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9.Make Me Wanna Die ~アイドルの襲来~

 お越しいただき誠に感謝! 第九話です!! この回からアイドル襲来編スタートです! 

 アイドル好きは読まない方がいいかも……何故か? それは読んでからのお楽しみ! では、どうぞ召し上がれ!!

 早朝のHRが終わると「なぁ、うわさ聞いたかよ」密山が雨田の机に腰かけ、ジュースパックに刺さるストローを啜る。「うちの学園にアイドルが通っていたなんてな、知らなかった」

「あいどるぅ?」興味さなそうに雨田が表情を歪ませる。

 密山はため息交じりに、廊下の外側から聞こえる黄色い声に耳を傾けながら親指を向けた。「最近、仕事で引っ張りだこでさ。最近、やっとプロデューサーから許可を得て通えるようになったとか……隣の大都会が仕事場だけど、巷じゃぁ有名すぎるから、こんな田舎の高校に来たんだとよ」

 雨田は口をひん曲げながら、廊下の向こう側から聞こえる声援に耳を傾けた。「有名?」

「『佐藤アヤカ』(サトウ・アヤカ)だ。聞いたことくらいあるだろう?」そのアイドルは、グループではなく、ソロで活躍する実力派アイドルとして売れていた。演技、歌、ダンスは勿論、トーク番組などにもよく出演している、いわゆる国民的アイドルだった。

「ふぅ~ん」頬杖を突きながら、イマイチ興味なさげにため息を吐く。

 そこへ犲河が顔を出す。「廊下がさっきからうるさいけど?」

「ちょっと見てみるか」と、3人は廊下へ出て声援の向こう側で煌めく女子生徒を目にした。「……ほぉう」アイドルのアヤカは、学則違反スレスレにオーダーメイドした制服を着こなし、見事なまでに手入れされた、ひざ下まで届くほど長いツインテールを優雅に揺らしながらその場を回転していた。

「みんな、声援ありがとう! これが私の力になります!」ぶりっ子も笑顔も見せなかったが、その分、力強く、悪戯っぽい表情を斜め45度でポーズをとる。そしてまた声援が上がる。

「あんなの、どこがいいんだろう?」雨田が首を傾げる。「あぁいうの興味あるか? ツバキ」

「え?」犲河は頬をポッと赤らめ、頭上から湯気を出した。「今、名前で……」

 そんな天にも昇るような表情を見せた犲河の顔が、アヤカの瞳に映った。口元を緩め、軽く口紅の塗られた唇に指をそっと置き、まるで吹矢のように何かを飛ばす。

【私の投げキッスは10万ボルト♪】閃光よりも早い何かが雨田の心臓を射抜く。すると、彼の顔がみるみる内に紅潮し、次第にアヤカの顔を凝視しはじめる。

「うぉう? なんだ、なんだ? この甘さは! まるでチョコミルク・シェイクを初めて飲んだ時の様な、そんな甘美な……ぁぁぁ」と、彼女の方へ歩を進めていき、あっという間に黄色い声援の渦の一部になってしまった。

「なんだよあいつ、興味アリアリじゃん!」呆れたように密山が呟き、犲河を横目で見る。「うわ!」

 犲河は眉を顰め、頬を痙攣させていた。「あ? なに嘘ついてんだよ、あいつぁ……」と、拳を握りしめ、血管を浮き上がらせる。「気安く下の名前で呼びやがってよぉ……」目を座らせ、鼻をピクピクと動かし、獣気を漂わせる。

「まさか、やきもち?」

 このセリフの0.1秒後、「喧嘩売ってんのかコラ!!」と、瞬時に彼の胸倉を掴みとる。

「いやいや、俺は喧嘩など……あ、俺はあんな可愛い子ぶったアイドルに興味ないぜ! あんなぶりっ子で、フリフリでキラキラで、イチゴの匂いさせて、スタイル良くて、イキイキとしていて……」と、密山も頬を紅潮させながらアヤカの方を向き、うっとりとした。

「興味あるんじゃねぇか!!!」

【雌獅子型・喉笛裂!!!】と、片手で彼の首を掴み、そのまま握力にものを言わせて喉を握り潰した。

「Qぅ!!!」と、言う間に密山は廊下に倒れ、死人の様に動かなくなった。

 肩をいからせ、ズンズンと足音を鳴らして教室へ戻る。「なんであいつがこの学園に!!」



 昼食時になると、犲河はいつもと違う場所へ向かい、瞳を血走らせていた。窓ガラスに顔をぴったりとくっつけ、鼻息で曇らせては拭いを繰り返す。「ぬぅぅぅぅ!!」視線の先は学食だった。その中央ではアヤカが新曲のPRを行い、声援を巻き起こしていた。

「食っていいのか? これ」犲河から押し付けられた弁当箱を前に訝しげな表情をする紅雀。

「どうぞ!!」顔も向けずに奥歯をギリギリと鳴らす。視線の先にいるニヤけた顔の雨田を見てより一層表情から殺気を滲みださせた。

「あのアイドルの人気、異常だな」紅雀は弁当の中身を遠慮なく頬張りながら呟いた。「運動系部活の部長が片っ端からあいつのファンになっちまって、おまけに親衛隊まで組織されているんだってさ。あ、剣道部だけいないな?」

 因みに剣道部部長である杜ノ上にはアヤカの魅力技【私の投げキッスは10万ボルト】は効かなかった。「なんか飛んできたけど?」くらいのモノである。

「おまけに女子や教師、風紀の半数まで骨抜きにされてるな」保健室から復帰した密山が顔を出す。「このままじゃ、ここの支配者は生徒会ではなく、あのアヤカになっちゃうぜ」

「そ~うはさせるかぁぁぁぁ!!!」ガラスに爪痕を残しながら犲河が、歯の間から絞り出す。「あいつめ! なんでまた一緒の学校なんだよぅ!!!」

「え? 初耳だ」紅雀と密山が声を揃える。

「……小学校の頃の同級生なんだ。同じクラスでさ。当時から目立ちたがり屋だったよ」苦いものを口に入れたかのような表情になり、舌をオエっとだす。

 紅雀は目を瞑りながら黙々と弁当の具を食べ終えると、静かに口を開いた。「だが、あいつはアイドルという仕事を立派にこなしてるだけだろう? 結果人気が出るのは当然だ。なのにツバキ、なぜ気に喰わないんだ?」

「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」犲河は犬の様に唸り、拳を握った。そして、何かを吐き出すかのように密山の頬を殴った。

「なんで!!!」

「……なんでもない」と、肩をすくめ、この場を後にした。

「……乙女心、か」紅雀は若干楽しげに微笑みながら弁当箱を片づけた。

すると、首に続いて顔面を変形させた密山が苦しそうに吠えた。「何が乙女心だよ! 乙女がこんなことするかよ!!」

 そんな彼に対し、彼女は肩越しに口を開いた。「乙女ってのは……怖い生き物だ。お前が想像するより、遥かにな」



 下校時刻となり、帰り路、犲河は雨田の数メートル後ろをキープしながら、肩を怒らせ歩いていた。そんな事は露知らず、雨田は密山に向かってアヤカの魅力的な点をこれでもかと語っていた。

「テレビで見るのと生は違うよ! オーラも一般人とは別格だしさ、何よりあの瞳だよ!」

「お前、1日でどんだけキャラ変わったよ……」あきれ返った密山は犲河の殺気を肩で感じながら冷や汗を垂らしていた。

 しばらくして雨田家に着くと、犲河は一瞬立ち止まったが、何かを頭の中で飲み込み、素通りするようにして歩き続ける。

 それに対して何も言わず、雨田は玄関の扉を開け、パタンと閉めた。密山は彼女の後ろ姿を見送り、鼻でため息を吐き、雨田に続いた。



「久々に今夜は独り、か……まぁ、あたしが選んだ道だしね」寂しげに独り言を漏らしながら山道を進む。やがて、自分で建てた小屋にたどり着くと、その場で膝を崩し、口をポカンと開けたまま固まった。「う、うそ……」なんと、彼女の自慢だったプチコテージともいえる家が、まるで怪獣が踏みつぶしたかのように、粉々に砕け、家財道具や保存食が吐き散らかしたかの様な有様になっていた。「ぬぁ! なんで今日に限って!! 嘘でしょう!! うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」半べそ状態で咆哮する犲河。その背後でほくそ笑むツインテールの影があったことなど、彼女は知る由もなかった。



 夜8時になり、犲河は山を下ってトボトボと住宅街を歩いていた。「……おなか減ったなぁ……」彼女は親から送られてくる生活費の殆どを貯金し、ほぼ自炊していた。だが、その貯金先の銀行の貯金通帳およびキャッシュカードが無くなっていて、唖然としていた。「誰だよ、人ン家壊したボケぇ! あれでも立派なあたしの城なんだよぅ!」涙ながらに吠え、肩を落とす。「まぁ、ここ2週間くらい放置したあたしにも落ち度はあるけどさ……」

 その時、彼女の鼻をかぐわしい匂いがくすぐった。その匂いの向こう側には、屋台ラーメンが提灯をぶら下げ、夕闇の中、湯気を立上らせていた。その客席に見覚えのある後ろ姿があった。「おっちゃんのラーメンだけだよ、胡椒をかけずに食えるのは。だってスープが……」と、蓮華で掬い、上品に啜る。「すでにスパイシー!」

「わかる子が常連で、ありがたいや」

「ハルカちゃぁぁぁん!!!」よろよろになった犲河が彼女の腰に枝垂れかかる。「慰めて」

「おや、おたくらはそーいう関係かな?」

「違わぁ!!」

 食事のあと、事情を聞いた紅雀は、荒れる彼女を宥め、自宅へ招待することにした。彼女の家は学園から2駅ほど離れた場所にあり、回りは商店街などが多かったが、この時間帯は火が消えたかのように静かだった。肝心の紅雀家は、雨田家より一回り小さく、昭和初期に建てられたかの様な年季の入った木造建築だった。「ツバキに改修工事でも頼もうかな」と、微笑み交じりに口にし、戸を開ける。彼女が「ただいま」を言っても、何もかえってこなかった。

「家の人は?」

「いるさ」と、光の点く居間へは向かわず、まっすぐ2階へと向かい、犲河を招いた。「私、この家では他人の様に扱われているからさ」と、軽く口にし、テレビをつける。「夕飯まだだろ? 焼きそばは好きか?」と、制服の上着を脱ぎながら問う。

「な、なんで家族の方から?」

「……ツバキも、独り暮らしの理由を話さないだろ?」と、やるせない表情を作りながら台所へ向かった。

「……そっか」寂しそうな表情で紅雀の部屋を見回す。少々散らかっていたが、ぬいぐるみや妙な絵のポスターなどが張られ、彼女もまともな女子高生なのだと理解する。「あたしより、マシか」

 しばらくして紅雀が皿を片手に戻ってくる。皿には紅ショウガや鰹節が行儀よくのった焼きそばが盛られていた。ソースの程よい香りが犲河の胃袋を刺激する。

「胡椒はかけるか?」その問いに対し、犲河は首を高速で振った。「冗談だよ。私だって、ラーメンにしかかけない」と、布団の下からゲーム機を引っ張り出し、テレビとつなぐ。

「いただきます。ん? ハルカちゃんもゲームするの?」

「ストレス解消にな」と、起動しオンラインを選択して他者が行っている通信バトルに乱入する。「1日2時間と決めている」

「どっかのバカと大違い」



 時、同じくして雨田家。夕食を終えた彼は早速ゲームの電源を入れ、オンライン対戦に勤しんでいた。「よぉし、順調だ!」と、ショットガン片手に目の前にした敵を次々に撃ち散らし、スコアを上げていく。

「今日、ツバキちゃんが来てない事、気付いてるか?」頬杖付きながら密山が問いかける。

「あぁ、そうだなッッ……ぐ!」急に表情を歪め、何事もなかったように素の表情に戻る。「どうでもいいじゃん、んな事」

「お前……」違ったような目で彼を見る密山。最初は見損なうかのような表情をしていたが、次第にアヤカの異常なまでの魅力について考え始める。「そうか、あいつが……」

 すると、雨田が急に顔を赤くして画面を凝視し始めた。「出たな、『ハンドガンの悪魔』! 今日こそ討ち取ってやる!!」鼻息を荒くし、ショットガンに弾を込めるが、次の瞬間には画面が真っ赤になっていた。「くそ! またヘッドショットだ!」

 

 

「上手いねぇ~、ハルカちゃん」紅雀の隣で画面を眺める犲河。紅雀はまんざらでもない表情で、次々と敵の頭を撃ち抜いていく。

「このゲームは極めたからね。ほら、そこ。ほらここ。お、戦闘ヘリ呼べるぞ、ほら行け!」上機嫌で鼻歌を鳴らしながらコントローラーをリズムよくタップする。「今日はここまで」と、電源を切り、満足そうに床に転がる。「キリないからね。戦場を制したらそこまで!」

「雨田のヤツに見習わせてあげたいわ。雨田のヤツぅぅぅぅぅ!!」と、昼に見せた険しい表情を覗かせる。すると、紅雀の机の中から何か機械音がピピピと鳴り響いた。「ん?」

「あぁ、すっかり忘れてた」と、引き出しの中から携帯電話にも似た物を取り出した。「ジェラシーカウンターっていうちょっと眉唾な商品を安く手に入れたんだが、どうやら性能は本物の様だな」と、機械の画面を見る。「数値が623って出てる……高いな」

「何が基準なの?」眉を吊り上がらせながら問う。

「100が標準だとして測定限界が999だ。と、すると……高いよなって話だ。少し落ち着け」

「何が?」

「雨田の事……あんなアイドル、時の産物だ。すぐ忘れるさ」と、肩を優しく叩く。

「う、うん……焼きそばご馳走様……」と、申し訳なさそうな表情を作る。すると、機械の数値が少し下がり、539を示した。

「まだ高いが、それでいい」



 その頃、雨田家では……「あいつぅぅぅぅ!! また勝ち逃げしやがった! 畜生! いつもこうだ!」と、歯茎をむき出し、歯をギリギリと鳴らしていた。

「こんなゲームでストレス貯めるなら、やめちまえよ」呆れ返って、相手したくないと言わん表情で密山が吐き捨てる。

 すると、雨田が何かを思いついたかのように手を叩いた。「そうだ! このゲーム機を売り払ってアヤカたんのCDを沢山買おう……おぉ、いい考えだ!!」

「なぬ!!」唐突な発想に狼狽する密山。

「そうだ! アヤカたんもお喜びになるだろう!!」

「おい、やめろ!! そんな事して後悔してもしらんぞ!!」

「愛とは、後悔しないもの!!!」

「馬鹿野郎! あ、でもいいセリフ」


 アイドル編第一部、終了!! 如何でしたか? このお話は前々から書きたかったテーマなので、やっと日の目が見れて満足しております。

 新キャラ、佐藤アヤカはどうでしょう。まだ詳しく解説はしませんが、なんか実際にアイドルでいそうな名前をイメージしました。

 さて解説タ~イム。

 サブタイはプリティー・レックレスというバンド(ってかテイラー・モンセンと言った方が早いか)の曲です。荒々しく、雄々しいイメージだけど、とても綺麗で女性らしい歌声の曲です。この話のイメージにピッタリでしたので。で、邦題はそのまんまですね! 本当は「アイドル総進撃」とかにしようかと考えたのですが、シンプルにしました。

 お次はキャラ解説~。

 生徒会初登場時にでてきたS姉さん柳零。彼女は本っ当にSのみをイメージして書きました。後々再登場しますが、この姉さんは怖いっすよ~。得意科目は現代文や数学。座標計算瞬間移動も使えます。

 で、過去編に登場した砂羽翠。彼女は……なんでしょう? この学園小説、なぜか生徒会長は飾りみたいな扱いをしてしまうなぁ……あ、彼女には一応設定がありますが、この場で解説するほどのものではないので、やっぱなし! ←じゃあ解説すんなよ!!

 ってなわけでアイドル襲来編はまだまだ続きますよ~。ご期待ください!!


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