13.Comatose ~破壊と暴力の宴~
お越しいただきありがとうございます! 十三話目です! 今回は終始バトル! お楽しみくださいませ!
新暮町。田舎の割には発達したショッピング街が並び、隣の都から電車が走り、若者たちがファーストフードを片手に歩く、なかなかの都会。そんな平和な町の中心で、ひとつの爆音と共に、戦争にも似た戦いが始まっていた。
【TEAM BATTLE】
「おらおるぁおぉぉぉるぅぁぁぁ!!!!」自分が欲しがっていた最高の力を手に入れ、狂喜乱舞する菜門寺。彼は雨田達に狙いを定め、彼らの頭よりふた回りほど巨大な拳を振り回し、コンクリートやアスファルトで舗装された道路に大穴を開けた。
「あんなのまともに喰らったら死ぬぞ!」密山は素早く避けながら大声を上げる。
「言われるまでもないっしょ!!」雨田は心底恐怖しながら相手の恐るべき鉄拳を飛んで避けた。
「反撃できない!!」相手の目まぐるしい拳の乱打に焦りながら、犲河は何とか反撃の糸口を掴もうと必死で相手の隙を伺った。
「しゃらくせぇ! まとめて吹き飛べ!!!」菜門寺は真下に向かって拳を振り下ろした。
【大地割れ!!!】深々と突き刺さる彼の拳。すると、そこを中心として皹が高速で走り、やがて半径50メートルの地面が皹だらけになる。
「な、なんだ?」雨田達が首を傾げた瞬間、皹の入った地面が光だし、まるで地中に仕掛けられたダイナマイトが爆発したように、菜門寺を中心とした地域が吹き飛んだ。コンクリート片が雨の様に周辺に降り注ぎ、走っていた車が急停車、一般人たちは「テロだ!」と、声を揃えて逃げ惑った。
瓦礫の山から雨田が顔を出し、埃を払う。「く、なんて技だよ……」と、目を擦る。目の前には菜門寺がぬぅっと立っていた。
「さぁ捕まえたぞ!」と、拳を振り上げる。
その瞬間、雨田は急いで後方へ飛びのき、構えた。「蒼龍……」
【コバルト・ブレス!!!】掌から蒼炎の息吹を吐き出した。炎は菜門寺の体全身を包み込んだが、技が終わると、彼は無傷でそこに立っていた。「う、そ……」相手は不敵に笑いながら雨田の方へ向かって前進した。「紫電竜……」
【サンダーボルト・ブレス!!!】相手はまったく揺るがず、歩行を続けた。【コンバージェンス!!!!】周りに飛び散った電流の範囲を狭め、電圧を上げて放つ。だが、ダメージを受けている様子は見当たらなかった。「ま、まじか……」相手が鼻先まで迫る。
「俺の番かな?」雨田が避けようとした瞬間、彼の顎を蹴り上げる。鼻血を噴きながら天高く舞い上がる雨田。それよりも更に高く飛んだ菜門寺が彼の腹目掛けて肘を落とした。
「ぐばぁ!!!」全身を砕かれたような衝撃が走り、地面へすっ飛ぶ。地中深く潜った彼の腹部を、体重を膝に乗せた菜門寺が襲い掛かった。「ぐぼぉ!!!」地面から噴火するように血が舞い上がる。そして、菜門寺は彼の頭を掴み、ずるずると引き摺ってビルの壁に叩き付けた。
「さぁ、楽しもうぜ!」巨大な拳を、すでに虫の息となった雨田に数回にわたって叩き付けた。ビルの反対側に皹が入り、6回目の轟音でビルの支柱が崩れる。菜門寺は飽きたのか、事切れる寸前の雨田を崩れるビルの中へ押し付け、そのまま崩落するに任せた。
「ん、ぐ……なんて滅茶苦茶なヤツ……」瓦礫から出てきた犲河は、口に入ったコンクリートの粉をペッと掃き出す。彼の前に密山が何かを考えるように座っていた。「どうする? 勝ち目あるかな?」
すると、密山は何かを閃いたかのように手を叩いた。「あれだけの筋肉だ。当然体は固く、柔軟性も落ちているだろう。きっとスピードも遅いはずだ。つまり、犲河さんの瞬足移動と俺の跳躍であいつを掻きまわし、雨田の必殺の一撃をもってすれば勝てる!」
「いい作戦だね! では早速!」と、大穴から出て菜門寺の気配がする方へ目を向ける。ちょうどその時、彼は雨田をビルに押し付け、殴りつけている最中だった。「!!」
「このやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
犲河の怒りは頂点に達し、先ほどの密山の作戦も忘れて突撃する。次の瞬間、ビルの崩落の中に雨田が消えていった。「わぁぁぁぁぁぁ!!!」
【虎型・密林王の乱心!!!】我を忘れた犲河は、憤怒に満ちた拳を連続で放った。そのすべてが菜門寺の上半身に直撃したが、びくともしなかった。続けて犲河は膝蹴り、肘打ち、頭突きを彼の顔面にすべて叩き込み、最後はハイキックで決める。
「次はお前か?」無傷の菜門寺が犲河に殺気の籠った目を向ける。
【犀型・突撃角・改!!!】と、再び膝蹴りを放ち、相手の腹部に命中させる。だが、怯む様子がなかった。「うぅ! うわぁぁぁぁぁ!!」怒りの冷めぬ犲河が再び拳をふりあげた瞬間、菜門寺の巨大な左手が彼女の頭を包み込んだ。
「さて、呼吸は出来るかな?」と、彼にとっては軽く彼女の頭を握り、高く持ち上げる。犲河は両手を激しく動かして相手の手を叩き、足をジタバタさせた。「運動にはそれなりの酸素が必要だ……さて、どこまで息が続くか見ものだ……」と、右拳でボディーブローを数発叩き込む。犲河は菜門寺の掌の中で呻き散らしたが、その声は外に漏れなかった。
膝蹴りや肘打ち、蹴り上げなどが次々と命中し、犲河の動きが次第に弱まり、仕舞には腕をだらん、とさせて動かなくなる。足元に血がポタポタと垂れ、断続的に痙攣する。「意外にもろいじゃないか、ハルカのダチぁよぉ……」
「やめろ、この野郎!!!」出てくるのが遅い、と思われるだろうが犲河が飛び出してから10秒も経っていなかった。すでに手遅れとなったことを感じ取り、歯茎を剥きだす密山。
「わかった、やめよう」と、動かなくなった犲河を密山に向かって投げつける。
「ぐ!」空中で受け止める。「おい、返事をしろ!」
「ゲハッ! ゴホ、グヘ、グファ!!」血を吐き散らし、急いで深呼吸を始める犲河。
「くそ……あの野郎!」密山は目を座らせ、怒りを浸透させた。「12ゲージ装填」
「お前、少しは骨があるかな?」と、足を踏みしめ、突撃を開始する。
【M870!!】相手の機に合わせ、蹴りを相手の顔面に連射する。「息つく暇は与えねぇぞ!!! マグナム弾装填」
【COLT PYTHON】6発のストレートを相手の正中線すべてに叩き込み、更に【M18 CLAYMORE】と、足払いを仕掛けて菜門寺を仰向けに転ばす。そんな彼の胸板を踏み台にして天高くジャンプし、彼の腹部に狙いを定める。「エネルギーチャージ完了! トリガー!!」
【SATELLITE CANNON!!!】青白い光に包まれた密山は、狙い通りに菜門寺の腹部に蹴り足を深々と突き刺した。地面に大皹が入り、手ごたえを感じたのか、距離を大きくとって飛びのく。「これでダメなら不死身だ。ま、不死身なんてこの世に」何事もなかったように起き上る菜門寺。「いた……」
「ふん、あの2人よりもレベルがワンランク上の様だな……だが」と、両拳をぶつけ、ニタリと笑う。「足りねぇなぁ」近場に駐車された車をむんずと掴み、持ち上げる。
「うぉ……何する気だ?」声を震わせながら、相手の動きを観察する。
【車ミサイル】と、まるで枕でも扱うように乗用車を密山に向かって投げる。
「ウソだろぉ?」
「おい! ツバキ! 起きろ、目を開けろ!」紅雀が涙でぐしゃぐしゃになった顔を犲河に近づけながら揺り動かす。
「うぅ……ハルカ、さん?」目を開け、体中で響く鈍痛に顔を顰める。「痛ぅ~……は! あ、タツノリくん!」彼が消えていった瓦礫の山に顔を向け、急いで向かい、瓦礫をどけ始める。
「ツバキ……逃げようよ」弱々しい声を出す紅雀。「あんなのに勝てっこない……殺される……」声を震わせ、また涙で顔を濡らす。
すると、犲河は紅雀に優しげな表情を向けた。「いいよ、逃げても。ううん、甘えてもいいよ。あたしの時も、ハルカさんに甘えた。今度はあたしが答える番だよね」瓦礫をどかす作業は休ませず、語り掛ける。「安全な場所に隠れていて。あのゴリラ、あたし達がやっつけるからさ!!」
「ツバキ……」紅雀はどうすることもできず、ただ逃げ場を探し、陰に隠れてツバキを眺めた。「情けないなぁ、わたし……でも、ごめん。今は怖くて恐くて……戦うことなんか……」
「わ! わ! わぁ!! 誰かぁ! いや、一般人は出てくんな、でも、誰かぁぁぁ!!!」悲鳴を上げながら逃げ惑う密山。彼の背後から次々と車が飛んできては潰れ、爆発を起こしていた。「よく考えたら、俺も一般人!! 助けてぇぇぇ!!」
菜門寺は余裕で笑みながら道路に停まる車を片端から投げ飛ばしていた。「そらそらぁ! さっきの威勢はどうしたよぉぉぉ!!!」と、ガスを積んだタンクローリーを両手で持つ。
【タンクローリー・ミサイル】
「技名、もっと捻れよ!」突っ込みを入れながら飛んで緊急回避する。しかし、ガスタンクの着弾と共に凄まじい大爆発が起こり、爆炎がそこら中を飲み込み、密山を炎が襲い掛かる。「くぁ!」衝撃波に襲われ、吹き飛ばされデパート入口のガラスを突き破る。「ここに身を隠すか……」階段を上って3階の肌着売り場の試着室へ逃げ込む。携帯電話を取り出し、侠華に着信を入れた。「頼む……出てくれ」菜門寺の独特な足音が耳に入り、肝を冷やす。
「なんだよ?」蟲の居所が悪そうな侠華の声が漏れる。
「すいません、いきなりですが、助けてくれませんか?」
「は? お前よぉ、そのお前らを助けるために、アタシゃわざわざ生徒会長に立候補して、義務づけられた生徒会合宿に参加してるんだろうが! そんなアタシになんだってぇ?」
「そ、そうだった……昨日から1週間後まで合宿だったか……」唖然とする密山。侠華は昨日、堅菱と一悶着あったらしく不機嫌だった。「そこから新暮町まで来れませんかね?」
「冗談じゃねぇ! この宿から町まで数十キロもあるんだぞ? それに立候補者はおいそれと外出できないんだよ!」
「おい侠華! 会議中は携帯の電源をオフにしろと!」堅菱が眉間にしわを寄せて怒鳴る。
「だぁらっしゃぃ! 今かわいい後輩から緊急電話がはいったんじゃい! そうだ、兄貴!」と、彼女の背後で控える自称執事のテツヤに話しかける。「兄貴、ちょっくら新暮町に行って……」
「私は侠華さんのお傍を離れるわけにはいきません……」神妙な顔つきで答える。
「堅いヤツばっかだなぁ……!!! 悪ぃ、これ以上は無理だ。他ぁ当たってくれ!」と、乱暴に通話が終了する。
「そ、そんなぁ……」絶望の表情で肩を落とし、泣き出さんばかりの声を上げる。すると、彼の真下から巨大な腕がにゅっと現れ、足首を掴んだ。「な!!」
「みぃつけた」下の階にいた菜門寺が楽しそう笑い、密山を引き摺り下ろす。そして、まるでぬいぐるみでも扱うかのように、彼をブンブンと振り回し壁にぶち当て、外へほうり投げた。
地面に不時着し、あまりの衝撃にのたうち回る密山。「いてぇ……やばい……マジでやばい」弱々しく呟き、何とか立ち上がる。前方にはすでに菜門寺が立っていた。彼の横には10tトラックが停車しており、何かを思いついたのかニタリと笑い、トラックの横っ腹に拳を突き刺し、ヒョイと持ち上げる。
「待てよ、冗談なら休み休み……」
【10tトラック・ハンマァァァァァァ!!!】トラックを大槌に見立て、密山の頭上へと振り下ろした。もう逃げる気力もない密山は自分の命を諦め、目を瞑る。
【大鋼割り!!】すると、寸でのところでトラックが真っ二つになって密山の両脇に転がり、爆発した。「ひ、光が見えた……俺、光になるところだった……」数滴ちびりながら背後へと振り返る。そこには……。
「よ、すげぇ騒ぎになってたから、来てみた」武刀が竹刀片手に立っていた。「なに? この毛を剃った様な金髪ゴリラ」と、菜門寺を睨みながら鼻で笑う。
「せんぱぁぁぁぁい!! 助けてください! 俺、侠華先輩に見放されて、いや……そんな事より、こいつをやっつけて下さい!!」
「おいおい、侠華は……まぁいいか」実際、侠華から連絡を貰いここへ駆けつけたのだった。因みに彼は、生徒会合宿へは参加せず、学園の裏山のふもとで剣道の稽古に勤しんでいた。
「なんだ? お前は?」と、先ほどからゴリラゴリラと言われ続けて腹を立てた菜門寺が表情をしかめた。
「お前こそ、可愛い後輩をちびらせやがって……」武刀は気安く相手の間合いに入り込み、鼻先まで近づいた。「いいか? 後輩をイジめていいのは、先輩である俺らだけだ!!」素早く竹刀を振り、菜門寺の小手・面・胴を奪い、突きで竹刀の先を喉に深々とめり込ませる。
「へぇ、鉛入りの竹刀たぁ、初めてだ」余裕綽々で竹刀を握る菜門寺。
「お? こいつ、頑丈だなぁ~」まだ余裕を残す武刀は密山に「逃げろ」と合図しながらも相手の目を睨み付ける。「久々に本気で行くか!」
【武刀漸VS菜門寺剛】
「どれほどのモノか見せてもらおう」このセリフを合図に竹刀を離す。その瞬間、武刀は素早く身をひるがえし、竹刀を高速で振った。
【起・横一文字・乱れ討ち!】竹刀から放たれる鋭き衝撃波を空中で容赦なく相手にぶつけていきながら着地し、地面を蹴る。【承・縦二文字・回天連斬!!】と、竹刀を縦に振り回し、刃のホイールとなって菜門寺の体を削り、火花を散らした。表情を顰める菜門寺。【転・斜め三文字・野獣爪!!】と、瞬時に3連発の袈裟斬りを放ち、相手の胸板にかすり傷をつける。【結・四文字・滅却突!!!】最後に放たれた突きが菜門寺の心臓目掛けて放たれる。胸板を突き破り、深々と突き刺さる竹刀。
「ん……」頬を歪ませる菜門寺。「いい……」と、竹刀を握る。「実に素晴らしい……」竹刀が脆く折れて破片が飛び散り、訓練用鉛棒(凝縮10t)が剥きだしになる。「お前は喰い応えがありそうだ!!!」なんと、蒸気を上げて鉛がどろどろと溶けだし、柄だけが残る。
「お、おいおい……冗談だろ?」武刀は柄だけ残された竹刀だったものを眺め、捨てる。「てめぇ! 竹刀をまともに買ったら、いくらすんのか知ってんのかよ!!!」と、拳を握り、顔面をぶっ叩く。まるでゴムを被せた金属でも殴るような音が辺りに鈍く響く。「この……ゴリラが!!」
「重い……お前、相当強いな」ワクワクするように無邪気な笑みを見せ、目をカッと開く。
「毎日、部活で鍛えてますから!!」と、バック転しながら後退し、建物に立てかけられた大きい布袋を取る。「まさか、こいつを今日使う事になるとは……」と、布を取ると、そこから彼の身長ほどある長い、斬馬刀に模した木刀が出てくる。「こいつの切れ味、試してみるか?」と、一振りし、鋭さを帯びた衝撃波を放つ。すると、本日初めて菜門寺が焦る動作を見せ、間一髪で衝撃波を避けた。
「久々だ、こんな切れ味。ナイフ、否……日本刀より上だな」
巨大な木刀を肩に担ぎ、菜門寺の急所の数々に狙いを定めた。「いざ!!!」
すると、菜門寺は近くの電柱を根元ごと引っこ抜き、一振りして電線を引きちぎった。すると、行き場を失った高圧電流が辺りに飛び散り、まるでスーパーボールの様に跳ねた。
「なに?」不意を突かれ、慌てて電流を避ける武刀。すると、彼の頭上を電信柱の先が襲った。「ぐ!!」受け太刀するも、鞭の様にしなる電線が彼の背後を捉え、絡みつく。「な!」
【電柱ロッド!!】
束の間、電流が武刀の全身を駆け巡り、黒い煙を辺りに立ち込めさせた。「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「どうやら、殺し合いは初めてみたいだな」真っ黒に燻っている彼の首を掴み、後方のビルへ向かって投げ、叩き付ける。彼は木刀を取り落とし、そのまま衝撃によって崩れるビルの中へ消えていった。「所詮は学生か……どいつもこいつも歯ごたえが無い」くすくすと笑うと、遠くからサイレンが鳴り響き、あっという間にパトカーが彼の周りを取り囲んだ。「宴はまだまだ、これからだぜ?」
お疲れ様です! 如何でしたか? バトルはまだまだ続きますよ!
解説タイム!
サブタイは前回に引き続きSkilletからです。直訳すると「昏睡」になります。邦題はまぁ、読んでの通りですね。
さて、雨田君たちはかなりピンチですが、果たしてあのゴリラに勝てるのか……次回決着です! 乞うご期待!!