10.Break you ~プッツン~
ご来店ありがとうございます! とうとう第十話目です!! アイドル編第二話、お楽しみください!!
残酷描写多数アリ、注意!
「みなさん、聴いてください! 私がデビューした時の歌、『両想いの味!!』」と、昼休みに体育館を占拠してちょっとしたライブ会場を親衛隊に作らせ、アヤカは用意していたコスチュームを身に纏い、マイマイク片手に歌い始める。自慢のツインテールを操り、激しいダンスと織り交ぜ、ファンだけでなくその場にいただけの学生、教員、事務員までもを魅了する。バックミュージックはかかっていなかったが、彼女の踊り、完ぺきな音程の歌声、曲を知り尽くしたファンによる手拍子でそこいらのライブよりも完成度の高いショーになっていた。「みんな! ありがとう!!」
「なるほど」興奮の熱気に包まれる体育館の片隅には、メモ帳を片手にした密山が冷静な眼差しでアヤカのショーを眺めていた。「厄介な仕事だよ、ったく」
そんなショーの下校時刻、HRが終わると雨田は早速アヤカの元へダッシュして向かった。その後姿を恨めしそうな表情で睨み付ける犲河。「勝手にしろ、バァカ!」
「荒れてるなぁ、犲河さん」密山が一言口にすると、振り返りざまの裏拳が飛んでくる。「ブゲェ!!」バレリーナのように高速回転し、倒れる密山。「何れよ、俺、君の味方ホ?」
そんな荒れる彼女の肩にやさしく触れる紅雀。「なぁ、ツバキ」
「何!! あぅ……なに?」
「……今日さ、久々に喧嘩でもするか? 溜まってるだろ、色々と(お前もな)」
「……う、うん」と、その後、彼女らは、邪魔されず喧嘩のできる裏山を目指し、共に教室を出た。「……ありがと」
独り取り残される密山。「いやいや……俺が何をしたよ……?」虚しく独り言が教室内に響く。返答者は誰もいなかった。「……泣くぞぅ」
すると、慌ただしい駆け足が教室へ近づいてくる。「おい密山ぁ! 電気屋へ向かうぞ!」
彼の顔をみるや、あきれ顔になる密山。「雨田? 何しに行くんだ?」
「ゲーム機やこれまでのソフトを売り払ってアヤカ様のCDを買うのだ!」
「……もう止めねぇ……そんな気力はない……」と、腫れ上がった頬を摩る。「まぁ、一緒に行くよ。俺も買いたいものあるからよ」
「アヤカたんのニューシングルか?!」
「テメェとは違わぃ」
犲河達は裏山の頂上に着くと、早速ブレザーを脱ぎ捨て、Yシャツの腕を捲り上げ、構えた。「いつでも来い!」無理やり楽しそうな表情を作る犲河。
「本気で来な。無理に笑わなくていい」と、珍しく優しげな瞳を見せる紅雀。「……吐き出せ、自分がおかしくなる前に、な……」
【犲河椿VS紅雀玄】
「そう……じゃあ、あたしからもお願い」
「なんだ?」
「初めて喧嘩した時に出てきた、別のハルカに会いたいな」
「なんだって? (おいおいマジか? 喰っちまうぜ?)いいのか?」
「うん……」と、指の骨をボキボキと鳴らす。「お願い!」
「う、うん(ッシャァ!!)わかった」と、目を瞑る。みるみるうちに深緑色のロングヘアーが紅色に染まり、大きく横に広がる。次に目を開けた時、不気味に光る赤い瞳が犲河を捉える。「ご無沙汰ぁ」化け物のように口を思い切り広げ、戦闘態勢に……目の前にはすでに犲河の剛腕が迫ってきていた。「うぉ!!!」
「買うんだ! 100枚、いや1000枚! 買えるだけ買ってアヤカ様に喜んで貰うんだぁ!!!」と、自らの魂を現金に換えた雨田は、CDショップで吠え散らし、鼻息を荒くしていた。
密山は彼を羽交い絞めにし、必死で彼の蛮行を止めていた。「コラ! そんな事をやっても無駄だ! 頼む! そんな阿保ぅなマネはしないでくれ!!」
「阿保じゃない! これは愛ある行動だ! 止めてくれるな!」と、密山を引き摺りながらカウンターまで向かう。「アヤカ様のCD、1000枚下さい!」
「止めろ! 馬鹿!」
そんな2人に対し、ショップの店員は冷静な行動に出た。「お客様、良ければいい金貸し屋をご紹介しましょうか? 担保制でして、戸籍から手足まで担保にできるのですが」
「そこどこ!!」雨田は目を血走らせ、店員の案内をメモした。
「馬鹿! 人生を早々に打ち切る気かお前!!!」
その頃、学園の裏山では……「わ! ちょ、ちょっと待て! 落ち着け、お前! うわ!!!」と、顔に似合わない悲鳴を上げるもう一人の紅雀。彼女らしくなく、防戦一方になり、今は情けなく飛んで逃げ回っていた。「ちょ、おま! ゆ、許してぇぇ!!」
【雌獅子型・迅速狩り・八つ裂ノ陣】高速移動で追いかける犲河は、自分の分身を紅雀の逃げる方向に次々と置き、少しずつ追い詰め、逃げきれなくなったところで一斉に襲い掛かる。【雌狩人の凶宴!!!】殺気に満ち満ちた爪牙が襲い掛かった。
【玄武甲・全面展開壁・剛装甲】と、犲河の拳脚を辛うじて防ぎ、転がって距離をとる。「ストォォォ(こ、怖ひ! あいつ怖いぃ!)ォォォップ!!」すっかりいつもの紅雀が両手で犲河を抑える。 犲河はまだやり足りないのか、牛のような荒々しい鼻息を立て、肩や胸を激しく上下させていた。
「何? もう終わり?」瞳は小刻みに上下左右し、口元はわなわなと震え、拳が暴れ足りないと言わんばかりにコキコキと蠢く。
「こりゃぁ、侠華さんでも連れてこなきゃダメだな。初めてだよ、こいつが自分から逃げたの……(ほっとけよ!)」
「ふぅ! ふぅ! ……ご、ごめん」呼吸を繰り返すうちに冷静さを取り戻した犲河はしょんぼりとさせ、俯いた。「自分で自分を抑えられないの、初めてだ……怖いよ」
「あぁ、私も怖かった……さ、今日も私の家にくるか? 鍋焼きラーメンでもご馳走するぞ」紅雀は犲河を慰めるように胸に抱き寄せ、自分の鼓動を聞かせる。「落ち着け。誰もお前を責めはしないさ」
犲河は声を震わせ、涙を堪えた。「ありがとう……本当にありがとう」
その時、2人は気付いていなかったが、紅雀の鞄の中にあるジェラシーカウンターの数値が850を示していた。
次の日の朝、密山は頭を抱えながら、嬉しそうにする雨田の背中を忌々しそうに睨み付けていた。「結局、有り金、全部はたきやがって……あほが」
「アヤカ様! 今日は初代親衛隊長を決める日! どうか俺が選ばれますように!」と、胸にアヤカの缶バッチを付け、アヤカの団扇を持ち、応援用ラッパを吹く雨田。こんな彼の行動は密山たちの目には異常に見えたが、他の生徒、クラス、教師には当然であるかのように映った。なぜならば、雨田の様に佐藤アヤカに夢中になっているファンは、この学園の半分以上を占めていたからである。「あぁ、昼が待ち遠しい!!」
そんな彼を殺気の籠った眼差しで睨み付けるのは当然、犲河だった。奥歯を限界まで擦り減らせ、犬歯を剥き出しにし、獣気に満ちた吐息を吐いていた。
「落ち着け、ツバキ……」紅雀は彼女を気遣いながら鞄からジェラシーカウンターを取り出し、数値を見た。「987……やばい、昼休みにもうひと喧嘩してクールダウンさせなきゃな」と、携帯電話を取り出し、侠華にメールを飛ばした。「あの人の協力が必要、だな」
昼休みのベルの音と同時に全校生徒の半分は体育館へ集まり、アヤカの登場を今か今かと待ち望んでいた。
ステージが暗くなり、照明が中央を照らす。すると、また煌びやかなステージ衣装に身を纏ったアヤカが霧を従えながら現れる。「みなさん! 本日は初代親衛隊長を決める特別な日です! たくさん集まってくれてありがとう!!」と、手を高らかに上げると、わっとファンたちが賑わい、拍手をリズムよく叩く。その指揮をしていたのは雨田だった。「さて、では早速発表します! 初代親衛隊長の座に就くのは……」と、誰が用意したのかお馴染みの曲が流れ、聡明がファンたちや親衛隊のメンバーを照らす。「雨田龍法くんです! さ、ステージに上がってきてくださぁい!」選ばれた彼は、泣き出さんばかりの表情を作り、ステージに神妙な足取りで向かう。「今まで、私なんかの為にステージを盛り上げてくれてありがとう! 今日より貴殿に、初代親衛隊長の称号を、与えます!」と、口紅(春の新色 ランキング1位)で潤った唇で優しく雨田の頬に口づけする。客席の羨ましがる声が体育館を埋め尽くし、この情報が光の様な速さで学園中を駆け巡ることになる。
「アヤカ様が初代親衛隊長に雨田龍法を選び、その証に彼の頬に口づけをした」この情報が伝言ゲーム式にガタガタと崩れることになるのは、云うまでもない。
「さ、いつもの場所に向かおう。今日は侠華さんが付き合ってくれる」紅雀が暗く俯く犲河に優しく声をかける。「急がないと、貴重な昼休みが終わるぞ? そういや昼飯は食べたか?」
「……お弁当持ってきてない……お金ない……お弁当……雨田、くん……ぐぅ!」机に突っ伏し、必死になって己の中に生まれてしまった何かと戦う犲河。「ほっといて! あたしは大丈夫だから、ほっといてよぉ!」
「そういう訳にもいかないだろう?」と、彼女の肩に触れようとすると、この教室に近づく何かに感じ取り、冷や汗を流す。「な、なにかが……くる!!」
嫌な予感と共に、その悪魔が如きインフォが教室の扉を破って現れる。
「アヤカ様と雨田君がチュ~したって!!」
このセリフが犲河の最後の砦を踏み破り、頭、心ともに内側外側を食い破り、ついには体全体から『そいつ』が飛び出る。
【犲河椿は嫉妬の炎に支配された!!】
「な!!」犲河の姿を目にした紅雀は驚きのあまりに口をあんぐりと開き、膝から床に崩れた。犲河の体全身を黒紫の炎が覆い尽くし、その瞳は深血色に染まった。全身から殺気を放出する彼女は、座っていた椅子、回りの机を焼き尽くしながらゆっくりと立ち上がり、教室の外へと向かった。
【嫉妬の業火】目が一瞬光ると共に爆音が轟き、教室の扉が吹き飛び、大きな出入り口を作り出す。更にその炎は辺りに燃え広がり、近くにいた生徒に燃え移り、あっという間に灰に変えてしまった。
「大変だ!」紅雀は彼女を追おうと腰を上げる。ブレザーのポケットに入っていたジェラシーカウンターを手にして、鼻で笑った。測定不能どころか、完全にその機械は砕け、燻っていた。
その頃、生徒会部屋に風紀委員長の軍宗が駆け込んでいた。「大変です! 今年もまた嫉妬の炎に狂わされた生徒が1人! 我々はいつでも動けます! 少数ですが……」毎年起こっているのか、これに対し生徒会長の破嶋はどっしりと生徒会長用の机につき、顎を叩いた。
「毎年経験するが、答えは出ている」と、やる気のなさそうな声を出す。「放っておけばいい。あぁいう手合いはかかわらないのが一番だ。無理に止めようとすれば火に油。それに、収まったらどうなるか、もう知っているだろう?」
「で、ですが!」と、一歩前に出る。
すると柳が彼女に氷の様な視線を向けた。「なら風紀だけでなんとかしてみなさい。それに、こんな事で生徒会を動かそうと思うなんて、随分とまぁ偉くなったのね」
「くっ! 承知しました! 我々だけで対処します!!」と、肩を怒らせた軍宗は生徒会室から乱暴に退室した。
「……結構賭けなんだがな」破嶋は気の抜けた声で柳に問いかけた。
「鎮火するか、殺人が起きるか、2つに1つですからねぇ……まぁ余程の恨みが無ければ大丈夫ですよ」と、電子メモを片手に冷静さに満ちた声を出す。「……ヒョットコ院さんが現場へ向かったみたいですね」
「そうか……なら彼女に任せよう」
お昼休みが半分過ぎた頃、学園の半分が阿鼻叫喚の地獄と化していた。第1校舎中が黒紫の炎で包まれ、窓ガラスは溶け落ち、2階3階が一部消えてなくなり、ところどころに吹き抜けが出来上がっていた。
【紅雀玄VS嫉妬の炎に支配されし犲河椿】
「くそ! 止まれ犲河!」紅雀が決死の覚悟で彼女の前に立ち、押さえに掛かる。「ぐぁ! 熱痛ぃぃぃぃ!!」上着が燃え落ち、肌が露わになり黒く焼け焦げる。「近づけもしないのか! くそ!(こりゃヤバいな)」何とか彼女を止めようと正面に立ちはだかり、構える。
【玄武甲・前方多重展開壁・耐熱装甲!!!】
【怨恨砲】犲河の瞳がキラリと一瞬、紫光を放った瞬間、紅雀の多重装甲が黒煙を上げて燃え、全身を焼き尽くした。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」転がって火を消そうとしたが、中々消えず、彼女の筋肉を溶かしていく。「くそ! 感覚がない……」
苦しむ彼女をしり目に前進する犲河。体全身を黒色のプラズマ球で多い尽くし、ふわりと浮き上がる。
「止まってくれぇぇぇぇ!!」再び正面に立ちはだかり、痙攣の止まらない腕を振る。
【玄武甲・白熱火球拳!!!!】と、己の作り出した火炎を拳に纏わせ、渾身の力を込めて放った。
【丑の刻・呪炎】口をカパッ開き、黒炎を前方へ放つ。強大な火炎に飲み込まれた紅雀の右腕は炭となって燃え落ちた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!! ……止まってくれ……頼む……」すると、彼女の背後から拡声器を使ったような声が鳴り轟いた。
【風紀委員たちが勝負を仕掛けた】
「久々だな、この獣女!」「覚悟はいいか!!」苑田と王聖がキメポーズと共に現れる。
【怨恨砲】と共に2人はあっという間に灰となって消し飛んだ。
「馬鹿野郎!!」と、一筋の槍となった軍宗が犲河の胸目掛けて手槍を突き出した。しかし、犲河を囲む黒プラズマに阻まれ、腕が消失する。「ぐぁ! くそ! ん? 藻部はどうした?」藻部こと風紀委員書記長は体育館のアヤカ様ステージのファンの中に紛れ、声援を送っていた。「あの薄情者!!」因みに風紀委員であるこの3人を除き、全てアヤカのファンになり、体育館で黄色い声援を送っていた。「情けな、」
【怨恨砲】次の一撃で消し炭と化す軍宗。
【風紀委員たちは倒れた】
「何しに来たんだ? お前ら」呆れる紅雀の背後から次の刺客が現れ、犲河に向けて熱い拳を放った。
【TEAM BATTLE】
【ヒョットコ院流喧嘩術・鬼退治の剛拳!!】だが紅雀、軍宗と同じく黒プラズマ球に阻まれ拳が焼けこげる。「熱っ! なんて温度だよ!」と、拳に息を吹きかける。
「来てくれましたか、先輩」無くなった腕の傷口を押さえながら苦しそうに問いかける紅雀。
「こっからは任せろ、こういう事態は何度か経験済みだ! だが……」目の前で飛び交う小さなプラズマ玉を避けながら困惑した表情になる。「こんなレベルは初めてかな?」
「頼りない事を言わないで下さいよ……いけるか?(アタイに言ってる?)あぁ……(都合いい時だけアタイを呼んでない?)悪い」と、目を瞑り、体をわなわなと震わせる。「ったく! やってやらぁ!(存分に暴れな!)黙れ、このヘタレ!!」と、紅色のロングヘアーを振り乱し、犲河に襲い掛かる。
その姿を初めて目にし、驚く侠華。「なんだ? 様子が変わったな!?」
「驚いてる暇があったら、アタイに合わせな!!」
「性格も変わるんだな……」と、飛んでくるプラズマを避ける。「ま、言われなくとも」
【超音波砲・百裂風迅!!!】片腕の指先から音波砲を無数に連続発射する紅雀。
【ヒョットコ院流喧嘩術・桜吹雪】その場で回転する侠華は発生した強風からかまいたちを作り出し、その烈風に拳から放たれた灼熱色の衝撃波を乗せ、犲河に向かって放つ。
だが、その2つの渾身の一撃たちは無残にも犲河のバリアに弾かれ、回りに飛び散った。
「くそ! 無敵かよ!」紅雀はくやしさを表情に滲ませながらも次の一手に出る。
【朱雀爪・超音波絡め・八裂脚!!!】自らの脚に超音波砲のエネルギーを纏わせ、連続蹴りを浴びせに掛かる。
【丑の刻・藁刺し包丁】犲河の瞳から放たれたか細いレーザーが一閃。紅雀の左足は3枚におろされ、焼け爛れ燃えカスとなり、床にボタボタと落ちた。
「ぃぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」不時着する紅雀。髪の色が深緑色に戻り、すっかり戦意を失っていた。「(悪い……アタイでも無理だ)すまない……」
だが、これによってできた隙に合わせ、侠華が飛びかかった。「腕の一本や二本、くれてやらぁぁぁ!!」
【ヒョットコ院流喧嘩術・地鳴し槌!!!】双掌底を突き出し、全身全霊の力を込めて衝撃波と共に繰り出す……が。その時、犲河の額から角と思しきものがニョキリと生えていることに気付き、一瞬怯んだ。「なっ?」
【般若級・怨恨砲・零】先ほどよりも巨大且つ温度の桁がひとつ違う黒曜光が侠華の全身を覆い尽くす。次の瞬間、全身が消し炭となった彼女が床に粉となり果て、散った。
「もうだめか……このままじゃ……」
「12.7×99mmNATO弾、装填……」
【ANTI-MATERIEL RIFLE!!!】はるか遠くから隙を伺っていた密山が、全身の体重を乗せた蹴りを放つ。が、案の定バリアで弾かれる。だが、これは想定内と言わんばかりに余裕たっぷりに着地する。
「悪ぃ、待たせた」と、半分溶けた上履きを見て口笛を吹く。「次が勝負だな」
「遅いぞ、何をやっていた?」
「体育館の雨田と佐藤を非難させた。今の犲河さんの狙いはこの2人。今、雨田達に近づけたら、確実に殺人が起こる」と、ジャンプする姿勢になる。「次で決めるぞ。動けるか、ハルカさん?」
「まともに立つこともできないが……」と、背を壁に預けながらぎこちなく立つ。
「それでいい」軽く飛び、犲河の体全身を瞳で捉え、あらゆる個所に狙いを定める。「弾薬庫展開! フル装填!!」
【UZI】まず左拳を連続で繰り出す。少しずつ腕が灰になり、攻撃が終わる頃には肘まで消失していた。【M870】右腕を軸にして回転蹴りを放つ。一瞬で8発の蹴りがバリアに着弾し、皹が入る。代わりに蹴り足の上履きが完全に燃え落ち、足首も消し炭に変わる。【COLT PYTHON!!】回転の勢いに乗って右腕で瞬時に6発ものストレートを放ち、ついに忌々しいバリアを打ち破った。
「すごい……密山ってこんなに……?」
「肩、借りるぜ!」ひとっ跳びで紅雀の肩を踏み台にし、消失した天井よりはるか上空へ飛び立つ。「エネルギーチャージ完了! トリガー!!」
【SATELLITE CANNON!!!!】最後に残った効き足を犲河の脳天へ向かって撃ち下ろす。空気摩擦で蹴り足は熱を帯び、いつしか一筋の青白い光となっていた。
【般若級・嫉妬乙女の唸牙】犲河の体全身から放出された業火がまるで般若のような顔を形作り、口をアングリと開いて密山を飲み込み、噛み砕いた。
「お、おい……」紅雀が唖然とその光景を目にし、恐怖に身を凍らせる。次の瞬間、人とも生き物とも思えない赤黒い塊が床にバラバラと飛び散った。「あ……あ……」
何事もなかったように前進する犲河。彼女の向かう先は体育館ではなかった。彼女の鼻があらゆる匂いを嗅ぎ分け、自分の恨みの先にあるものへ向かっていた。そう、頑丈な扉の向こう側に隠れる雨田である。
「もう、やめてくれ……怒りを抑えてくれ」片腕片足となった紅雀が彼女の前に再び立ちはだかり、涙を浮かべながら説得を試みる。「もう暴れるのはやめて、心を静めてくれ……破壊衝動に駆られては、身を滅ぼす……私は痛いほど知ってる……その先にあるものを……だからお願いだ! 後悔で押しつぶされる前に、止まってくれ……」と、犲河の間合いの内に入り込み、焼け爛れた腕を彼女の背に回し、優しく抱きしめる。「誰も、お前を責めない……傷つけない」
「……ハ……ルカ……」
【般若級・大怨火の抱擁】躊躇もなく、最大級の灼熱と共に紅雀を飲み込み、骨も残さず彼女を消し去った。もはや、彼女を止められる者はおらず、犲河は己の嫉妬心に支配されながら、辛うじて残る2階の音楽室へ向かった。
「あれ? アヤカ様? どこへ行ったんですか?」密山によって眠らされていた雨田は目を覚まし、第2校舎の音楽室を見回しながらアヤカを探した。「何が起きたんだ? 首筋が痛ぇ……てか、暑いなぁ……ここ」と、出口の金属ドアへ向かう。
次の瞬間、金属ドアが真っ赤に融解し、轟音とともに溶けた鉛が辺りに飛び散った。「うわ! な、なんだ!?」狼狽し、恐怖する雨田の眼前には、すっかりその姿を変貌させた犲河が宙に浮いていた。額から角を禍々しく生やし、猫背になった背に黒曜石色の炎を纏い、指の先、足の先からは鉄板をもたやすく引き裂けそうな爪を生やしていた。犬歯を伸ばしに伸ばし、雨田を認識するや否やパカァと口を開く。
「お、俺が何をしたよ!」腰を抜かしながら後退する雨田。周りでは机、椅子が消し炭になり楽器は溶け、部屋中が炎で埋め尽くされていた。
【100倍・愛憎変換】犲河は体中に秘められた桃色のオーラを黒く染め上げて上空にどす黒い嫉妬の塊を作り上げた。【般若級・死怨の獄・終焉魂】真っ黒い、校舎をスッポリ飲み込むほど巨大な玉を雨田の頭上へ落そうと、ゆっくりと動かす。
「シ…ネ……」
「や、やめてくれぇぇぇ!!!」
「ん……うぅ?」紅雀が瞼を開くと、驚いたことに校舎がもとに戻っていた。先ほどまでの阿鼻叫喚が何事もなかったように再生し、消失したはずの己の体が何事もなかったよう無傷な事に気付く。「……よかった」
「どうやら、彼女自身の力で止めたようだな」傍らには密山が立っていた。「死ぬかと思ったぜ」
「犲河のヤツ……大丈夫かよ」同じく元に戻った侠華が不安げな声を漏らす。「あんな大爆発の後だ……普通の心だったら壊れかねない」
「私もそれが心配だ」と、犲河が向かった第2校舎へ向かった。
道中、力なくトボトボと歩く女生徒を見かけ、呼び止める。「ツバキ! 大丈夫か!!」と、肩を掴む。
「……ごめんなさい。あたし、帰るね……」今までで出したことのない、弱々しい声を出し、彼女は校門へ向かった。
「ツバキ……おまえ、家が……ないじゃないか……おい!!!」
密山は雨田のいる音楽室へ急ぎ向かった。そこには未だに腰を抜かしている雨田がいた。
「よかったな、殺されなくて。あの勢いだったらお前……まぁ無事でなによりだ」
すると、雨田は口から煙をゲホっと吐き出す。「どこが無事なの?」
ここまで読んで下さり、ありがとうございます! 如何でしたか? 犲河さんが大暴走しましたね。いやはや、女性は恐ろしい……。
嫉妬というのは本当に『毒』のような物だと思います。薄めれば多少の薬にはなるが、多すぎれば身はおろか他の者を傷つける猛毒となる……ってか。
では解説タイム!
サブタイはマリオン・レイブンという女性アーティストの楽曲です。邦題は……まぁ本文を読んで頂ければ理解できますよね? そういうことです。
キャラ解説! 『嫉妬の炎に支配されし犲河椿』は(長い!)、まぁ早い話『ストリートファイター』の殺意の波動リュウをモチーフにしました。やっぱあぁいう禍々しいのってカッコいいですよね。
さて、次回は解決編となります。いったいどうなるのか、乞うご期待!!
さて密山君……前回、出禁にしてやったが……気分はいかがかな?
密山「まさかこんな報復手段があったとは恐れ入った……」
この後書きでしか見せ場のないお前だ、そうとう堪えたはずだ!!
密山「別に」
なに!!