第30話 飛び出す「想い」
花崎は、追い詰められていた。
地下。
湿った空気。
土の匂いは薄く、根を張る余地がない。
ツタを伸ばす。
だが、床に浅く絡むだけで、力を持たない。
「はっ」
火球が飛ぶ。
咄嗟にツタを盾にする。
だが、燃え尽きるのが早すぎた。
「……っ!」
熱が、頬をかすめる。
相手は、笑っていた。
「相性、最悪だな」
「植物と火だ」
花崎は、歯を食いしばる。
――まただ。
転神町に来てから。
やられてばかりだった。
守られて。
助けられて。
気づけば、瑠偉の背中ばかり見ていた。
足手まとい。
その言葉が、胸に刺さる。
――嫌だ。
逃げないと、決めたはずだ。
花崎は、地面に手をついた。
「……オーバーチャージ」
低い声。
「《ブラウン》」
想力が、流れ込む。
生物以外。
無機物への過剰付与。
だが、それは――
花崎には、致命的な隙を生む。
「ははっ」
想魁者が嗤う。
「ずいぶん、なめられたもんだ」
「その隙を、狙わないわけないだろ?」
火球。
直撃。
「――っ!!」
痛みが、全身を焼く。
それでも。
花崎は、手を離さなかった。
「……負ける、ものか!」
叫ぶ。
「決めたんだ!」
「僕は、もう足手まといにはならない!」
火球が、次々と飛ぶ。
「やめろ、クソガキ!」
だが。
地面が、応えた。
ひび割れ。
隆起。
腐食。
床が、うねるように“成長”する。
天井が、悲鳴を上げた。
「……おい」
想魁者の顔が、引きつる。
「お前も死ぬぞ!!」
花崎は、顔を上げた。
「……それは」
一拍。
「お前も、だろ」
「い、いかれてやがる……!」
――ドカァン!!
地下に、爆音が響いた。
瓦礫。
粉塵。
意識が、遠のく。
――後悔は、ない。
役に立てた。
それだけで、十分だった。
そのとき。
温かい。
柔らかい。
何かに、包まれた。
――天国?
そう思った瞬間。
「命を救ってあげたっていうのに」
呆れた声。
「胸を揉むほどの余裕があるなら」
「助けなくても良かったかしら?」
「……え?」
目を開ける。
そこにいたのは――怜だった。
怒った顔。
美貌が、逆に怖い。
そして。
――自分の手。
思い切り、怜の胸を掴んでいた。
「ぎゃああああ!!」
一気に、覚醒。
「す、すいません!!」
「本当にすいません!!」
飛び退く。
心臓が、壊れそうだった。
――殺される。
だが、怜はため息をつくだけだった。
「はぁ……」
呆れ顔。
「臆病者って評価を」
「見直そうと思ったけど」
一拍。
「変態のほうが、しっくりくるかもね」
「なっ……!」
花崎は、絶望した。
「ど、どうして助けられたんですか……」
震えながら聞く。
怜は、歩きながら答えた。
「奥から、膨大な想力が噴き上がった」
「嫌でも気づくわ」
一拍。
「想獣を倒して向かってたら」
「君が、無茶してた」
足を踏みしめる。
「地面が崩れそうだったから」
「全力で脚を強化して、引き抜いたの」
「……そんなことまで」
花崎は、呆然とする。
「行くわよ、変態さん」
「ちょっ!?」
「変態って言わないでください!!」
半泣きで、ついていく。
「奥で――」
「凄まじい想力が出てる」
怜の声が、低くなる。
「瑠偉が、危ないかもしれない」
――扉。
怜が、蹴り開けた。
そこにいたのは。
想魁者たちを、叩き伏せている瑠偉。
血まみれ。
息も荒い。
そして。
倒れた敵を、必死に庇う翔。
「よくも……!」
瑠偉が、剣を振り上げる。
「お兄ちゃんを痛めつけてくれたわね!」
「この下衆ども!!」
すでに、瀕死の想魁者。
「やめろ!!」
翔が、必死に抱きつく。
「もういいから!」
「お兄ちゃん、気にしてないから!」
「ね!? ね!?」
震える声。
怜と花崎は、同時に思った。
――こいつら似た者同士かよ。




