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想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
二章 歓楽街転神町編

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第32話 遊ばれる「想い」

 号は、攻めあぐねていた。


 ――分かっている。


 敵の能力の“種”は、もう見えていた。


 空間に走る、三本の線。

 それ自体に、攻撃性はない。


 だが。


 線の上にある“物体”を、

 線上であれば、自由に転移できる。


 回避は、できない。

 線は、切れない。


 転移の際、

 運動エネルギーは保持される。


 だから――

 壁に叩きつける。

 地面に叩きつける。

 拳を重ねる。


 小さなダメージを、確実に積み上げてくる。


 前回は、初見だった。

 だから、技を叩き込めた。


 だが今回は違う。


 敵は、完全に警戒している。

 俺の隙を、潰してくる。


「……三本ってのが、厄介だ」


 どうしても。

 死角が、生まれる。


 狙えるとしたら――

 カウンター。


 奴自身が、

 殴りに来た“瞬間”だけ。


 号は、吐き捨てるように言った。


「てめぇ」

「ずいぶん、臆病だな」


 敵は、鼻で笑う。


「見え透いた罠に」

「引っかかるほど、馬鹿じゃない」


 一拍。


「前回は、ずいぶん派手にやられたがな」


「……油断しただけだ」


 即答。


「二度と、油断はしない」


 ――くそ。


 全然、乱れない。


 なにか。

 なにか、油断させる“一手”は――。


 そのとき。


 ――ドン。


 爆発音。


 吉沢の方角だ。


 号は、あえて口を開いた。


「……お前の、もう一人」


 一拍。


「もう、死んでるかもな」


 敵は、ちらりとも動じない。


 代わりに。


 ――凶悪な想力。


 吉沢のいる方向から、

 噴き上がるような気配。


 それを感じた敵は、笑った。


「フフフ……」


「俺の弟は、最強だ」


 一拍。


「本気の弟は」

「絶対に、負けはしない」


 ――そのころ。


 吉沢は、大男と向かい合っていた。


 強い。


 技は的確。

 無駄がない。


 それなのに――

 ダメージが、通りきらない。


「……人間かい、本当に」


 内部まで、硬い。


「君、ずいぶん硬いね」


 軽口。


 だが、大男は平然としている。


「貴様の攻撃では」

「俺には、通らない」


「……なら」


 吉沢は、肩を回した。


「確かめてみるかい」


 踏み込む。


「――浸透衝撃ディープ・インパクト


 低く。


 衝撃が、空間を走る。


 防御を“すり抜ける”力。


 内部から、貫いた。


「――っ!」


 大男が、

 初めて、膝をつく。


「ぐ……は……」


「今のは」


 息を吐く。


「いい一撃だ」


 一拍。


「……あの小僧より」

「何倍も、重い」


 大男の体から、

 想力が噴き上がる。


 まるで――

 噴火する火山。


「……これは」


 吉沢の表情から、

 初めて笑みが消えた。


「ちょっと、まずいかもね」


 ――その瞬間。


 号は、気配に意識を奪われた。


 ――しまっ。


 拳。


 腹に、直撃。


「油断したな、小僧」


 殴られる。


 次の瞬間。

 線によって、元の位置へ。


 また、殴られる。


 壁。

 床。

 拳。


 連続。


 逃げ場が、ない。


 ――一発一発は、軽い。


 だが。


 重なれば、致命傷になる。


「……くそ……」


 なりふり、構っていられない。


 ――もう、振り切るしかない。


「……ごめん」


 小さく、呟く。


「大地」

「吉沢さん」


 そして。


「……全力、出す」


 号の身に、

 雷が、宿る。


「ようやく、出したな」


 敵が、笑う。


「今度は」

「正面から、潰す」


 号は、刀を鞘に納めた。


 息を吸う。


 すべてを。

 すべてを、解放するイメージ。


 集中。


 極限。


 ――空気が、歪む。


 音が、遅れる。


 時間が、

 止まったように、揺らめく。


「――紫電纏雷」


 一拍。


「抜刀――《残月》」


 前より、速く。

 前より、鋭く。


 だが。


 敵は、動いていた。


 三本の線を――

 一つに、束ねる。


「《ウナ・コルダ》」


 貫かれる。


 速度が、

 そのまま“凶器”になる。


 号の体が、

 止まった。


 次の瞬間。


 ――噴き出す血。


「……が……は……」


「な……にを……」


 掠れた声。


 敵は、淡々と語る。


「三本の線を、一つに束ねる」


 一拍。


「それで貫いた相手を」

「触れた瞬間、元の場所に転移させる」


 冷たい声。


「速度が速ければ速いほど」

「ダメージは、肥大化する」


 口角が、上がる。


「実に」

「やりやすかったよ」


 一拍。


「君は、最初から」

「俺の手のひらの上だった」


「……くそ……」


 立てない。


 足に、力が入らない。


 ――こんなところで。


 終わるわけには、いかない。


 あいつらより。

 鳴海家より。


 強くなって、

 見返すはずだったのに。


「……チェックメイトだ、少年」


 敵が、近づく。


 とどめを刺すために。


 その刹那。


 ――扉の奥。


 邪悪で、

 強大な気配が、溢れ出した。


 敵は、足を止める。


「……残念だが」


 一拍。


「時間切れだ」


 壁が、砕ける。


 吉沢が、

 吹き飛ばされてきた。


 その向こう。


「兄貴」

「時間のようだな」


 声。


 大男だった。


「……逃げるんですか」


 吉沢が、悔しそうに言う。

 吉沢は、血に汚れた手を強く握りしめた。目隠しの下で、いつもは涼しげな瞳が、傷ついた号の姿を映して苦く歪む。……「教育者」失格だな。彼は自嘲を飲み込み、無理やり笑みを貼り付けた。


「勝負は、お預けだ」


 一拍。


「次に会うときは」

「ちゃんと、殺してやる」


 歪んだ空間。


 闇。


 二人の姿が、

 そこに、溶けて消えた。


 ――静寂。


「……逃げられましたか」


 吉沢が、息を整えながら言う。


「……生きてますか、号くん」


「……なんとか、ね」


 血を吐きながら。


「負けましたが」


 吉沢は、肩をすくめた。


「何、言ってるんです」


 一拍。


「生きてるだけ」

「儲けものですよ」


 視線を、奥へ。


「……それより」


「さっきの、扉の奥」

「何が、起きてますかね」


 嫌な予感だけが、

 静かに、胸に残っていた。

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