英雄は脆い存在
私は神結という人物に会うため神奈川県にある邸宅を訪れた。いわゆる豪邸というもので大きな門から玄関までを長い一本道で繋いでいる。インターフォンを鳴らすと家の中から使用人が出てきた。承諾を得た私は玄関までの道のりの中で大きな桜が目に入った。そのまま、私は使用人に案内され一室に通された。中には今回の取材協力者がいた。
「どうも、初めまして。神結清十郎と言います。」
挨拶をし握手を求められた私はその手を握り、こちらも挨拶をする。60代でしわも目立つが貫禄を醸し出している。握る手にも力強さがある。この人物は、日本を代表する神結重工の会長。神結重工は、戦後の日本を立て直し、ロケットや戦車、戦闘機から医療ロボットなど幅広い事業を展開し日本の中枢を支えている。そのトップに君臨する男。最近は会長自らが中心となって日本の近海の防衛や船舶の航行を支援する目的で自動航行可能な海上要塞を建設している。
早速、私は取材を開始する。
「私は「彼」に直接会ったことはないが娘の手紙によく出てきた。」
神結氏の娘、神結陽七。享年26歳。当時少尉であり二階級特進により大尉となっている。彼女もまたウォードックの一員で大陸にて戦死した。
「娘はあまり家に居たがらなくてね。一人娘だから跡継ぎとしても期待されていた。それが嫌だったのだろうな。だからと言って軍人にならなくてもいいと思うが」
そう言って私に彼女の写真を見せてくれた。着物姿で髪が長く綺麗な顔立ちをしていた。軍人だったとは想像できないほどのお嬢様だった。
「ただ娘はたまに手紙を私に送ってくれていた。ネットがあるこのご時世に変わった娘だよ。その手紙のなかに「彼」のことが書かれていたよ。とても無口だが頼りになる憧れの人だったみたいだ。戦争が終わったらその「彼」を連れて家に帰ってくるものなのかと思っていたよ。帰ってきたのは娘の一部とわずかな私物だった。」
神結氏は声を震わせながら語ってくれた。私は少し時間を置くことを提案したが断られた。
「大丈夫だ。しゃべらせてくれ。娘の私物にあった日記に「彼」のことが書かれていた。手紙にあったのはとは違ったが」
神結氏から渡された日記には「彼」の部隊に配属されてから最後の出撃前夜までの彼女の心情と「彼」のことが書かれていた。
5月20日 私は第207飛行隊に配属された。隊長さんはとても無口だった。明日は初めての実戦。生き残れるかな
7月13日 ついに私たちは九州を奪還し西日本の解放に成功した。隊長はすごい。彼についていけば生き残れる。私たちには大陸派遣が予定されていると聞いた。彼と一緒なら大丈夫。
8月15日 福建共和国が解放され、正式にそこに駐留することになってから数日。街は活気を取り戻している。明日は隊長を誘って出かけてみようかな。あれ、これってデート?
9月1日 今日は戦闘はなく一日待機。雨乃少尉に先輩をなんで先輩と呼ぶか聞かれたけど別に深く考えていなかった。強いて言うなら先輩は隊長のことを知っているから私よりも先輩。私も彼の事をもっと知りたい。
9月22日 先輩に隊長の事を聞いたら笑われた。私はまじめに聞いているのに。なのに先輩は「告白したら」とか「あいつも男だ。これで部屋に行けば完璧だ」とか。セクハラ ダメ ゼッタイ。ていうかそんなことできない。
10月12日 終戦に向けた作戦が伝達された。やっぱり戦争なんて早く終わればいい。隊長のことを見てきて隊長のことがわかってきたかも。信じたくないけど隊長は死にたがっている。みんなが戦争終結に期待を寄せている中、隊長だけ違う眼をしていた。終わってしまうのか。私にはそう見えて仕方がなかった。先輩もまたみんなと違う眼をしていた。先輩も隊長の中の闇に気が付いていたみたい。悲しそうな眼をしてた。
10月14日 先輩は帰って来なかった。涙が止まらない。でも私がしっかりしなくちゃ。先輩の代わりに私が隊長を守らないと。
11月23日 先輩がいなくなっても私たちは多くの作戦をこなしている。部隊に補充がないのはおかしいけど。でも逆にその方がいいのかも。隊長もあれから変わった様子もなくいつも通りだった。なにも変わらなかった。何も。
12月24日 ようやく最後の作戦。これで終わる。戦争が終われば隊長は戦わなくて済む。戦争が終わったら私が支える。うん。きっとそれがいい。
日記には様々な出来事や思い。所には涙の跡と思われるものもあった。彼女は「彼」に恋していたというには少し重いように感じるが彼の考えに気づいてしまったがゆえにと思う。
彼女の最後はクーデターの鎮圧。核ミサイル発射施設の破壊を「彼」と一緒に行っていた。彼らの仲間であった天乃氏はその道中で囮となり離脱している。残された二人は目的を遂行した。その後、彼女の機体は撃ち落とされた。
「娘の最後にあったことは機密だったが私は知人を使って軍上層部から聞き出したよ。娘を殺したやつも知っている。何なら今どこにいるかも知っている。」
神結氏が娘を殺した人物を知っていると聞いて思わず私はその人物の居場所を聞き出そうとしたがふと疑問に思った。どうしてその人物の居場所を知っているのか。その人を憎んでいるからなのか。しかし、神結氏は笑いながら私の考えていたことを否定した。
「君はなぜその人の居場所を知っているのか気になっているね? そしてその理由は復讐するためだとも思っているね。その理由は間違っているよ。私はそいつを憎んではいない。娘を殺したのは戦争だ。戦争が娘を殺した。そしてその戦争を起こしたのは一体誰だ? 連邦か?日本か?政府か? どれも違うな。娘を殺したのは世界だよ。各々が武器を持ちそれを他者に向ける国を野放しにしているこの世界。憎むなら世界だな。」
彼は笑いながら言っていたがその瞳には憎しみの炎が宿っていた。
「話が逸れたね。そいつは今、中東の紛争地帯にいる。君がこの戦争について「彼」を中心に調べ私の所に来た時点で察しがついたよ。残念ながら、「彼」の方は居場所がつかめなかったよ。君は彼らをどう見るかな?」
私はその人物の居場所が書かれたメモを渡され、その場を後にした。




