第69話 謎めく「想い」①
闘技場へ向かう道を、
一人で歩いていた。
足音だけが、やけに響く。
「あ、吉沢さん」
声をかけられ、立ち止まる。
「今日は、どんなご用事で?」
警備の若い職員だった。
「少しね」
笑って答える。
「調査をしようと思って」
「調査、ですか?」
職員は首を傾げた。
「闘技場については、もう楽座家が――」
「分かってる」
遮るように言う。
「でもさ」
少し間を置く。
「僕、気になると我慢できない性分でね」
「中、少し見せてもらってもいいかな」
一瞬、迷った顔。
それから。
「……本来はダメなんですが」
「吉沢さんなら、信頼できます」
「どうぞ」
「ありがとう」
そう言って、闘技場に足を踏み入れた。
内部は、静まり返っていた。
現在、闘技場は再改造中だ。
楽座家による、全面的な結界再設計。
だが――
調べれば調べるほど、
違和感が積み重なる。
結界の吸収量。
回復量。
想定以上に、自由が利く。
操作性が、高すぎる。
脆弱性を潰すための再設計。
表向きは、そうだ。
だが。
完成してしまえば、
“痕跡”は消える。
証拠も、意図も。
――まずいな。
闘技場で起きた“ゲーム”。
まだ、分からないことが多すぎる。
なぜ、彼らは侵入できた?
なぜ、四人だった?
秩序に近い四人。
確かに、象徴的だ。
だが、それなら――
上層部を狙えばいい。
なぜ、罪を“自覚させる”必要があった?
考えるほど、
疑問が増えていく。
だから。
僕は、独断で調査することにした。
上層部も。
楽座家も。
完全には、信用できない。
荒木さんに頼る手もある。
だが――
彼は、目立ちすぎる。
まずは。
闘技場で解決すべき謎。
誰が。
どうやって。
結界を改造したのか。
結界は、展開されれば出入りできない。
それが、元々の設計だ。
侵入するなら、
観客として入るしかない。
だが、観客なら――
身分は残る。
記録室に向かう。
閲覧ログを、洗う。
……何もない。
不自然なほど、きれいだ。
そもそも、
部外者は、この一帯に入れない。
では。
総会議前日の“祭り”。
屋台。
スタッフ。
一時的な出入り。
そこに紛れ込む。
そして。
結界展開まで、待機。
楽座家が、最終調整に来る。
その瞬間。
楽座家しか通れない結界を解除。
侵入。
操作。
ここまでは、筋が通る。
だが――
問題がある。
楽座家がいなければ、
“出られない”はずだ。
……待て。
結界制御室へ向かう。
扉の前。
僕の権限では、弾かれる。
当然だ。
血統以外は、通れない。
――いや。
思考が、繋がる。
荒邦。
あの男だ。
最後の言葉が、頭をよぎる。
壮吾は、荒邦と契約していた。
決勝戦。
荒木家の想力吸収量だけが、操作されていた。
その操作は。
最終調整“後”に、行われた。
つまり。
荒邦が来ることを、
彼らは知っていた。
だから、出られた。
「……なるほど」
小さく、息を吐く。
なんて、連中だ。
だが。
もう一つ、問題が残る。
どうやって。
荒邦が来ると、事前に分かった?
噂は、あった。
だが、
何をするかまでは、誰も知らなかった。
当日まで。
それを知り得るのは――
内部だ。
近い位置にいる誰か。
……裏切り者。
胸が、重くなる。
身内を、疑いたくはない。
だが。
可能性は、否定できない。
「……くそ」
言葉が、漏れた。
まずは。
鳴海家。
そして、楽座家。
調べるしかない。
そう決めて、
僕は歩き出した。
――真実は、まだ遠い。
だが。
確実に、近づいている。




