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小さくて可愛らしい君へ……

作者: 彩真 創

 これは、ある村の、平凡な家のほのぼのなお話。


「ユーナ、手紙!」

 よちよちとポストから手紙を取り出してきた少女は、キッチンで朝食の用意をしている女性ダーナ・マユフの元ヘ駆け寄る。

「ありがとう、ヒナ。ちょっと待っていてくれるか?」

「はいです」

 元気よくヒナは返事をし、朝からオムライスを作っているユーナの後ろをチョコチョコついていく。

 何とも愛らしい姿だ。

 透桃色(アルマンディン)の長い髪と、桃柱石(モルガナイト)のような瞳は少女のかわいさを最大限に引き出しているが、唯一人と違う所は、雪のように溶けてしまいそうなほどふさふさの羽だった。


 そう、彼女は小さい天使であった。

 数ヶ月前、近くの森でユーナと出会い、ずっと棲んでいる。

「ヒナは手伝うことある?」

 新聞を頭の上に載せて、ユーナの大きな背中を見上げる。短くバッサリと切った濃空石(ベリル)の髪と瞳をした彼女は、手を止め少し思案し、ヒナの方に布巾をさしだす。

「じゃあ、新聞を椅子の上において、机をこのタオルで拭いてくれるかな?」

「お任せデス!」

 元気いっぱいに布巾を受け取りトテトテと、ヒナはテーブルの方へ向かっていった。



「うん。いい出来だ」

 しばらくして出来上がったほかほかのオムライスを、ユーナは大小の花柄の皿に移していたら、がっちゃーーん、「ぴゃあ!」とテーブルの方から聞こえた。

「どうした、ヒナ」

 急いで駆けつけるユーナ。見ると、テーブルの上の花瓶が割れて床に転がっていた。そしてそのすぐ側には震えて縮こまっているヒナがいた。

「ヒナ! 怪我は?」

 ヒナは答えない。ボロボロと大粒の涙をこぼし、必死に頭を抱えて震えていた。

 まるで、ぶたれるとことを恐れているように……。

 そんなヒナを見て、ユーナは彼女を抱きしめる。

「ヒナ、ヒナ。大丈夫だ。ここは怖い処じゃない」

 ポンポンと背中を叩き、落ち着かせる。ヒナはギュッとユーナの服を握りしめ泣きじゃくる。

「ヒナ、は、ダメなてってんし。“幸せ”ユーナに、っく、あ、あげれ、ない……」


 普段天使は、空の異空間に住んでいる。しかし生まれたての天使は、たまに異空間の小さな隙間から人間界へと落ちてしまう。

 その天使達は成熟するまで帰れない。だから人間と一緒に過ごすか庇護下におかれる。その天使達は、一緒に住んでいる人達を“幸せ”にするといわれていた。

 しかし、どういうわけかヒナには、それが出来なかった。ユーナに会う前、いろいろな人に拾われたヒナ。

 最初は優遇されていたが、ヒナが様々な災厄を引き起こしてしまうと、皆、ヒナを捨てたのだった。


 そして、森の中、熊に食べられそうになっていたヒナを偶然ユーナ見つけ、助けた。

 ひどくおびえていた彼女を介抱し続け、ようやく今の明るさを取り戻していたが、不安だったのだろう。

 また、失敗し捨てられることが……。

 腕の中にすっぽり収まる、小さな小さな天使をユーナはギュッと抱きしめる。

「ねぇ、ヒナ。ヒナのいう“幸せ”ってなんだ?」

 大粒の涙を流す瞳を覗き込みユーナはゆっくり訪ねる。ヒナはしばらくの間、質問の意味が理解できなくて、首を傾げていた。

 ようやく理解できたのか、パチクリして、また首を傾げた。

 その動作が可愛すぎて、ユーナはぐりぐり抱きしめたい衝動を抑え、ヒナの頭をなでる。

「“幸せ”というのは、人それぞれ違うんだ。私の幸せは『ヒナと一緒に過ごすこと』。それがなりよりの幸せだ」

 微笑むユーナ。

「で、でも。ヒナ失敗ばかり……」

 嬉しいが、悲しそうな顔をするヒナ。過去の出来事が彼女の不安をあおっている。

「あのね、ヒナ。人はたくさん失敗する生き物なんだ。私も料理を焦がしたりして失敗する。そして失敗から色々学ぶんだ。ヒナもたくさん失敗した。そしてそこからいっぱい学んだだろう? 例えば、ものを壊したら謝ることを……。さっき謝ってくれた」

 ヒナは真っすぐユーナを見る。涙は止まっていた。

「私はヒナがとても私達(ヒト)に似ていることがとても嬉しいよ。一緒に泣いたり笑ったりできることが……」


 ユーナはヒナが出会う三年前から一人だった。子ができなくて、夫は離れていった。

 昔からハントをしながら生活していたので、生活には支障がなかったが、暮らしには寂しさと悔しさが募っていった。だから、あの森でヒナとであってからの生活はとても嬉しかった。

 まるで、我が子と一緒に暮らしているようで……。

 ずっとずっと求めていたものだった。

 ヒナが自分の存在を後悔することは自分もとても辛くなることだった。

「だから、ヒナ。自分をそう責めないで。花瓶を割ったのなら一緒に片付ければいい。こけたならそこからゆっくり立ち上がろう」

 ね? そういいそっととヒナを床に降ろす。ヒナはごしごしと服で涙を拭い、うなずく。

「よし、じゃあ片付けしようか。ヒナはちりとりと箒を持ってきてくれるか?」

「うん!」

 パタパタと元気に羽を広げ、ヒナはとりに行く。その姿を微笑ましくユーナは見ていた。




***  ***  ***




「おいしい! ユーナのオムライス」

「それは、よかった」

 唇の周りにいっぱいケチャップをつけて、パクパク食べるヒナ。それを横で見ながらユーナも食べる。

(うん。おいしい)

 片付けをして冷めてしまったオムライスをもう一度温め直したので、不安だったのもあるが、ユーナは料理が苦手な方なので成功してほっとした。

 というより家事全般が不得意な方なのだが、ヒナのおかげか、なぜかこの頃は成功することの方が多い。

 おそらく、ヒナの力はとても見えにくいものなのだろう。そうユーナは思ったが、どうでもよいことだった。ヒナの一生懸命な姿やチョコチョコよってくる可愛い、可愛い姿が何より彼女にとって“幸せ”なことだったからだ。

「ふふ。ヒナ、顔がすごいことになってる」

 くすくす笑いながら、ハンカチでヒナの口元を拭う。ヒナは嬉しそうに彼女のハンカチにすり寄る。




 ーー暖かな空気が二人を包み込んでいた。




                                     了


☆追記☆

ユーナとヒナの物語、いかがでしたか?


失敗は誰だってやってしまう。

しかし、失敗からはたくさん得るものがある。

だから失敗を恐れないで、、、


ヒナとユーナはいつまでも一緒にいてほしいものです。

“幸せ”に……



2010/7/4 彩真 創

2010/8/4 彩真 創一部修正


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