第71話 謎めく「想い」②
吉沢は、始点の動きを洗っていた。
誰が。
いつ。
どこで、何をしていたのか。
御前試合当日を軸に、
時系列を一つずつ埋めていく。
そこで――
一人、いない者がいた。
鳴海怜。
想界連合本部へ向かう。
「確認したいことがある」
受付に告げる。
「現在、鳴海怜はどの任務についている?」
端末を操作する職員。
「鳴海怜様ですね」
「現在は、アメリカでの調査任務に就いています」
「……アメリカ?」
思わず、眉が動いた。
「どうして、海外だ?」
「記録にない黒等級想獣が確認されまして」
「人型で、獅子の姿をしているとの報告です」
――獅子。
血の気が引く。
「……くそ」
あの時。
自爆したように見せて、
逃げたとしか思えない。
完全に、見誤った。
自分の失態に、歯を食いしばる。
だが。
それでも、腑に落ちない。
「……なぜ、彼女が?」
鳴海怜は、
戦闘専門というタイプではない。
疑問を口にすると、
職員は少し困った顔をした。
「ご本人が、そう仰っていまして」
「海外旅行も兼ねて、行くと」
「転神町では、ずいぶん働かされましたから、と」
……何も、言えなかった。
確かに。
彼女は、働いていた。
表でも、裏でも。
吉沢は、連合を出る。
また、振り出しだ。
裏切り者を見つけるのは、
そう簡単ではない。
なら。
彼女が戻るまで、保留。
その間に、別の線を探る。
次の疑問。
なぜ、あの四人だったのか。
始点であること。
それぞれが、罪を抱えていたこと。
だが――
罪など、誰でも持っている。
それだけでは、共通点にならない。
他に、何か。
何か――
思考を巡らせた、その時。
ふと、
天舞優華の言葉が、脳裏をよぎる。
彼女の罪は、怠惰。
そして。
夕陽町。
あの町で、ウイルスがばら撒かれた。
確か――
あの事件には、上層部も関わっていた。
つまり。
始点全員が、
何らかの形で関与していた可能性。
だが。
夕陽町事件は、秘匿案件。
資料は、吉沢の権限では開けない。
「……くそ」
思わず、悪態が漏れる。
だから、上層部は嫌いだ。
吉沢は、荒木のもとを訪ねた。
「どうした?」
「お前も修行しに来たか?」
「いえ」
首を振る。
「違います」
「じゃあ、何だ」
荒木の視線が鋭くなる。
「……夕陽町について、聞きたいんです」
一瞬。
荒木の表情が、曇った。
「あの事件か」
「俺も、詳しくは知らない」
「最初から、除け者にされてた」
「反対してたからな」
淡々と、語る。
「最初は、楽座家と鳴海家が動いた」
「だが、規模が大きすぎた」
「もう、間に合わなかった」
そこで。
「天舞家に話が行った」
「愛華が、殲滅した」
空気が、重くなる。
「その結果」
「想界石の修正力が、過剰に働いた」
「しばらく、人々に違和感が残った」
「上層部は、黒歴史として秘匿した」
荒木は、そこで言葉を切る。
「俺が知ってるのは、そこまでだ」
一拍。
「……噂だが」
「生き残りがいるって話は、あった」
「真偽は、不明だ」
なるほど。
点が、また一つ繋がる。
「お前が何を調べてるかは聞かない」
荒木が言った。
「だがな」
「この事件は、やべえ匂いがする」
「上層部も、黙ってない」
「深入りすると――」
視線が、鋭くなる。
「戻ってこれない可能性もある」
「気をつけろ」
「……もちろんです」
吉沢は、微笑んだ。
「少し、気になっただけです」
荒木のもとを去る。
だが。
一度、踏み入れた場所から、
簡単に引き返すことはできない。
次の日。
吉沢は、夕陽町へ向かっていた。




