表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノルン  作者: 不知火桜
case1 探し人
13/13

記憶

 銃声が鳴り響く。他の仲間ははぐれたか死んだ。さっきまで肩を貸していたやつも死んだ。いつも活発で明るいやつだった。茂みの奥から声が聞こえる。こっそりと覗き込むと一人の女が複数の男に取り囲まれている。女は私のよく知っている人物だ。彼女はケガを負っている。とても(むご)く言葉で表すのが躊躇(ためら)われるくらいにひどかった。すると彼女は私に気が付いたみたいだった。

「撃って」

その言葉は私に向かって放って言っている。

「殺して」

男たちは私に気が付いてなく、その言葉を苦しみからでている言葉だと思っているようだった。男の一人が斧を持ち、薄汚い笑みを浮かべていた。彼女の顔はさらに絶望に染まり、

「は、早く 早く撃って! 凛!」

私は何もできず、彼女の声はしばらくの間、響いていた。


 悪夢から逃げ出すようにおきた。知らない天井。そうだった。昨日は家が襲撃されてあの男の家に居させてもらったのだった。私はソファで寝て、あの男は別室で寝ていたのだった。寝る前に余計なことを考えるなよと言ったが、「ガキに手を出す趣味はない」と言って部屋に入っていった。とことんいけ好かないやつだ。ふと気づくとなにやら音が聞こえる。音の方を見るとあの男、利がキッチンにいた。利は私の方を見た。

「うなされていたみたいだったが、大丈夫か?」

 どうやら私を気遣ってくれているようだ。

「大丈夫だ。すまない。」

 私がそう返すと彼は気にすんなと言ってくれた。なぜか頬が熱くなるのを感じ、俯いてしまった。いけ好かないやつなのか優しいやつなのか分からないな。彼はそんな私を気にもせず、机の上にご飯とみそ汁を二つずつ用意していた。

「食べられるか?」

「ああ」

 私は席につき箸をとった。まさか、誰かと朝食をとる日が来るとは思ってもみなかった。利がつけたテレビからアナウンサーの声が聞こえる。

『十年前に終戦を迎えた大陸戦争を追った戦災孤児であり旧中華連邦出身の記者が書いた記事が今、話題を呼んでいます。記事について日本政府は情報開示通りであると認める一方で、アメリカ政府や上海との天然資源に関する密約については否定しました。また、記事には大企業の神結(かみむす)重工の名誉会長となっている神結氏のご息女についても述べられており、これについて神結氏は—』

 あの大陸戦争からそんなに経ったのか。私は今は考えたくなかったので話題から逃げるようにテレビを見ている利に話しかけた。

「朝はいつもこうなのか?」

「いや、今日は違う。私はいつもパン派だ」

 私は疑問に感じたが、彼はそれを見越してか話を続けた。

「昨日、お前の部屋に入ったとき、茶碗が水につけられていた。米袋が割と大きめのがあった。そしてトースターもなかった。部屋は毎日帰ってきている感じだったからお前が米派だと思って気を利かせたのさ」

 そう言って彼はみそ汁を啜った。

「なんて奴だ。あの状況下で変なところまで観察していたな」

「そこまで深く考えていないよ」

 彼は一目私を見て特になんとも思っていないかのように答えた。たしかに一番の刑事かもしれないな。

 朝食を取り終えたが、利が言っていたように何もすることはない。他にも釣り糸を垂らしているらしいが、どちらにしろ待つほかない。利は、食器を片付けた後、目の前でノートパソコンを開き、何か作業をしている。私は昨日の彼の言葉を思い出していた。やはり、腹の内は明かしておくべきだった。私らしくなかったな。私は一呼吸おいて口を開いた。

「ずっとすまなかった。最初から協力するべきだった。」

「気にするな。初対面を信用するのは簡単なことじゃない。」

 彼は、やわらかい口調でそう言ってくれた。この男には話してもいいだろう。

「これから、話すことは他言無用で頼む。」

 それを聞いた彼は作業をやめ、私に顔を向ける。

「今回の探し人は、私の高校からの友人だ。彼女とは卒業から別になったが時々、会っていた。私が見る限り、普通の子だったが、三週間前に防衛省の機密ファイルにアクセスした疑惑がある。発覚直後は犯人の特定ができなかった。IPを辿ると彼女のパソコンだと分かったが、その時はまだ、ハッカーに利用されていただけだと推測された。いちおう内偵を進めようとした矢先に彼女は姿を消した。彼女の経歴から高度なハッキングができるようには思えない。周りは彼女を疑っているが、私は何か大きなことに巻き込まれているのではと考えている。 改めてお願いする。力を貸してくれ。」

 私は彼に頭を下げた。自然と手に力が入る。彼の力は必要だ。でももし、断られたらと考えがよぎっていると

「私は警察官だ。困っている人を助ける。それが仕事だ。それに、ここまで付き合ったんだ。今更、放り出せない。」

 私は彼に感謝を述べた。彼の方は顎に手を置き、考え込んでいた。

「昨日、襲われた理由はやはりそれなのか?」

「おそらくそうだろう。敵は私がなにか掴んでいると思ったのだろう。」

 彼は私の答えを聞いて再び考え込んだ。ただ、納得いってないように見える。

「その事件と容疑者まで知っているのはどれくらいいる?」

「捜査している部署の人と防衛省の一部高官だけだ。」

 彼は再び、考え込みながら一瞬だけ私をみて視線を落とした。

「防衛省に裏切りがいるか、お前自身にあるかだな。」

「どういうことだ? 誰かが裏切ったとは思えない。それに私自身も情報はお前以外に漏らしていない。」

 誰かが裏切るとは思えない。もし、情報が漏れていたとして私だけ襲われるとは・・・・いや、裏切りがいるなら独立して行動する私だけが襲われた理由にもなる。

「単純にお前がその子の友人だからじゃないのか?」

 それもおかしい。あの子と友人というのを知ったからと言って襲われるのか。そもそも、私の友人という情報はどこからきたのか。私が考え込んでいると利が続ける。

「あくまでも、推論だが、仲間に裏切りや漏洩がないなら〝友人〟という情報はどこから来るか。そんな情報はお前とその子を知っている人物じゃないか? 高校卒業後は別々だったということは、高校の同級生に関係者がいるかもな。」

 たしかにあり得ない話ではない。ただ、事が事である。それこそなぜ高校の同級生が出てくる。利は私をよそに話を続ける。

「高校の友人で襲われた奴がいないか調べてみよう。お前以外に友人はいるか?」

 私以外に友人はいた。あと一人。ただ、陽七(ひなの)はもういない。

「いない。」

 神結陽七は、戦闘機パイロットで戦争で撃墜された。そのことは最近になって知った。今話題の記事をみるまでは事故で死んだと聞かされていた。私は、あの戦争で親しい友人を二人失った。

「そうか。」

利は私から何かを悟ったのか声のトーンが少し下がっていた。私はそれから高校の同級生の状況を確認したが、襲われたといった被害の情報はなかった。情報といえば一つだけだった。

「誰も襲われていないようだ。情報はなにもない。情報といえば、メールに高校の同窓会のお知らせがあったくらいだ。今知ったよ。」

 私は少し笑いながら、利に報告した。だが、利は真剣な表情でこちらを見る。

「同窓会っていつだ?」

「今日だ。それどころじゃないがな。」

 同窓会になんて出席している場合じゃない。それに他に親しい友人なんていないしな。いや、一人だけいたな。よく、穂香と話していた男子。たしか名前は— と考えていると利に遮られてしまった。

「出席しろ。今は少しでも情報が欲しい。高校に関係が少しでも可能性がある今は探りに行くべきだ。」

 たしかに言っていることは最もだ。だが、

「着ていく服がないぞ。家は今あんな感じだし。」

「じゃあ今から買いに行くぞ。準備しろ。」

「えええ⁉」

 驚く私を尻目に利はそそくさと準備を始めた。


 いきなり買い物に連れ出され、車で移動中、昨日と同様に会話がなかった。別に気まずいとかわけではないが、なんだかな。と考えていると利の方から話しかけてきた。

「お前はなんで〝警察庁〟なんて嘘ついたんだ?」

 私は思わずドキッとしてしまった。どこでバレたのか。

「最初から怪しいとは思っていたよ。いくら警察庁(エリート)の人間だからと言ってあんな簡単な書類をできないわけがない。それに拳銃も警察のではない。それ陸軍の制式装備だろ。極めつけにこの事件は防衛省の案件ときた。警察庁が口を挟めるわけがない。色々とあると思うから詳しいことは聞かないでやる。」

 どうやら私は最初から怪しかったらしい。特殊教練過程ではこういうの習わなかったし、雨乃さんも大丈夫だと言っていたのに。

「た、助かる」

 それから、会話はなくなったがとても恥ずかしい気持ちになってしまった。


 商業施設に着いた私たちだが、中は見る限りとてもお高い店しか入っていない。私はつい緊張してしまったが、利は平気そうな顔で店に入っていく。その後ろを私は行く。

「ほら、好きなやつ選べ。この後、美容室も予約しているからあまり時間はないぞ。」

 もう準備はばっちりらしい。ただ、

「金なんかないぞ」

 どれを見ても私の給料では及ばないような金額ばかりだ。

「気にするな。ここは全部任せろ。」

 この男は思っていたより、随分と紳士だった。

「なら、これにする。」

 私が選んだのはレースの入った黒のワンピース。少し胸元が開いているみたいだが、パティードレスはこんなものだろう。

「いいのか?試着もしないで?」

 私は構わないと答え、店員が私が選んだ服を持ってくれた。

「そうか。じゃあ会計してくる」

「ありがとう。」

 この男、最初会ったときはなんていけ好かないやつだと思っていたが、私は考えを改め直さないとな。

「あ、領収書お願いします。宛名は警視庁で」

 会計する利から聞こえた言葉を私は聞き逃さなかった。商品を受け取った利は私の方に来て、領収書をひらひらさせながら私に言う。

「秘密捜査だから文句言われないだろ。ここはおたく(防衛省)じゃなく警視庁持ちだから安心しろ。いちおう貸し一つな。」

 笑顔で言う利。やはりこの男は嫌いだ。


 買った服に着替え、美容室から帰ってきた私は再び、利の車に乗って会場へと向かっていた。

「お前の高校ってどんな感じなんだ?」

 利は私の高校について聞いてきた。

「そうだな、私立の高校だったが、私は特待で入っていた。周りは裕福な家庭の子ばかりだった。ただ穂香は周りほど裕福な家庭ではなかった。私はさらに裕福ではなかったがな。あの高校はそれなりの進学校だったから無理をしてでも入れる家庭は少なくなかった。だから、同級生の多くは今ではそれなりの地位についている。」

 お金持ち学校だったからカーストみたいなのがあったな。女王みたいなやつもいたな。穂香はあの中に加わりたそうだった。私が思い出に浸っている間に目的地についた。

「終わったら連絡してくれ。」

 利はそう言って走り去った。


 私は入り口でサインをして中に入り、渡されたグラスを手にとり、隅で一人で立っていた。さてこれからどうしたものか。顔はわかるが、今まで話したことのない人ばかりだ。まずい、このままだとただ、出席しただけになる。これで帰ればあの男に何を言われるか。私が考えを巡らせていると声をかけられた。

「あれ? 秋津さん? 久しぶりね。連絡がなかったから来ないかと思っていたわ。来てくれて嬉しい。」

 私に話しかけてきたのは高校時代に女王と呼ばれていた。たしか名前は綾小路(あやのこうじ) 桜子(さくらこ)。私は数回と話したことないが、覚えていたらしい。

「綾小路さん、よく私のことを覚えていたな。忙しかったのだが、時間が空いたのでな。連絡を返せないですまない。」

「いえいえ、でも、忙しい割には結構、おめかししているじゃない? 男たちを見て。みんなあなたを見てるわ。」

 たしかに視線を感じるが、おそらく綾小路もいるからだろう。彼女も高校の時よりもさらに綺麗になっている。身長も私より高く、体のラインも素晴らしい。たしか父親は財務省の官僚だったな。母親も美容品会社の経営者だったはず。

「ねえ、秋津さん。私、高校の時から仲良くしたいって思っていたの。良ければ今からでも仲良くしてほしいわ。」

 私としては別に仲良くしたいとは思っていない。ただ素直にそれを言うのもおかしいだろう。

「嬉しい。ぜひとも。」

あの頃だって私に近づいたのは友人であった、かの有名な神結重工のご令嬢である陽七が目当てだっただろう。あの子は、綾小路のことを避けていたが、穂香がやたら綾小路と引っ付けようとしてたな。あの子はあの子で綾小路らのグループに入りたがっていた。どうせ、彼女になにか言われていたのだろう。 あ、そうだ。

「そういえば、穂香は来ていないか?久しぶりに会いたくてな。」

「佐藤さん? あの子はまだ見てないわね。秋津さんが仲良かったじゃない? なにも連絡なかったの?」

「ああ、最近、連絡をして無くてな。今日、会えると思ったのだが、あとで連絡をしてみる。」

 知らないのは当然といえば、当然である。ただ、この中に関与しているものがいればと思ったが、聞き耳を立てていた連中に反応はない。ハズレか。そう考えていると綾小路が話を始めた。

「神結さんは残念だったわね。秋津さんは葬式にきてなかったけど佐藤さんは来ていてとても泣いてたわ。あのときは事故で死だと聞いてたけど。まさか、戦争で死んでいたとは驚きだった。どうして、軍人なんてしてたのかしら。」

「あのときは、私は海外にいて開戦で帰国できなかった。終戦後もしばらく帰れなくてな。」

 半分は嘘だ。本当のことを言う必要もない。

「近いうちに連絡するね。ランチにでも行きましょ。」

 そう言うと彼女は離れて行った。その先には数人の男女がいる。彼女彼らにも覚えがある。取り巻きの連中だ。元チア部の涼風(すずかぜ) 美沙(みさ)()。今はどこぞの大手企業の社長と結婚して秘書をしている。男連中は、バスケ部のエース結城(ゆうき) 宇宙(こすも)。野球部の一ノ(いちのせ) (こう)(だい)。結城は商社マン、一ノ瀬は経産省の高級官僚だったはず。綾小路も母親の会社に勤めながらモデルもやっている。私は直前で手に入れた情報を思い出していた。盗み聞きしていると綾小路がダストシューターが近いからたまに音が響くと言っているが一人でタワマンの高層に住むようなやつだ。嫌なら引っ越せばいい。別に妬んでなんかいない。とにかく、全員、親が金持で自身も高い地位にある人物ばかりだ。

 また、一人になって会場を見渡すと気になる人物を見つけたので近寄ってみた。

粋川(いきかわ) 直斗(なおと)君だよね?久しぶり。」

「え⁉ 秋津さん⁉ ひ、久しぶり。」

 彼とは多く話はしなかったが、時折、穂香といた。家の方角が一緒だったはず。昔、穂香に陽七と合わさって関係を問い詰めていたっけ。

「知っている人物がいて安心した。」

「へ? 同窓会なんだからみんな知ってるでしょ」

「それもそうだが、そう言う意味じゃない」

 彼も私と同じように特待で入っている。彼の家庭は裕福ではないが、中流家庭である。

私は穂香について知らないか話を振ってみた。

「最近、穂香とは連絡とっていないのか? 今日はあの子も来てくれていると思っていたのだがな。」

「・・・・卒業以来、連絡はとってないよ。最後に会ったのは神結さんの葬式以来かな。神結さんは残念だった。」

 彼が心の底から言葉であることを感じる。少し暗い気持ちになったので少し話題を変えてみた。

「今だから聞くけど。穂香とはどうだったんだ?その関係性とか?」

「え?」

 彼女との関係性によっては彼を保護しなければならない。ただ、彼は顔を赤くしながら黙ってしまった。

「粋川、大丈夫か?」

「え?ああ、大丈夫。佐藤さんとはなんともないよ。ただの友達。」

 私はそれ以上、聞かず、終わるまでの間、二人で話していた。


 

「終わったら連絡してくれ」

 私は秋津を下して車を走らせた。秋津の奴、ずっと不満そうにしていたな。いったい何が気に食わなかったのか。わからないやつだ。秋津が帰ってくるまでしばらく何をしよう。自販機で買った缶コーヒーを開けた瞬間、携帯が鳴る。自称地下ドルマネージャーからだ。

「とんでもないお願いをしてくれたな。裏社会でしっかり手配されてるじゃないか。」

 

私はそれから情報をすべて聞き出して電話を切った。最後になにか恨み節が聞こえたが、気のせいだろう。するとまた電話がかかってきた。今度は新條課長だ。

「上手くやっているだろうな。」

「そりゃあ、もちろん。 仲良くしてますよ。」

「・・・・・まあいい。昨晩、お前たちを襲ったやつの身元は暴力団の組員だった。それ以外はわからない。全部、公安に持っていかれたからな。あとはあのお嬢ちゃんから聞いてくれ。じゃあ」

 私にそれだけを伝えたかったのか私がなにか喋る前に切ってしまった。新條課長の口ぶりからするに国内外のテロや過激派を監視したり、時には情報漏洩を防止したりする公安が出てきたことに驚きはなさそうだ。一体、どこまで知っていたのかと少し考え、思考を戻す。やはり彼女は何かに巻き込まれた。ただなぜだ。私は佐藤穂香の経歴を見ながら考えた。大学卒業後、地元の会社に入社。会社はいたって普通。黒い噂もない。しばらく車で待機していたところ秋津から連絡がきた。どうやら、終わったようだ。私は缶コーヒーを飲み干し、車のエンジンを入れ走らせる。

 行きと同じように会場の前まで向かおう思っていたが、向こうから少し離れたところで拾うように言われた。同級生の前で男が迎えに来ているのは何かと恥ずかしいのだろう。指定された場所に着いたが、彼女はいない。つい昨日襲われたばかりだ。もしかしたら、また襲われているのではと考えていたが、通りの奥から秋津らしき姿が見えた。それと男の姿。彼女はその男に笑みを浮かべながら話しているように見える。そして、男は少し心配そうな顔をして話しているようにも見える。少しの間、二人はやり取りをして男は手を振りながら去っていった。秋津は彼の姿を見送ってから私の車に乗った。

「すまない。待たせてしまった。」

「別に気にすることない。それよりも良かったのか? 私は別に朝に迎えに行っても良かったんだが。」

 今の時代でもこの年で結婚するのは普通だが、あの調子だと向こうも独身だろ。秋津に願望があるか知らんが、一人の人間としてそういった関係を作るのも大事だと考えていたが、彼女は真面目な顔をして答える。

「本来なら、ホテルなど仮の寝床を確保すべきなのだが、もしかしたらお前も襲撃される可能性がある。不本意だが、しばらくお前のところを借りたい。」

 私の言った意味を理解していなかったらしい。

「ん? 今、住むと言ったか?私の部屋に?」

「〝住む〟ではない。〝借りる〟だ。この事件が解決し、黒幕を暴くまでは敵すらもわからない状態は危険だ。」

 たしかに彼女の言う通りだ。私だって襲撃される可能性もある。敵がわからない以上、警護をつけるわけにもいかない。それなら一か所に固まっていた方が安全だ。それに彼女の方が戦闘慣れをしているようだから安心だ。

 家にまた二人で帰ってきた。途中のコンビニで買ってきた夕飯を食べ終え、秋津とお互いの得た情報を話す。秋津の同窓会での話では特に大きな成果はなかったようだ。金持ちの子は金持ちだということくらいか。ただ、先ほど見た男と残りを昔話に費やしていたら聞ける情報もないだろと思ったが、友人が消え、色々なものを今日まで抱えていたのだから少しくらいはガス抜きくらいにはなっただろう。

 私は一呼吸置いて話を始める。

「まず、昨日、自分たちを襲ってきたやつだが、過去に逮捕歴があり、暴力団『関王会(かんおうかい)』の組員だった。そして、昨日会った地下ドルのマネージャーからも連絡があって、佐藤穂香は裏社会でお尋ね者になっている。誰が探しているかは言うまでもないだろ。関王会が佐藤穂香を探している理由なんだが、彼女は組の金とブツを持って消えたらしい。そのブツってのはコカインらしい。」

 私のここまでの話を聞いて、秋津は見るからに狼狽していた。私は構わず話を続ける。

「別の情報筋からは佐藤はいつもブツをしっかり売りさばいてそれなりの額を稼いでいた。だが、いつもどこに売りさばいていたのかは謎だ。商売を始め出したのは少なくとも二年前からという情報だ。これらは残念だが、事実だと考えられる。」

 秋津は、俯き黙ってしまった。佐藤穂香が犯罪に手を染めていた。ただ、謎は多い。

「情報は増えたが、同時に謎も増えた。一つは、なぜ、コカインを売りさばく必要があったのか。彼女の失踪前までの生活を考えても生活に困っていたという話はない。ホスト、ギャンブルもしていない。急に金使いが荒くもなっていない。もしかしたら、会社の同僚に聞けば何か出てくるかもしれないが、稼いだ額にしては目立っていない。二つ目は、じゃあ、その使っていないお金は一体どこに消えたのか。失踪直後に佐藤の部屋を調べたときは何も出てこなかったんだろ? 銀行口座にもその形跡はない。」

 私の疑問点を聞いて俯いて黙っていた彼女は再び顔を上げ、考え始めた。

「たしかに。それなりの額を稼いで使っていないならどこかに貯める必要がある。少々、非合法(・・・)な(・)方法(・・)で調べたが、穂香の家からはなにもでてこなかった。口座に入れていないなら大量の現金を保管することになる。」

 どうやら調子が戻ってきたようだな。

「そうだ。たとえ、金塊にしたとしてもそれなりの量だ。それに金塊に換えるときに足が付くだろう。実家と会社は調べたのか?」

 私は彼女にそのことを尋ねてみたが、答えはノーだった。

「だとすると実家には現金にしろ隠し口座にしろなにか出てくるかもな。ただ、令状なしに捜索するわけには・・・・・」

 会社の方は聞き込みも兼ねていくが、実家の方にはどうやって中に入らせてもらうか。シンプルに手掛かりを見つけるためということにしておくか。そう考えていると、秋津のほうが先に挙げてくれた。

「私は、高校の時に何回か家に上がらせてもらっている。親御さんとも面識がある。失踪してからも穂香について私に連絡をしてきている。警戒はされないだろ。さすがに薬物については言わないが。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ