悲痛
悲痛
0
この世は、憎悪、で埋め尽くされている。
しかし。
ニンゲンは止める術を知らない。
まったく。
あーあ。
まったくもって。
ニンゲンはロクでもない生物である。
1
僕はただ立ち止まっている。
それだけの話。
しかし、傍観者である通行人は、悲痛、を上げている。
僕は振り向こうと足をターンする際、何か、を踏んでいることに気付く。
おや? おやおや。
「きゃーー!!」
女性は叫ぶ。
「ま、マジか」
写真を撮る男性。
「・・・おや。おやおや」
こりゃ、先ほど自動車に轢かれた、少年、じゃないか。まったく、歩道の上に倒れているなんて気付かなかったよ。
・・・を言った際。
僕はそのまま、少年、の後頭部を踏んづけ。
赤自動車の社内から見ている彼女に向けて。
ささかながら、笑った。
2
ぼくは転んだ。エンジン音、が鳴り響く道路で一台の赤自動車に轢かれた。
・・・・・・ッ。
空を舞ったぼく。
歩道の上で歩いている、彼、の声をいささか聞いた。
「・・・おや? おやおや」
虚ろな顔した、彼、であった。
歩道の上に落ちた。
ぼくはうめき声を上げる。
「うっ」
・・・そして意識が途切れそうな時。
彼は。
ぼくの背中に乗って何かを呟いた。
瞬間。
彼の笑い声を聞いた。
3
横から現れた、少年、はそのまま私の愛車にぶつかった。
私は困惑する。
けれど、少年は、舞っている。
きっと、愛車より高く飛んでいるだろう。
「・・・ひッ」
私は恐怖する。
人を跳ねた。
殺したかもしれない。
ヤバイやばいやばいやばいやばい。
「・・・・・・ヤバイ」
窓から見ていた私は発した。
轢いた少年の後頭部を踏んづけている彼は。
私に。
笑い顔を見せた。
4
落ちてきた少年のうめき声を聞いた瞬間、私は困惑した。
「え?」
何が起きたのかさっぱりの私。
そんな私の目の前に、彼、は何事もなく、少年、の背中で立ち止まった。
「きゃーー!!」
そんな光景を見た私はいささか不気味な世界観に、悲鳴と悲痛、を上げた。
けれど彼は、悲鳴も悲痛、もなくただ呟いた。
「こりゃ、先ほど自動車に轢かれた、少年、じゃないか。まったく、歩道の上に倒れているなんて気付かなかったよ」
・・・・・・。
彼は笑っていた。
5
俺は少年の背中に乗っている、彼、を撮った。
「・・・ま、マジか」
悲痛を上げた俺はネットに写真を晒した。
コメント数が多数届く。
悲惨なコメントばかり。
そんな、ネットの世界、を知らない。
彼は。
笑っている。
6
「この世は、憎悪、で埋め尽くされている。しかし。ニンゲンは止める術を知らない。まったく。あーあ。まったくもって。ニンゲンはロクでもない生物である」
笑いながら。
僕は悲痛を上げた。