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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
9/13

#9 沙姫と透夜


 時系列としては、ベッカーが倒れてから目覚めるまでの間。

 #10の前半も同じ時系列です。

 ベッカーは私を抱えて馬に飛び乗った後、一言も発しなかった。サキのしたことに恐れおののいているのかもしれない。

 でもそれなら私を放置して逃げればいい。ベッカーはサキを連れて村までくる間に3回水を飲ませ、1回食事を差し出した。

 食事は携帯用のパンとチーズ、ビーフジャーキーのようなものだったが、ベッカー自身は食べないと首を振った。

 彼の考えていることはもう読めなくなっていたから、あの虚空を見つめる目は何を思ってなのかわからない。


 村に着き大きな建物で、エプロンを着た女性に袋から取り出した薬と手紙を渡すとベッカーは膝から崩れ落ちた。意識はもうなかった。

 エプロンの人はサラといって、おろおろする周りの男たちに指示を出していく。あっという間にベッカーは屋敷の中に運び込まれ、医者がベッドの彼の診察を始めている。

 いつの間にか、私はベッドの側にある椅子に座っていた。自分の足で歩いてきたはずなのに、全く覚えていなかった。


 「非常に申し上げにくいが、ベッカー殿はもう目覚めないかもしれない。魔力が1週間前に尽きかけた上今回の消耗だ。生きている方がおかしい位なのだよ。

 私のような村の医者ではどうしようもない。一応治癒魔法をかけてみたが、回復は難しいだろう。」

 失礼すると、退出した白いひげの老医は扉の向こうでサラに何か話しかけられ慌ててどこかへ向かっていった。


 「ベッカー……死んだらだめ。貴方にはお兄さんを探して真実を聞くという目的で旅してるんでしょ。」

 サキは肩を揺らしたが、ベッカーはピクリとも動かない。


 『サキ。病人は安静にが基本だ。君がいくら揺さぶってもベッカーは起きない。』

 テレパシーで話しかけられ、『あなたは誰?』と返した。


 サキの半分チャックの閉まった上着のなかから、くりくりした目の生き物が出てきた。

 『もしかして、あなたなの?』

 サキの質問に頭がハムスター、体はモモンガ、しっぽがリスの生き物が頭の上でマルを作って答えた。


 『サキが口に出した言葉も理解できるけど、まわりにどんな目があるかもわからないからテレパシーで。』

 今まで忘れていたが、サキの危機は彼によって解決されたようなものである。


 『その節はどうもありがとうございました。ええと、なんとお呼びすればいいでしょう?』

 かしこまった口調のサキにそんなにかしこまらないでくれと伝えた珍妙生物は、どこから話せば納得してもらえるか…と腕を組んでいる。


 『実は、俺は中身はある人間なんだ。サキもよく知ってると思う。だって俺の四十九日に出てたろ?

 信じられないかもしれないけど、藤森ふじもり 透夜とうや、サキの幼馴染の透夜だ。だからため口でいい。』

 沙姫の目に映るは多少不遜で、面倒見のよい透夜を名乗る謎の生物。


 「冗談はやめて下さい。透夜は死んだ。豪雨の夜に車に轢かれて。死に顔も骨になったところもちゃんと見てる。

 死んだ者はよみがえらない。貴方は透夜じゃない。私が透夜の死を認めるのに、どれだけの覚悟が必要だったかも知らないくせにっ。」

 サキは拳を自分の膝の上で握りしめ、顔は下を見ながら、涙に濡れた膝の頭を見つめている。


 『信じてくれ。俺が藤森陽介と美也の子どもだったのも、島田沙姫と幼稚園からの幼馴染なのも事実だ。

 沙姫が変なモノに一定の周期ではまるのも知ってる。自転車の空気入れに凝ってた中学時代の"駐輪場事件"も知ってる。

 部活は終わってすぐだったな……』

 珍妙生物が遠い目をしながら語った内容にサキが驚愕の目を向けた。


 『分かった。信じたくないけど。あれの概要をすべて知ってるのは、透夜だけだ。そうだと仮定しないと話が進まない。』

 サキが珍しく頭を抱えている。魔法はすぐ認められても、気持ちに区切りをつけた永久の別れを覆す事実は信じられないようだ。

 

 『俺だって信じられなかったさ。はねられた瞬間も、全身の壮絶な痛みも、血が流れていくのも、意識が遠ざかっていくのも覚えてる。

 死ぬんだな、って思ったよ。全ての感覚がなくなって、ブラックアウトした。あの時人間としての"藤森 透夜"の人生は終わった。

 生暖かい水の中にいるような感覚があって、12、3歳の少年の声に話しかけられたんだ。

 目を開いた自分が電気シェーバーとは思わなかったけどさ。シェーバーになった俺を拾うサキの父さんが、俺が最初に見た光景だった。』

 サキが涙に濡れた顔を透夜に向け、まるで自分が事故にあったかのように自分の肩を抱いた。自分よりも死んで今もまだ全て覚えている透夜のほうが辛いことに気が付いたのだ。

 元に戻る方法を考えるのが俺とサキの第一の命題だと思うんだが、と続けた。

 そしてベッカーに話しかけた少年、サキに話しかけた少年、透夜を起こした少年がキーだという考えに至った。つまりラルだ。


 『まさか自分の前世が………の幼馴染だとはねぇ。話を面白くする要素としては十分だ。』

 この言葉の他はサキには教えられないようだ。核心に迫ることを言おうとすると口が動かなくなるのだ。

 本当はラルの言う主人公が沙姫かベッカーもしくはその両方なのはわかっている透夜なのだが。


 それを聞いてサキも思い出したと、スロットと少年の声の話をした。


 『同一人物と考えるのが順当だろう。元に戻るには少年を……ルっを……探すしかない。』

 ラルは自分の名前すら沙姫に知られたくないようである。

 

 

 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 



 

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