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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
11/13

#11 魔物と魔王の誕生

  

 昔話を語るように馬車の上のベッカーが話しています。

 

 

 「人々に語られている魔王誕生の物語を話そう。これはただの伝承で全てがあっている保障はないからな。」

 二頭立ての馬車はがたがたと揺れ、乾燥した薬草の上に乗っていないとおしりがずるけになりそうだった。

 サキは今、村で貰ったスイスの民族衣装を地味にしたワンピースと少しごわごわするなめし皮のズボンという格好だ。

 足には少し硬い膝までのブーツを履いている。長い髪はサラに貰った鮮やかな群青色のリボンで一つにしている。


――――――――――─――――――――――――――――――――――――――――――――


 事の始まりは一人の人間がその姿により奇人だと迫害されることだった。彼は生まれた時から、片目が朱く染まり六芒星を宿していた。成長するに従い、角が生え、犬歯が鋭く尖っていった。


 少しくらい違う見た目でも我が子……と両親は愛情を込めて育てた。しかし、周りは彼を普通の子供とはみなさなかった。

 彼が4歳になり、家の外に出るようになると、周りの大人達は根も葉も無いことを言って自分の子を遠ざけるようになった。

 彼はいつも1人だったが、自分を愛してくれる両親がいたので、寂しいと思ったことは無かった。

 彼が5歳になった時、弟が生まれた。弟は普通の人間らしい見た目をしていた。彼は兄弟が出来て大層喜んだ。

 二人で一緒に遊べると思ったからだ。弟はすくすく成長した。兄弟仲はよかった。

 弟は見た目なんか気にしないで、彼と遊んでみればいいのに……そうしたら兄が優しい人だと分かるのにな……と思っていた。


 ある日、母親に頼まれたお使いの帰り道、弟は村長の末っ子に足を引っかけられ、転んでしまった。

 こういうことは良くある事なので、無視して汚れた服をぽんぽんとはらった。そして散らばった荷物を拾い集め始めた。


 「お前つまんねぇな。泣けば、許してやろうと思ったのにさ。」

 威張りちらされて腹が立つものの、一瞥して、何を? と言い放つ。


 「お前が生意気で、堂々としてるから悪いんだよ。兄貴があんなで恥ずかしくないのか? あいつは鬼の子だから、近づいちゃ駄目って母ちゃんが言ってた。

 だからお前も端っこでじっとして、女々しく泣いてりゃいいんだよ。」

 要するに、態度がきにくわないのだ。


 「……用がそれだけなら、もう行くけど。」

 歩き始めた弟の前には、子分達がぞろぞろ並びだした。村長の息子が合図して、7、8人が一斉に飛び掛かった。


 弟の全身があざだらけになったころ、帰りが遅いのを心配して、彼がやってきた。周りは子分達と村長の息子がニヤニヤと取り囲んでいた。

 弟が一方的に殴られたのは目に見えて分かる。彼は目の前が真っ赤に染まるのを感じた。

 気がつくと彼の周りには、4、5人が呻きながら、転がっていた。村長の息子は、ばっ……化け物……と言って走り去って行った。


 何があったか思い出そうとすると、頭がずきずきと痛む。ただとにかく弟の無事を確かめねば、と弟に触れた。手を跳ね退けられた。

 がくがくと怯えた弟を見て、あぁ俺は弟にまで怖がられるようになったのか……そもそも、俺があの家族の平穏を乱しているのだ……もうここには居られないと彼はぼんやり思った。


 そこへ村長と村の有志が集まってやってきた。自分が鼻摘まみ者なのは分かっていたが、木を切る為の斧や鎌まで持ち出して捕まえにくるとは、彼は思わなかった。

 大人達もびくびくしながら彼に近寄るが、彼は抵抗する気など無かった。


 「とうとう子供にも手を出したか。」


 「お前みたいな者は絶対に何かしでかすと思っておったんだ。」


 「捕まえて牢屋に放り込んでしまえばいい。」


 「親はどういう教育をしとるんだか。」


 口々に罵る大人達の言葉より、一回弟に手を跳ね退けられた方が彼の心に深い傷をつけた。

 縛られても、引きずられても、彼の心は凍りついてしまったように、無表情で整った顔は作り物のようで恐ろしかった。

 1ヶ月経った。親の再三の申し出にも関わらず、彼は解放されなかった。不清潔で雨漏りのする牢屋に入れられ、残飯のような少しの食べ物しか与えられなかった。

 彼はすっかり痩せ細り、眼だけはぎらぎら光り、餓鬼のようにますます恐ろしい容貌になっていった。


 ……鳥だ。栄養失調で、いつもぼんやりしている彼には、それは現実なのか分からなくなっていた。彼がいつも食事の時使っている欠けた素焼きの茶碗にとまった。

 茶碗に溜まった水の水面が揺らぎ始め、弟と両親が住んでいる家が映し出された。

 村の連中が周りで彼を捕まえに来た時のように、武器になる物を片手に激しく怒鳴り込んでいるようだった。今度は家の中で両親と弟がみんなで抱き合いながら震えていた。

 怒鳴り声がだんだん大きくなる。出て来ない両親に業を煮やして、火を放った。木造の小さな家が燃えはじめた。


 『もう……これ以上頑張るなんて』

 いつも優しい母の泣き顔と弱音は始めてだった。父が母の手を握る。


 『大丈夫だ。私がいる。ずっと一緒だ……』

 両親の死への決意はもう固まってしまったようだ。


 『兄さんのこと大好きなのに。手、振り払っちゃったんだ。ごめんって言いたかったよ。』

 弟の弱々しい声を最後にその映像は途切れた。


 ……彼は悲しみと憎しみと全ての感情が吹き上がるのを感じた。目の前が真っ赤に染まる。

 弟に手を振り払われたのが頭の片隅にあって、感情の波に身を任せることは危険だと理性が警告する。

 しかし、家族はもういない。自分がいけないことをしようが、悲しい顔をしてくれる家族はいないのだ。感情の波に抗うのを辞め、本能に身を任せた。

 魔王"ゼラムス"の誕生である。彼が次に取った行動は言うまでもない。


――――――――――─――――――――――――――――――――――――――――――――


 そのすぐ後に村の訪れた行商人は語る。

 村に近づくにつれ、いつもと様子が違う事に気づいた行商。人の気配が全くしないのだ。何かあったのかと馬車を走らせた。

 そこにあったのは、倒壊した家屋、大人の胴体の大きさの爪跡、そこら中に転がった人だったモノの腕、足、目玉。道は血に染まり、人はみな絶命している。

 ニワトリの鳴き声と、水車が回る音だけが平和で逆に恐ろしい。行商はわらじを履いた自分の足が吐瀉物で濡れているのに気がついた。


 まさに地獄絵図。一刻も早く知らせに行かねば、とは思うものの行商の足は歩き方を忘れてしまったように動かない。


 突然、背後からぐちゃぐちゃと何かを食べているような音が聞こえてくる。振り返った行商が見たのは、村長だったモノを喰う化け物だった。

 くすんだ黄緑色の肌をした、その黄褐色の瞳に本能しか身に宿していないような生き物。

 身長が自分の半分程しかなくとも、その尖った犬歯と鋭い爪からこの生き物から逃げなくては、と本能的に思う。


 商人は弾かれたように自分の馬の元まで走り、荷物を全て捨てて騎乗で逃げ出そうとした。

 馬のすぐそばで10歳かそれ以下位の子どもを見つけた。彼はボー然と立ち尽くし、燃えた家を見つめている。

 このままではこの子もやられてしまうと、子どもを抱え上げ馬に飛び乗った。

 

 

 だいぶ前に書いた小説の一部をコピーしたものです。

 ちょっと雰囲気が違うかも。


 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 


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