表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

11.Stronger ~アイドル殲滅作戦~

お越しいただきありがとうございます! 今回でアイドル襲来編決着でございます。とくとご覧あれ!!

 犲河が学園から消えて1週間、佐藤アヤカの力は生徒会をも骨抜きにし、主要メンバー以外は彼女のファンと化していた。そんなファンたちを纏め上げるのは他ならぬ親衛隊長の雨田龍法。もはや生徒会に以前の権力は無に等しく、力を失いかけていた。

「おいおい……勘弁して、下さいませんかねぇ?」生徒会長専用の机についたアヤカに弱々しい声を向ける破嶋。

「この部屋を使いたいんですよ、だめですかぁ?」と、目を輝かせる。

「どうぞぉ! っては!!」生徒会長でもこの始末。もはや彼女に対抗できるものは一握り以下となっていた。

「あ、ちょっとトイレで化粧を直さなきゃ!」自分のクラスの目の前にある女子トイレ(アヤカ様専用)に入り、親衛隊にガードを固めさせる。

 アヤカは鏡に映る自分の顔を見て微笑んだ。「ふふ、もうすぐこの学園は私のモノ……そして、トドメに復讐を成就させ……ママとの約束を」と、自慢のツインテールを専用のブラシで整える。テールを束ねる髪飾りを指で優しく触れ、ふふふと微笑む。「ママ、待っててね。もうすぐ私は、ママが望む立派なアイドルになるからね♪」



 下校時刻になり紅雀は1人、裏山へ向かった。元犲河の家があった場所に、犲河は板切れの上で横になっていた。数日間何も食べていないのか、頬は痩せこけ、普段の張りのある肌も土気色になり、目の周りも窪んでいた。

「学校に来いよ……このままじゃ、出席日数が……」

「いいよ。もう……あたし学校やめるから」と、力なく答える犲河。「あんな騒ぎ起こして、大好きな人達を傷つけて……雨田君まで殺そうとして……もうだめだよ。もう、あの学校には通えないよ」

「ツバキ……」

「もう放っておいて……1人にしてよ」

「……そうやって逃げるのか、お前」このセリフに肩をビクンと震わす犲河。だが、涙ながらに口にする。

「1人にして!」

「……わかった。そうそう、私、弁当を作ったんだ。少しでも元気が出ればいいが……食べてくれ」紅雀は彼女の背後に弁当の包みを置き、背を向けた。「また来る」

「もう来ないで」こうして、また1日が終わる。こんなやり取りを彼女らは1週間続けていた。



 次の日の放課後、紅雀はアヤカのいるクラスへ向かった。そこはすでに彼女の色に染め上げられ、まるでお姫様の一室になり果てていた。ベッドや家具、メイクセットが置かれ、もう教室とは呼べない有様である。

「佐藤アヤカに会いたいんだが」部屋の前で親衛隊に止められる。

「ファンでもないあなたに許可はおりませんよ」

「なら……押し通る!」と、親衛隊2人を蹴り飛ばし、教室の扉をぶち破る。足を踏み入れ、アヤカのいる方を睨み付ける。「いい生活だな、アイドル様!!」ソファに腰かけた彼女を怒鳴りつけ、今にも拳を振るいかねない態勢になる。

「あら? 約束でもしたかしら?」周りの親衛隊並び雨田が襲い掛かるのを一声で止め、余裕たっぷりに口を開く。「あなたも私のファンになってくれると嬉しいな~」

「夢でも見てな」指の骨を鳴らす。「……犲河椿って知ってるよね? もちろん知ってるよなぁ!!」

「あら……誰の事かしら?」

「とぼけるな」と、彼女の足元に向かってひとつのアクセサリーを投げる。それには佐藤アヤカのロゴが入り、微かにイチゴの匂いを漂わせた。「あいつの家の残骸から見つけた。通帳にキャッシュカードを盗ったのもお前だろ」

「……このエサはあいつへのモノだったんだけど……雑魚がひっかかっちゃったか」アヤカはそう口にして立ち上がった。「で? 私をどうする気?」

「ツバキに変わって、ぶちのめしてやるよ……」

【紅雀玄VS佐藤アヤカ】

「不可能よ……何故なら女子力の格が違うもの」

「女子力?」初耳な言葉に首を傾げる。

「女が持って生まれた、女のみが使える力。あなたは精々、そうね……200程度かしら? 数値にしたらね。比べて私は……50万以上だと思ってくれればいいわ」

「つまり? なんだ?」

「あなたは私からすれば、ゴミ以下ってことよ」と、アヤカは両脇のツインテールを巧みに操り、まるでのたくる大蛇の様に床を這わせた。「悶え苦しみなさい」

「はっ!」相手の殺気を読み取り、すぐさま防御態勢になる。

【玄武甲・前方多重展開壁!!】

【暴君の槍】レフトテールを限界まで伸ばし、紅雀の盾に髪先をぶち当てる。すると、彼女の毛先は紅雀の盾をまるで紙か豆腐の様に貫き、鳩尾を貫通させ、背後の黒板に突き刺さった。

「なッッッッ!!!!」ガードごと貫かれ、悲鳴すら碌に上げられずにその場で立ち尽くす。床に血がボタボタと垂れ、口からもこぼれ出る。

「言ったでしょ? ゴミ屑だって」と、テールを操り、紅雀を床に叩き付ける。

「ぐあぁ!!」一気に体力を削られた紅雀は、身動きも取れずにもがいた。

 そんな彼女の後頭部を踏みつけるアヤカ。「私を誰だと思っているの? ピラニアやサメの泳ぐ芸能界というプールを優雅に泳ぐ一流アイドルよ? そんなアタシに向かって女子力を碌に持たないゴミが一匹で、何ができるの?」ツインテールを優雅に踊らせ、紅雀の背中目掛けて振る。空気が破裂したような音が炸裂し、教室の窓が割れる。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」彼女らしくない悲鳴と共に血が霧となって飛び散り、背中の肉がパックリと割れる。「あっあぁぁぁぁ!!」耐えがたい痛みに涙する紅雀。

「ほら、ゴミだ。ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ」容赦なく何度もテールを振るい、血達磨と成り果てた彼女を蹴り転がす。「さて、どうしようかな♪」



 校舎裏に、アヤカを中心とした親衛隊たちが紅雀を囲んでいた。「ぐ……ごぁ! ぎゃ! げぇ! ゴブゥ! あ! がぁぁぁ!!!」柔道部部長に羽交い絞めにされた彼女は、親衛隊たちの拳を一発ずつ喰らい、虫の息となっていた。「げほっげほ……ぐがっ!」野球部部長(4番バッター)のバットが鼻柱に命中する。

 一通り終わると、アヤカが歩み寄る。「さて……どう? 私のファン……いえ、奴隷になってくれる?」と、目の前まで顔を近づける。

「ふ、ふざけるな……誰が」と、口を開いた瞬間に柔道部部長が尋常ではない力で彼女の関節と首を締め上げる。「ゲェ!!」

「そう……ならここで死になさい。じゃ、雨田くん。トドメさしちゃって♪」と、傍らで不気味に微笑む雨田の肩を軽く叩く。

「はい、アヤカさま」彼は、もう以前の彼とは程遠い姿に成り果てていた。

「や、やめろ、あまだ……目を覚してくれ……」拘束を解かれた紅雀はすがる様に彼の足元に近づく。

「黙れ、ゴミが」冷たい一言を彼女に浴びせかけ、構える。「暗黒龍……」

【ダークアビス・ブレス!!!】両掌一杯の暗黒破を彼女の眼前目掛けて容赦なく放ち、正面を焦土に変える。同時にアヤカの勝ち誇ったかのような笑い声が学園中を包み込んだ。



「う……っく……」紅雀が目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。置物はおろか、ポスター1枚飾られていない無機質な部屋には、テキストや勉強道具が行儀よく本棚に仕舞われ、机にはノートの束がこれでもかと置かれていた。なにかを組立てたのか、工具箱が床に置かれている。「ここは? うっ!」体中に丁寧にまかれた包帯を摩る。すると、目の前のドアが開いた。

「よっ」密山がウェイターの様に、お盆を片手に現れる。「2日も寝てたぜ。相当ひどい怪我だったんでな……保健室はアヤカに占拠されているし、近場の病院にも監視の目が来ていたからな……悪い、俺なんかの部屋で」

「いや…その……ありがとう」と、頭を傾ける。すると、腹の虫が鳴る。「あっ」

「そうおもって、卵粥を作った。胃が傷ついてたんでな、下手なものは食べられないだろ?」と、折り畳み式のテーブルを彼女の前に置く。「口に合えばいいが」

 紅雀は未だに痛む腕を無理に動かしてスプーンを握ったが、うまく動かないのか、取り落とす。「手伝おうか?」

「わ、悪い……(なんかいいムードだな)黙れ」

「ん?」密山は粥をスプーンで掬い、彼女の口まで運んだ。

 粥をゆっくりと噛み、飲み込む。胃が痛むのか、表情をしかめた。「ぐ! ……美味い」

「そうか。よかった……」と、ゆっくりとしたペースで彼女に食べさせる。

 すっかり食べ終わると、紅雀は頬を赤らめながら「ありがとう」とまた礼を言った。

「礼は、あのアイドルちゃんをどうにかしてからだ」今や学園は授業をまともに続けられないほど荒れてしまっていた。もう学園ではなく、アヤカ専用の事務所の様に成り果て、学園崩壊は時間の問題だった。「……侠華さんや武刀先輩と作戦を考えているんだが、アヤカの力は増す一方だ。もう、誰にも止められない。多勢に無勢だ」

「生徒会は?」

「もう殆ど機能していない。へっ、潰そうと企んでたのが、虫のいい話だな。あいつらを頼りにするなんてな」と、乾いた笑いを見せる。「あいつにはもう、正攻法では勝てない」

「あの女、ツバキに拘っている様子だったな……まるで復讐したがっているような……」

「そうか、だったら犲河さんを……」

「囮に使うのか? 私をエサに使ったように」恩を仇で返す様なセリフに口を苦くさせる。

「気づいてたか……」密山は自嘲気味に笑いながら自分の頭を叩いた。「悪いとは思っていた……だが、あの女の弱点を見抜くために必要だった。それに、あの場で俺が1人、突撃しても同じ有様だろうしな」と、水筒を取り出し、コップに注ぐ。「白湯ですが」

 紅雀は遠慮なくそれをゆっくりと飲み下し、ホッとひと息つく。「冷静だな。いや、冷静すぎる」今度は鋭い目つきで彼を睨む。「まるで、仕事をするかの様な手際の良さだ。それに、お前の実力なら、不意を突いて雑魚を蹴散らせたはずだ」

「かもね」

「……とぼけるな! ぐっ!!」傷を押さえながらも彼の目を睨み続けた。「何か企んでいるのか?」

 すると密山は腰を上げ、踵を返した。「……いや、企んではいないさ。企んでは、な」と、退出しようとドアノブに手をかける。「3日だ。3日後までに、ケリをつける。紅雀さんは、傷が癒えるまで大人しくここにいてくれ」

「待て!」再び傷が痛みだす頃、密山は部屋を出て行ってしまう。「あいつ、まさか……」



 次の日の朝、密山は学園の裏山に来ていた。犲河の住んでいた辺りまで登り、その場を見回す。「……遅かったか?」普段のおちゃらけた彼とは違い、何か冷たいものを感じる顔立ちをしていた。

「なんか用? 変態」リュックを背負った犲河が背後に立っていた。「学校に来いって? 残念だけど、あたしは引っ越すよ。もうここにはいられない。今まで仲良くしてくれてありがとうね」無理やり明るく振る舞うような、ぎこちない笑顔を作る。

「……そうか。なら俺からのメッセージだ」と、犲河の家を壊した強盗の正体と、4日前に起きた出来事を彼女に語った。「ってなわけだ。どうする? 正直に答えて」

「……ふ、ふぅん……」軽く俯き、頬を震わす犲河。口を一文字に結び、ぎゅっと目を瞑る。「……あたし、また逃げようとしちゃった……ダメだ、こんなんじゃ成長できない」背負っていたリュックを落とし、山を降ろうと足を前に出す。「いってくる!」

「勝てるのか?」密山が呼び止めるように、明るく問いかけた。

「……正直、話を聞く限りじゃぁ、独りじゃ無理だね」彼の問いかけに対し、珍しく笑顔で振り向き、答える犲河。その彼女のセリフに密山はあるものを両手に持っていた。片方は『戦略』と書かれたノート。もう片方は、小さな機械部品であった。

「正直者には両方、授けようぞ」

「遊んでないで、早く」



 次の日、すでにHR、授業、昼休みすら無くなった学園では、1日中佐藤アヤカの曲が流れ、各教室に1台ずつ置かれたテレビでは彼女の出演する番組の録画テープが流れていた。ファンたち(教員、学園長含む)は喜びながらそれらに耳、目を貸して微笑み、そうでない一握り達は校舎裏手の端材置場に机を置き、各々で自習をしていた。

「ったく、会長がうっかりしてるからですよ!」堅菱が口を尖らせながら肘で小突く。

「面目ない。しかし、あれだ。このままだと期末テスト、ないんじゃないか?」

 そこへ柳が小石を投げ込む。「勉強はテストの為だけにあらず、ですよ。それにお受験も……おら、またケアレスミスしてるぞ、落ちこぼれ!」と、ハリセンで軍宗を叩く。ついに風紀委員は彼女ののみを残してしまった。

「すみません、すみません」涙ながらにミカン箱の上にある教科書へ向かう軍宗。

「はは、意外な幕引きだったね」他人事の様に杜ノ上がケタケタ笑う。

「笑いごっちゃないでしょうが!!!」彼以外の全員が声を揃えて怒鳴り、木霊した。



 この日のお昼休み頃、学園の支配者となったアヤカはいつもの時間帯に自分専用の化粧室へ向かい、出入り口を親衛隊にガードさせた。「誰も通さないでね♪」と、鏡の前に立ちブラシを鞄から取り出す。すると、背後でトイレの水が流れる音が響いた。

「誰かしら? ここは私専用の化粧室よ!」と、音の方へ顔を向ける。

「よ、アヤカ。直接話すのは何年ぶり?」そこには犲河が腕を組んで立っていた。

「犲河椿……」急に普段の表情から、まるで獲物を目の当たりにした蛇の様な顔を作る。

「佐藤アヤカ……」獣気を纏わせる犲河。「なんでこんな事したの? ここはトイレ……仲良くガールズ・トークしましょうよ」と、指の骨を鳴らし、トイレに反響させる。

「いいわ……語ってあげるわよ。冥途の土産にね」壁のタイルに寄りかかり、腕を組む。「小学校5年の頃、私たちは同じクラスだったわね。その時の学芸会、覚えてるかしら?」

「……覚えているよ。確か、『ピーター・パン』だったね」と、昔の思い出をひっくり返し、辛うじて覚えている個所を瞼の裏に映し出す。「……何か問題でもあるの? 楽しかったじゃん」

「あんただけね!」殺気の籠った眼差しを彼女に向かってぶつけ、鼻息を荒くする。「私の役は勿論、主役のピーター・パンだった。で、あなたの役は……」

「確か、『フック船長』の太鼓持ちの海賊『スミー』だった……何の問題が?」

 犲河の惚けるかのようなセリフが鼻につき、次第に前のめりになって表情を険しくする。「あの時、私は仕事を休んでまで役に打ち込み、セリフを完全暗記して、更に演技もドラマ以上に練習したの! なのに……あなたは……」

 彼女が言うには、学芸会本番2日目(保護者招待日)、アヤカは見に来た母親やプロデューサーの為、1日目よりも本気を出して見事に役を演じきった。しかし、その舞台で犲河は1日目とは違うセリフをアドリブで面白おかしく作り替え、アヤカを困らせたのだった。しかもその演技がアヤカよりもウケてしまい、彼女よりも犲河の方が目立ち、拍手喝采を浴びた。学芸会後、アヤカの母親は我が子の演技を褒めずに犲河のアドリブを褒めたのだった。しかも見に来たプロデューサーも一言「いい原石を見た」と呟き、その一番聞きたくないセリフをアヤカは耳に入れてしまった。更に翌日、そのプロデューサーは犲河に「アイドルのオーディションに来ないか? 君なら2次審査から始めてもいい」と、学校まで足を運んで口説き、肝心の犲河はきっぱりと断ったのだった。

「……死ぬほど、自殺を考えるほど悔しかった……正直、あなたを殺してやりたかった!」

「それが動機? くだらない……」ガッカリしたように肩を落とす犲河。

「くだらないですって? あなたは私を辱め、世界中の女子の夢を、誰もが欲しがるものを踏み砕いたのよ! 当然の報いよ! 復讐されて当たり前よ!!!」

「じゃあ、あの時にその場で喧嘩を売らなかったの? 復讐すればいいじゃん」

「私はやられたらその場でやり返す様な単細胞とは違う! 機会を待ち、計画を練りに練って、ここぞと言う時に突き落とし、高笑いする! これが私の復讐!」

「陰険なやつ……」と、上着を丁寧に個室トイレの壁にかけ、腕を捲り構える。「一発、殴らせな」

【犲河椿VS佐藤アヤカ】

 アヤカはくくく、と不敵に笑い犲河を睨んだ。「あなた、自分の女子力わかってる? 私の見立てじゃ、あの紅なんとかってヤツを下回ってるのよ? そんなゴミクズが私に」と、云う間に犲河の素早い踏み込み蹴りが飛ぶ。「ぬっ!!」間一髪で避け、距離を取る。

「あたしがこの場を選んだ理由。ここなら邪魔が入らない」と、着地しながら微笑む。

 すると、アヤカはまた可笑しそうに笑い、犲河に向かってテールを一撃見舞った。それを一足飛びで避ける犲河。「わかってないわねぇ……誘い込まれたのはアナタよ。ここならあの密山ってヤツが助けに来れない。でしょ?」

【暴君の槍!】紅雀のガードを一発で貫いたテールの先を音速で放つ。

【猿型・蔦滑り蹴り!!】テールに触れて滑るように毛先を避け、ついでに蹴りを見舞った。だがアヤカはもう一方のテールで辛うじて防御し、後退する。

「その技は早いけど、毛先の方向で着弾地点が読めちゃうんだな」得意げな表情を覗かせる犲河。「喧嘩に女子力は関係ない!」

「これは喧嘩じゃない! 復讐よ!!」ツインテールを鞭の様に振り乱し、壁に連続で叩き付ける。壁のタイルや個室トイレ、便座を次々に破壊し、床が水浸しになる。

 顔を真っ赤にし、額に血管を浮き上がらせたアヤカの表情を確認し、上唇を濡らす犲河。「でも、あなたは立派なアイドルだと思うよ。復讐関係なく学園乗っ取れたし、生徒のほとんどが貴女にメロメロ。それは事実よね。でも、それは貴女のお母さんが元アイドルであり大女優だから。あなたは所詮、世襲アイドル。魅力は貴女にはなく、お母さんにあるから、皆が惹かれるんじゃないかな?」これは事実であった。アヤカの母親は昭和アイドルで一世風靡し、あの伝説のアイドルに匹敵する実力の持ち主だった。現在は女優として土曜スペシャルの常連としてテレビに出続けていた。

「誰が……誰が世襲だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」彼女が一番言われたくないセリフであった。それに彼女は、親のコネを一切使わず今の地位を作り上げた……と、思い込んでいた。

【暴君の槍・弐連突き!!!】と、毎日5時間のお手入れを欠かさない、枝毛一本ない艶やかなツインテールを両方、犲河目掛けて突き出した。「死ね!!!!」

「もう1つ弱点」先ほどの要領で攻撃を避け、ニヤリと微笑む。「この技、戻りが遅くて小回りが利かないから、一片に出すのは命取りだよん♪」

「しまったぁ!」

【羆型・双腕撃】両爪でアヤカのツインテールを束ねる髪留めを破壊し、バク転して距離を取る。「勝った!」密山の戦略ノートによると、この髪留めはアヤカの母親のアイドル時代に愛用していた一品だった。これを髪につけていた故に多くの人間を虜にしていた、と密山は推理していた。

 アヤカのツインテールは脆くも崩れてバラけ、無残にも彼女の頭はぼさぼさの酷い髪型に成り果てた。

「アイドルは髪型が命! 勝負あった! よね?」

 しかし、アヤカは倒れず、ただ俯いて何やら小声でブツブツと呟いていた。「よくも、よくも……」

「ん?!」目の前から尋常ではない殺気を肌で感じ取り、足が竦んで動かなくなる。


「よくも私の大切な髪留めを、壊したねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 爆音にも似た大声がトイレを爆心地として学園中に轟き、校舎中の窓ガラスを割り砕いた。彼女の顔面は、もはやアイドルのアの字もない、怨霊が如き表情がベッタリと張り付いていた。

「こ、こわ……ごめん」チビリそうになった犲河は怯え、震え、つい謝ってしまう。

【暴君の千狂鞭!!!!】ばらけた髪の毛一本一本が犲河目掛けて飛び、数千の殺気を帯びた鋭い毛先が、避けることもできなかった彼女の体中にブスブスと突き刺さり、貫通した。

「っっっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」内蔵の殆どに百本ずつ刺さった髪の毛の全てから振動波が放たれ、犲河の体を外部からも内部からも破壊される。

 体中を痙攣させ、足元に血溜まりを広げる犲河。白目を剥き、口から真っ赤な泡を吹く頃、一斉に数千の毛が引き抜かれる。血が噴水の様に噴き出て、それでもしばらくは立っていたが、再びアヤカの殺気で鋭さを増した【暴君の千狂鞭】が襲い掛かった。学園中に犲河の断末魔が響き渡る……。



そんな悲惨な血闘が起きている最中、密山は殺戮現場の真反対にある放送室の椅子に座っていた。その隣には、未だ包帯の取れない紅雀が腕を組んで座っていた。

「上手くいくんだろうな……」犲河の悲鳴に心を響かせ、助けに行きたい衝動を抑えながら密山に尋ねる。

「いかなきゃ、この学園は終わりだぁな」と、一言。そんな返答に紅雀は腹を立て、彼の胸倉を掴んだ。

「お前のその余裕な態度が気に喰わないんだよ!!」

「……冷静を装っているだけさ」紅雀から手を離され、制服の乱れを整える。「大丈夫、これも計画の内。Bプランだが、彼女も承知済みだ」

「そうは思えない……」太ももの上でスカートを握りしめ、再び轟く悲鳴に歯噛みする。

「……信じるしかない……」



 アヤカの攻撃が終わる頃、化粧室の床は一面、犲河の血で染まっていた。ズタボロになり、血の海に沈んだ犲河は指先ひとつ動かさずに転がっていた。彼女を見下すように、体中を返り血で染め、舌舐めずりするアヤカ。ここまでやっても満足しないのか、犲河の後頭部を踵で何度も、思い切り踏みつけ「ふふ、くふふ、ふへ、ひゃははははははははは! ざまぁぁぁぁぁみろぉぉぉぉぉ!!!!」表情を思い切り崩し、まさに高笑いを響かせた。

「どうだ! わかったかゴミクズ! 私に勝てるわけないんだ! いいか、このまま死なせはしないぞ! 楽にしてなるものか!! これからずっと生き地獄を味わって貰うからな!!! かぁくごしろぉぉぉぉ!!!」

 すると、虫の息以下になった犲河は、か細い声を出した。


「わ、わかった……あ、あたしの負けだよ……これからあなたのファン……いいえ、奴隷でも雑巾にでもなる……だから……この学園を、もとに戻してよ……お願い、私への復讐だけでいいでしょ? お願い、します……」


 アヤカはその遺言の様なセリフを聞き、しばらく何かを考えるように沈黙した。そして、微笑を浮かべ、わざわざ屈み、犲河の耳元で囁いた。「やだ」

 犲河が悔しさの涙を唸るように出すと、再び高笑いするアヤカ。「馬鹿なお願い。あんたの居場所すらも奪っての復讐よ。そんな願い聞き届けられないわ」言い終わると、犲河の髪をむんずと掴み、引き摺って化粧室の出口へ向かう。「今から、親衛隊を呼んであげる。で、彼らにあなたを散々嬲らせて、裸に剥いて、この学園のマスコットにしてあげるわ。名前はそう、『雌豚ちゃん♪』どう? 最高でしょ?」戸を開け、犲河を廊下へ放り投げる。「さ、聞いたでしょ? みなさん、この愚かなゴミクズ豚を嬲って差し上げて♪」と、また高笑いをキメようとする。

 すると、雨田が転がった犲河に歩み寄り、手をかけた。


「大丈夫か? ツバキ。今、保健室へ連れていくからな!」


 優しい手つきで彼女をお姫様だっこする。

 その姿を目にしたアヤカは目を疑った。一番洗脳を浸透させた彼の、今の行動はありえなかった。「……え? なにやってるのよ! その女を裸に剥きなさい!」と、歩み寄ろうとすると、雨田は振り向きざまに激しい眼差しで殺気を飛ばした。

「近寄るんじゃねぇよ! 何がアイドルだ、このクソ女!!!」一言吐き捨て、ゆっくりとした足取りで犲河を保健室へ連れて行った。

「な! ほら皆、何やってるの! あの2人を捕まえなさい!!」と、回りの親衛隊に指示する。だが回りの者達、否、学園中がアヤカに敵意の視線を向けていた。「え?」

「なに寝ぼけてるの?」「ったく、虐めの首謀者? お前みたいな奴をクズって言うんだよ」「あんな馬鹿女に振り回されてたの? 私たち」と、各々が手にしていたアヤカグッズを床に落とし、各々の普段の学園生活へ戻って行った。

「そ、そんな……どうして?」と、自分の髪を触る。「私の髪留め……でも、それだけでこんな掌返し、起こりっこない!!」

 その頃、犲河は雨田の腕の中で静かに微笑んでいた。「密山君、見直したヨ」と、雨田にも聞こえない小声を出す。

 彼のBプランとは髪留め破壊後、アヤカが倒れなかった場合の計画だった。密山の分析では、アヤカの洗脳にも近い魅せる力は髪留めや髪型にあると推理した。だが、これだけが崩れても洗脳は解けないと考え、犲河にあるモノを渡した。それは、電気街で手に入れた小型盗聴器だった。それを犲河の襟の裏に取り付け、アヤカの狂気なる演説を、盗聴器から放送室の受信機へ飛ばし、学園中に放送したのである。おまけに犲河の学園に対する献身のおかげで、彼女の前回起こした事件もチャラとなった。

「でも、変態には変わりないよ……盗聴器って……」



 保健室で数時間にわたって治療を受けた犲河は、毎度の様にミイラ同然の姿になっていた。雨田はそんな彼女につきっきりで看病していた。

「ごめんツバキ。なんかここ数週間、夢見心地で……その間に迷惑かけちゃったみたいでさ」

「ううん……いいよ、もう終わったんだから、さ……」頬を赤らめ、久々に心から微笑む犲河。「あのさ、あま……タツノリくん」

「なんだ?」

「今日さ、久々にタツノリくん家、行ってもいい?」

 すると、雨田は訝しげな表情を作った。「なに言ってるんだ?」

「え?」不安の表情を作る犲河。


「……いつも何も言わないで転がり込むくせにさ。よそよそしいぜ?」


 このセリフに犲河は……「う、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」ここ数週間の疲れや、やるせない思い、そしてやっとの安らぎが涙になって零れ落ち、彼女は声を上げて泣いた。

「え? え? 俺、なんか変な事いった? おい、泣くなよ!!」

「っっ無理だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 その赤子の様な泣き声を聞きつけ、密山たちが現れる。「おいおい、女の子泣かすなよ」

「いや! ツバキが勝手に……その……」すると、紅雀が雨田の後頭部を思い切り殴りつけた。「いでぇ!!」

「これでチャラだ」

「ってぇ~なにが?」

 紅雀は犲河が寝るベッドに腰掛ける。「よかった……お帰り」すると、また犲河は大声を上げて泣き散らした。

「ご、ごめんねぇ!! 本当はうれしかったのに! 帰れって言ってごめんねぇぇぇ!!!」

「もういいさ……」胸の中で泣きじゃくる犲河の頭を優しく撫でる。

「さて!」密山が突然手を叩く。「今日はたっぷり迷惑かけてくれた雨田ん家でパーティーでもすっか! な、あ~ま~だ!」

「お? 俺? う……ん、まぁいいか」こうして、今回の事件は幕を閉じたのであった。ひとまずは……。



「ククククク……」真っ暗な部屋で、眼鏡を光らす者が不気味にほくそ笑む。「今回の件は思ったより長引いたが、想定の範囲内で幕を閉じた……そして手に入った、最高の駒が!!」部屋を歩き回り、笑いを堪えようと手を前に置く。

「密山君はいい働きをしましたね。彼にはもっと働いて貰わねば」女性の透き通った声が部屋に木霊する。

 部屋の中央には、眠らされたアヤカが後ろ手に縛られ、椅子に座らされていた。

「さぁ、今度は姫に働いて貰おうか……この『頭上に立つ者』となる私の下で」

「あぁら? 姫は私でしょう?」

「いや、君は女王様」心なしか、黒幕の声が震える。



 事件が終わった夜、雨田家でまたひと騒動起こる事となった。事は雨田の部屋で起こった。時は夜の7時、悲鳴から始める。「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」彼の部屋中、アヤカ様グッズで彩られ、ポスターに小物、尋常ではない量のCDが山と積まれていた。「ゲーム! 俺の魂!! どこ!!」

「自分で売りに行ったじゃん。忘れたか?」密山の証言を聞き、口をパクパクさせる。

「何故止めなかった!!!」

 密山は冷淡な表情で「止めたよ」と、ひと言吐き捨てた。「さて、メシ、めし。お母様は何をご馳走してくださるか楽しみだ」

「そんな場合か!! 買い戻してくる!!!」

「勝手にしな~」雨田の闘いは、これからが本番だった。


 さて、めでたくアイドル襲来編が幕を閉じました! ここまで読んで下さり誠に感謝であります!! 

 アイドル好きな人はすみません。書きたい放題書いてしまって……。

 さて、解説タイム!

 サブタイはブリトニー・スピアーズの楽曲からです。アイドル襲来編を締めるにはこれがぴったりだと思いまして。で、邦題は一昔前の特撮映画のパロディです。

 ではキャラ解説。佐藤アヤカはアレですよ。皆さんが想像するアイドルを思い浮かべて下されば……。因みに作中に出てきた女子力は、もちろん意味が違うことはわかってますよ! でも、言葉的にはこっちの方が合ってる気がするので……はは。

 さて次回は夏休みスペシャルが始まります! その主役はこの人! 紅雀玄です! お楽しみあれ!! って、主人公の雨田君はいつ出番が来るのやら……

 しかしあの密山は冷たいヤツですね。

 密山「お前には負けるがな……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ