2.Bad Influence ~意外とおバカさん?~
2話目に足を踏み入れて頂き誠にありがとうございます!! さて、全話の冒頭に出てきた女の子の正体がこのお話で確認できます!
ってことで第2話がはじまります! さぁ捲って下さい!!
この夢法学園高等学校は、創立およそ80年という歴史ある高校だった。全校生徒総数は800人強で、偏差値などは標準レベルで、わりと普通の学園だが、普通ではない点がいくつかあった……。
校舎は2つあり、教室と実技教室それぞれに分かれていた。朝礼の時やテニス部が使う校庭に、野球部や陸上部が練習で使うグラウンド、さらに校舎から少し離れた場所に体育館がどっしりと構えていた。
そんな学校を仕切るのは、聖職者たちではなく、特別に選ばれた生徒達だった。
「よぉ、まだHRは始まってないぜ」雨田が席に着くと、入学式以来の友人、『密山瞭』(ミヤマ・リョウ)が椅子を引き摺りながら近づいた。校則違反の色シャツを身に着け、耳や手首にアクセサリーを付け、入学当時は人目を引いたが、今では誰も気にしなかった。「今日は転校生が来る日だ、楽しみだなぁオイ……ん? どうした、その頬と……コメカミ」と、傷に目を向ける。雨田の左頬はお多福風邪のように腫れ上がり、コメカミは少し切れ、赤くなっていた。
「そんなに酷い?」頬を摩りながら問う。かなり傷むようで、時折、顔を歪めた。
「あとで保健室に行けよ。放っておくと後で傷がもっと酷くなる。担任には言っておくから、行って来い」見た目に反して真面目な事を口にする密山。
「……いや、休み時間にな」と、苦笑し、瞬時に面白くなさそうな表情に作り替え、正面の黒板へ向く。影の薄い担任がいつの間にか教卓の前に立ち、HRをはじめていた。淡々と進行し、プリント配布などが終わる頃に、待ちに待った転校生の紹介が始まる。担任の合図と共に扉がガラガラと開く。
そこから、真新しい制服をきたショートボブの女子生徒が姿を現す。すると、B組教室の男子生徒が花火にでも一斉に火が付いたように賑わった。「うぉ、好み」「隣にきなよ!」「ウホォ! ボルテージあがるぅ!」彼女は笑顔を作り、一礼した。その表情が悪戯っ気を帯びていたこと、身長がB組女子の平均身長(164cm)よりも5センチ上だったこと、なによりスタイルが絵に描いたように美しかったせいもあってか、女子たちも沸き立った。「やば、いけない道に目覚めそう」「ライバル登場、ね」「メアドおせーて!」と、各々の欲望を見え隠れさせながらクラスの殆どが彼女に視線を注いだ。
担任が手を叩き静かにするようにすると、彼女は徐にチョークを手に取り、黒板に名前を乱暴に書き殴った。体全体を大きく動かして、まるで達人の書道家のようにして最後の字を払う。
「『犲河椿』(サイカワ・ツバキ)と申します! 以後よろしくお願いします!」と、また腰深々とお辞儀する。
クラスの皆は息を飲んだ。彼女は見た目からして想像できない獣っぽさを持っていた。凛とした顔立ちに似合った雄々しい声に、ある者は憧れ、ある者は恐れ、そしてまたある者である雨田は「んぅ?」と、首を傾げた。彼女の持つ雰囲気が初めてのものではない、と直感的に理解し頭をひねる。頬の傷が疼き、コメカミにチリチリと火が灯る。
彼女は雨田の斜め前に座ることになり、そのまま授業が始まった。「……まさか」雨田は指を口の下に置き、探偵のようなうなり声を上げる。「だがあの足の大きさ、いや正確には踵だ……そして俺の傷」と、フグの様な頬に触れる。
「雨田、どうした?」密山が声をかけると、雨田は机に突っ伏した。
「とにかく寝る、じゃあな」貫徹した日は、毎回こうだった。授業中は寝て過ごす。「昼になったら起こして」この言葉の後に続くは寝息のみだった。同時に授業が始まる。
「ねぇ犲河さん、部活はどうするの?」「携帯どんな機種?」「どこに住んでるの?」「ご趣味は?」クラスの女子たちが彼女に群がり、質問を矢継ぎ早にぶつける。
犲河は戸惑いながらも、質問1つ1つ、丁寧に答えた。「そうねぇ、中学時代は運動系だったから、文化系もたまにはいいかな?」
「なら忠告してあげる」女子の1人がずいっと彼女に歩み寄る。「軽音部は止めといた方がいいよ」
「何故に?」
「百合族の溜り場だから」
犲河は笑いながら「覚えておく」と、鼻の頭を擦る。「携帯は、これ。かれこれ4年は使ってるよ」と、ボロボロの携帯電話をブレザーのポケットから取り出した。
「ボ、ボタンが付いてる……」見慣れないものでも見るように1人が目を凝らす。
「古いからねぇ」と、仕舞い肩を上げ下げする。「で、山に住んでます」
「山?やまってぇと」と、男子学生が窓の外の遠くに悠然と構える裏山を指さす。「あそこ?」
「うん、地主に許可を得てね。下手なアパートよりも安いんだ」
「……ひとり暮らしなわけ?」
「まぁね」と、照れ笑いをする。周りから感心するような声が漏れる。
「で、趣味はねぇ……」と、言いかけると背後から「前は何処にいたの?」と、いう質問が不意をつく。犲河は「お隣の大都会だよん」と、気さくに答えた。周りの生徒たちは、またわざとらしく感嘆の声を上げた。
その頃、雨田は購買で買ったアンパンを齧りながら疑いの目を犲河に向けていた。牛乳パックから突き出るストローを啜る。
「張り込みの刑事みたいだな」密山が学食で買ったフライドポテトを齧りながら近寄り、雨田の机に座る。「あの転向生が、なんか怪しいのか?」と、問いかけると雨田は口に手をやり、「しっ」と制した。犲河がなにかを口にしていた。
「そういえばさ、この高校付近に不審者とか出没するのかな?」と、隣にいた女生徒に問いかけた。「都会にも変な奴はいたけど、あそこまで不審な邪気は感じたことなかったなぁ。あの悶々とした、煩悩をあふれさせるような汚らしい気配、変に興奮したかのような呼吸、それにスキップのようなリズムの足音。間違いなく変質者だよねぇ」
「確かに。で? 見たの? その変態」
「う~ん、反射的に蹴り飛ばしちゃったんだよね。ちらっと見たらここの学生服で、男子だった。髪は少しツンツンしてて、で背があたしくらい……」
「それは俺だぁぁぁぁぁぁ!!!」雨田はガタッと椅子から腰を上げ、食いかけのアンパンを机に叩き付け、犲河に歩み寄った。「俺だ! その変態はおれだぁぁぁぁぁぁ!!」と、彼女に詰め寄り、人差指を向ける。
犲河はしばらく雨田を、まるで遠くの人でも眺めるかのように見た後、口を開いた。「で、趣味は……」
「ッッシカトすんなぁぁぁ!!」雨田は我を忘れて怒鳴り散らしていた。口から火花を散らし、怒りに燃える瞳から今朝のように蒸気を上げた。
「……あぁ、今朝の変質者はお前か」犲河は少々偉そうな発音で雨田に話しかけた。
雨田は額に血管を何本も浮き上がらせていた。この半月、彼に碌な事はなく、さらに学園生活の転機が訪れたと思ったら、このザマだった。さらに頬に蹴りを見舞われたのだ。逆鱗とは正にこの事だろう。「テメェ! 出会い頭に変態呼ばわりたぁいい度胸じゃねぇか! 言うことはそれだけか!!」
「変態を名乗ったのはお前だろう」密山が呟き、ため息を吐く。
犲河は鼻から息をフンと噴き、伏し目がちに口を開いた。「……あんたこそ出会い頭に挨拶もなしとはいい教育受けたのね。そういえば授業中にいびき掻いて寝てたわね、あんた。正直迷惑よ」と、軽く指を向ける。
「昨夜は寝てなかったんだよ!」と言うと隣にいた密山が「どうせ徹ゲーだろ」と添えた。
「それに、あんな邪気に満ちたオーラを出して走るあなたがいけないのよ。それに、ぶつかりそうだったし」悪びれもなく淡々と口にする犲河。
「だったらぶつかれよ!」つい願望が漏れる。「なんで蹴るんだよ!」
犲河は、今度は小さくため息を吐いた。「探検家がジャングルを歩くとき、道なき道に生い茂るツタとか木の枝を鉈で切るじゃない? あんな感じ」
「かっんぎっ……このぉ……!!」肩を震わせ、怒りを更に露出させる。
「何か言いたげね、オタクさん」片眉を上げ、挑発する犲河。この時の表情は、何かを企む狐か猫のような表情をしていた。
すると、密山が割って入る。「おい雨田、抑えろ。また問題を起こしてみろ、痛い目に遭うぞ」忠告し、両肩を叩く。
「ううぅぅぅ……うん」もうひと怒鳴りしようと口を震わせたが、『数日前の出来事』を思い出し、湧き上がる怒りや悔しさを腹の底へ押しやり、踵を返した。
「あら、逃げるの? 変態さん。それとも逃げ腰の変態? あ、逃げ腰オタクの変質者かなぁ?」周りの生徒の静止を見ないふりしながら犲河が口奔る。
「いい加減にしろよ!」再び怒りが温度計の針を振り切り、怒髪天に衝く。「このぉ! お前が男だったらただじゃおかないのに!!」今朝風紀の女子生徒を吹っ飛ばしたことを完全に忘れながらに叫ぶ。
密山が彼の肩を掴み引き戻そうとする。「男は女には一生勝てないんだよ。いいから下がれ。な?」
「気に入らないなぁ」犲河が席を立ち、つかつかと雨田に歩み寄る。「こーいった諍いに男も女もないでしょ? それに、口先でグチグチ零すのも、あたしの性に合わないんだよねぇ」と、指を鳴らし伸びをする。「実はあたしの趣味って喧嘩、なんだよね。てぇことでさ、放課後に思う存分やろうよ、け・ん・か♪」と、自分の席に座り、5時間目の準備を始めた。
「ぬぬぬ……」雨田は彼女の背を鬼の様な形相でにらみながら拳から血を滴らせた。すると、逆立てた髪をしならせ、しゅんと背中を縮ませる。「俺、女は殴れねぇよ」
「今朝ぶっ飛ばした先輩はどうなんだ?」
「風紀委員と生徒会は別だ!」別のムカッ腹が立ったのか、肩を震わせる。
授業終了のベルが鳴り、帰りのHRが淡々と終わりを告げる。犲河はお楽しみが待っているかのような上機嫌で校舎の裏手へ向かった。その後を見物好きの生徒たちが、最後尾には雨田と密山が続いた。
「あんま派手に暴れるなよ、今朝の一件が風紀の3年に知れたらしいからな」
「知るかよンな事」と、目を座らせる。5、6時間目の授業中、彼はずっと犲河の背中と澄ました横顔を忌々しそうに眺めていた。それに気づいた彼女は、彼を完全に馬鹿にしたような表情をして見せた。「ブッ飛ばしてやる、うん」自分に言い聞かせるように唱える。だがイマイチやる気がわかないようで、ため息を吐いた。だが、怒りでモヤモヤしていることは確かだった。
校舎の裏は割と広く、教師たちの車の寝床として使われていた。よく昼にはここでキャッチボールをする者や、その場に座って弁当をつつく者が多くいる。そんな広場の中央で犲河は足を止め、ブレザーを脱ぎ捨て、ワイシャツの袖を捲った。今までは華奢な女の子らしい木の枝のような細さだったが、屈伸運動を始めると、徐々に腕が太くなり、血管が浮き出た。「さて、始めようか」と、目を座らせ、獣気を辺りに漂わせる。
【雨田龍法VS犲河椿】
「望むところ、だよ……うん」まだ躊躇しているのか、少し腰が逃げていた。ネクタイを緩め、犲河の顔をにらむ。その間に密山が周りの見物人から『どっちが勝つか』と、賭け金を集め始めていた。
先に仕掛けたのは犲河だった。低姿勢から地面を蹴り、雨田に飛びかかり、素早く拳を数発見舞う。雨田はそれを軽く防ぎ、拳を握って殴り返そうと相手を見据えた。が、やはり躊躇いを捨てきれず、防御に徹する。そんなのお構いなしに連撃を浴びせる犲河。
「結構、乱暴者なんだね。犲河さん」「なんかガッカリ……」「風紀委員や生徒会に目ぇつけられるぞ」見物人のB組生徒が口々に漏らす。中には軽蔑の眼差しも混じっていた。
「ほらほら! 反撃しないと喧嘩にならないぞぉ!」犲河はそう言うと、独特な構えをした。正拳突きをするような構えだが、まるで体全体で飛びかかるような勢いのある構えだった。獣気がさらに濃くなり、彼女の瞳の形が変わる。
【羆型・爆裂拳!!】爪にも拳にも似た強烈な打撃が雨田を襲った。勢いはまさに、逃げ惑う小動物に容赦のない連撃を見舞う熊の如し。
あまりの勢いに受け流しきれず、彼はすべての拳を防ぐ形になった。が、あっという間に崩され、胸に重たい一撃を喰らう。
「ごふぅ!」後ろへ吹き飛びながら胸を押さえる。肺や胃に鈍痛が響き、膝を落とす。
「まだまだ終わらないよン♪」体が温まったのか、ホッコリと湯気を立てながら彼女は雨田の周りを駆け始めた。あまりの疾さに彼女が群れを成しているようにも見えた。
【狼型・鋭爪牙連斬】数体にもなって犲河は彼に、今度は鋭く深い攻撃を数十回にもわたって仕掛けた。その膝や肘、踵は牙となり、蹴脚先や手刀は爪となり、相手を抉った。
雨田はそれを先ほどの鈍痛のせいで碌に防げずに次々と喰らい、ついには顎に一撃を貰い、頭からダウンした。
攻撃を終わらせ、華麗に着地する犲河。「ふぅん……」詰まらなそうに顎を撫でる。
「くそ……速い」と、起き上り、口の端から出た血を拭う。彼は自分より速い者が苦手だった。
「あんた、全然本気じゃないね……」落胆したように歩み寄る。「真面目にやらないと、一生負け犬だよ? キモオタ君。ダサいぜ」と、決めるかのように人差指を向ける。
すると、雨田の背中に蒼紫のオーラが立上った。「今、なんて言った?」むくりと起き上り、犲河の目を見据えた。「テメェ、今なんて言ったよ。あ?」
犲河は怯まず「……負け犬? キモオタ?」と、肩を上げ下げする。
「だ・れ・が……ダサいだぁぁぁぁぁぁ!!!」と、彼女の頬に一発不意の拳を入れる。だが、彼女は『やっと面白くなってきた』という表情でそれを未然に防いだ。「もう知らん!女でもなんでも知らん! 口の悪い女はお仕置きじゃぁぁぁぁ!!」目を真っ赤に染め上げ、糸切り歯をむき出し、襲い掛かった。
「いいね、いいね!」楽しそうに犲河は彼の攻撃を防ぎながら蹴りなどで反撃を試みた。
それを軽くいなし、構える。「言ったろ! もう容赦しない!」両腕に蒼紫のオーラを纏わせ、さらに稲妻をスパークさせる。「紫電龍……」
【サンダーボルト・ブレス!!】彼の突き出た両腕から紫電の破壊光線が放たれ、犲河の目先まで迫る。「やばい!」と、息を吸い込み、上体を膨らませる。再び獣気が彼女を纏い、目から一気に全てが解放される。
【獅子型・獣王咆哮壁!!】両胸に溜まった空気を、すべて喉を通して口から吐き出す。辺りに犲河の雄々しい咆哮が鳴り響いた。
彼女から放たれる轟が紫電を撥ね飛ばし、周りに飛び散らせた。それが見物人に直撃したり、教師の車に当たったりして悲鳴とクラクションが鳴り響いた。空気中に小さなプラズマ球がフワリと浮き上がり、人魂の様に辺りを漂う。
「ウソだろ?」自分の技を跳ね返され、狼狽する。
「ふぅ、危なかった。やるじゃん」にっと笑い、また彼に飛びかかる。
そこから、しばらく押さず押されずの攻防劇が繰り広げられた。2人は息があったようにお互いの拳や蹴足を制し、回避し、ぶつけあった。
「ったくよぉ! 思い通りに拳が当たらねぇ!」
「おとなしく当たってやるもんかよ!」犲河はニタニタと笑いながら彼の攻撃を優雅に避け、防いでいた。
「くそ! こんなに、こんなに可愛いのに! 何て憎たらしいんだ!」と、拳を振るう。
「え?」不意のセリフに動きを止め、雨田の拳をモロに喰らう。「んげ!」頬を押さえながら後退し、怒らせていた肩を撫で下ろす。「か、可愛い? あたしが?」と、殴られていない方の頬も赤くさせる。
犲河の変化には気にも止めず、吠える。「お前みたいな憎たらしい奴は! こうだ!」と、本格的に光線を放つような構えを見せ、跳躍する。すると、彼の周りに雨雲のような闇が現れ、地鳴りと天雷が起こる。「喰らえ!」
【1.21ジゴワット・キャノン!!!】化け物の絶叫にも似た落雷音が掌から轟き、放たれた高圧電流波が犲河を襲った。「んぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
雨田は着地し、したり顔を作る。「どうだ!」立上った砂塵や煙が晴れ、彼女の姿が現れる。ダメージを喰らった様子もなく、ただ体から煙を燻らせ、その場で立ちすくんでいた。それどころか、顔を真っ赤に染め、自分の胸に手を当て、歯痒そうな顔をしていた。
「……効いて……いるのか?」雨田が首をかしげる。
「そうか……これが」犲河は何かを納得した様な表情を作り、雨田の目を見つめた。「えっと、その……」もじもじと足の先で地面を小突く。
「う! 次はなんだ?!」雨田は防御姿勢をとり、彼女の様子を見た。
すると、横合いから拡声器でも使ったような大声が響いた。「その喧嘩、仲裁する!」声の方向には風紀委員の苑田と王聖が腕を組んで立っていた。
「あちゃぁ……ま、無理もねぇな」密山が面倒くさそうに頭を掻く。
「雨田龍法! 本日こそ貴様の蛮行、許すまじ! 先輩、お願いします!」と、彼女ら2人の間に背の高い男が割って入った。風紀委員書記長の3年、『藻部幾三』(モベ・イクゾウ)が腕を組んで弁慶の様に立っていた。
「出た、その他多勢コンビ」雨田が面倒くさそうな顔を彼らに向ける。
「苑田と!」「王聖だ!」と、肩を怒らせる。
「黙れ」と、藻部が彼らの前に立ち、大御所俳優のような威厳ある声を出す。「我らはそう簡単に激昂してはならん。なぜなら我らは風紀を制す者。そんな我らが風紀を乱してはならぬ」高校生らしかぬしゃがれ声で説き、フンと鼻息を鳴らす。
「は!」「すいません!」2人は敬礼し、一歩下がった。「書記長! 久々に見せて下さい!己を制し、周りを制す技を!」
「うむ、この場を整えねば委員長に申し訳が立たん」と、ボクサーのような防御の構えを作り、前進を始めた。「盾を構え、隙を見て突く! 騎士の如し華麗なる戦法! さぁ参れ!」
そんな演説ぶった劇には目もくれず、犲河は雨田の顔を見つめ、雨田は不思議そうに構えていた。「なぁ密山、面倒だから頼むわ」
「俺ぇ? 冗談じゃねぇよ……いや、まてよ」と、手の中にある。賭け金を見てニヤつく。「わかったよ、俺がやる。雨田、肩貸せ」と、その場から華麗に飛び立ち、雨田の肩を蹴ってさらに高く翔んだ。「12.7×99mmNATO弾、装填」
【ANTI MATERIEL RIFLE!】密山は急下降し、空気摩擦で熱を帯びた蹴り足で藻部の自称鉄壁の防御をあっさりとブチ抜いた。その瞬間、相手はまるで目に見えぬ何かに攫われるかのように後方へ吹き飛び、教師の車に激突した。それを合図に密山は賭け金を高らかに掲げ、「この喧嘩無効試合! よって賭け金は俺の総取り!」と、素早く懐に仕舞った。
そんな事お構いなしに観客たちは顔を青ざめさせた。「こいつら、風紀に思い切り喧嘩売ってるよ」「やばいじゃん、生徒会が動くよ」「俺知らないっと」と、蜘蛛の子散らすように解散した。
「そんな、書記長が!」「急いで保健室に! お前ら、覚えてろよ!!」と、物も言わずぶっ倒れている藻部先輩を引き摺って逃げていった。
「……おい」雨田が犲河に話しかける。「どうする? 続けるか?」
「……え? あぁごめん。いいよ、もう満足したし、それに……」と、俯き彼の顔を見て頬を赤く染める。「雷に打たれちゃったし……」
「やっぱ効いてた? あれ俺のとっておきだしな」と、照れながら微笑みを見せる。「どんな相手もイチコロ」
「うん、イチコロだね」犲河は彼の近くに恐る恐ると近づいた。「今朝と、お昼はごめんなさいね……酷いこと言っちゃったし、蹴っちゃったし……」
「あぁ、もういいって。それに、昼のあれは喧嘩がしたいだけの挑発だって、わかっていたよ」
「え?」目を丸くする。
「実は俺も中学時代は喧嘩好きだったしね。よくあぁやって売ったな」
「そう……気が合うね」
「だね」と、瞳が合う。
そんな2人の仲に密山が『いいムードにしてなるものか』と、割って入った。「なぁ、この金でオヤツでも行かないか? 奢るぜ。犲河さんも」
「ホント? やった!」無邪気にはしゃぐ犲河。
すると雨田がむくれ顔を作った。「誰のおかげで稼げたんだよ」
「もちろん、2人のおかげです! 犲河さんの歓迎会も兼ねて、行こうぜ!」と、3人は夕日の当たる校門へと笑い合いながら向かうのであった。
真っ暗闇の教室。その中で佇む1人の学生。「なんだと? 馬鹿な……」無感情にセリフを漏らし、腕を組む。「今までは思い通りに動かせたが……何故だ? これでは計画が」縫い針になかなか通らない糸でも忌々しく思うかのように体を震わせ、奥歯をカタカタ言わせる。
「我々の支配を逃れた者が1人……厄介ですね」透き通った女性の声が部屋に木霊する。
「……せっかく盤に駒が揃ったというのに、このままでは計画が台無しだ」部屋を歩き回り、唸る。「……あいつに任せるか。その為に数年間飼いならし、いい条件を付け、思い通りに操れるように調教したのだ」
「そうですね。では早速連絡を」と、暗闇の中で新型の携帯を怪しく光らる。
ってことで読んで下さり誠にありがとうございます!! 御礼ばかりではなんですのでプチ解説しま~す!
まずサブタイはP!NKというアメリカの歌手さんの歌のタイトルです。私のお気に入り&この話のイメージで選ばせてもらいました。で、日本語タイトルは……テキトーです、以上!
んでキャラ解説。
雨田龍法は一応この物語の主役です……が、話全体では少し影が薄いかな? 名前に龍が付いているので、ドラゴン系の必殺技を放ちます。遠距離タイプのパワーファイターです。で、登場人物の中では弱めで、感情と共に戦闘力が爆発的に上昇します。はい、厨二キャラです。
次にこの話のヒロイン、犲河椿は、ぶっちゃけ主役以上に活躍して戦ったり殴られたり叫んだりします。山に住む野生系なので、獣系にちなんだ技を使います。体力、力、スピードに長けており、かなり強いですが、精神面がかなり打たれ弱いです。
密山瞭は……おっとここで時間です。では第3話でお会いしましょう!
密山「おい!!!!」