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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
5/13

#5 金色《こんじき》の珍妙生物

 

 一瞬にしてその場の全員を石化させたものの、それは数秒の後解けた。残念なことに盗賊たちを刺激しただけで、全く何の効果もない。

 ベッカーは、その日何度目かも分からない溜息をついた。『俺の命の最後は笑い話になってしまうのか。ついてなさすぎる。』と、頭の中に思い浮かべるのは故郷の村の惨状だった。


 サキはハッとした顔でベッカーに向き直った。要するに、今の一瞬で彼の思いが読み取れてしまったのだ。

 「まだあきらめるのは早いです。わたしは死にたくない。あなたも死にたくないんでしょう、あの真実を知るまでは。」

 盗賊に馬から落とされたベッカーに、歩み寄り早口で畳みかけた。この状況のなか強気で、ベッカーの事情をいつの間にか知っているサキに目を見開く。


 周りは盗賊で囲まれ、だんだん輪が縮められていく。ベッカーと沙姫が背中合わせになるのは、時間にして3分ほどだった。

 下品な笑いを浮かべた垢にまみれた男達は口々に下品な物言いをする。


 「変なもん着てるがべっぴんな女神さまだなぁ。奴隷として売り払う前に手ほどきしてやろうか。ぇえ?」


 「馬鹿言え。お前みたいなお粗末なモノじゃかわいそうだ。

 でも俺がやったら一発で孕んじまうかもな。がばがばなんて売値が下がっちまうよ。」


 「ベッカーといやぁ、盗賊泣かせ権力者泣かせだからな。こいつを殺したとなっては、箔も付くってもんだ。」


 「こいつもよく見たら、細身で整った顔してるから物好きの好色爺なら買うかもしれねぇ。」


 「でもこいつ魔法があるから、『ベッカーの穴を掘る前に身体に穴開いちゃいました。』ってなるかもな。」


 「そいつは、ちげぇねえ。」


 盗賊どもは、声をそろえて笑った。防御結界の中でじっとしている二人だったが、残念ながら効力は後30分もたてば消える。

 絶対絶命である。沙姫はシェーバーをぎゅうっと握りしめ、奥歯をかんだ。

 『今私が持ってるものはシェーバーだけだ。これで何とかするしかない。』


 『そうだね。ボクが力を貸してあげよう。

 君がここでベッカーと別れてしまったら、後でシナリオに齟齬が生じて困るのはボクだもんなぁ。』


 「えっ!」


 スイッチを入れた次の瞬間、シェーバーが通常考えられない金色に輝いた。

 西日を直接見たときのようなまぶしさにそこにいた全員が目を閉じる中、沙姫はひとりシェーバーを凝視した。

 彼女はまぶしさで目を閉じることさえしないほど、シェーバーを愛していた。はたから見れば、背筋が凍るほどの気持ち悪い愛情なのだが。

 自分が空中に立っているのにやっと気が付いた。まるで透明の床が地上1mほどのところにあり、そこに立っているようだ。空中を飛んでいるような足元が不確かな感覚はなかった。


 目の前には大きな白く輝くスロットマシン。ゲームセンターで見かけるようなごてごてしたデザインではない。図柄は常に同じではなく、刻一刻と変わっていく。

 触ってみると無機質な感じはせず、暖かい。手触りは磨いた大理石や赤ちゃんの肌に通ずる言いようのない、なにかのようだ。神々しくもあるが、レバーと三つのボタンはちゃんとある。

 吸い寄せられるようにレバーを引く。そうしなければいけないなにかがあるのだ。レバーを引いた瞬間言いようのない快感のようなものが全身に広がった。

 回る図柄に溜息をついた。すべての動きが美しく、背筋に走るものがある。これは沙姫が父のシェーバーを初めて手にした時とおなじである。

 ボタンを一つずつ押していく。その手が震えていたのは、恐怖ではなく喜びからだった。


 失敗だ。図柄はすべてちがう。

 しかしその絵も少し通常のスロットとは違うみたいだった。7とか果物とかの絵ではない。

 ハムスターの頭とモモンガの胴体とリスのしっぽが並んでいるのだ。そして3つそろえて見ると『何それ?誰得なの?』という世にも不思議なキモ生物だった。

 哺乳類の可愛いどころなのだが、合体させると……苦笑、という生き物になる。

 胴体が魚とかでないだけましかもしれない。


 スロットの回転部が光るとすうっとその絵が空中に浮かび、シェーバーの方へ向かっていった。

 スロットの上の絵は消えてしまったので、絵が剥がれ落ちてしまったように見える。

 沙姫がすでにスロットに興味を移していたが、過去の盟友でもあるシェーバーには思い入れがあったようだ。

 とっさに、先ほど地面に落ちたシェーバーの方へ飛び込んだ。顔から着地しそうになるのをベッカーが横抱きにして受け止めた。

 努力の甲斐なく、絵はシェーバーに吸い込まれていった。再びシェーバーが金色に光る。


 沙姫の手の中には、内側から金色に光り輝く珍妙生物がいた。それは、折りしも先ほど沙姫が見たスロットの絵と同じ生き物だった。



 

 ベッカーは童顔イケメンですが身長は180弱程度です。

 この世界では男性の平均身長は高めですから、低い方です。

 今まで貞操の危機に陥らなかったのは、下手したら迫った相手の身体に風穴を開けちゃうくらいに強いからです。


 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 


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