8.Teenagers ~そこまで昔ではないお話 その①~
ようこそいらっしゃいませ~ 第八話です! 今回は生徒会が中心のお話です。こんなのをたま~に挟みます。
では、お読みになってくださいな~!
あの大喧嘩から数日後。2年生の生徒会役員達が、次期生徒会長選挙に立候補する日が訪れる。この日の放課後、生徒会室の大部屋は殺伐としていた。堅菱筆頭の鷹派、それを押さえつけ、手綱をしっかり締める現生徒会長の破嶋達3年、そして鳩派の堅菱たちから鼻で笑われる少数。
さらに加え、今回の選挙を仕切るは選挙管理委員会。生徒会役員達の間に割って入る形で席につき、その一番中央には委員長の『狐志水政兎』(コシミズ・マサト)が座っていた。前髪を目の下まで伸ばし、一見根暗そうに見えるが、3年の破嶋に負けないオーラを纏っている。彼率いる選挙管理委員の中には密山の姿もある。今回の作戦の為、情報が一番に入ってくる書記長補佐の座に腰を下ろし、会議が始まるのを今か今かと構えていた。
ちなみに、この会に風紀委員は参加資格を持っていない。柳曰く『この会議に出て時間を潰すより、学内パトロールをしていた方が有意義でしょ?』このセリフに風紀委員の軍宗、藻部、その他大勢は歯噛みし、下唇を噛んだ。
「では、これより会議を始めます」選挙管理委員長の狐志水が声を上げる。起立と礼で始まり、まずは各クラスの報告が行われ、これからの学内スケジュールを元に生徒会がどう動くかを話し合う。そして、生徒会長立候補者を決める段階に入った。
「ちょっと待てよぉ……話と違うじゃん」密山が陰で慌て始める。なんと、この会議に肝心の侠華が出席していないのであった。
「では、立候補者挙手」これを合図に2名が手を上げた。
1人はもちろん、鷹派の誰もが次期生徒会長にと押す、堅菱理だった。「では堅菱君を推薦する者は?」立候補にも条件があった。同時に推薦者がいなければ立候補できないのである。この時、手を上げたのは杜ノ上だった。「では、立候補を認めます」と、書記長がノートに彼の名を書き記す。
もう1人立候補したのは、『田畑充子』(タバタ・ミツコ)だった。生徒会内では鷹派でも鳩派でもない中立派であり、少々地味ではあるが、1年の頃からなんでも業務をコツコツこなす事から、人望は堅菱より厚く、頼りになると評判であった。ゆえに、推薦者は3人ほど同時に出たほどだった。しかし、彼女は生徒会の権力は手放すつもりは毛頭ない。
「立候補を認めます。他にはいませんか?」と、辺りを見回す狐志水。立候補者は2人だけだったが、これは毎年の事。生徒会長になれば、それなりの責任や特別な業務、会議などに必ず参加し、更に職員会議にまで参加しなければならないという仕事まであるのだ。普通の学生なら、物好きでない限り、ここまでは出来ないし、なりたがらないのである。
「頼むよぉ……」密山が慌て始めると、出入り口の戸が勢いよく開いた。
そこには、普段のだらけた服装ではなく、制服をパリっと着こなした侠華が立っていた。「遅れて申し訳ありません」と、一礼し自分の席に静かに腰を下ろす。「今回の生徒会長選挙に立候補します」と、挙手する。ほっと一息つく密山。
「私は認めません」堅菱が挙手し、起立する。「この人は今年度になってから会議に出席せず、業務も碌にこなさず、部室で踏ん反り返っていただけです。確かに先日の働きは見事ですが、それだけで貴女に生徒会長としての責任感を背負えるか、疑問です」そこまで言うと、もう1人の立候補者である田畑が「同感です」と付け足した。
彼らが席に座ると同時に「……反論はありますか?」と、狐志水が問うた。
侠華も静かに挙手し、起立する。「……私も同感です。しかし、ある生徒が言いました。『今の学園はまるで地獄だ。生徒のゆとりは消え去り、教師は持つべき力を失い、少し校則から外れるような行動を取れば退学……この地獄を作ったのは生徒会だ。どうか、普通の学園に戻してほしい』……と。そして、普通の学園に戻す自信が私にはある。普通に戻れば、責任を負うことが私にもできるハズです。ですから今回、立候補した次第であります」と、一礼し座る。
「貴様……」堅菱が厳しい眼差しで侠華を睨む。自然と侠華の周りの机や役員がふわりと浮き上がった。
「で、推薦者はいますか? 彼女を推薦する者はいますか?」狐志水が問うと、1人が挙手した。その者は武刀だった。
ここにきて初めて侠華が狼狽する。「あいつ……」
「では、立候補を認めます。他にはいますか?」このまま会議は進行し結果、立候補者は3人で幕を閉じた。肝心の選挙は夏休み明けと報告され、解散となった。
「貴様!」堅菱が背後から侠華を呼び止める。「辞退しろ。すれば恥を掻かなくて済むぞ」と、いつにも増して堅い表情を見せる。
会議が終わると侠華は早々に普段のだらけた服装に着替え、ハンドポケットのまま堅菱を睨み返した。「おぉ? 一度もアタシに勝てなかったマッチ棒が吠えるじゃねぇかよ」
「私をマッチ棒と呼ぶな!!」更に顔を厳しくさせ、まるで仁王像の様な形相になる。
「なら綿棒、お得意の技でアタシを降参させてみろよ。あ?」と、不敵にズイズイと距離を詰める。
【ヒョットコ院侠華VS堅菱理】
【フィジックス・アーツ 六面檻!!】薄緑色の檻を彼女の周りに展開し、閉じ込める。が、そんな物は存在しないと言わんばかりに檻を砕き、間合いの内に入り込む侠華。
【フィジックス・アーツ 10t重圧波!!】見えない圧力を彼女の頭上から押し付ける。侠華の足元に大皹が出来上がり埃を立上らせるが、そんなものを物ともせず、鼻先まで近づく。
そして侠華は左鉤打ち拳を堅菱の肝臓上にヒタリと置いた。「ぐっ」悔しげな表情を滲みだす堅菱。
「はい、アタシの勝ち」
「まだそうとは決まって……」と、口を開いた瞬間、拳が彼の肝臓を押しつぶさんばかりにめり込み、鈍い音を立てる。「うごぉう!」彼は『フィジックス・アーツ』で防いだつもりだったが、彼女には全く通用しなかった。
「お? ギリギリで防いだつもり? でもね、今のあんたの力量じゃあ」肝臓を抉った拳をフッ吹く。「無理だね」と、踵を返して歩を戻す。「ま、選挙までに丸くなるんだね。じゃないと、友達なくすゼ? ……アタシも離れちゃうぞ~」
「貴様なんぞ……グゥ……」立ち上がろうにも、彼にとって久々に喰らった鈍い痛みが足腰を麻痺させていた。「誰が、誰が友達……だ」
会議終了後、武刀は愛用の竹刀片手に剣道部の練習場である体育館2階に来ていた。そこにはすでに、竹刀を軽々と素振りする杜ノ上が立っていた。「この前の約束、覚えてる?」
「もちろんです。部長」と、杜ノ上の竹刀の切っ先に自分の竹刀を当てる。「始めましょうか」と、一言の後、相手の切っ先を払い退け、早速面を打ち込む。
【武刀漸VS杜ノ上閃一】
「相変わらず早いなぁ」軽々と受け流し、胴払いを狙うが殺気を読み取り一歩引いて様子を見る。「うん、強くなった」
「さすが」と、竹刀を振り構えなおす武刀。
「それ程……【座標計算瞬間移動】でも!」と、背後、右横、正面、頭上と目まぐるしく移動を繰り返し、結局正面から衝突し、辺りに斬撃の衝撃波を飛び散らせ、ガラスを割り、床に斬撃痕を残す。「いい見切りだ。こうでなきゃ面白くないね」
「目が疲れましたよ」余裕を残すような笑みを見せながら杜ノ上の竹刀を的確に受け止め、反撃の機会を伺う。
「懐かしいね、1年前の今頃さ」淡く殺気の籠った竹刀を振り乱しながら話し始める。
彼が言うには1年前の中間テストの成績表が配布される頃である。この時、平均点数85点以上の生徒に生徒会から勧誘の声がかかる。この時、オファーされたのが堅菱と侠華だった。この2人は平均点90以上という、高成績を残していた。
2人は声を掛けられた当日の放課後、生徒会室に呼ばれ、入会の意志があるかを問われていた。
「で? 貴方……どう? この学園をまとめる自身はあるかしら?」当時の生徒会長『砂羽翠』が堅菱に尋ねる。
「えぇ勿論です。去年も中学で生徒会長を務め、学校の皆を一つにまとめあげました。今回もそのつもりで尽力します! いや……その前に、お声をかけて頂き、誠にありがとうございます」深々と礼をする。
「ふふ、可愛いね」生徒会役員2年の『尋江翔子』が微笑む。「うん、真面目で優しい子だね。大丈夫、貴方なら立派な生徒会長になれるよ」
堅菱が照れ笑いをすると、その背後から太い腕が伸び、彼の首に巻きついた。「おうおう頼れる後輩だね。俺ぁゾクゾクするよ」当時2年の破嶋が笑いながら堅菱の頭を拳でぐりぐりと擦る。
「や、やめてくださいよぉ」困ったような表情を見せる堅菱。
「表情豊かで結構。そいやお前、今のうちに翔子と仲良くしとけよ。あいつが次の生徒会長だかんな」
「やだ破嶋君ったら。まだ立候補するか決めてないのにさ」尋江が照れ笑いすると同時に、砂羽も微笑んだ。
「期待してるわよ、後任さん」
すると当時2年の杜ノ上が「そういやぁもう1人、遅いね? なんか勧誘しに行ったヤツが『かみ殺されるかと思った』とか言ってたな」と、腕時計を眺める。すると、戸を叩く音が上品に響いた。「噂をすればってね。どーぞ」
「失礼します!! 尋江先輩ぃぃぃ! おはようございます!!」
入ってきたのは1年の武刀だった。彼は深々と礼をし、先輩達に一通り挨拶をした後に尋江の隣へ向かった。
「あ、彼は私の中学時代の後輩でね、また可愛いんだこいつが」と、彼の髪をクシャクシャと撫でる。
「でも確か、平均点83だったよね君ぃ……また期末テストの後に来てね」と、杜ノ上が突っぱねると武刀は彼の近くに瞬時に歩み寄り、猫なで声を出した。
「そぉんな事言わないで下さいよぉ! 剣道部のエースにして県大会覇者の杜ノ上先輩ぃ! 俺、あんたに憧れてここの剣道部に入部したんですよぉ!!」
「そいや、この前の朝練にいたねぇ……」思い出すように天井を見上げる。「うん、やる気は他の1年はおろか、僕たちですら敵わなかったな。期待できるよ、彼」
「どうです? 入会させて下さいよぉ! 朝一番に来て机でも窓でも拭きますから!!」
「お前、下心見え見えだな」堅菱が横目で彼を見ながら指摘し、鼻で笑う。「でも、心強い仲間は必要ですよ。それに、今回の中間テストは嫌がらせの様に難しかったし」
「ですよね! ですよね!」と、一歩も引かない武刀を見て、砂羽は彼の入会を許可した。「おっしゃぁ!!」
「こんな押しの強い新入生は初めてね」砂羽はため息を吐きながら苦笑する。「そいや、去年もいたっけ。でも、平均点が56点とか残念だったからお情けもあげられなかったけど……」一言つぶやくと、風紀委員の部屋から女生徒のくしゃみが響いた。
しばらく和気藹々と会話を弾ませていると、ノックもせずに戸がガラッと開いた。「おぅ、ここが生徒会室か。いやに広いじゃん」と、服装を乱しに乱した侠華が現れた。「で? なんでアタシなんかを勧誘したのかな?」と、近場の椅子にドカリと座り、机に脚を乗っける。
それを見るや杜ノ上がくすくす笑った。「態度のデカい新入生だねぇ」
「おい! 先輩達に失礼だろ!!」武刀と堅菱が声を合わせる。
「生まれた時からずっと失礼なもんで……」と、水筒の中身をぐびぐびと飲み下す。「こんなアタシでも生徒会に相応しいと、思いますかね? 会長さん」
生徒会長の砂羽は黙って侠華を眺め、何かを感じたのか隣の尋江に囁いた。「どぉ、あんたはどう見る?」
すると尋江は目を瞑り、侠華の方へ手をかざした。しばらくすると、口を開く。「必要不可欠な人材ね。ようこそ、わが生徒会へ」と、歩み寄る。そして彼女の耳を摘み上げる。
「あだだだだだだだだ!!!」
「でも、初対面の先輩に対する礼儀くらいはどうにかして欲しいわね」と、侠華が立ち上がるまで抓った。
「わかった! わかったからやめてくれぃ!!」と、背筋をピンと伸ばしてキヲツケの姿勢になる。「ご無礼を働き申し訳ございません! 私、ヒョットコ院侠華と申します! 今後ともよろしくお願いします!!」と、一礼する。
「わかればよろしい」破嶋が頷くと、部屋の窓ガラスの向こう側を指さす。「ところでヒョットコ院のお嬢さん。アレ、君んとこの執事か何か?」外の茂みには燕尾服を着たテツヤが息を殺して潜んでいた。「一応、不法侵入ってことで摘まみ出せるけど?」
「あのバカ兄貴!」と、窓の向こう側のテツヤの目を睨み付け、犬にハウスをするかのように校門の方角へ指を向ける。
「ははは、なんか今年もまた曲者揃いだなぁ、今年も荒れるよ、きっと」尋江は楽しげな笑顔を作り、頷いた。
「あれから1年……ですね」杜ノ上のしなやかな鋭打を防ぎ、数発斬撃を飛ばす。それを華麗に受け流した杜ノ上は一気に間合いを詰め、息もつかせぬ連撃を浴びせ、ついには武刀の竹刀を打ち飛ばし、切っ先を喉元に突きつける。
「そう、1年だ。早いね」と、悲しげな笑みを見せる。「こうまで変わるとは予想してなかった、けどね……」強風で前髪がなびく。いつの間にか、彼らは体育館から抜け出て本校舎屋上まで来ていた。それまでの通り道に激しい斬撃痕が残っているのは言うまでもない。
「……尋江先輩は……どこへ消えたんでしょうか?……あんなに学園の為を思っていた尋江先輩が退学届を出したなんて、今でも信じられません」武刀は目を瞑り、頬を歪めた。
「あの騒ぎのあと、こつ然と姿を消したからねぇ……不思議だ」
「不思議って言葉で片付けないで下さい!」心から怒鳴り、腕のリストバンドを摩った。
「まぁ、それは自由さ。ところで……この勝負、僕の勝ちだよね?」
「えぇ、貴方には敵いませんよ。先輩」武刀は杜ノ上の竹刀を払いのけ、自分の竹刀を拾い、屋上階段を下って行った。
「そんな言い方されると勝った気しないなぁ……」
その頃、雨田家では嵐が吹き荒れていた。「うぉい! これはいったいどういうことだ!!」雨田ママは片手に中間テストの成績表を持っていた。「平均点が32って、全部赤点ってことか!! どうなんだ!」正面に雨田が正座して床を眺めていた。
「え~と……」
「確か英語関係以外落としていた様な……」隣で同じく正座する犲河が口を尖らせる。
「余計なこと言うなよ!!」
「あんた! ゲーム禁止に小遣いカットされたいか!!!」
「それだけはご勘弁を!!!!」結局雨田はこの日、日付が変わるまで母親にコッテリとしぼられる事となった。ちなみに犲河は勉強に対しては真面目ないい子なので、この日はお風呂に食事、暖かいベッドを満喫したそうな。
この夢法学園に射し込む一筋の影。それは、内部からの黒き闇ではなく、外部からの刺客だった。この者はいったい何を企み、何が目的なのか……明日よりこの学園は、更なる風によって吹き荒れる事となる……。
ってなわけで、どうでしたか? 第八話! 生徒会の過去話その一です。結構、和気藹々としたムードから始まっていますが、さぁはたしてどうこの生徒会はあんな殺伐とした会になってしまうのか! こうご期待!
では解説コーナー!
まずサブタイは、この小説の題名の一部となっています。再びマイ・ケミカル・ロマンスからの一曲です。この歌、すごく好きなんで、動画サイトとかで聴いてみてくださいね~!
で、キャラ解説!
まず、私お得意の剣士キャラ武刀漸。彼は裏設定では中学時代、かなりの不良で暴れん坊でした。そんな彼を更生させたのが新キャラの尋江翔子さんです。彼の強さは未知数で、今のところ、素手なら侠華と互角、竹刀を持たせればそれ以上の実力を持っています。彼の活躍は結構、てかラスト近くなんで、お楽しみに~。
で、彼の先輩でライバルの杜ノ上閃一。イケメンで才能あふれる剣士です。沖田総司みたいなイメージで書きました。得意科目の数学から繰り出される『座標計算瞬間移動』を多用して戦います。てか、この技使える人、結構多いです。そしてもちろん、彼の能力はこれだけではありません! が、解説はここまで……。
あ、密山出てきてた。前回出さないって言ったのに……。
密山「無理やり出てやったぜぃ!!」
ふん、だがお前の解説はしてやらん。
密山「もう諦めたさ……では、次回も読んで下さいね!!」
あ、言われたクソ!! こんな我らをヨロシクお願いします!!!