5.Stray Heart ~鍋、お泊り会、時々エロ本~
ども! 再びお越しいただき誠にありがとうございます! 第五話です! 今回、バトルはありません。まったりな話です。
では、読書スタート!!
「はい、注目!」犲河が人差指を立てながら高らかに声を上げる。「今日が今年度最後の寒い日になるそうです。ですので、本日、我が家で鍋パーティーを開きます!!」
「うぉ! マジ? 行くよ!」密山が歩み寄ると、犲河は彼の顔面を掌いっぱいで制した。
「あんたはダメ! 我が家はスケベ出入り禁止!!」と、回りに目を配る。注目しているのは……「俺、行くよ。鍋なんて久しく食べてないし」雨田と「私も……行く」紅雀だけだった。その他のクラスメイトは、まるで彼女を無視するように顔をそむけ、各々のおしゃべりに集中していた。無理もない。何故なら彼女の本性が喧嘩好きだと知れ渡り、煙たがっていた。
「むぅ、ちと寂しいからスケベもいいよ」
「やり!」
すると、何かを思い出したかのように雨田の眉が動く。「そういえば、確か犲河さんの家って……」
犲河の家にたどり着くころには、とっぷりと日が暮れていた。日本国内の山の中でもそこそこ高い、その山の頂上付近に犲河家が建っていた。彼女曰く、自分で建てたと照れながら語ったが、まるで小さなコテージの様に整っていた。室内もまるでプロが建てたように材木が光っており、隙間ひとつ空いておらず、女性らしいインテリアまでチラチラと飾られていた。「建てるのに一ヵ月かかったよ」
「たった一ヵ月で……? すげぇ」と、用意された座布団に座る雨田。
「建築家の娘だったりするの?」密山が口を出す。
「おしい、大工の親方の娘だよ」と、自慢げに鼻歌を鳴らす。
「意外な一面だ」紅雀は立ったまま室内を眺め、感嘆の溜息を漏らす。「で? お鍋は」
「朝には下ごしらえしたから、あとはブチ込んで煮るだけだよん。もう少し来てほしかったけど……ね」寂しそうに笑いながらテーブルにコンロを置く。「ちなみにテーブルも手作りです」と、自慢しながら手際よく鍋の中身を満たしていき、数分後には部屋中にふっくらした湯気を立ち込めさせた。皆、箸とお椀を片手に「いただきます」と、声を合わせる。
「飯は好きなだけ食べてね」
「すごいな……まさに自立って感じ」雨田は感心するように呟き、鍋の具材を取った。「……ところでこの肉は何?」
「イノシシ」この一言に周りの3人が目を丸くする。
「ま、まさか……」揃って犲河の方を見る。
「昨日、罠にかかっててね。夢中になって捌いたよ。うん、サバイバル本さまさま」と、自分で採った猪の肉にガッつく。
「野性的だね……じゃあこのお野菜は?」密山が恐る恐る葉っぱを箸でつまみ上げる。
「山で採れたモンだよ。大丈夫、全部食べられます。足りないのは八百屋で調達しました、はい」と、胸を叩く。
「いい嫁になるぞ、ツバキ」と、紅雀は汁を啜った。「いい出汁だ」
しばらく4人はワイワイと騒ぎながら鍋をつついた。雨田と密山はなにやら遠慮気味な箸の進め方だったが、表情は崩さずに食べ続けていた。
残り少ない鍋の中身を雑炊して〆る。皆が腹を摩り、満足顔になっていると、犲河は何やら台所(の様な場所)へ向かい、包み紙を持ってくる。「デザートタイム!」と、包み紙を開く。そこには……。
「うわ! 虫!!」密山は顔を青ざめ、犲河の間合いから遠ざかった。
「芋虫……だな。蜂の子か」紅雀は躊躇もせずにそれを手に取り、口に入れた。「悪くない」
「当たり! 一度食べてみたかったんだ」と、犲河も頬張った。「おぅ、口の中で弾けた」
雨田も少し戸惑いながら蜂の子を取った。それは生ではなく、きちんと調理された甘露煮の様なものだった。「ここより田舎のばあちゃん家で蝗を食べたっけ……」と、一口。「ま、見かけは虫だからな。戸惑うのは当ぜ……」
「お前ら人間じゃねぇ!!」密山は体全身に鳥肌を立てながら、彼らに軽蔑の眼差しを向けた。
「あら失礼ね。これに払った代償、見る?」と、胸元をチラつかせる。蜂に刺されたのか、赤く腫れていた。「ほぉれ、色っぽい?」
「うほ!!」と、目も見開き彼女の胸を凝視する。その目の前に蜂の子を持っていく犲河。「ぎゃ!!」
「や~い、弱点発見~!」
次の日、雨田は犲河を不思議そうな眼差しで見つめていた。「おい、どうした?」密山が肩を叩き、雨田の机に座る。
雨田は重苦しそうなため息を吐いた。「犲河さんってさ、可哀想だよな……」
「……なんで?」
「だってさ、親の都合かどうか知らないけど、あんな山奥で独りぼっちなんてさ……お前はそんな生活できるか?」彼の問いかけに密山はうなり声を上げた。
「一人暮らしはできるけど、山奥は無理だな」と、昨日の蜂の子を思い出し、身震いする。
「だろ? それにこのまま山に住み続けたら、きっと山姥扱いされそうでさ……」
「それは心配しすぎじゃないか?」
「だからさぁ……」雨田が俯き、ブツブツと小声を出す。
「誰が山姥だ?」いきなり2人の間に犲河が割って入る。
すると、雨田が顔を上げ、犲河の目を見る。「あのさ、犲河さん。昨日の御礼がしたいんだ。だから、今日俺ん家こない? 夕飯をごちそうするよ」すると、彼女は顔を真っ赤にして頭上から湯気を立上らせた。
「え? 本当?」
「お、お前、唐突に何を……」密山が口元を歪めると、そんな彼に向って雨田は昨日お土産でもらった蜂の子を彼に抛った。「どわぁ!!」
「よ、よろこんで……」犲河は俯きながらも小さく頷く。
「そうか、よかった」雨田も小さく笑った。だが、彼の顔はおろか、頬も赤くは染めていなかった。
「ただいま~」雨田は玄関でいつものように靴を脱ぎ散らかした。
「お、お邪魔します……」犲河はオズオズとドアをくぐり、きちんと戸を閉め、靴を揃えて脱ぎ、ついでに雨田の靴も揃えた。
そんな2人を雨田の母が笑顔で出迎えた。「あら、いらっしゃい。えぇっと、犲河椿ちゃんね」と、彼女の顔や体をさりげなく眺める。「さすが山に住んでるだけあって、逞しそうだわ。誰かと違って」と、我が子を横目で見る。
そんな母の嫌味を黙殺し、雨田はリビングへ向かった。「飯は?」
「これからよ! まだ5時でしょうが!」
「お、お手伝いしましょうか?」犲河はブレザーを脱ぎ、腕まくりをした。
「いえいえ、客人の手は煩わせませんよ! お風呂でもお上がんなさいな。タオルとかは用意してあるから、ね? バスルームとトイレは真っ直ぐ行って右ね」
「え? いいんですか?」
「お客人ですから」と、ほほ笑む雨田の母。「おら、あんたは手伝うんだよ! さっさと手ぇ洗え!」と、我が子の耳を掴んで台所へ引っ張った。
去りゆく雨田の母親に一礼し、バスルームへ向かった。「いい……のかな」と、制服や下着を脱ぎ、浴室へ足を踏み入れる。湯船はお湯張りをされ、湯気が立っていた。毎日掃除しているのか、タイルから風呂桶までカビ1つなく、輝いていた。「久々だな……」彼女は普段、下校途中にある銭湯に通っていた。
体や髪を洗い、湯船に浸かる。「ふぅ~本当に久々……」と、手拭いを頭に乗せる。目を瞑り、眠るようにしてゆっくりと湯に身を任せていた。
そんな光景を外から眺めようと、塀に足をかける影が一筋……それは「抜け駆けはズルいぞ、あ~ま~だ」密山だった。「お前の家は、知り合ったその日に把握済みだぃ!」と、一歩二歩と風呂場の窓へ近づく。「半裸の次はヌードも拝みたいなっと、くふふふ」絵に描いたようないやらしい表情を顔に貼り付け、あと一歩の所まで近づく。すると、空を引き裂くような音と共に密山の視線が上下反対になる。「うぎゃ!」足首には荒縄が二重三重に絡んでいた。「用意周到、さすが山姥……」
「スケベ虫の音が聞こえたゾ♪」犲河は上機嫌な声を、浴室から外の密山へ向かって飛ばした。「そんな悪い蟲にはお仕置きだ♪」と、桶に湯を汲み、洗剤を垂らしてかき混ぜる。「そぉれ、それそれ♪」と、腕だけ外に出し、洗剤の入った湯を彼の顔面目掛けてぶっかけた。
「ぎゅぉわ!! 目が焼ける!!」
「スケベ虫はこれでイチコロ!」
「いただきます!!」3人が声を揃える。テーブルにはどっさりと煮物や焼き魚、サラダの盛り合わせ、他にも色々と乗っていた。それらを前にして犲河は涎を垂らさんばかりな表情を見せた。
「い、いいんですかね?」喜びに満ちた表情で雨田ママの顔を見る。
「もちろん! たんと食べなさい!」と、胸を張る。
「他所でただ飯は食べない主義なんで、遠慮なく食べてくれ」雨田はすでに飯にガッツき始めていた。「にしても固い米だなぁ」
「あんたが炊いたんでしょうが!」と、息子の後頭部を叩く。
そんなやり取りを楽しそうに眺めながら、犲河も食べ始める。「ところで、お父上は?」と、空席に目をやる。
「あぁ、父さんはその……」と、苦そうな表情を作りながら口を開きかける。
そこへ母親が割り込む。「単身赴任よ! あと数年は帰ってこないのよ。寂しいッたらないわ!」と、無理やりワザとらしく笑いながら煮物に箸をつっこむ。
「う、うん……単身赴任ね」雨田も渋々頷き、焼き魚を食べる。
「ふぅん」犲河は気にする素振りを見せずに味噌汁を啜った。「美味し♪」
その頃、外では……「うまそうな匂いや音がするぞ、ちくしょぉぉぉぉぉ!」いまだにぶら下がる密山が野良犬の様な遠吠えで哭いた。
「なんだ?」
「スケベ虫の音」
食後、犲河が丁寧な礼をして去ろうとすると、雨田ママが彼女を呼び止め「泊まって行きなさいな」と、女物の寝巻を用意した。雨田には姉がおり、その姉は昨年から東京へ出稼ぎ(と、言う名の男漁り)へ向かい、空室があると語る。犲河は申し訳ない、と一度は断ったが、この家の暖かさに負け、泊まることにした。
「本当にいいんですか?」雨田の姉の部屋の前で遠慮がちな表情を作る。
「我が家だと思って。今は殆どあの子と2人暮らし状態なんだから! 遠慮しないの!」と、ドアを開ける。
「では、お邪魔します……お姉さん」と、入室する。室内は、意外なほどアッサリしており、大人っぽいインテリアがスマートに飾られているだけだった。汚く飾られた部屋は何度か見てきたが、ここまでシンプルな女性の部屋は初めてだった。「いいお姉さんみたいだな」と、ベッドに腰掛ける。「これも、久々だな……」クッションの柔らかさに少なからず感動し、大の字に寝転がる。「……暖かい……また、あの家で……」と、本日初めて暗い顔を作り、重たいため息を吐く。
ふと、枕に不自然な固さを感じ取る。枕の下に手を突っ込み、固さの正体を引っ張り出すと、それは……「うぉぉぉぅ?」初めて目にする代物だった。その本には雌と♀が絡み合った写真がこれでもかと掲載され、『そういう内容』の漫画が載り、さらに破かれた袋とじには、法律を無視したかの様な『濃厚なプレイ』が載っていた。「う、うわ……ぁ」初めて目にするそれに目を奪われる。口をあんぐりと開け、自然と頁を次々捲ってしまう。
すると、背後から「ぉお、やっぱ最近の女の子ってそういう百合モンに興味があるの?」と、やっとのこと罠から抜け出した密山が顔を覗かせる。
「いや、初めて……こんな、こんなお花畑、初めてだよ……不道徳だよ、インモラ……ん?」と、目が合う。
「おう、密山」と、窓から入室する彼に手を振る雨田。「今日は溜まった課題やらなきゃならないんだ……悪ぃが今日は帰ってくれない……ん?」と、彼の顔を見る。「お前、ちょっかい出してきたな? さっきの悲鳴の犯人はお前か」と、読みなれない教科書に目を戻す。「てっきり姉ちゃんの置き土産を見つけたのかと……」
「それも込みの悲鳴だよ」と、ズタズタに引き裂かれた顔の皮膚を、慣れた手つきで縫合し始める。「でさ」
「ん?」シャーペンの先を加えながら耳を貸す。
「昼のお前の口調からしてさ、下心ないの?」密山は不思議そうに尋ねた。
「下心って?」初耳だ、と言わんばかりに耳を穿る。
「だから、彼女の寝こみを襲うとか、風呂場をのぞくとか……そーいう、なんつーの? 青春?」
「犯罪だよ」
「そういう、男ならだれでも持ってる下心さ! 無いの?」
「……あるけど」と、口にした途端、密山が「そらみろ!」と、口出そうとするが、それを止める。「彼女に対しては、無いかな」と、寂しげに答える。
「なんでさ」違ったものでも見るかのような眼差しを向ける。
「そのぉ、彼女と喧嘩した時さ、なんか寂しさっていうか、構って欲しいっていう何かが伝わってきたんだよね……それに昨日の鍋。あん時も寂しそうな表情が見え隠れしていたんだ……それ見てさ、何とかしてやりたくなったっていうかさ……」と、真剣な表情で答える。
密山は黙って聞いていたが、途端に笑い「偽善者め」と茶化し口調で彼の頭を叩く。
「うるせぇ! 俺は今からお勉強だ! とっとと帰れ!」
密山は鼻でため息を吐きながら懐に手を入れた。「そんなお前に土産だ」と、ゲームソフトを取り出す。「明日発売のゾンビ・ハザード7だ。しかも初回限定版。東京のダチに頼んでフラゲしてきて貰ったんだぁ~」それを見て雨田は、さっきの真面目な表情はどこへやら……。
「朝ご飯は和風? 洋風?」
とまぁ、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます! バトルも必殺技もなく少々寂しいですが、楽しんでいただけましたか?
では、解説!
サブタイは私の大好きなグリーン・デイから。直訳『野良なハート』テンポの良い曲ですので、一度お聴き下さいまし~。んで、邦題は、まぁこの話を読んで頂いた方ならわかりますよね? えぇ、まんまですよ。
で、キャラ解説~って、新キャラはいないか……じゃあここまで。
密山「こら!!」
蜂の子!
「ぎゃぁ!!」 因みに著者も虫はダメです……