとした。

するとかすかに何か聞こえる。何だろう?私はさらに耳をすました。………す……き………だ…。え!?何か聞こえ驚き目をあけると目の前にはスイケがいて音が耳に戻っていた。草の塊がドロドロに溶けて落ちたのだ。

「なにこれ!?」

「そんなことより耳はどうだ?」

私が正気に戻り耳をすます。

「聞こえなくなった!」

「治療は成功だな」

「何をしたの?」

「耳につめたこの草の塊が薬で、敏感になりうんでいた黒を聞き取る部分のうみをとったんだよ」

「私が何も聞こえないとき何か言ってなかった?」

驚きながらも疑問に思ったことをぶつけてみるとスイケの顔が少しこわばった。

「黒のうみをとるためには近くの色を刺激しなくちゃいけなかったんだ。だから…」

「何の色?」

「…桃色の愛の言葉」

スイケはてれたように言った。

「じゃー私に愛の言葉をささやいていたわけ?アハハハ!」

私は何だか笑えた。

「助けてもらってそんな言い方すんなよ!」

「でも黒のそばには愛の言葉か…」

「よく愛情と憎しみは紙一重って言うけど耳もまた愛情と憎しみは隣り合わせなんだよ。今は治ったがこれからはあんたしだいだ。またいつ聞こえるようになるかわからんぞ」

その言葉に私は息をのんだ。もうあんな辛い思いはしたくない。


「なんだかんだ言ってありがとね!」

「まぁいいさ、飯も宿も与えてもらったしね」

「ねぇ、どうして人は特別耳が悪いのかな?」

スイケは首をかしげながら言った。

「それはあんたが一番わかってるんじゃないか?」

そう言われわかったような気がした。あんな汚い言葉が飛び交っていたら辛いだけだ。人は憎しみ合い、そして罵り合う。罵り合うのをやめるのではなく聞かなくなることで私たちは生きてきたんだ。

「なんか悲しいね…」

「そんなことばかりじゃないと思うよ」

そう言うとスイケはまだ五時にもなっていないのに支度を始めだした。

「もう行くの?」

「ああ」

「また聞こえてきちゃったら来てくれる?」

「ああ、そん時は本当に愛の言葉をささやいてくれる人を見つけとくんだな」

帰ろうとするスイケの背中に最後の疑問をぶつけた。

「どうして私のところに来てくれたの?」

そう聞くとスイケは振り返り私の上らへんを指差した。

「あんたの後ろにいる人からSOSがきたからさ」

「後ろ?」

それだけいうとスイケは行ってしまった。結局わからなかったけどまぁいいや。久々に気分がいい。明るくなり行く空をしりめに私は久々にゆっくり眠りについた。それから私は声を聞くことはなかった。


耳は何を聞く?何を聞くかなど選べはしない。しかし、本当に大事なことは聞こえていないことが多いだろう。

耳は何を聞く?周りの雑音に負けないで耳をすましてみるといい。何か聞こえてくるかもしれない。

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