「彼」と「戦争」
私は、ある人物に取材を申し入れた。その人物は元アメリカ中央情報局(CIA)であり、素性を明かさないことを条件に取材を行った。その人物から聞くことができたのは日本の裏工作についてであった。上海独立を日本が迫る前に日本は上海近海に油田があることを知っていた。日本は上海に海洋資源の優先権を条件に支援することを持ち掛け、密約を結んでいた。そのことを後から知った中華連邦は激怒した。そのことは中華連邦国内で報道はされたが日本も含め海外では報道はなかった。どうやらアメリカはその分け前をもらうつもりで裏で関与していたらしい。しかし私が本当に知りたいことではなかったため「彼」について質問した。
「その男については少しの報告書に書いてあったことしか知らない。ただ戦争終結に導き世界を救ったのは彼だ。」
私はこれ以上のことを聴くことはできなかった。私が「彼」について知っていることは日本帝国空軍の戦闘機パイロットであり、京都防衛線の英雄。機体の翼にオレンジ色。彼と戦った連邦軍はオレンジと呼び恐れていた。これだけである。あとは噂だ。戦争に関わった全員が知っているのに何も見えてこない。そんな彼に私はますます興味を引いた。
私は「彼」が京都防衛線より前に同僚であった人物に会うことができた。その人物は元空軍パイロットであり築城基地所属の男であった。その男は「彼」の隊長であり北九州侵攻時の戦闘で被弾し生き残ったが怪我により退役した。
「あいつは、私の隊の二番機だった。あいつはとても無口だったが腕は良かった。勤務態度は普通。生き残るやつはそんなやつなんだろうな。初戦で撤退の最後まで空に残っていたのはやつだけだった。それからは他の奴から聞いたことだが、それからも他の隊に編成されては生き残り、他の隊に配属されるを繰り返したらしい。」
私は戦場の空を駆る「彼」の姿について聞いた。
「あいつは普通だ。何か特筆するものはなかった。そのあとはどうだったかは知らない。」
常に生き残ってきた人が普通とは思えなかった。男は何か思い出したようで私に情報をくれた
「あいつが最後に所属していた部隊は知っている京都防衛線以降に異動はなかったらしい。たしか名前はウォードック。」
私は「彼」の元上司の情報を基に防衛省に問い合わせた。だが返答は帰ってこなかった。そこで私は公式資料からウォードックと呼ばれる第207飛行隊が福建共和国の基地に派遣されていたことを知り、福建共和国に向かった。彼がいた基地はもうなく空港として使われていた。今の福建共和国や旧中華連邦の戦争当事国は戦後の混乱から立ち直っているが当時は戦後も混乱していた。ミサイルや砲弾により壊された街。多数の死傷者。そして、戦災孤児。ある戦災孤児について話そう。おそらくこの戦争を覗く上でも重要であるだろう。
中華連邦にある地域。中規模な街だがとても風情があり、平和で穏やかだった。その街に住んでいた少年。少年には兄弟はいないため母と父の三人で暮らしていた。家は少し高い丘の上にポツンとあった。父は街でタクシー運転手をやっていた。テレビではいつも難しいことを言っていたため母に聞いたところ、国にお金がないという話だった。母と父はそのことをいつも不安そうに話していた。特に戦争が始まるまでの国内情勢はその不安を増幅させていた。街でも戦争前後は大人たちが不安そうに話していた。それは少年も含めた子供たちにも伝わっていた。そしてついにその不安が現実のものとして現れる。
テレビでは戦争が始まったことが伝えられていた。ただ大人たちが想像していた戦禍に巻き込まれるということは起きなかった。いつしか大人たちも戦争はどこか遠い話のように思うようになっていった。少年もまた戦争は理解していたが現実に起きているという実感はなかった。この街の平和は続くものだと誰も彼も思っていた。しかし、その幻想は戦局の変化によってあの日崩壊した。そして、自分たちも戦争の当時者であることを思い出した。
少年はその日も街の方へ来ていた。少年の家は丘の上にあり、ぽつんと建っていたが街は目と鼻の先にあるため毎日のように街へ遊びに出かけていた。得意のハーモニカを使って街で披露する。そこで親に内緒でこっそりお小遣いを稼いでいる。その日もいつものようにハーモニカを演奏していたが少年が奏でるハーモニカの音は轟音によってかき消された。突如、鳴り響く警報と戦闘機の轟音。そして爆発と衝撃。街は一気に大混乱に陥った。空では軍の戦闘機と見たことのない飛行機が飛び交っていた。少年は急いで家に戻ろうとした。走りながらも見える空の光景は戦闘機が戦闘機を追い掛け回し撃ち落していた。その中で少年の目を引いたのはオレンジ色が翼にある機体。その機体は一機、また一機と戦闘機を撃ち落していった。やがて眼をつけられたその機体だが隣にいた仲間と思われる機体が追いかけてくる一機を引き付けていた。そうして空の戦況に注目しながら走っているうちに我が家が見えてきた。それと同時に戦闘機同士の戦闘も見えていた。だがすぐに決着がついた。攻撃された戦闘機は炎を上げながら落ちていく。その先にあるのは一つの家。戦闘機が落ちた家はその瞬間、爆散した。その衝撃は少年にも伝わった。少年の家は両親とともにこの世から消えた。少年は空を見上げ、こっちを見下ろすように旋回する敵機をみた。オレンジの機体の横にいたやつだった。
それからの少年は崩れ去った家の前に戦闘が終わり被害の対処に動いていた消防がくるまで座り込んでいた。少年は消防隊に保護された。両親の遺体は一部が残っていた。戦闘の混乱で葬式は簡素なものになり少年は街に住んでいた叔父さんの家に行くことになった。叔父さんもタクシー運転手だったがガソリンの供給が減ったため仕事がなく酒におぼれていた。少年は叔父さんの代わりにぎりぎりで営業する酒場で働いていた。そこの店は家族で営んでおり、そこの娘と仲が良かったので好意で雇ってもらえた。戦局の悪化で客の数は激減していた。
少年はいつものように店で働き帰宅していたところ狭い路地に男が倒れていた。男はとても弱っていた。少年はその男をそのままにすることができず、前の家に連れて行った。家と言っても少年がその場に残っていた材料で作った掘っ立て小屋ではあった。その男はそこに着くまでなにもしゃべらず虚ろな目をしていたが着くと同時に涙を流した。少年はそれから食べ物を買って男のところに持って行った。それを繰り返して何日か経ったとき男がついに口を開いた。
「どうして、助けてくれる? こんな世界なのに」
少年はこんな時だからこそ助けるのだと答えた。そして母の教えだと付け加えた。それから男と会話を重ねていくことになった。男は徐々に元気を取り戻し、家の修復をやってくれるようになった。




