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女神のスロット  作者: 七菜 渡羽
序章
10/13

#10 サラと光るサキ

 



 サラは部屋に入って後悔した。ベッカーの連れてきた少女が"女神リザベラ様の御使い"様と見つめあっていた。

 どうやらサラの存在には気づいていないようである。サラは食事の皿を乗せたお盆を机に置いて静かに退室した。

 残念ながら病に侵されていない男どもの中には、女神かもしれない少女の前に出られる豪胆なものはいなかった。

 村のおかみさんとも呼ばれる、村長の妻のサラが行くほかない。


 村に蔓延していた病の猛威は収束に向かいつつある。薬の到着の前に亡くなった老婆と幼い子供が一人づついただけで、罹患りかんした全員が快方へむかっている。

 村を救った恩人のベッカーには感謝してもしきれない。それだけに早く目を覚ましてほしいと願っていた。


 「わしの見立てじゃと、ベッカー殿が助かるかどうかは1週間の間に目覚められるかどうかで決まるだろう。」

 村の医者である老人が首を横に振りながら言った。


 「そんな……私たちが助かって、ベッカーさんが死ぬなんてあってはならないわ。」

 しかしサラには祈ることしか出来ない。


 サラは病にかかっている人間が集められた集会室に入った。普段並んでいる椅子は端にどかされ、ベッドが所せましと並んでいる。

 半数が身体を起こし談笑している。口々にベッカーのおかげだと口にしている中、ベッカーが助からないかもしれないことを伝えるのは気の重い仕事だった。



 2時間ほど経って食事の器を下げに行くと、食事は平らげられて机に置かれていた。

 少女がベッカーの右手を両手で包み込み、額に当てていた。目は閉じられており、眠っているようにも見えた。

 "リザベラの御使い"はしっぽを抱くようにしてベッドの隅で小さく寝息を立てていた。

 お盆を手に取りドアへ向いたとき、春先に太陽の下で昼寝したときのような暖かい風が背後から吹いてきた。

 今は夕方で、窓とカーテンはきちんと閉まっているはずなのであり得ないことである。

 振り返ったサラが見たのは少女の身体が内側から淡く光っているという奇妙な光景だった。少女の方から暖かい空気が来ているのが肌で感じられた。

 時折、風に煽られたように髪の毛が揺らぐ様子は神々しくまさしく神のようだった。ベッカーの身体も弱弱しいながらも光を放っている。

 お盆を落としたサラは慌てて拾い上げ、どたばたと部屋を出た。


 その音でサキと透夜は目を開けた。食事をしたら、疲れが襲ってきて眠ってしまっただけで眠っていたのは1時間強くらいだった。


 『さて、村の人たちにはどういう態度で行くか考えないと。神様とその使いの設定は、厳しいかもしれない。』

 サキも透夜もここの宗教については全く分からないので、話を合わせるにしても無理が生じる。


 『記憶喪失で何も覚えてないけど、ベッカーに拾われてここまで来たことにすればいいか。ってサキお前もちょっとは考えろ。

 いざとなったらフォローはするけど、はっきり言ってサキの演技力にかかってるんだぞ。』


 『ん。頑張ってはみるけど、私演技経験なんて、小学校の学芸会で竜宮城のヒラメ役だけだよ。

 透夜はウラシマタロウやってたから、透夜がやればいいんじゃない?』


 『お前さぁ。俺が人型になれるなら、頼りにならんお前なんかに頼むかよ。』

 本末転倒なサキに律儀にツッコむ透夜は、素晴らしくマメな男である。というか今は雄というべきかもしれない。


 『でも、シェーバーから変な生き物に変わってるから。もしかしたら、あのスロットもう一回使ったら人に戻れるかもしれないでしょ。

 というかあのスロットともう一度会いたい。』

 ただの天然考えなしではなく、言葉が足りないだけでちゃんと頭を使っているときもあるサキである。半分以上はスロットの為に導きだした答えだったが。


 『これで勉強できるから始末に悪いんだよな。奇行を繰り返すたび、謝ったりフォローする身にもなってくれ……

 確かにそうだけど、俺がこうなってるのもスロットを出したのもあの少年だ。少年を探しに行くっていうふりだしに戻るだろ。

 シェーバーに戻ることはできそうだけどな。』


 『ホントにっ!?私のシェーバー戻ってくるの?』

 目をキラキラ輝かせ透夜に詰め寄るサキに、透夜は真っ赤になってうなだれた。ただし顔は毛皮で覆われているので、表面上はうつむいただけだが。


 「きゅいーきゅきゅきゅきゅ(なんで俺もこんな女にドキドキするんだか)」

 嘆かざるを得なかった。横では何て言ったの?教えてよとキラキラした目で透夜を見つめているが、顔を両手で押さえている透夜には分かるはずもなかった。


 「ねぇ……教えてよっ!」

 人間にして言うなら肩を掴んで揺り動かしているだけである。

 しかし透夜の首はまるでサンドバックのように揺れ、ありえないことに胸の部分と、背中の部分に頭が激しく打ちつけられた。

 脳震盪により意識はすぐに遠ざかって行った。


 数分後……。

 『ごめんごめん。起きてよ。』

 サキの反省の感じられない言葉とぺちべちと透夜を叩いている感触に目を開けた。


 『お前は~殺す気かぁ!?……不毛だ。話を戻そう。』

 透夜は片手を首に当て、ゴキゴキと音をさせながらストレッチをしている。


 『俺は感じるんだ。変身に関しては行けそうな気がするし、お前とのテレパシーも出来そうな気がした。

 でもあの幻覚を見せた金の粉は俺から出てたように見えても、違うんだ。内側に働きかけられて、無理矢理やらされた。だから2度目は不可能。』

 透夜は続けて、少年の力でもない気がすると述べた。


 『じゃ何だって言うの?確かに透夜の言うことは分かる気がするけど。

 私も良く考えたら、あんな状況下で冷静に思考が出来てたのは変。アレは 、でも今考えたら、普通に出来ることが分かってたからしたみたいな。

 でもあの声の人が仕組んだわけじゃないことにはならない。』


 『あの声の主なら一言何か言ってから、力を授けるようなタイプじゃないか?あいつ自分が偉いのが当然みたいな物言いだし。……つーか"神"だし……

 面白がってる分性質たちが悪い。話を総合すると俺たちが駒になってゲームを進めるっていうことだから、もしかすると何か成し遂げないとあちらには帰れないかもしれないな。

 とりあえずベッカーの目覚めを待って、あいつの事情を聞こう。こいつにも聞こえたんだろ。』

 意識のないベッカーの顎を短い足でぺしぺし蹴った。


 『ベッカーの目標がお兄さんに会うっていうことなら、それを手伝えば良いんだろうね。』

 サキは真剣な顔で透夜を見た。気づいてても分かりたくなかったけどそういうことだ。透夜としてはベッカーに頼るのは遠慮したいところだった。


 この後2人の相性の悪さは否応なく分かることとなる。



 

 注)大幅改定しました。3月27日に。

 透夜の性格が大幅に変わりました。

 その他は情報の出し方と順番を変えただけで同じ話です。

 


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