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1.Live and Let Die ~そりゃないよ~

 初めに、この小説読もうとして下さったあなたに感謝です! この小説は、簡単に言うと学園バトルコメディーものです。必殺技叫んだり、いきなりバトル始まったり、理不尽なジョークが飛んだりします。

 楽しんでいただけたら幸いです。

 では、頁を捲ってくださいな!!

 明朝の眩しい日光が木々の隙間を縫って、山の奥に佇む一軒の小屋の窓にひっそりと入り込む。ふんわりと布団に包まった女の子が「うぅん」と忌々しそうに唸り、日差しを避けるように寝返りをうつ。しばらくして観念したか、気怠そうにムクりと上体を起こし、欠伸をしながら腕を天井高く伸ばし、頭を掻き乱しながら「おはよ」の一言。寝巻のまま洗面用具を片手に小屋を出て、近くの川の湧き水が溢れる場所へヨタヨタと向かい、そこで顔を洗う。まだ4月の後半というだけあり、肌寒く、川の水もまるで氷水のように皮膚を刺激した。「ひっ」寒さと肌の凍てつきでパッチリと目を覚まし、歯ブラシを口に突っ込む。

 小屋へ戻ると、今度は調理用具を一式片手に外に出て、慣れた手つきで石を擦って火を起こし、フライパンを掲げた。しばらく経ち、湯気を上げ始めるとそこへ卵を落とす。白身が固まり始めるころ、今度は何かの肉の塊をナイフで一口サイズに切って落とし、フライパンに放り込む。霜のように白い油が溶け、豪快な音を立てる。鼻歌を歌いながら食パンの表面に焦げ目を入れ、しっかりと焼き上がった目玉焼きを乗せる。軽く塩を振り、肉を皿に乗せ、彼女の近くに無造作に転がっている大石に腰かけ、「いただきます」と、手を合わせ、大口を開いて朝飯を頬張る。「んふ♪ あふ、あふぃ!」トーストを美味そうに齧り、肉を頬張る。「んぅう! 朝はしっかり食べなきゃ♪」

 川で皿を洗って小屋へ戻り、誰にも見られていない少々警戒しながら寝巻を脱ぐ。男物なのか、ダボついた縞模様の上着を脱ぎ、ズボンをストンと床に落とすと、引き締まった女体が現れる。「寒゛っ」下着だけでは、たとえ室内でも冷風が肌に刺さった。壁にかかっている、ビニールで包装された真新しい制服を見てニヤリと笑みをこぼす。ビニールを乱暴に破き、制服に袖を通して、誰かに披露するかのようにその場で一回転。

「うむ」何か納得したのか、学校鞄の中身をチェックし、また「うむ!」と、頷く。

 今度は鞄から手鏡を取り出し、自分の顔をチェックする。目ヤニやよだれ跡がないかを入念にチェックし、笑顔の練習を数通り練習する。眉を上げ下げし、口のすぼめ、頬を膨らませ、顔面の筋肉の運動をし、満足したか手鏡を仕舞う。「うっし!」

 時計の針が8時を指し示すと同時に彼女は、小屋から出る。木の葉の向こう側で燦々と輝く太陽を眩しそうに眺め、体操するかのように深く深呼吸を始める。目を閉じ大きく胸を膨らませ、鼻で吸い、大きく口で吐く。それをしばらく繰り返すと、目をカッと大きく開いた。


「うおっしゃぁぁぁぁぁ! 行くぞぉぉぉぉぉぁぁぁ!!」


 咆哮にも似た声を上げ、駆け出した。高速回転させた脚は、地面の砂埃や落ち葉を舞わせ、枝を踏み散らし、獲物に猛進する狼の如く彼女は駆けるのだった。



「標的を照準に捉えトリガー……」そう呪文の様に唱えながら雨田龍法アマダ・タツノリはゲーム機のコントローラーの人差指部分を押す。目の下には大隈を作り、まるで死人の様な顔をしていた。「標的を照準に捉えトリガー」またボタンを押す。すると、テレビ画面の向こう側で銃声が鳴り響き、目の前にいる兵士が鮮血を噴きながら悲鳴を上げ無様に倒れる。それでは飽き足らないのか、頻りに指を動かす。「標的を照準に……」

「いい加減になさい!」ドアを蹴破るようにして彼の母親が部屋に押し入り、彼の首根っこを掴む。「学校の時間よ! 早く着替えて朝ご飯を食べなさい!」と、年季の入った鬼のような表情を彼に向ける。

「……うぃ」次の瞬間、画面が血を被ったように真っ赤に染まり、『GAME OVER』と表示された。

 雨田は力なく、まるでゾンビのように1階のキッチンへヨタヨタと向かい、冷蔵庫を開く。牛乳パックの隣に輝く『ブラック・マタドール』というドリンク剤を掴みとり、開ける。それをグビグビと一気に飲み下すと、瞳がギュっと縮み、髪の毛が一瞬ブワッと逆立てる。猫背だった背が物差しでも入れたかのように伸び、ヨレヨレだった寝巻まで糊が効いたようにパリッとなる。

「んな、大袈裟な」母親が鼻で笑いながら朝食を用意する。すると、いつの間にかダイニングのテーブルに学生服を着た雨田が行儀よく座っていた。

「おはよう、母さん」もう歯を磨いたのか、白く輝かせる。

「……ひゃあ~驚いた。本当に効くのね、それ」と、朝食の銀鮭定食を彼の前に置く。「お茶飲む?」

「結構。ごちそうさん」と、一瞬で朝飯を平らげ、学校鞄を片手に玄関へ向かい、颯爽と外へ出て行った。「行ってきます!」

苦笑しながら母親は「行ってらっしゃい」と、呟き、ゴミ箱に捨てられた空き缶を手に取る。「ったく、毎朝300円かけないとスムーズにいかないんだから」



 ここ、新暮町アラクレマチは簡素な住宅街が立ち並ぶ、平和で長閑な町だった。雨田家付近の住宅街には公園や土管が山積みになっている空き地、彼の通う高校の裏手には木々が生い茂る山が聳えていた。少し歩けばショッピング街が顔を見せ、そこには映画館やデパート、さびれた本屋などが立ち並び、ビルがあらゆるところに生え、その中央に駅がどっしりと構えていた。そこの電車に乗れば、たちまち隣の大都会に行くことだってできた。

 雨田はそんな町中をゆっくりと歩いていた。携帯電話を片手に今朝までやっていたゲームの攻略サイトを血走った眼で眺め、頭の中でイメージ・トレーニングをする。「そうか、ここにシークレット・ウェポンが……」独り言をつぶやき、納得したかのように頷く。

 携帯を仕舞うと、彼はある事を思い出したかのように手を打った。そう、本日は転校生がやってくるのだ。入学式が終わって半月ほど、彼のクラスで退学者が2名ほど出たのが理由かはどうか定かではないが、待望の転校生がやってくるのだ。噂では、女子だった。

 彼はそれを頭に浮かべると、まず転校生の見た目を予想し、次に性格を予想する。そんな悶々とした妄想の行き着く先は、自分とその転校生のドラマである。『不意の激突』『相手のパンツが見える』『朝の紹介の時に再開』という鉄板物語を頭に浮かべ、ほくそ笑む。この3つの王道をクリアできれば、彼はいつ死んでもいいと思っていた。この王道は全男子学生の憧れであると、彼は確信し、いつか必ず成功させるという密かな浪漫を胸に秘め背後から、女子から見れば黒いオーラを滲みだしていた。

 そんな危険な妄想をしながら歩いていると、一軒先を超えた向こう側から、慌ただしい足音が聞こえ始める。目の前はちょうど道が交差する地点だった。

「ま、まじか?」雨田は目を輝かせ、またいやらしい微笑みを覗かせる。たとえ、走ってくる相手が転校生でなくても、彼にとってやる価値は十分だった。「一世一代の賭け、だな」髪型と呼吸を整え、雨田も「せぇの」で駆け出す。

 走る最中、妄想が再び暴走を始める。入学以来碌な事がなかった半月をここで解消するため、彼は駆けた。ここからラブコメのような面白おかしい学園ライフが始まり、新しいリア充の門が目の前に待っているのだと、思い描く。

 そして、希望の交わる道に差し掛かる。タイミングは完ぺきだった。

【HEAD SHOT!!】

 すると、彼の頬を貫通して反対側のコメカミに殴られたかのような衝撃が走った。まるで被弾したようにガクンと頭が撥ね、地面から脚の感覚が消える。気づくと、彼の頭は反対側の塀にめり込んでいた。目の前が赤くなり、やがて地面に顔面から突っ伏す。真っ暗になった視界には『GAME OVER』が浮かび上がっていた。



 雨田が学校に着くころには、丁度門が閉まるところだった。腫れた頬を押さえながら渋々とした顔で駆ける。あと少しのところで門が完全に閉まり、向こう側にいる風紀委員たちが「残念でした」と、憎らしく口パクをしてみせた。

 だが、雨田はそのまま地面を思い切り蹴り、門を軽々と飛び越えて見せた。門は3メートルと高かったが、彼はまるで特撮ヒーローの如く飛び越え、華麗に着地した。ふわりと落ち葉や土埃が舞い、雨田はその中をゆっくり立ち上がる。

「それでも貴様は遅刻だ! まずは職員室へ向い、遅刻者記入ノートに名前を書くんだな!」 風紀委員2年の苑田静ソノダ・シズカが大声を上げ、人差指を向ける。雨田は俯いたまま黙っていた。

「む? 貴様は最近、生徒会にに楯突いた1年B組の雨田龍法! 今日は我々がお灸をすえてやろう!」と、王聖勉オウセイ・ツトムが指をボキボキ鳴らし、袖を捲る。その太い二の腕には『I Love School』という刺青シールが張られていた。

 雨田は静かに頭を上げると、風紀委員たちは一斉に体を凍り付かせた。彼はまるで怒り狂う寸前の龍のような表情をしていた。目を真っ赤に輝かせ、涙が溢れると同時に蒸発して湯気をジュワっと立てる。「貴様らにはわかるまい……俺の無念さ、屈辱、そして怒り……俺は今、猛烈に怒っている。憤怒だ……そんな俺になんだって? こら!!」静かに拳を握り、二の腕から青白いオーラを滲ませる。ブレザーの袖がはちきれんばかりに盛り上がり、袖が綻ぶ。

「し、知ったことか! かかれ!」と、苑田と王聖が駆け出し、背後から新人風紀委員が逃げ腰ながらも続く。

 雨田は口から火煙を噴きながら忌々しい風紀委員を睨み付け、ゆっくりと右拳を引く。辺りの空気が拳に少しずつ吸い寄せられ、酸素が拳に纏わりつく青炎に引火し、辺りを蒼く染め上げる。「蒼龍……」相手が鼻先まで近づき、雨田に向かって怒りの拳骨を振り上げた瞬間、彼の目の前が青紫色に染まった。

【コバルト・ブレス!!!】拳から放たれる未練と無念の蒼炎が風紀委員たちを焼き尽くし、辺りのあらゆる物を飲み込み、咆哮にも似た轟音を上げる。

 次の瞬間、この夢法学園高等学校の正門は焼け野原となった。正門中央の学園長の銅像は真っ赤に焼け上がり、落ち葉はすべて灰と化した。怒りの蒼炎を喰らった風紀たちはこんがりと焼けこげ、その場で彫像のように固まっていた。

「少しスッとした」雨田は黒焦達を悠々と横切り、B組の教室へと向かった。


 楽しんでいただけましたか? まぁ第1話の前篇みたいなので、続けて後編の方も読んでください!

 因みにこのサブタイトルの直訳は『007 死ぬのは奴らだ』のメインテーマ(ポール・マッカートニー!!)です。何故これを選んだのか? なぜサブタイの邦訳が『そりゃないよ』なのか……質問・感想などがあれば、どんなことでも構いません! ください!!←切実 

 では、またお会いしましょう! 

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