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想想戦記―想いが力になる世界で、俺は戦う―  作者: ベルナルド
二章 歓楽街転神町編

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第31話 縋る「想い」

 「……その辺にしときなさい、瑠偉」


 怜の声は、呆れを含みながらも静かだった。


 振り上げられた刃が、止まる。


「……え?」


 瑠偉が、はっとして振り向く。


「……って、怜さんじゃない」


 次に、視線がずれる。


「それに……花崎」

「ずいぶん、ボロボロね」


「へへ……」


 花崎は、照れたように笑った。

 その笑顔が、逆に痛々しい。


 怜は、ため息をつく。


「状況を説明するわ」


 短く、端的に。


 満腹亭のこと。

 上層部が動いたこと。

 黒等級が来れば、町ごと消えるという現実。


 翔は、額に汗を浮かべた。


「……やっぱり、そう来たか」


 舌打ちする。


「なら、とっとと逃げねえと」

「マジで、やばいぞ」


「でも……!」


 瑠偉が、声を上げる。


 潤んだ目で、兄を見る。


「まだ、捕らわれてる人たちがいる」

「見捨てられないよ……!」


 翔は、視線を逸らす。


「分かってる」

「分かってるけど……」


 時間がない。

 それは、誰よりも理解していた。


「お兄ちゃん……」


 小さな声。


「お願い」


 その一言で。


 翔の表情が、崩れた。


「……っ」


 歯を食いしばる。


「……ああ、もう!」


 頭を掻きむしる。


「任せろ!」

「お兄ちゃんに、任せないでどうする!!」


 怜が、肩をすくめた。


「決まりね」


 四人で、奥へ進む。


 扉の向こう。


 薄暗い空間に――

 人、人、人。


 鎖。

 檻。

 衰弱した顔。


 その中に。


「……生きてたのか、嬢ちゃん」


 かすれた声。


「来枝……満さん!」


 瑠偉が、駆け寄る。


 勢いのまま、抱きついた。


「おじさんも……」

「生きてて、よかった……!」


「はは……」

「世話になったな」


 満は、苦笑する。


 瑠偉は、顔を上げた。


「おじさん、聞いて」

「ここ、もうすぐ壊される」


 一拍。


「ここにいたら……」

「殺されちゃうの」


 満の目が、細くなる。


「……上層部が動いた、か」


 短く息を吐く。


「そりゃ、まずいな」


 顔を上げ、周囲を見る。


「お前ら!」


 声に、力が戻る。


「ここは、もう終わりだ!」

「嬢ちゃんの言う通り、すぐ破壊される!」


 鎖の音。

 ざわめき。


 安堵の声が、広がった。


 人々は、出口へ向かい始める。


 だが。


 出口に差しかかっても。


 満は、動かなかった。


「……おじさん?」


 瑠偉が、不安そうに呼ぶ。


「早く行かないと……!」


 満は、静かに首を振った。


「悪いな、嬢ちゃん」


 一拍。


「俺には、まだ役目がある」


 瑠偉の手を、そっと握る。


「これを、果たさなきゃならねえ」


「ダメだよ!」


 瑠偉が、声を張り上げる。


「本当に、殺されちゃうんだよ!」


 だが。


 満は、微笑った。

 その手には、いつの間にか小さな、しかしずっしりと重い「何か」が握られていた。彼はそれを瑠偉に見せることなく、ただ父親のような慈愛に満ちた目で、彼女の背中を闇の向こうへと押し出した。


「……必ず、生きて帰る」


 指を、ほどく。


 そして、背を向けた。


 奥へ。


「待って!!」


 瑠偉が、追いかけようとする。


 その肩を。


「ダメだ」


 翔が、掴んだ。


「これ以上は、危険すぎる」


「お兄ちゃんでも……!」


「ダメだ!」


 声が、震えていた。


 力を込めて、瑠偉を引き寄せる。


「……外に出るぞ」


 抵抗は、できなかった。


 出口へ。

 光へ。


 瑠偉は、振り返る。


 奥は、もう闇に溶けていた。


 唇を噛みしめる。


 何も、言えない。


 助けたかった。

 一緒に、連れて行きたかった。


 けれど。


 それでも。


 足は、前に運ばれていた。


 想いは、残されたまま。


 この地下に。

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