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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
3/13

#3 行商人と女神

 

 サキはこういう性格ですが、実は真面目でいい子です…多分。

 ほら言うじゃないか!!

 変な子ほど可愛いってさ!!違うか。

 

 

 男は焦っていた。後ろからは、20人にはいるかと思われる盗賊の集団が追いかけてくるうえ、周りには人家もない。

 馬で飛ばしても、1日かかる距離にしか集落はない。

 待ち伏せをしての計画的なことに、舌打ちを禁じ得なかった。

 行商をしている男にとっては、通行料をよこせと迫るならず者に追いかけられたことなど両手で数えきれないほどある。

 そして、男はならず者をあしらうのに十分な戦闘能力を有していた。

 退治した盗賊たちに恨まれ、襲われることもあるし、ある程度逆恨みも覚悟はしている。


 ただ、今回はタイミングと人数が悪い。

 彼は、5日前魔力を殆ど使い切っての、大乱闘を演じたばかりだった。



 『いいですか?1週間です……貴方にはそれ以上は待てないでしょうから。安静にして極力魔力を使わないでください。

 これを守らなければ、命の保証はできません。死にたくなければ、おとなしくしておくことです。』


 あの医者にそう言われた以上、魔力は使えない。若干うるさいし面倒なところもあるものの、嘘はつかないし腕は一流だ。

 と言いつつも、ベッドを抜け出したのには事情がある。


 言いつけは守るつもりでいたのだが、『お願いだから、荷物を運んでくれ。』と土下座されてしまったのだ。

 故郷の村が疫病で大変だと言う。

 山あいの辺鄙な村で、量も少量であるため、他の行商達は首を縦に振らなかったそうだ。

 薬があればすぐに治るものの、1週間足らずで死に至る病だ。


 迷った。医者の言い付けはなるべく守りたかった。

 が、『行動しないで後悔するより、行動してから後悔した方がいい。』という師匠の教えにより、選んだのは首を縦に降る方だった。


 『人命にかかわることですから、百歩譲って荷物を運ぶことは了承しましょう。

 しかし、常人であれば、2週間ベッドとお友達です。まだ3日しか経ってない。行くのなら絶対魔力を使った戦闘はしないと約束しなさい。』


 『分かってるさ。おれだってまだ死ぬ気は全くない。

 でも家族も故郷もなくなるあの哀しくて、むなしい思いをするのは、おれ1人だけで十分だ。絶対生きて帰ると約束するから。』


 医者は、男とは患者と医者以上の関係だった。彼の出自も、悲痛な過去もそれを同情されるのが嫌いなのも知っていた。

 しかし、泣きそうなくしゃくしゃの笑顔をむけられては、思い出さずにはいられない。


 『分かってるから、野暮は言わない。でも、過去から解放されてもいいんじゃないかとは思う。

 本当は大好きな人が危険にさらされるのは、嫌。絶対戻って。私は待ってるから。じゃなきゃ許さないんだから。』


 最後の言葉は、目を潤ませた彼女自身からの言葉。



 そうこうしているうちに、盗賊が迫ってくる。どうしよう。名案は浮かばず、危機は勝手に降ってわいたくせに去ってくれない。

 神様助けてくれ。そう熱心にお祈りしてたわけでもないし、神にすがる奴を馬鹿にしてたが。まぁ、祈るだけは、タダだろう。

 本当にここで死ぬわけにはいかねぇんだ。やることが終わったら、命でも魂でもやるよ。神でも天使でも、悪魔だろうが、鬼だろうがいい。とにかく助けてくれ。


 『そうか…君がそうなんだね。じゃあボクが君に幸運の女神をあげる。心の中で"サキ"と呼んでごらん。』


 男は頭に直接響く少年のような声を不審に思ったものの、響く馬蹄の音に我に返る。わらにもすがる思いで"サキ"と呼んだ。



 沙姫ははっとした。誰かが呼んでいる、沙姫のことを。助けを求める悲痛な声だ。

 そこでやっとまっすぐこちらに向かってくる馬蹄の音に気が付いた。

 一瞬『あれ?馬?なんで?』とか思ったものの、舗装されていないこんなところを車で走れない。交通手段の一つに馬やららくだやらが含まれる場所も存在するのだから、まあおかしくはない。

 どうやら助けを求める声の主は、多数に追いかけられているようだ。人気がない暗い場所は、犯罪者の心理として犯罪が犯しやすいらしい。ひったくりもそういう場所での件数は多いと聞く。

 どう考えても、ひったくりではないよな。しかも暗くないし。別にそれはこの際どうでもいい事だ。

 解決法を考えよう。どう考えてもいまここから逃げても、隠れても見つかる可能性の方が高い。そして巻き込まれるのが自明なら、立ち向かうのが懸命だ。

 見渡す限り人家は見当たらないし、警察などが来るのには時間がかかるし、間に合わないだろう。

 どうすればいいんだろう。私は残念ながら丸腰で暴漢を退治できるほどの技術と身体的能力は持ちあわせていない。

 裸足で、電気シェーバーしか持ってないただの女子高生だ。味方としては…というか足手まといだな。


 沙姫は気が付いた。さっき『助けてくれ、サキ!!』ってのは頭に直接響いていた。テレパシーか。

 もしかしたら相手と打ち合わせくらいは、できるかもしれない。そして沙姫は頭で念じた。



 『もしもーし。そこの大勢に追いかけられているひとぉ~大丈夫ですかー。サキですけど~。』

 テレパシーで「もしもし」はどうかと思うが、追いかけられている人に大丈夫ですかはないだろう。


 男が、間抜けな呼びかけに馬から落ちかけたのは仕方のないことだ。

 

 

 

 更新は二日に一回12時に行ってます。

 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 


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