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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
12/13

#12 ベッカーの過去

 

 意外と背景の重いベッカーなのでした。

 

 

 「そのとき、助けられた子どもが俺だ。行商が俺の師匠だった。」


 ベッカーはショックでしばらくの間は自分のことは何もかも忘れていた。やっとすべてを思い出したのは、今から6年前18歳の時だという。

 そしてその時になってやっと、師匠が全てを語った。

 時系列としては魔物や魔人が現れ、人間や動物を襲うようになったのはベッカーが拾われた直後であること。

 憶測と世間の風評だけでモノを言うなら、君の兄が魔物や魔人を統べる魔王であるだろうということ。

 

 「もうその時には諸国が"魔王討伐隊"なんて大仰な名前の連合軍を作ってたから衝撃的だったよ。でも師匠は言ったんだ。」


 『どうするべきかは自分で決めればいい。でも自分の目で確かめるまでは、お前の兄が魔王であると決めつけてはいけない。

 でももしお前の兄が魔王だった場合、世間がどう言おうとすべての権利はおまえにある。殺すのか、許すのかもお前だけに決める権利がある。

 ただ、そう言うにも血が流れすぎている。幸い、魔王の居所は不明だ。

 このまま私の人脈を引き継いで行商をする気なら、世界中をまわって人々がどう思っているのかに触れながら、探すのがいいだろうな。』


 「師匠は伴侶も子どももいなかったから、俺を実の息子のようにかわいがってくれた。そして生きていくのに必要な全てを教えてくれた。

 今から4年前魔物の大群に囲まれたとき、俺を逃がすためにおとりになった。瀕死の状態だった。

 やりすごしてすぐ医者のとこに連れてったんだが、手遅れだった。でも死に際になって初めて言うんだよ。

 『俺はベッドの上で息子に見送られて死ねる。なんて幸せなんだ。』ってな。俺のこと息子なんて言ったことなかったのにさ。」

 ベッカーは語りながら、前につながれている馬の方を見ていた。荷馬車の上にいるサキに表情はうかがい知れなかったが、声が震えていた。


 「俺は決めたんだ。自分の手で魔王を倒すってな。それが自分の兄ならなおさらだ。

 俺の手で全てが始まったようなモノだからな。始まりが俺なら、幕引きも俺がすべきなんだよ。

 たとえ兄さんがしいたげられたのが原因だとしても、ストッパーである俺がきちんとしていれば兄さんは……。くそっ。

 俺がもしあの手を振り払わなければ、兄も師匠も救われていたかもしれないんだ。仮定の話はしたところで現実は変わらないのにな。」

 自嘲するような言葉が悲しかった。彼はその時8歳で、全てを背負うには幼すぎた。今も全てを抱え込もうとしていた。


 『歯車は回り始めたら止まらない。止めるには壊すことしか止める方法はない。そう言いたげだな。

 自分の全てを否定しているような人生、つまんねぇな。お前らしくない。自分の人生、諦めたら満足か?ん?

 悲劇を背負ったヒーローなんてお前にはなる資格ないだろ。つーか似合わねーんだよ!』

 透夜が吐き捨てるように言って、サキのとなりから馬のお尻へふわりと移動した。


 「てめぇっ!珍しく黙って聞いてると思ったら、ケンカ売ってんのか?あぁ!?

 そのきれいな毛並、血の色で染めてやんよ。お前には本当にいらいらするんだよ。」

 望むところだと、睨む透夜とベッカーは本当によく似ている。同族嫌悪もここまでくると芸術的だ。

 ベッカーがいつも通りに戻って内心ほっとしたサキは、透夜に私たちも自分の状況を教えるべきだとテレパシーで伝えた。


 『まあサキもこう言ってることだし、俺たちの詳しい状況を話すから理解しろよ。』

 そしてベッカーに、おそらくこことは別の世界から来たこと、帰りたいこと、そのために少年と接触を持ちたいことをつたえた。


 「ベッカーの重荷を少し私たちに分けてほしい。魔王を一緒に探そう。

 改めてになりますが、少年を探すために旅に同行させてください。お願いします。」

 サキが深々とお辞儀すると、透夜もぺこんとお辞儀した。仕草だけ見ると、可愛い小動物だ。


 『しゃあねぇから、頭さげてやんよ。』

 その一言が余分だった透夜は小さな頭をヘッドロックされた。ぐりぐりと頭が拳で圧迫される。

 


 「こちらこそよろしくな。サキ。」

 ベッカーはニコリとサキに笑いかけた、手元の小動物の『俺によろしくは?』という言葉を華麗に無視して。




 

 「はぁ?世界地図だと?そんなもん持ってるわけねぇだろ。昔はあったけどな。

 魔人、魔物の進行が激しすぎて、国境というか、人が住める地域って言えばいいか?それが絶えず変わり続ける。国民の不安を煽らない為にも、作成は禁じられている。

 俺は各国を周っているし、俺の仕事柄情報は絶えず最新のものを持たないといけない。

 大体は知っているが、地図は持ってない。だいたい、そんなもの持ってたら騎士団に捕まって牢屋行きだ。」

 ベッカーがいぶかしげにサキを見やった。すると、どうやらサキとトーヤが相談中らしく顔を突き合わせてなにかやり取りしている。

 残念ながら、サキがテレパシーと呼ぶものは伝えたい相手にしか伝わらない代物で。ベッカーは仲間はずれ状態だ。


 「あのね…理由は上手く説明できないんだけど、大体の概要、つまり魔物が現れる前の状態の正確な地図を見たいの。」

 サキは言葉を濁した。沙姫と透夜はこの世界が本当に元の世界とは全く別のモノだということが確かめたかったのだ。

 しかし地図は本来場所の位置、どの国に属しているか、そこに通ずる道はあるのかを知るためにあるモノだ。

 大陸、島の形が重要であるから細かいところの違いは沙姫達にとっては些事なことだった。


 「何の理由かは……知らないが、それも不可能だな。あるとすれば各国の王立図書館、領主の館くらいのものだ。

 一般に出回ってたものはすべからく処分された。命令が周って来たからな。しかし現存するものも軍事的地位になければ閲覧不可だ。

 あ…でも待てよ…俺知ってるわ。地図みせてくれそうなある都市の領主の相談役に心あたりがある。

 俺の拠点になる村に行く前に寄ってみるか。薬草と薬、工芸品がよく売れる都市だから、ちょうどいい。」

 ベッカーが一人合点して馬首を来た方へ戻してしまう。


 『おいベッカー。なんで来た方に戻ってんだよ。こっちが次の都市だって言ったのはてめぇだろ?』

 いらいらと短い右足を馬の背を蹴ると、馬が背中に不快感をおぼえたのか必死に透夜を振り落とそうとする。

 突然足元の安定がなくなって、振り回す馬のたてがみに必死にしがみつく透夜にだけ聞こえるように『ざまぁ。』と言ったベッカーはそ知らぬ顔で馬をすすめている。


 「何で進む方向変えたの?最初からこっちに向かえば良かったんじゃないの?」


 「それはなー、医者の言いつけ守らなかったのがばれて、怒られるのが嫌なのと、お前のこと説明するのが面倒だから村には寄りたくなかったんだ。

 そして、おれの言った領主の相談役の男と医者に親交があってだな。もし村に寄らなかったとなると余計に怒られる訳だ。

 まぁ、結局後回しにしても怒られるのは変わんねーからな。サキの話を聞いて覚悟を決めたという訳だ。」

 ベッカーのうんうんと縦に振る首が透夜にとび蹴りされて、3回戦が始まった。


 一行が向かうはベッカーの友人デュークがおはしますジズラスである。到着までは3日、それまでに何回のケンカが勃発することか。

 

 諸国を旅して、魔王と少年を探す旅が始まります。

 透夜とベッカーのケンカを止める人物が欲しい。

 しばらく出てこないですけどねー。


 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 

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